とても重大なお知らせです。
1カ月ほどで、タイトルが「主婦の道」に変わります。
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12年11月1日

テレビで野村萬斎主演の映画「陰陽師」をやっていたので録画しておいたら、夜食を食べる息子がさっさと観始めた。
彼は面白い映画を逃さない。ハイエナのようにかぎつけて、勝手に観ている。

大内くんが、
「なんで今頃『陰陽師』なんだろう?もしかしたら、3を作るつもりかも!」と嬉しそうに言ったら、息子は画面から目も離さず、
「『のぼうの城』やるからに決まってんじゃん」。
野村萬斎主演だもんね。正解だろう。だが、言い方は完全にナマイキだ。

イマドキのコドモは、どこで情報を仕入れてくるのか、ずいぶんいろんなことを知っている。
(もうコドモという歳でもないか)
マンガならまだしもついていけるが、ゲームとなると完全にお手上げの我々が、それでも少しは息子に勝てるジャンルが映画だったんだけど、この分ではじきに追いつかれてしまう。
ただでさえ、1人で「宇宙人ポール」借りてきて観てるし。

お笑い番組は息子の部屋のHDDデッキで録画してやっているが、映画はリビングのデッキでしかしてない。
自然と、息子が映画を観られるのはリビングだけ、ということになる。
今のところ我々と深刻な対立はなく、短い食事時間とか大学がない日中とかに観てるので大丈夫なんだけど、やっぱり彼のデッキでも録画しといてやるべきだろうか。
いや、彼のためじゃなく、我々とチャンネル争いにならないように。

思えば、昔はテレビは一家に1台、ビデオなんてものもなく、テレビ番組はまさにやっているその瞬間にしか観られなかった。
当然、激しいチャンネル争いが起こる。
やや新し物好きの父親のおかげで比較的早くからビデオがあったので普通の家よりは楽だったかもだが、小さい頃はどうしてたんだろうなぁ。
中学に上がる頃にはセカンドテレビがあったような気もする。
ああ、思い出せない。

ひとつ言えるのは、昔の名古屋にはそれほどたくさんのチャンネルがなかった、ということ。
父は遅くなりがちだったし、母はガマンしてくれてたんだろうし、姉と私で争うほどの番組数がなかったため、あまりチャンネル争いの記憶がないのかも。

テレビに関してはっきり覚えている一番古い記憶は、姉の誕生日のお祝いに一家で中華料理を食べに行こう、という話になった時、偏食で中華は餃子とコーンスープぐらいしか食べられなかった私が行きたくなくて、「マグマ大使」を見たいから出かけたくない、と駄々をこねていたこと。
「時間までに帰るから」と説得されて、しぶしぶ同行し、やはり餃子とコーンスープしか食べられず面白くない思いをしたうえ、漠然と想像していた通り、「マグマ大使」の時間になっても会食は続いていた。
「もう二度と親なんか信用するもんか」と思った最初の記憶でもある。

今ググったら、「マグマ大使」の放映は昭和41年から42年だったようなので、私は7歳だった。小学校2年生か。
お気に入りのテレビ番組のために親を恨むには充分な年齢だ。

それが今や2つチューナーがついた2台のデッキを駆使して毎日毎日録画しまくり、観るヒマがなくて泣く泣く消している、というゴージャスな生活。
息子も、いい時代に生まれたもんだ。
もっとも、赤ん坊の頃からアニメや特撮を見まくっている本人には、あたりまえのことなんだろう。
人間、感謝の心を持つのはなかなか大変だね。

12年11月2日

今日は大内くんと私が初めて出会った記念日。なんと、30年目。
特にお祝いはしないが、じーんとする感じを2人で共有する。
大内くんに言わせると、この出会いは大変ラッキーだったらしい。
「大学1年の秋にキミに出会った。あれは、僕の人生で一番運のいい瞬間だった」

いや、アパートで後輩たちとお茶でも飲もうと思って、「お茶会の誘い」を友人に頼んで人を集めてもらったのが30年前。
ところが、人数が多くなりすぎたので、幹事さんがその日最初に出会ったクラブの後輩に、
「人数が多すぎる。今回はガマンしてくれ」と断りを入れてくれたらしいのだ。
その後輩は、私と直接は話したことがなく、部誌やマンガを読んで、「ファン」になってくれていたらしい。
後日、本人から聞いたが、
「お茶会に行けなくて、とっても残念でした」ということだ。

一方、大内くんは私とお茶を飲みたいとはまったく思っていなくて、むしろ、他のお客さんの中に、彼の大好きな先輩たちがいたので来ただけ。
(先輩たちは、男です。念のため)
私のことは、
「名前は知ってた。キレイな人だなぁ、とは思ってたけど、『コワイ』と評判だったので、コワかったらどうしよう、とそればかり心配していた」のだそうだ。
かなり失礼な感想ではあるが、確かに昔の私はコワかったかも。

というわけで、大内くんはお茶会に来て、互いにひと目で恋に落ちた。(ということにしておこう)
何度生まれ変わっても、大内くんに会いたい。
向こうさんもそう思ってくれてるといいんだけど。

12年11月3日

大内くんと2人で、早稲田祭に行った。
お笑いサークルに入っている息子が、どうやら舞台を踏みそうなのだ。
本人は親にはいっさい教えてくれないので、友達関係等、我々の持つ情報網をフルに使っていつ、どこでやるかをつきとめた。
どうやら2回出るらしい。

家から電車1本で行ける早稲田は、学園祭ということで大いに盛り上がっていた。
まずは息子が出る予定の中ぐらいの規模の部屋に行ってみると、サークルの人たちがいろいろ準備をしている。
「大内の親なんですけど、彼は何時頃出ますか?」と聞くと、
「ああ、大内くんの!お世話になっております!」と、若いのに世慣れている。
11時の回と12時の回に出演することを確認し、もう入場が始まっていたので教室に入って待つ。

席に置いてあるパンフレットとアンケート用紙を見ると、うん、確かに息子は出るようだ。
高校の3年間に、文化祭の「中夜祭」に3年連続出演でお笑いを披露した彼は、ずっとコンビだった柔道部のなかちゃんも別の大学からインカレサークルであるこのサークルに入ってくれて、お笑い活動を続けてきた。
でも、どういういきさつかは知らないが、なかちゃんとのコンビは解消したらしく、今回はまったく聞いたことのない人たちとペアを組んでいる。しか も2つもコンビを作って。
なかちゃんが大好きだった我々には寂しいことだが、彼も自分の大学で「ウィンドサーフィン」をやっているはずなので、それぞれの道で頑張ればいいと思う。

さて、時間になって公演が始まる。
MC担当の2人が出てきて、ケータイの電源を切るかマナーモードにしてくれとか飲食の「飲」の方はまあいいけど「食」の方はつつしんでくれとか、 諸注意を。
はいはい、わかってますよ。ケータイはマナーモードにしてあります。
「撮影」は、フラッシュをたかなければOKなようなので、ビデオカメラを持ってきてよかった、と大内くんと喜び合う。
柔道の試合を撮ることがなくなったのでもう出番はないかと思ったけど、こんなものを録画する羽目になろうとは。
人生、何が起こるかわからないものだ。

舞台が暗転し、コンビ名が高らかに呼ばれて教室の明かりがつく。
まあ、素人さんだからあまり期待はしていないよ。
特に、今回は1年生が多いようだし。
明日、特設ステージで大掛かりな公演があるらしいので、実力者たちはそっちに行くものと思われる。

12組ぐらい出る中で、息子は5番目にコントで出てきた。
彼は髪を7・3になでつけ、短パンをはいて、「超能力で算数のプリントをやる、キモい小学生」を演じた。
これは、なかなか面白かった。
お客さんも、それなりにわいていたようだ。

