14年3月1日
お笑いのコンテストがあるらしい。
息子のサークルの中からも、2チームが準決勝に勝ち抜いているようだ。
そして、開催場所は何と我々が住んでいる三鷹市だ。南に徒歩30分ぐらい下った我々のマンションとは離れた、北口の話ではあるのだが。
その前日、例によって帰りの遅い息子に定例の「今日は帰ってくるの?」メールを出したところ、
「帰る。明日、大学芸会だし」という返事が来たのでググったら、開催場所がわかってひと騒ぎ。
「あなたも、出るの?」と聞いたら、「出る」と簡潔な返事。
ここまで情報を出してくる、ってことは、見に行ってもいい、ってことだよね?と大内くんと色めき立つ。
ところが、12時半ごろ帰って来た息子が開口一番言うには、
「もう、当日券は売り切れだから」。
意地の悪い人だなぁ!
地元でやるんだよ?!チケットぐらい取っといてくれよ!
当日朝、電話をかけて聞いてみたら、
「あと10枚ぐらい残っていますが、お客さんが多いので、開場1時間前ぐらいには列ができて、あっという間に完売だと思います」と言われてしまっ
た。
さすがに1時間並ぶのはノーサンキューだなぁ。地元の意味が、ほとんどない。
それでも未練がましく開場直後に電話してみると、
「即売でした!」と明るいお返事。
まあいい。息子は息子で勝手にやってくれ。
我々には、明後日に渋谷で行われる「イイね(笑)グランプリ」という決勝戦に行く大望があるのだ。
もうチケットは前売りを押さえてある。
息子のユニットが予選を勝ち抜いて、優勝目指して頑張るのもわかっている。
さすがの息子も、こればっかりは、
「来てもいいよ。けっこう歳の人も来るし」と寛大だ。
確かになぁ、普段のライブに行くと、親世代なんて我々しかいないもんなぁ。
息子は、相当恥ずかしい思いをしていることだろう。
「大内の親、また来てるぜ」と話題になっているに違いないんだ。
わけがわからないぐらいいろんなコンテストやライブに出ている息子。
人様に何かをお見せして、評価を得る、というのは大事なことだよ。
どのぐらい笑ってもらえるか、という、ある意味ごまかしのきかない世界だからね。
三鷹の大会ではあまりいい結果はでなかったようだが、渋谷はどうかな?
昔、小学校時代に柔道をやっていた頃、渋谷でいい戦績を残してなぜか柔道雑誌に名前が載ったことが1度だけあるので、本人もしばらくは、
「渋谷は、僕の聖地!」と言っていたが、さて、今回もそのジンクスは生きるんでしょうか。
ようつべで拾った予選の模様を見ると、そう面白いことをしているとも思えないが、決勝まで残ったのは立派。
優勝しなくていいから、落ち着いてやってね。
14年3月2日
唯生に会いに行っていたら、息子からケータイがかかって来た。
「今日、武道館のコンサートに行くから、封筒からお金借りてく」
確かに、書斎の本棚に息子におこづかいを貸す時のための現金のストックがある。
わざわざ申告してくるとは。
大内くんと、
「彼は真面目だね。黙って持ってっちゃおうとは思わないんだね。僕らの若い頃は、当然のように親の財布からお札を抜いて黙ってたもんだけど」
「これまで、『お金が欲しい』と言って、断られたことがほとんどないからじゃない?『何に使うの?!そんなくだらないことにつかっちゃいけません!』とか、1度も言ったことないから」と話し合う。
さて、何のライブに行ったのかな、また水樹奈々かな?と思ってググったら、「BABYMETAL」というゴスロリ風の若い女子のグループ。
今まで、一度たりともファンらしい様子を見せたことはないのに、6800円も払って行くか。
ようつべで「キツネ」「イジメ、ゼッタイ、ダメ」などを聞く。うまい。
夜、フェイスブックを見ていたら、共通の知り合いと言うか大学のマンガクラブの後輩で音楽関係の仕事をしている人が、
「召喚されちゃいました〜」と言って写真をアップしているのが武道館前。
「うちの息子も召喚されたようです。会いませんでしたか?」とコメントしておいたが、さすがにばったり会ったりはしなかったらしい。
しかし、「BABYMETAL」に対する信頼度が一気に増す。
夜中の12時ごろ、雨に濡れて帰って来た息子は、もう今日買ったらしきTシャツを着こんでいた。
9千円持って行く、と言っていたから、チケット代と交通費とTシャツ代ですべて消えただろう。
実際、明日の分のおこづかいを貸してくれ、と言われたし。
まあ、バイトも始めたことだし、こつこつ返さないまでも借りるのはやめてくれるだろう。
借金はもう、31万円まで膨らんでいる。返してもらえるとは到底思い難い。
14年3月3日
ひな祭りの今日、何の関連もなく、息子のお笑いコンテスト。
何度かの予選を勝ち抜いて、上位17組に入って決勝だ。
優勝賞金は10万円。さて、息子は獲れるか?!
