17年1月
「この世界の片隅に」
1月1日に、大内くんと観に行った。
「去年あたりから、アニメ・ファッショを感じる」と言いつつ、DVD派なのを敢えて劇場に足を運んだ。
こうの史代も好きなマンガ家だし。
ジャパニメーションの実力を見せてもらおうか、と思ってやって来たのですよ。
導入のほっこりした画から引き込まれる。
人物たちの表情が豊かだ。遠景もいい。
とてもあたたかいものが全編に流れているのを感じる。
少しなつかしいような、胸に小さな灯がともるような。
事態がきな臭く、風雲急を告げて来てもその、どこかあたたかいものは消えない。
あの、小さな爆発までは。
そこからの、時間がのろのろと過ぎるような、何かが止まってしまったような流れが印象的。
しかし、やはり時間は動き始める。
今度は、大きな爆発が起こっても、呉の人々の生活はたちまちには変わらない。
不安が、哀しみが、踏みにじられたかすかな怒りがある以外は。
全体に、すごい映画だと思った。観るべき1本だ。息子にもそうラインしておいた。
17年7月
「団地」
ツインピークスが観たくてwowowに加入したおかげで、実に半年ぶりに新作映画を観た。
テンポがいいんだか悪いんだかわからない、妙に惹かれる導入部に幻惑され、いつの間にか団地にさまよい込む。
老人というのも枯れないもんだなと思いながら、岸辺一徳と藤山直美の掛け合い漫才夫婦愛に自分たちの未来を描いた。
急転直下訪れる悲劇のエピソードが胸に刺さり、無表情な斎藤工にすがりついたまま、あれよあれよと言う間に映画は佳境。
バルタン星人とフック星人の話かと思ったら、「第9地区」だった。
うーん、久しぶりの映画だもんだから、いいように転がされちゃったなぁ。
「後妻業の女」
ずっと観たかった映画なので、嬉しい。
60歳を超えた大竹しのぶの魔性の女ぶり、トヨエツの崩れた悪の魅力もキャスティングの妙。
しかし、のっけから血液をサラサラにする薬ワーファリンを胃薬と取り替えて脳梗塞を起こさせるという手口を世に知らしめて良いものだろうか。
明らかな殺人未遂だ。(飲んでいる人間から言おう、ワーファリンの血中濃度は簡単に測定できるぞ)
結婚詐欺より違法でないのが後妻業だと思っていたので、本当は、殺人を犯さないでできるだけ合法的に遺産を次々手に入れて欲しかったのだが、持ってられないんだろうなぁ。
黒川博行の原作を読んだらラストがずいぶん違っていて、小説の救いのなさの方が納得的だった。
映画は能天気すぎるだろう。殺人礼賛と取られかねない。
全体に、老人向けドタバタファンタジー?と思うような作りだった。面白いけどね。
「ソーセージ・パーティー」
「スーパーで売ってる『ソーセージやパン』たちが、買われて外の世界に行くことを切望する」話だとは聞いていた、そして、「R-15」というからにはきっとアレな話なんだろう、と思ってはいたけど、いやぁ、こんなにシモな話だとは思わなかった!
ソーセージはそのままだし、パン娘は全身エロい。
R-15どころか、ハタチを超えてないと観られないぞ、少なくとも日本では。
CGの技術が発達して絵はキレイだが、人間の描き方は悪意に満ちていて、世界市場のディズニーやピクサーの裏にはアメリカアニメのダークサイドがあると感じた。
最後まで観て、「なんて下品なんだ!」と赤面しました。我々、けっこう下品な夫婦なのに。
お約束のように、名作のあれやこれやのシーンがパクってありそう。「マトリックス」と「ターミネーター2」しかわからなかった不明を恥じる。
いやいや、スゴいアニメだった。
17年8月
「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」
生まれて初めて寅さんを観た。シリーズ最高傑作という人が多い作品らしい。何と言うか、始まり方があまりに素っ頓狂なので驚いた。最初は「迷惑な人だなぁ!」と思えた気が小さいくせにトラブルメーカーの寅さんだが、宇野重吉を拾ってきちゃうあたりから「いい人じゃん!」となってくる。大地喜和子に肩入れするのも男気だ。とぼけているけど人情たっぷりの世界観は、落語だね。ただ、寅さんが不器用すぎて、もどかしくてじたばたしちゃう。「うまく生きる」ことを良しとしない人たちのバイブルなんだろうな。それにしても、寺尾聰はだんだんお父さんに似てくると思っていたが、宇野重吉を見ていると吉岡秀隆にそっくりで驚く。隠し子?