ひとつ気になるのは、コントの中で息子が巻尺で先生を「測る」シーンがあるのだが、その巻尺はどうやら家から持って行ったもののようだ。
実は、それには目盛りの裏の面に、5歳からの息子の身長が記してあるのだ。
「どうしよう、あんな大切なものを。訳を話して、ちゃんと持って帰るようにメールしとこうか」と話し合ったのだが、
「なまじ『大切なもの』なんて言うと、彼は意地になって捨ててきちゃうかもしれないよ。黙って、持って帰るのを祈っていよう」という結論に。
はらはらするなぁ。

大内くんは、置いてあるアンケートに真面目に記入していたが、「なぜこの公演を見に来たのか」の欄で、「誰かの紹介→大内」と書いたうえに、「よかったグループに○をつけてください」というリクエストで息子のコンビに○をつけている。
完全な組織票じゃないか。身内が来たのがバレバレだ。恥ずかしいぞ。

いったん終わったので教室を出て、ぶらぶらする。
この建物は息子の所属する社会科学部のもので、新築のようだ。
壁にオブジェが飾ってあったりするのも新しくて楽しい。
外に出て、混雑ぶりに驚きながら、学祭の定番、焼きそばを食べる。
350円。ちょっと高い。

2人とも大学の漫研の出身なので、漫研の部屋を見に行く。
その昔、「早稲田漫」はレベルが高いので有名だった。今はどうか。

小さな教室内は、似顔絵を描いてもらいたい人々で埋まっており、列は廊下まで伸びていた。
のぞきこむと、1枚200円の似顔絵はかなりのレベルだ。
我々が学生時代に描いていた頃、時々イベント会場での似顔絵描きのバイトに行ったが、大内くんはヘタクソで、机を並べていた私は「こんなもんで金取るな!」と内心怒っていた覚えがある。

早稲田漫の同人誌を1冊買って、さて、息子の2回目の公演を見に行こう。
同じ大教室で、今度は7番目に出る息子。
今回もコントで、「修学旅行先でパンツを落とす高校生」をやった。

「リュックから次々とパンツが出てくる」というシーンを見て、私の脳裏にある事実がひらめいた。
息子のパンツはあまりに出入りが激しいのでいちいちたたまず、リビングの隅にある椅子の上に置いてあるのだが、今朝見たら、1枚もなかったんだよね。
「そんなに洗濯に出てたっけ?」と驚いたのだが、これですべての謎が解けた。

大内くんなんか、さらなる謎が解けたらしく、興奮してしゃべる内容は、
「いやー、数日前に、息子のベッドの上にパンツが散乱してたんだよ。もしや、『勝負パンツ』を選んでいる?!ってびっくりしたんだけど、今思えば、あの日はきっとリハーサルだったんだね!」。

学ランも着たし、パンツや巻き尺も持って、御苦労さんだ。
パンツに関して言えば、舞台で使うんなら新品を買って使ってもらいたかった。
(その後は履くにしても)
舞台で先生役の相方が、
「風呂場にパンツを忘れた者がいる。大内〜、おまえだ〜!」とパンツを渡す、それが見慣れたよれよれのパンツであるところに、親しかわからない気恥ずかしさを感じる我々である。

こうして、息子の1年目の学祭を見せてもらい、大人数のいいサークルに入れてよかった、と話しながら学生でにぎわう街を高田馬場まで歩く。
来る時は東西線の「早稲田」で降りたが、帰りは、新宿によってサムラートでカレーを食べて帰ろう、というのが念願のプランなんだ。
家の近所にあった支店がつぶれて以来、前ほどの頻度というわけにはいかないが、新宿に出る用がある時はなるべく寄るようにしている。

着いたのが2時半頃かな。ランチメニューは5時までなので大丈夫。
いつものように、カレーが2つ選べてナンとライスが食べ放題のランチセットを2つ頼み、それ以外にアラカルトの「マトン・サグワラ」をつける。
値段ははね上がるものの、ランチのカレーはやはりそれなりの味でしかないので、いつ来ても「ちゃんとした」マトン・サグワラの存在はありがたいのだ。

私はナンを食べきれずに少し大内くんに手伝ってもらったのに、大内くんはそのうえおかわりのナンを頼んでいた。
頼もしい食欲だ。ほれぼれする。

満足してお会計をしていたら、見覚えのあるマネージャーと思しき男性に、
「いつもありがとうございます。またお越しください!」と声をかけられた。
新宿のサムラートには3カ月に1度ぐらいしか行かないが、覚えられているんだろうか?
大内くんは、
「ランチセットにアラカルトのマトン・サグワラをつけるお客さんは珍しいんじゃないかな。たいていの人は、セットしか頼んでないみたいだよ」と分析していた。なるほど。

新宿からJRで隣町まで帰り、優秀な魚屋で明日食べる予定の「かます」を2尾とイカを2杯買って、バスに乗って帰る。
疲れたけど、楽しかった。
息子が生き生きとした大学生活を送っているのを見て、心からほっとした。

そんな彼は、明日の準備があるのか、帰ってこなかった。
外泊かぁ。
いや、出ると帰らない鉄砲玉だった私たちと違い、息子はあんまり外泊しないんだよね。
大学に入って半年以上、外泊した回数は両手の指で十分数えられる。
今回は、どこで寝てるんだろう。友達の家とか、とにかく布団にありつけているといいんだが。
大内くんは、入学最初の学祭で教室に泊まり込み、風邪をひいたそうだ。
ま、何にせよ、パンツにだけは困るまい。

12年11月4日

やはり息子は無断外泊であったか、と思いながら私が起きたのが10時ごろ。
大内くんは、早起きして「自炊」に取り組んでいた。
「本をバラバラにして裁断する、なんて、ものすごいタブーを犯しているような気分だよ。人肉を食べる、って、こんな気分かな」と言う。
すでに20冊ぐらいのハードカバーの本が解体・裁断されて積み上がっている。
私だったら、まず1冊か2冊やってみて、本当にちゃんとスキャンできるか、そのデータを電子リーダーで読めるか、確認しなければそんなにたくさんは裁断できないなぁ。

意外なことに、息子が家に帰ってきた。学祭2日目なのに。
と思っていたら、黙ってシャワーを浴びて朝食を食べた息子はほんの3、40分家にいただけで、また出かけてしまった。
当然、大学に戻ったんだろうけど、片道1時間弱の距離をものともせずにいったん帰ってくるとは思わなかった。
何しに帰ってくるんだろう?と、大内くんとものすごく悩むも、答えは出ない。
不思議な人だなぁ。

ところで、大事な巻尺は無事だった。
息子に、
「巻尺、持って帰ってくれた?」と聞いたら、「持って帰らなかった。忘れてきたなぁ。なくしたかも」と言うのだが、彼が出かけてから部屋を見たら ベッドの上にパンツの山と一緒に置いてあった。
なんでこう、意地悪をするかなぁ。いつまでも反抗期を抜けない人だ。

食料品の買い出しに行く以外は、ずぅっと書斎でそれぞれ「自炊」をして過ごした休日だった。
スキャナを使う人と裁断機を使う人と、棲み分けしてやったので困らなかったとはいうものの、やはり我が家の書斎は狭い・・・

私はそろそろ雑誌の自炊に飽きてきた。
読んだらすぐに捨ててしまうようなものだからね。
なんでこんなにたまってしまったんだろうか、とは思うんだけど、何度読んでも内容を覚えていられないので、読むたび新鮮。
「じゃあ新しいのを買わなくてもいいじゃない」という声が聞こえてきそうだが、何しろ外に出ない私なので、貴重な社会の窓なんだ。
大内くんは、
「どんなものでも、大量にインプットすることには意味がある。キミが『ご近所スキャンダル』で外の世界とふれあっているなら、遠慮せずにどんどん買いなさい。でも、捨ててほしくなったらいつでも言ってね。どかどか捨ててあげるよ」と、喜んでいいのか警戒した方がいいのか、わからないことを言うよ。

大内くんが自炊に使える時間は限られているので、とても名残惜しそうに今日の作業を終わっていた。
毎日やりたい、しかし、そんなにヒマではない、というつらい状況だね。
私は日々これ自炊。
でも、もう雑誌は忘れて普通のマンガに行くかなぁ・・・

12年11月5日

八百屋で買い物をし、品物とレシートを見比べていたら、レジのおばさんに打ち間違いがあった。
数人の列ができていたので最後尾に並び、順番が来たところで、
「ナス、1袋ってなってますけど、2袋買ってますよ」と伝えて足りないお金を払ったら、
「わざわざ並んで。こんなの、『いいや』ってなっちゃうお客さんが多いんですよ。ありがとうございます」とお礼を言われた。
だって、気持ち悪いじゃないか。気づいてしまった以上。

こういう、殆ど偽善者のようなことをするのは好きだ。
神様はいつも、私の行動を見守ってくれている。
そして、今の幸せな生活、日頃のラッキーを、ふさわしくない相手に授けてはいない、と思ってくれてると思う。

私を見守ってくれている神様は、同時に大内くんや唯生、息子のことも見ている。
息子がむやみやたらにラッキーで、大学受験もほとんど奇跡のように切り抜けたことを思うと、ナスのお金ぐらい、どんなに苦労しても返しておきたい。

12年11月7日

あいかわらず自炊の日々だが、少し飽きてきた。
大内くんは、会社から帰ってきてごはんを食べてお風呂に入ると、いそいそと書斎に向かう。
よっぽど自炊がやりたいらしい。

「ハードカバーの本をべりべりと破壊すると、何とも言えない気分になる。それに、何と言ってもスキャン済みの紙の束と化した本の山を家から出すのは気分がいい。モノを捨てる、っていうのはとっても精神衛生にいいんだよ」と大内くんは言う。
確かに、寝室の壁ぎわにできていた雑誌の山がなくなって、私もスッキリした気分になれた。

このうえは、寝室から本棚を駆逐しよう。
3本ある本棚のうち、1本ぐらいは残しておこうと私は考えていたのだが、大内くんは、
「中途半端に残してもしょうがないよ。書斎の本棚とかリビングの扉つきの本棚とか、まだまだ他に場所があるんだから」という意見。
うん、リビングのテレビボードなんか、引っ越してきたときに内装をやってくれた大工さんがついでにしっかり固定してくれたので、絶対動かせないんだ。
今の計画が順調に行って本を処分できたら、テレビボードにもモノを入れ放題になるんだなぁ。

当分、大内家は自炊ブームだろう。
1月に出る予定のキンドルを予約した大内くんは、読むのが楽しみなんだそうだ。
家から出ない、かつ、データで読むのはマンガだけの私は、iPadに深く感謝。
とりあえず3は見送るけど、4が出たら買っちゃうかもなぁ・・・

12年11月9日

息子の本棚から失敬した「よつばと!」というマンガを読んだ。面白い。
大内くんに見せたら、
「絵柄も上品でかわいいし、うまいね。小さな子のいる生活の感じがよく出てるよ。息子は本当にマンガの趣味がいいね」と喜んでいたよ。

息子のマンガの趣味がいいのはわかった。親としてはなんとなく嬉しい。
まして、我々夫婦は大学のマンガクラブで出会ったため、息子にもそのような期待をしてしまうのだ。
やっぱ、あれかねぇ、小さい頃に手塚治虫「ブラックジャック」を死ぬほど読み、かつ、学童保育所では幼なじみしゅうくんと互いのおなかを枕にしてひたすら水島新司の「ドカベン」を読んでいたのが効いてるのかね。
一種の英才教育?

彼は、本はまったく読まず(例外はハリー・ポッターとはやみねかおる)、テレビ、マンガ、ゲームの三つ巴なのだが、映画をよく見るね。
テレビでやってるやつはかなりな勢いで見てる。
もっとも、好みがあって、大内くんのように「ヘンなもの」は好きでなく、ハリウッドバリバリ大作に弱い。
このへんは私に似ている。

まあ、映画とはいえこのぐらい見てたら、教養も身につくだろう。
先日「ヒエラルキー」という言葉を知っていることが明らかになり、かつ、私があんまり根掘り葉掘り聞くと、「詮索すんな」と言う。
難しい言葉を知ってるじゃないか。書けるかどうかは別問題だろうけど。

大内くんも私も本は好きなので、よく、
「彼はいったいいつ本を読み始めるんだろう?」と話し合ったものだが、もうそろそろあきらめてる。
本を読んだからと言って別にそう大していいことがあるわけじゃないし。
むしろ、我々のまわりには、本を読みすぎたのがよくなかったんじゃないか、というような友人がたくさんいる。

楽しければ何でもいいよね。
我々は柔道をする喜びを知らないまま死んでいくんだろうし。
息子にとやかくは言えないよ。

12年11月10日

唯生の面会に行ってきた。
担当の医師から、
「治療上、少し強い薬を使うので、保護者の方に説明して同意を得たい」というお電話をいただいたのだ。

大内くんと2人、病棟に行ったらすぐに先生が来てくれて、会議室で説明を受ける。
要するに、身体の緊張が強くて側弯が進んでいるので、その状態を緩和するために、「ボトックス」という薬を注射するらしい。
ボトックスというのはボツリヌス菌から作る薬で、筋肉の緊張を緩める効果があるので唯生のような症状によく使われるが、劇薬だし高価なので、使用するには保護者の許可が必要になる。
説明を聞きました、という同意書に大内くんが署名捺印をして、今日の用事はおしまい。

唯生がお正月に外泊できるかどうかがとても気になっていたのだが、今日、看護師さんやお医者さんから聞いた話では、腸ろうからの栄養補給はうまく行っていて問題はないが、胃と腸の間が狭くなっていて、胃ろうから胃液を抜く処置がプロでないとできないと思われるので、外泊は難しいだろう、 ということだった。
「それでは、親が面会に来て一緒に過ごします」と言ったら、
「それがいいでしょう。短時間なら、チューブを外してお散歩することも可能だと思います」と言われた。
お正月に家に帰れないのは寂しいが、唯生のいる病棟は重度の人ばかりなので、外泊できる人の方が珍しいんだ。

ところで、大内くんは「ボトックス」とい薬の名前を初めて聞いた、と言っていたが、実は私にはなじみがある。
「ご近所スキャンダル」などのレディースコミック雑誌でしょっちゅう見るよ。
美容整形のためによく使われる薬で、メスを入れなくても顔のしわやたるみを取ることができるらしい。
まさか障害者の身体の緊張を取るために使われるとは想像してなかったが、「知ってる」ということで、大内くんから少し賛嘆のまなざして見られた。
人間、どこでどんな知識が役に立つかわからないものだ。

12年11月11日

よく行くイタリアン・ファミレスから、大内くんと私の両方のケータイにクーポンの配信があった。
「10パーセントオフ」らしい。
しばらく行ってなかったので、またピザを食べに行った。

こないだ行った時は少し食欲がなかったせいで3枚しか食べられなかったピザを、今日はいつも通り4枚食べることができた。
とてもおいしい。
特に、季節メニューの1品である「鶏せせり肉とルッコラのピザ」が逸品だ。

来週から季節メニューが変わるので、大内くんに、
「メニューが変わる前に行く?それとも、変わった後に行く?」と聞いたところ、
「送り出して、迎え撃とう!」という頼もしい返事。
変わる前と後、両方行こうということだね。

月に1度か2度、ピザばかり食べに来る我々はすっかりおなじみさんらしく、前回来た時には、注文を聞いてくれた管理職らしき男性から、
「今日は3枚でよろしいんですか?」と聞かれたよ。
トム・ハンクス似の店長さんには、好みの席まで覚えてもらってるらしいし。