「海賊とよばれた男」
百田尚樹原作の、出光石油社長一代記。岡田准一が老けメイクを駆使して幅広い年齢を好演。
最近の邦画は画が薄いと思うんだけど、CGもしっかり使っているわりに重厚な画面作りだった。
不満なのは、人数が少なすぎること。
あらゆる場面で、もっと社員は多いだろうに、って思った。
いくら2時間半近くても、上下巻の小説を全部詰め込むのは無理だしね。
原作が好きなだけに、書き込み不足は残念だ。
長年添い遂げた奥さんを重視する主義の我が家としては、ラストの締め方も不満。
いい挑戦をしていたとは思うんだけど、原作に負けてしまったね。
「永遠の0」は映画に軍配が上がり、原作が常に勝つ、というわけではないので、この作品は小説で行こう、と。
日章丸の航海なんか、もっと波瀾万丈なので惜しい。
もちろん映画には映画の良さがあり、水準はクリアしていると思った上でのこと。骨太だった。
「マリアンヌ」
ゼメキス監督のブラピ主演なのでたいそう期待をして観始めたら、なんつーか、たるいフランス映画みたいな雰囲気。
「カサブランカ」なのはわかるけど、「これ、エロいね」「うん、エロい」と口をあんぐり開けて車のシーンとか観るのみ。
ところが、途中からどんどんどんどん面白くなって行くのだ。
謎が謎を呼び、ブラピは焦り、スパイ物として目が離せない。
どんなどんでん返しが待っているのか、とハラハラした。
そして、ラストは読めなかった。と言うか、「どっちだ!」と手に汗握った。
こういう終わり方があるのかぁ。
原題の「Allied」は、「(第二次大戦下の)同盟国、似た者同士」という意味で、まさにこの2つの意味が両方生きている。
邦題に反映されなかったのは残念だが、難しすぎるよね。
ああ、スパイでエロくてオマージュで戦争もので恋愛ものでサスペンスで泣ける、映画らしい映画だった。
「本能寺ホテル」
2人とも綾瀬はるかにまったく魅力を感じないので、苦しかった。
ただ、「SFは死んだのか」という議論において、「かつては『これがSFだ』と言われていたが、現代では『これもSFなのだ』と語るべき」という意見を読んでいたので、「そうか、綾瀬はるかが平気でタイムスリップをし、風間杜夫が平気でタイムパラドックスを心配する、こういうことを言っているのだな」と得心がいった。
最後の最後まで「どうなると過去から戻って来ちゃうのか」がわからないまま観ていた自分の不明を恥じる。
ピントの甘いドタバタではあるが、エキストラの人数は「海賊とよばれた男」に分けてあげたいほどのものがあったよ。
一番意外だったのは、信長も夢中になる「ぶりぶりぎっちょう(振り振り毬杖)」という遊びが実在すること。
17年9月
「スパイダーマン:ホームカミング」
ヒーロー物というよりはバリバリの青春映画。
恋に自分にいろいろ悩んでる若きスパイダーマンが可愛い。
マーヴェルヒーローが多数出てくるのも楽しいし。
空中アクションは「1」にかなわないかと思っていたら、フェリーの危機あたりでは手に汗握る飛翔感が凄かった。
次から次へと展開するストーリー、なんと言っても最大のポイントは「カノジョのお父さん」。
そしてお話は終わらない。
「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」
原作をちゃんと読んでるから、難しくてもついて行ける、と自信満々で臨んだのに、全然難しくなかった!
ほぼ原作通り
ワタシ的には山崎賢人くんよりも伊勢谷友介の「ジョジョ」がシブくてステキだった。
仗助「ジョジョ」は髪型ヘンだし。(大変!ボコボコにされちゃう!)
もちろん神木隆之介もいいんですよ。
「でも、全然終わってないからなぁ」と頭をふりふり終演後にトイレに入ってたら、外で女の子の2人連れが、「露伴ちゃん、出なかったね〜」「やっぱ、露伴ちゃん見たいよね〜。露伴ちゃんが出る時、また観に来ようね〜!」と言っていたのが印象的。
みんな、見たいよね〜。また来ようね〜。
「エル ELLE」
イザベル・ユペールすごすぎる。
なんであんなに胸が垂れてないんだ・・・と、のっけから圧倒された。
抑圧されてる真面目な女性だとばっかり思っていたのに、次第に彼女の私生活が明らかになって行くし。
さすがはR12だ。いや、12歳以上なら観てもいい、というわけにはいかないかも。
良くも悪くもとってもエロい。
フランス語の官能的な響きと相まって、登場する人々皆さん、エロいことしか考えていないようなのだ。
久々に非常に腰にくる映画を観てしまった。
しかも、衝撃的に深い。愛と性、生と死、人生の破滅と歓びが詰まっている。
やはりユペールさんがすごすぎた。
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