5千円近くになるお会計をすませながら、毎度、自分たちの恵まれた生活に感謝する。
大内くんが稼いできてくれるおかげなんだけど、若い時からは想像がつかないほどの贅沢をしている、と感じるのだ。
もちろん世の中にはもっと高価なレストランがいっぱいあり、そういうお店の常連さんも大勢いるんだろうが、今の暮らしには何の不満もない。
ひたすら、ありがたいと思うばかりだ。

お風呂のないアパートに住んで銭湯に通っていたOL時代、大内くんと結婚して狭い社宅ながら「お風呂がある!」というだけで感動できた新婚時代、 度重なる引っ越しと大内くんの昇進のおかげでだんだん広くなる社宅生活を経て、マンション購入。
9年前に新築のマンションに引っ越しを果たした時は夢のようで、広くて明るいお風呂場に、目の眩む思いをしたものだ。

その後も、マンション生活は快適だ。
今やっている「書籍の電子化」が進めば、物心ついてから初めて、本から解放された暮らしをすることになる。
寝室や書斎をどう模様替えするか、大内くんと相談しては楽しい思いをしている。
「壁に絵を飾ろうか」
そんなことだけで、天に昇るほど嬉しい。
常に大量の本とともに暮らしてきた我々にとって、壁面というのは本棚を置くためにだけ存在したものだからなぁ。

おいしいごはんを食べて、広い家に住む。
なんて幸せなんだ。
心配なのは、小さい頃からそんな生活をしている息子の将来だけ。
私のように、1度、お風呂のない暮らしからスタートしてもらいたいもんだ、と思う。
それが苦にならないのが若さというものの有難さだし。
本と恋人、その2つさえあれば、何も不満はなかった。
今の息子には、前者はまったく魅力ナシ、後者はどうやら不足がち、という状況のようだ。
自分のコドモには幸せになってもらいたいが、幸せというのもいろんな種類があるからね。
幸せな時に幸せと感じ、それを大切にできる、そんな人生を送ってもらいたい。

12年11月12日

朝から出かけていた息子が夕方帰ってきたのを見て、背広姿だったのを初めて知った。
どうやら、バイトの面接に行ってきたらしい。
「で、どうなの?採用されそう?」という問いは、完全に無視されたが。

大学に受かった後、大内くんの行きつけである「洋服の青山」で買った一張羅の背広は、入学式以来ほとんど出番がなかったが、そうか、バイトの面接ともなれば、背広になるのか。
次に着るのは「成人式」かねぇ。

私は、男の人の背広姿がとても好きだ。
毎朝、大内くんが背広になって出かけるのを見るとドキドキしてしまう。
サラリーマンの妻としてはとてもお得な体質。
ただし、完成形を見る前に「アンダーシャツとステテコ」という姿を一瞬見ることになり、それは実は少しつらい。

浮気をする、っつーのは大変なことだなぁ、と思うのは、全裸で抱き合うその前に下着姿を見るという点。
よっぽど好きでなけりゃ、正視に堪えない姿だ。
もし大内くんが私以外の人にこの下着姿をさらしているのだとしたら・・・それは、かなり本気の恋愛か、肉欲が強烈過ぎて何も見えない状態か、どちらかだろう。

ひるがえって自分のことを考えても、もし私が大内くん以外の男性と裸で抱き合うとしたら、その「誰か」には、たるんだお尻とかぶよぶよした三段腹とかにガマンしてもらわねばならず、やはり通常の精神状態では無理だろう。
そう考えると、中年過ぎて浮気をする、というのは、案外ものすごい精神力が必要かもしれない。

大内くんは、私の目から見るとかなり見かけがナイスで、50歳を目前にしたおっさんにしてはイケてるんじゃないかと思うし、何しろ、「人間は、働いている時が一番美しい」と世間で言われていて、その美しい時間を毎日毎日一緒に過ごしている異性から見たら、マチガイが起こってしまうのも無理からぬことではなかろうか。

大内くんにそう言ったら、何だかきょとんとして、
「会社でいろんな人に会うけど、みんな、ただ仕事してるだけで、何も起こりようがないと思うなぁ」と言う。
しかし、私は嫉妬深いタチだ。
先日、大内くんが部下の女性の個人的な悩みを聞くために仕事のあと一緒に食事をし、かなり酔っぱらって、記憶がアヤシイ状態で帰宅したことを、1 週間たった今でも忘れてあげられない。

「翌日、彼女に『ずいぶん酔っぱらってしまったが、失礼なことはなかっただろうか』と聞いたら、彼女の方も最後のあたりは記憶がないそうで、特に 失礼はなかったようだよ」と言われて、
「妙齢の男女が一緒の時間を過ごして、2人とも記憶がなくなるまで飲むなんて、実に問題のある行動だと言わざるを得ない」と怒り、大内くんからも、
「確かに思慮のない行動だった。深く反省する」と謝られた。
自分でもイヤな性格だとは思うんだが、愛のあるところに嫉妬はどうしてもわいてくるものなのだ。

ちなみに、この件を日記に書いてもいいか、と聞いたら、「別にかまわないよ」と言われた。
「会社の人も読んでるんでしょ?」
「何人かは読んでるけど、特に困ることはないよ」
当該女性も、上司の奥さんに嫉妬されてると知ったら驚いたり困ったりするだろうなぁ。

私が勤めていた頃に、会社を辞めようかどうしようか悩んだ時期があり、入社当時の上司だった人が数年たって異動していたにもかかわらず、相談したくてお昼ご飯を一緒に食べてくれるよう、お願いしたことがある。
当日、元上司の勤め先のビルの食堂に行ったら、向こうさんは部下の女性2人を同行していた。
知らない人の前で「会社を辞めたい」と言うわけにもいかず、結局食事だけして世間話をして別れ、元上司が冷たい、と内心腹を立てたものだが、今となっては彼の行動が理解できる。
オトナ、っては、大変なものだなぁ。

大内くんに、
「浮気することって、あると思う?」と時々聞くのだが、答えはいつも、
「もしそんなことがあったら、自分でも自分がわからなくなると思う。浮気する自分、って、想像がつかない」というもの。
そうねぇ、私も、自分が浮気するって考えつかないもんなぁ。
相手は、2週間に1度通うマッサージの先生以外ほとんど思い当たらないし。
(その先生が、また私の好みとはかけ離れているんだ)

ただ、私の友人男性が若い頃に離婚をしているんだが、理由は奥さんが新聞の集金に来る男性と駆け落ちしたから、ということを聞いた20年前から、 いわゆる「お話に出てくるような不倫」をバカにしなくなった。
世の中、何が起こるかわからないものである。
大内くんは今日も無事だろうか。
私は、息子以外の男性と会っていない。
そもそも、家から一歩も出ていないし、さらに言えば、ベッドからもほとんど出ていない。
この状況で不倫ができたら、それは、誰か「まめな人」が私のベッドまで通ってくれての話だろう。

12年11月14日

息子が新しいバイトを始めるらしい。
先日は背広姿で「面接」に行ったが、今日の昼間、急に大学からケータイをかけてきて言うには、
「健康診断を受けて、月曜に結果を持って行かなくちゃいけない。近くの病院で、受けられるところを探してくれ」。
高校と大学が一緒の友達に紹介してもらったというそのバイト先は、病院のはずだ。(夜勤で事務)
「バイト先の病院で受けられないの?」と聞いたが、「ダメ!」と威張って言うのみ。
めんどくさいなぁ。

とりあえず、こないだ私が人間ドックに行った病院に電話して聞いてみた。
「大学生の息子が、バイト先に提出する健康診断を受けたいそうなんですが」
言ってみると、ものすごく情けない。ふつう、自分でやらんだろうか。

「検査項目は何ですか?」と聞かれたので、それを聞いていなかったことを思い出し、
「あとでまたお電話します」と言っていったん切り、息子のケータイに電話。
「何調べんの?」
「聞いてみる」
どうやら、息子サイドでもよくわかっていないらしい。

で、くだんの友達に聞いたのか、バイト先に聞いたのか、コールバックしてきた。
「身長、体重、尿、血液、心電図、胸部レントゲン、血圧」
なんか、アメリカの医療ドラマ「ER」を観てるようだなぁ。

で、もう1回病院に電話。
息子から聞いた内容を伝えると、
「ああ、就職の時の健康診断とほぼ同じですね。できますよ。血液検査で何を調べるかにもよりますが、文書料込みで2万円ぐらいかかります」という 返事。
高いじゃないか!

子供の頃からのかかりつけ医院を含めて、もう2軒聞いてみたけど、どっちも1万円ぐらいでできるようだった。
だが、息子は金曜の午後しか行けないと言うし、それで月曜までに結果を持って行く、というのはどっちも無理らしい。
最初に聞いた2万円の病院はさすがに大手なのか、当日中に結果をもらえるという。
息子との何度かの電話のやりとりは、途中から、
「もう電話すんな。メールにしろ」と威張って言われ、めんどくさいメールをこちこち打つ。
こっちは伝えなきゃいけない情報が多いのに、向こうの返事は「ムリ」とか「ほかは?」とか、チョー短い。
何だか理不尽な目にあってるような気がしてきた。

結局、2万円の病院に行くことにしたらしく、「ありがとう。予約しといてくれ」と、ついにちょっとだけお礼が聞けた。
「予約はいらない。当日行けばいいらしいよ」と返事して、やっとおしまい。

帰ってきた大内くんに事の次第を訴えたら、
「病院の電話番号だけいくつかメールして、あとは『自分でやれ』って言えばよかったんじゃない?バイト、しかも夜勤をしようってのに、そんなに自立してないなんて、ヘンだよ」と言われた。
さらに夜中に帰ってきた息子に、
「ああいうことは自分でやって」と告げると、
「おめーは昼間、ヒマなんだろ?そういうことのためにヒマにしてるんだろ?そのぐらいやれよ」と、もう、信じられない暴言。

ベッドでiPadを使ってマンガ読んでる彼に、
「じゃあ、今、あなたはヒマだよね。ママのために、何かしてくれるの?」と聞いたところ、「うぜっ!」(うざい、の短縮形なんだろう)と言われたのみ。
本当に、親なんかやめたい、と思う瞬間だ。

週に2回ぐらい、仮眠をしながら夜中に働くこのバイトを、大内くんはたいへん危惧している。
「今でさえちょっと夜更かしすると起きられないのに、半徹夜なんかしたら、昼間全然使い物ならないんじゃないか。授業に差し障りがあると困るねぇ」
私は、朝、私でない誰かが息子を起こしてくれる日が週に2日もあったら、嬉しいんだが。
でもなぁ、仕事が終わって、授業は午後からで、1回家に帰ってきてちょっと寝たら絶対起きられなくて・・・とか想像したらとっても気が滅入ってきた。

大学の授業、サークル活動、地元の塾でのバイト、それでけっこういっぱいいっぱいな感のある息子の大学生活に、このバイトはどんな影響を与えるだ ろう?
給料は良いらしいが、あんまりお金を持ち過ぎるのもよくないし・・・いろいろ心配。
健康診断の手配まで含めて、この心配も親という商売の一部なんだろうか。

12年11月15日

とてもとても珍しく、昼間に私を訪ねてきてくれた人がいる。
小学校の時のママ友が、選挙前になると支持政党の説明をしがてら遊びに来てくれるのだ。
数年に1度、楽しく世間話をする機会。

今回も、彼女の支持政党の方針などを「ふむふむ」という感じで聞いたのちは、それぞれの息子の近況を交換したり、なつかしい男子たちのウワサを聞いたりする。

お互い、子育てが終わりつつあり、最近の私が信じる、、
「自分のコドモが生殖年齢に達しつつあるので、高校生ぐらいの子から赤ん坊へと、関心が移ってきている」という説を話したら、
「わかるわかる!孫って、独特にカワイイんでしょうね!」と、とっても同意してもらえた。
2人して、女性関係に恵まれない息子たちの将来を大いに憂えたよ。

「大内家は、夫婦仲がよくていいわねぇ。小学校でも中学校でも、よくお父さんと一緒に来てたわね」と言われたので、
「大内くんは、『夫婦はゼロ親等。一心同体。あらゆることに、責任も感じ方も共有だよ』って、よく言ってるよ」と話したら、
「いい言葉を聞いた!ステキな考え方ね!」と感心してもらえた。

ろくなおもてなしもできなかったが、2時間ぐらい彼女とおしゃべりをして、すごく楽しかった。
年末には別のママ友たちと忘年会をするつもりなんだけど、地域で子育てしてきた小・中学校のママ友は本当に貴重な存在。
これからも仲良くしてもらえたら嬉しいな。

12年11月17日

金曜の夜、マンガクラブの女友達が2人遊びに来てくれた。
設計士をやっている女友達その1が、うちの最寄駅近辺にできるマンションの仕事をしているので、晩ごはんを食べに来てもらうことにし、ついでに美術関係フ リーランスの女友達その2を誘ったのだ。

この2人は当然古い顔見知りではあるのだが、入学年度の違いとかその2が私と同じように学外部員であることから、直接のつきあいはあまりない。
でも、2人とも個性的な人なので、お互い興味はあるみたい。
(仕事上も若干かぶるところがあるようだし)
なので、一緒に呼んでみたというわけ。

大内くんが会社から帰ってきて、7時頃にその1が、15分後ぐらいにその2が到着。
その1のおみやげの赤ワインを開け、4人でキムチ鍋を囲んだ。

そもそものテーマは「その1から最近のマンション建設事情を聴く」ということだったのだが、話してる間に「うちの息子の育て方」になってしまった。
全面的に私が悪い。
コドモのいない2人には、さぞかし退屈な話題だっただろう。
彼女らが盛り上がったのは、
「小さい頃、親からマンガを禁止されていた」件について。
いや、うちでは大通しなんだが、意外なことに2人ともマンガ禁止の文化で育っている。
大内くんも親にマンガを捨てられたりしたクチなので、大いに共感したらしい。

途中でちょっとだけ顔を出して、挨拶もそこそこに自室にこもっていた息子は、やがて出かけてしまった。
私としてはその方が気が楽だ。

息子がいなくなったので、話題に出た、学園祭でのお笑いDVDを観てもらう。
「漫才とコントはどう違うの?」と聞くその1は、息子のコントについて、
「なかなか本格的だね。完成度が高い」とほめてくれたし、その2の感想は、
「彼は、いい役をもらったね。相方より楽だと思う」というもの。
いやいや、彼がいたら、上映会はできなかったなぁ。

息子が怒った時に八つ当たりして壁を殴りつけて開けた穴が4カ所ほどあるので、プロであるその1に修理費を見積もってもらった。
「全部やっても10万円はかからないと思う。でも、経年で壁紙の色が変わっているので、補修したところは目立つかもしれない」と言う。
息子が完全に反抗期を抜け、これ以上穴が増える心配が亡くなったら修理を考えようかな。

後は、2人が興味を持ってくれたらしい「自炊」の現場を見てもらった。
これについては後日くわしく書こう。

10時ごろになって、お開きに。
アルコールを飲んでいない私が運転して2人を駅まで送る。
うちは、JRの駅までバスなんだよね。
駅から徒歩で来られれば、もっとお客さんに来てもらうんだが。

2人を降ろした帰り道で、大内くんは、
「楽しかったね。彼女たちも楽しんでくれたと思うよ。体験つきの『自炊工場見学』に、『演芸会』(息子のコントを見たことをそう呼ぶらしい)もあって、盛りだくさんだったんじゃないかなぁ」と言っていた。

その1はうちで12月に開くクリスマス・パーティーの時にまた来てくれるそうだし、その2は毎年、少人数での「新年会」に参加してくれているので、彼女らにはまたすぐに会えそうだ。
それ以外にも、その1の現場仕事は1年半ほど続くらしいので、また今回のような会をやれそうだし。
これからも大いによろしくお願いしたい。

12年11月18日

遊びに来た女友達2人に、今いっしょうけんめい「自炊」をしている作業場を見てもらった。
特に、友達その2は10年前に自宅兼事務所としてマンションを買って引っ越したのに、いまだに書類と段ボール箱が積み上がっているそうで、
「紙に執着があるので『自炊』できないとは思うが、興味はある」と言っていたから、とにかく現場を1度見せてあげたかったんだ。

5畳ほどの狭い書斎、しかもそこここに解体したページやスキャン済みの本の山ができているし、でかい裁断機も置いてあるので、オトナが4人入る と、相当なぎゅうぎゅう感。
その2は写真を撮りまくっていた。

大内くんがハードカバーの本を1冊手に取り、解体の実演をする。
「このね、表紙をべりべりと引きちぎる時にね、本の悲鳴が聞こえるんですよ。タブー感としては、人間を殺してバラバラにし、人肉を食べている感 じ。そして裁断ね。もう、天国には行けない、って気分になります」と解説しながら、

表紙をはがす→カッターナイフで背の糊の部分を切り、本体を、2、3パーツに分割→それぞれを裁断→スキャナに入れる

という工程をやって見せる。
「えっ、スキャンって、両面1度にできるんだ!」と、ScanSnapの性能に感嘆するお客さん。
「これ、いくらぐらいするの?」と聞くその1に、大内くんが4万円ぐらい、と答えると、その2が、
「それぐらいだよね。私も、やらないと言いつつ調べちゃったりしてるんですよね〜!」。

裁断の体験もしてもらった。
かなり切れ味が落ちているので、彼女たちの力では切れなかった。
「かなり力がいるね」と言いながら交互にハンドルを押す2人。
結局切れず、大内くんがやる。
全体重をかければ私でも切れるんだが、さすがに人んちの裁断機に初めて触って、そこまではできないだろう。

iPadを持ってきて、スキャンしたマンガのデータを読んでもらう。
私は横にして見開きで読むが、iPadをさまざまに傾けてみたその2は、
「縦にして、1ページを見るので精一杯かな。見開きでは、ページが小さすぎてダメ」と言っていた。
マンガの基本は見開きで、実際時々つながってるページがあるから、片ページずつでは違和感があるんだけどね。

我々に自炊を教えてくれた、私の友達のプログラマなんか、iPhoneで読んでいると言っていた。
会った時に画面を見せてもらったら、
「今、アダルトなものしか持ってないなぁ」と言いつつ、小さな小さな画面を開いてくれて、うん、セリフまでは読み取れないけど、息子が読んでるような巨乳の女の子が出てくるエロマンガだってことはよくわかるよ。
意外とiPhoneでも見えるものだね。

今度その2が遊びに来たら、寝室のマンガの本棚3本が空き始めているのを見てもらおうかな。
さらに言えば、本棚がなくなった時の広々感も体感してもらいたい。
せっかく「自炊」というけっこうハードルの高いことにチャレンジしているので、他の人にも体験をわけてあげたいのだ。

我々の友達には、サークルの性質上、本をたくさん持っている人が多い。
編集者や書店経営者もいる。
そういう人たちにとって「自炊」は考えの埒外かもしれないし、本との新しいつきあい方かもしれない。
大内くんと私はほぼ同じような感想を抱きながら作業を進めているけど、他の人がどう思うか、今度クリスマス・パーティーでお客さんが大勢来たら、 聞いてみようかな。
「本を解体するのがガマンできないので、自炊は絶対やらないと思う」と、住居の1室を完全に書庫にしている先輩が言っていたけど、多くの人がそう思うんだろう。
私も、やってみて、タブー感に打ちのめされたもん。だいぶ慣れたけど。
人は、何にでも慣れてしまうのだ。
たとえそれが、殺人に等しい行為でも。

12年11月19日

今思い出したが、金曜の夜に2人を送って行く時に、駐車場で我々の車の前に停めたタイヤにチェーンを巻いている若い男性がいた。
車が出せないので、作業を中断して動かしてもらって、なんとか駅前まで。
帰ってきた時もちょっと邪魔な位置にいた。
車庫入れの苦手な私は運転を大内くんに替わってもらい、大内くんはバックで上手に入れた。さすがだ。

「山にでも行くのかね。スキーかな」
「でも、ここからチェーン巻いて行く、ってことはないんじゃない?」
「練習してたのかな。それにしちゃ暗くてやりにくいとこにいたね」
などと話していたら、日曜の夜、またしても迷惑な位置に車を停めている彼を発見。
女の人が2人ぐらい、車から荷物を降ろしている最中だった。
やはりスキーだったのか?

今はワインカラーのノアに乗っている私は、独身時代、真っ赤なファミリアを乗り回していた。
サークルの合宿に行く時、免許取りたてだった女友達その1は相乗りで私の愛車に乗ることになり、途中でちょっとハンドルを握った記憶があるらしい。
「初めて公道を走ったのがあなたの車だった。慣れなくてもたもたしてて、他の車に置いて行かれちゃったので、助手席から『「もっと頑張って、抜いちゃえ!』って指導を受けた」と言っていた。
そんなこともあったか。

若い頃はいろんなことをするなぁ。
息子には、20歳すぎたら免許を取ってもいい、と言ってある。
友達と合宿に行ったりする時にノアに乗ってっちゃうんだろうか。
事故を起こしたりしないだろうか。
考えると気が滅入る。心配の種は尽きない。

12年11月21日

月曜にバイト先の「入社式」に行ったと思ったら、その晩からもう夜勤の息子。
初めてだが、どんなことをやったんだろう?
事務の仕事って聞いてるけど、なぜ夜通し?

翌日、朝の11時頃帰ってきて、予想通り、
「寝る。授業あるから、3時に起こして」と言って寝てしまった。
今回は起こすのにそれほど手間取らなかった。
まだ緊張してるからで、今後は緩んでくると思われる。
それでも5回ぐらい「あと2分」とか言われて面倒くさかったけどね。

「もう、起こすのやめよう。遅刻しても叱られても、本人が悪いんだから」と大内くんと話してはいるのだが、大内くんは会社に行ってしまっているので、どうしても私が起こす時の方が多い。
そして私は、人に頼まれたことを断るのがイヤだ。

それでも蛮勇を奮って、今朝もなかなか起きなかった息子に、「もう起こさないよ」と告げたのだが、返事は、「つかえねー!」。
世の中にあなたほど「使えない」人もいないと思うのだが・・・

早く自立してくれ、自立。
入った後の風呂の蓋すらできなくて、使ったバスタオルを干すこともできなくて、あまつさえ自分で起きることすらできなくて、それでオトナのつもりなのか。
いいかげん愛想がつきてきた今日この頃。
もう、家を出てくれないかなぁ・・・

12年11月22日

萩尾望都の「ポーの一族」で、「ぱあになっちまった子供」が、「赤ん坊に戻っちまった子供」に書き換えられていた。
「巨人の星」を読んだ時も、「おしになった」が「口をきかなくなった」に変わっており、ご苦労さんなことに、ワク外に「梶原一騎センセイのセリフを勝手にいじっていいのか、編集部!」と書き添えられていた。
差別語にはキビシイ昨今なのだ。
何かというと、「何々に不自由な人」とか言ってるし。

あれって、要するに言葉に「よくない意味がついた時」に変えちゃうんだよね。
「らい病」を「ハンセン氏病」に言い換えるとか、良かったんじゃないかなぁ、
と思うことも多い。

唯生に見せてもらった世界でも、もう「知恵遅れの子供」とは言わない。「精神発達遅滞」だ。
こればっかりは、言葉を変えたって現実は変えられないのに、という気持ちが先に立つよ。
「痴呆症」も「認知症」になったし、「精神分裂症」は「統合失調症」になった。
こういう例は、数えきれないよね。

差別用語が悪いんじゃなくて、差別する人の心が悪いんだ。
でも、偏見を抜きに生きていくのは難しいね。

12年11月23日

3連休の初日なので、また甲府に行く。
6時に家を出て、甲府のコメダに着いたのが8時すぎ。
ほどよいドライブだ。

いつものように「バター多めでお願いします!」と頼んだモーニングサービスの、じゅわっとしたバタートーストを楽しんだ後は、映画。
ちゃんと予約してあるし、「夫婦50割引き」で、夫婦のどちらかが50歳を越えていると2人で2千円になるのだ。
大内くんが、
「キミが50歳過ぎていてよかった。ありがとう」と言っていたよ。
別に、そのために頑張って歳をとったわけではないのだが。

あいかわらず居住性の良いシネコンで、今日は「のぼうの城」。
前回半分こしたポップコーンを、今回は1人ひとつずつ買って食べた。
350円で、紙箱いっぱいに入っていて、とても映画心が盛り上がるアイテムだ。

だが、ポップコーンを食べ終えたらものすごい眠気が襲ってきた。
昨夜は例によって興奮して眠れず、なかば徹夜だったからなぁ。
野村萬斎の「ひょうたん踊り」だけはしっかと観たが、他のストーリーはわからない。

映画館に隣接したイオンで、日常品の買い物。
息子のパジャマが安売りで千円だったので、3枚も買う。
これまでのは小さくなっていたんだ。
Lを買ったので、もう小さくなることはないだろう。

あと、彼の成長の記録、身長が記入された巻尺を守るため、新しい巻き尺を買った。
これで、「先生の面積を測る小学生」の役でコントに出て、小道具に持ち出されても安心だ。

ひととおり買い物を終え、それにしても我々は全国通津浦々どこに行っても日用品を買っているなぁ、と2人で感心しながら、こないだも行った日帰り温泉へ。
今回は腰を据えるつもりで、まずは2時間後に、と約束してそれぞれの浴場へ。
サウナや、ぬるくていつまでも入っていられる露天風呂、おなかがぽっこり浮いてしまって恥ずかしい寝湯などを堪能する。

あがってみたら、大内くんはロビーにある休憩所の座敷部分で毛布かぶって寝てた。
「お風呂はまたあとで入るけど、今は寝ていたい。ものすごく気持ちいい」と半覚醒でつぶやく大内くんは置いとくことにし、私はぜいたくしてマッサージを頼んだ。
40分3500円は、いつも近所でしてもらうマッサージよりずいぶん割高だが、よそのマッサージも経験してみたい。

なかなかうまい人で、とりわけ肩に対するひじの使い方がうまかった。
「こってますねぇ。これだけやったら、普通の人なら痛いって言いますよ!」と妙な感心をしてもらった。
うん、自宅近所の先生も、いつも、
「笑っちゃうぐらいこってるよ。自覚症状ないの?」と言う。
自覚症状がないわけではないが、物心ついてからずぅっと続く肩こりなんだ。慣れちゃった。

もう1度ゆっくり温泉につかり、1時間ぐらいで出て、大内くんを起こす。
ものすごく気持ちよく眠れたらしい。
お風呂はもういいと言うので、2階で食事をすることにした。

2、3組のお客さんが思い思いに座っている座敷で、メニューを見て、大内くんは「天ぷらお造りセット」(要するに天ぷらとお刺身の盛り合わせ)、 私は「カキフライ定食」にする。
「なんか、宿に泊まってるみたいだね」と言いつつ、運ばれてきたそれぞれの定食を食べたら、ものすごくおいしかった!

満足してお会計をしようと思ったら、マッサージ・食事込みで1万円以上。
ちょっと驚き、もらったレシートをよく見ると、「貸し部屋代5250円」と書いてある。
「大内くんが寝ていた座敷は、有料だったのか!これはちょっと大内くんには言えないなぁ、かわいそうで」と思っているところへ、あわてた様子の仲居さん。
「すみません、他のお客様のものと間違えてしまいました!こちらが料金になります!」と差し出すのは、総額で6千円ぐらいのおだやかなもの。
よかった。座敷は有料じゃなかったんだ。

車で待っていた大内くんに事の次第を話したら、
「気づいてくれてよかったね。僕が寝ちゃったから、キミも余分な心配しちゃったね。ごめん」と言う。
いやいや、そんな。ゆっくりできて、よかったよ。

食事もおいしいことがわかったし、座席は無料だし、ぜひまた来よう。
今度はもっと長いこと温泉に入るぞぉ!

もう6時頃になって、暗い。
結局、行きも帰りも大内くんに運転してもらっちゃった。
昔は私の方が運転うまかったんだが、今や完全に逆転。
それでもたまにハンドルを握ると、大内くんが、
「あいかわらず、うまいね」とほめてくれるが、自分でもわかってる。弱点は車庫入れ。
こればっかりは本当に大内くんにはかなわない。

そんな話もしながら、中央高速で家路を走る。
「夜景、よく見ておいて。僕はよそ見できないから」と運転手大内くんが言うので、景色を見ると、甲府盆地にたくさんの明かりが灯ってキラキラと輝いているさまは、まるで黒びろうどの上に宝石をばらまいたようだ。
しばし、夢心地になる。

談合坂のパーキングでトイレ休憩をし、いつもの「わさび漬け」を買って、再び家路に。
8時頃には着いちゃったなぁ。
朝の6時に家を出てから、14時間のお楽しみでした。
息子はいない。どこに遊びに行ったのか。

こんなに楽しい休日だったのに、まだ2日もお休み。3連休はいいね。
今度は1月に、「妖怪人間ベム」の映画版を観に行こう、と約束した。
またあの温泉でごはん食べたいし。
大内くん、いろいろありがとう!

12年11月24日

昨夜、息子がなかなか帰ってこないので、いつものように「泊まり?」とメールしたら、意外なことに、「バイト」という返事が返ってきた。
ほぼ徹夜で働く病院の事務だが、軌道に乗ったのだろうか。
4時間ほど仮眠をとるらしいが、コドモ体質の息子には、厳しかろうなぁ。

午前11時頃帰ってきて、寝てしまうかと思いきや、今日は午後に授業があるそうで、寝ないでごはんだけ食べて出かけた。
大内くんとは少し話をしたようで、

大「お疲れさん。大変でしょ」
息子「大変だね。ミスっちゃって、叱られたよ。オヤジもおふくろも働いてたんだよな。やっぱ、オヤジとおふくろにはかなわないや」
大「仕事は何でも大変だよ。やめたくなった?」
息子「いや、今やめたらやってる意味がない。やめないよ」
大「塾の講師はどうする?」
息子「そっちもやめない。頑張るよ」

と、日頃は不可能なほどの長い会話をしたそうだ。
徹夜明けでハイになってたんじゃないかしらん。

息子が出かけて、我々は自炊。
特に、ウィークディにはなかなか時間の取れない大内くんが、なんだか夢中になってやっている。
彼の本は、文庫本半分ぐらいを残して、ほぼ全部スキャンが終わっているようだ。
「キミのマンガも手伝おうか?」と言ってくれるが、私は年単位のプロジェクトだと思ってのんびりやっているので、ノーサンキューである。
20冊ぐらいあった「別冊宝島」をやってくれたのはありがたかったが。

時々、大内くん言うところの「悪魔の本」がある。
古すぎるのか、どんなに紙をさばいてもくっついてしまい、スキャナがすぐに「重なりを検知しました」と苦情を言ってくる。
しょうがないので、大内くんは1枚1枚紙をスキャナに差し込んでいるのだ。
「別冊宝島」はこの「悪魔度」が高かったらしい。

さらに、同人誌もやってもらったが、これも「悪魔の本」が多かったようだ。
「古いからなのか、紙質の問題なのか、はたまた静電気か」と悩む大内くん。
でも、長いこと悩んでないで力まかせに解決する、というのが彼のスタイルだ。
今回も、「手差し」で乗り切った。エライ。

私がやってるのはマンガばっかりなので、紙は厚めだし、古いと言っても限度があるので、そう苦労はしてない。
すまん、大内くん!
でも、このつらい作業の先には、本に縛られない広々ライフが待ってるよ。

12年11月25日

昨夜、外出中の息子から電話がかかってきたと思ったら、
「明日、新宿にエヴァンゲリオン見に行きたいから、時間調べて予約しといて」という横着なリクエスト。
でも、頼まれると断れない大内くんが、調べてあげていた。
息子のケータイでもネットで映画情報取るぐらいのことはできるはずなんだが。

新宿は満員御礼なのがわかったので、息子の指示をあおいで、家から近いちょっと田舎のシネコンを調べる。
がら空きだ。
おまけに、先日甲府で映画を観るために私が会員になった映画館のチェーンなので、代金は私の口座から引き落とされてしまう。
友達と一緒に行くそうだ。せめて友達の分だけでも取り返したい。
(女の子なら話は別だが、後日、集金してきたようなので、鉄板で相手は男)

学生のうちから予約席で映画を見るとは贅沢なもんだ。
我々は、人気作は立ち見だったぞ。
さらに言えば、新幹線の指定席も取らず、混んでいる帰省の時はデッキで荷物の上に座って2時間かけて名古屋に帰った。
今や、床屋でさえ予約して行く息子に、「もうちょっと苦労しろ!」と言いたくなる。

12年11月27日

また夜勤のバイトで帰らない息子。
事前にわかっていれば、ごはんも作らなくていいし、お風呂もわかさないですむ。
つくづく、息子の機嫌中心に回っている我が家である。

今回も、午前11時頃帰ってきた。
夕方に授業があるそうで、
「2時に起こして」と言ったきり、ぐーすか寝てしまった。
しょうがないから、2時に自炊の手を休めて起こしに行く。

「うーん、あと10分」ってなことを3回ぐらい繰り返して、
「でさぁ、結局、何時に家出るの?」と聞いたら、ねぼけながら、
「3時ごろ」。
じゃあ、なんで2時から10分おきに起こしてるんだろう?
3時にばちっと起きればいいじゃん!

そう思って2時半から3時までは声をかけなかった。
そして、3時に「起きなさい!」と言ったら、かなり素直に起きた。
のもつかのま。
布団に戻って、「もう3分」
いつまで続くんだ!!!

まあ、その3分が過ぎたらさすがに起きてくれて、シャワーを浴びて出かけて行った。
やれやれである。
20才になろうかっていうのに、自分で起きられない男。
デカい音の目覚まし時計を買ってくるとか、自分でも考えてはいるようなのだが、いかんせん効果があまりない。

ところが、彼は妙なところで「うまい」。
出かける支度をしながら、書斎の前を通ったと思ったら、のぞきこむようにして、

「ありがと」

と優しい声で言うのだ。
いっぺんで、何もかも許す気持ちになるじゃないか!
本当にもう、息子の掌の上でタップダンス、って感じだよ。

徹夜のバイトは、どうやら月曜と金曜らしい。
金曜だと、翌日土曜日に授業あるんだが、大内くんがいてくれるので、起こすのはお願いしている。
問題は火曜の午後だ。
今日のような日々が、毎週あるのだろうか。考えただけでもユウウツである。

12年11月29日

木曜なのに深夜のバイト。月曜と金曜かと思っていたのに。
彼は、事前に連絡してこないから困る。

そのまま授業に出て、夜、帰ってきたところで「ダメじゃん!」と叱ると、
「オレ、もうバイトやめたい。お笑いの活動を阻害する」と言う。
大内くんが、
「お金を稼ぐってのはそういうことだよ。予定をやりくりして頑張りなさい」とお説教してくれたのが効いたのか、夜中に顔を見た時は、
「やっぱ、バイトは続ける。塾の講師も頑張るよ」と素直だった。
いつもこうだと助かるんだが。

このバイトは、高校も大学も一緒の友達から紹介されたもので、彼のお兄さんが正社員らしい。
うかつにやめたりすると、友達の顔もお兄さんの顔もつぶれて、友情にひびが入るよ。
そうでなくても、バイトを始めたりやめたりを繰り返すのはよくないし。

ムリに徹夜のバイトなんかしなくても、夜の10時から1時ぐらいまで駅前の居酒屋やコンビニで働く、って選択肢はないものかね。
彼は、時給の高いものを選び過ぎだよ。
みんな、もっと地道に働いてるのだ。楽をするな!

12年11月30日

今日で11月も終わり。明日からは12月だ。
今年も1年があっという間だった。

2週間に1度のマッサージから帰ろうと自転車を走らせていたら、息子の雇い主である塾長とバッタリ出会った。
(というか、「大内さん!」と声をかけられるまでまったく気づかなかった。あんなに目立つ巨漢なのに)
双方自転車を降りて、しばし立ち話。
おもに、息子がバイトをやめたがって困っているが、塾はやめたくないらしい、という話かな。

「大内さんと話して、元気出ました。じゃっ!」と言って塾長が走り去った後、また自転車に乗ったところで、ケータイに息子から電話。
出てみると、
「オレ、iPhone欲しい」という用件だった。
前々から大内くんと相談していた件だったので、
「いいんじゃない?パパは、買い換えてあげるって言ってたよ」と答えると、電話の向こうで、
「言ってみるもんだな・・・」とつぶやいているのがはっきりと聞こえた。面白いヤツだ。

問題は、明日一緒に買いに行こうと言っても彼がもうすっかり買う気になってしまい、待てないらしいこと。
「契約とか、めんどくさいし、親が一緒に行った方がいいよ」と説得を試みたのだが、
「オレ、契約は得意だから」と根拠のない自信を披露する。
「とりあえず家に帰るから」と言われて、私も帰宅。

近所のコジマに電話して、未成年者でも自分でケータイ買えるのか聞いてみたら、親の承諾書があればいいらしい。
大内くんに電話して相談すると、
「自分でやらせてみたら?承諾書がいるんなら、彼がお店と家を往復すればいいじゃない。下宿してる大学生は全部自分でやってるんだから」と、大らかだ。

帰って来た息子にそのへんの話をしたら、友達に電話してあれこれ情報をもらったらしく、
「承諾書は、家のパソコンで取れる。印刷して、記入してハンコ捺して」。
確かに承諾書はプリントアウトでいける。なかなかやるな。

会社の大内くんから息子あてにメールしてくれたようで、

・バイトや授業の予定を親に教えること
・風呂に入るときは帰る前に連絡すること
・食事を食べるときは帰る前に連絡すること
・バスタオルを使ったら干すこと
・部屋を片付けること 床に服を出しっぱなしにしないこと
・食べた食器は洗うこと

など、書くのも情けない条件をいろいろつけていた。
いくつ守れることだろうか・・・

さてさて、彼はどんなケータイを買ってくるのでしょうか。
「iPhone5に決まってんじゃん」と言うが、私はスマホにはさわったこともほとんどない。
彼が見せてくれるかどうかわからないが、楽しみだ。
1日中家にいてまったく必要ない私も、思わずスマホを買いたくなるぞ!

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