会社帰りの大内くんと現地待ち合わせにして、寝る前に大内くんが、
「そうそう、会場までの地図をプリンタで打ち出しておこう」と言う。
「スマホって、施設名入れると自動的に目的地までの地図と自分の現在の位置が表示されるんじゃないの?」と聞くと、
「そうだった!何やってんだろ。日頃、すごく便利に使ってるのに、忘れてた!」と身をよじっていた。
いや、ホント、今のスマホはスゴイよね。
私は1人でバスや電車に乗って外出するのは去年の10月、息子の誕生日にパレスホテルでローストビーフをおごった時、東京駅で大内くんと待ち合わせして以来のことだ。
この引きこもりぶりもスゴイが。
開場時間より30分も前に着いてしまって、大内くんに連絡しながら、申し込んでおいた前売チケットを受け取り、お金を払う。
前売1000円、当日券1500円だ。けっこう高い。
ただ、箱がものすごく立派で、客席も映画館並み。
こんなとこでコントやったら、ものすごくあがっちゃうか、ものすごくカン違いしちゃうか、どちらかだろうなぁ。
やがて大内くんも現れて、一緒に客席へ。
「前の、端の方から詰めてお座りください」と言われたので、どうしようもなく最前列の一番端だ。
息子に怒られるかなぁ。
せっかくビデオカメラ持って来たのに、「録音、撮影は固くお断り」されてしまった。残念。
息子は、17組出る中での17番目。トリだ。
お客さんのアンケートとゲスト審査員の点数で、その場で発表されるらしいグランプリに、輝けるのか?!
いろんな大学のサークルが来てて、中には混成チームもいる。
ICUと上智の組み合わせなんか、ワタシ的には優勝してほしい感じだなぁ。
そう言えば、息子も今回は日大の子と組んでるんだった。
彼は、3つぐらいのペアを持ってるんだよね。
「柔(やわら)くん」という今回のコンビは、わりと入賞成績いいよ。
16組見て、「みんな、うまいなぁ」と思ってるところに息子たちのコント。
あいかわらず学ランは重宝なものだ。
「転校生と曲がり角でぶつかって」の黄金パタンを何度も何度もやるコントだった。
正直、あんまり面白くない。
ネタは全部息子が書いてるらしいんだが、そもそも彼はツッコミじゃないと思うんだよね。
滑舌悪いんだし、ゆっくりボケたらいいのに。
その大課題を残したまま、やはり優勝にはかすりもしない彼でした。
最後、集計を待ってる間の時間稼ぎに、全員が舞台に出てきて、MCのにーちゃんたち(エレキコミックだった)が演者さんたちを「いじる」んだが、
最後に声をかけられた息子は、
「オレ、最近、緊張すると金玉が痛いんです。睾丸のガンかも、って思います」と大真面目な顔で言っていた。
相方も、
「オレは、肛門から変な液体が出るんです。いや、漏らしてるわけじゃないんです」と言ってたし、この人たちは、曲がり角でぶつかるより素でやった方が面白いんじゃないでしょうか。
結局、下馬評通り、早稲田の先輩コンビが優勝した。
「これは、今日は彼は帰ってこないね」と言いながら渋谷を後にし、吉祥寺で回転寿司をつまんで晩ごはんをすませ、家に帰り着いたのが12時すぎ。
7時から始まったっていうのに。
面白くもじーんとくる時間だったなぁ。
お風呂に入りながら、
「やっぱ、息子はすごいよ。好きなことにはあんなに一生懸命でさ。親としてはもう、幸せで涙が出るよ」と私が言うのは、顔見知りのサークルの女子から、息子以外にも留年した人が出たという事実を聞き出し、息子が孤独でなくなったところに負うものが大きい。
なにせ、3つやってるペアの、1つの相方だから。
5年生になってもお笑いやれるかも。
おまけにその感心な息子は、夜中の2時ごろに帰って来た。
自転車を変なとこに置いておいたので撤去されたらしい。歩いて帰って来たのか。
駐輪場代払って借りてるのに、何で「変なとこ」に停めてるんだ!
そう怒ってみても、やはり息子は可愛い。
大内くんもしみじみそう言っていた。
「でもさ、あなたの親も、あなたのこといまだに可愛くてしみじみしてんのかもよ」と言うと、
「それを言ってくれるな。僕の中でも大きな矛盾なんだ。親にはほっといて欲しいけど、息子はほっとけない。どうしたらいいんだろう・・・」。
そう言われてもなぁ。
ちょっと驚いたのは、息子の部屋をのぞいて、
「父さんが、『金玉が痛いんだったら早く医者に行った方がいい』って言ってたよ」と告げたせいで見に来たのがわかったのか、それとももともと知っ
てたのかはわからないが、我々の部屋に来て、
「面白かった?」と聞いてきたこと。
ウルトラ素直だ。
感想は正直に語っておいたが、いつも言ってるようなことなんだよね。
「もっとゆっくりやれ」につきる。
とにかく、今日はホントにご苦労さん。
来年も出られるように、頑張ってね。
睾丸に関しては、ネタでないんだったら病院に行け。すぐに。
14年3月5日
大内くんが、来年度、会社から実働10日の「リフレッシュ休暇」プラス旅行券をもらえるらしい。
勤続30年か、50歳になるか、どっちか早く来た方で。
大学でのたくってる間に人より出遅れて勤続年数の少ない大内くんには、50歳が先に来た。
秋に、イタリアに行こうかな。
2人で楽しみにして、毎晩パンフレットなんか見ちゃう。
おおよそのプランが決まりつつあり、旅行社にも相談を始めている。
夜中に帰って来た息子に、
「9月末に10日ほどイタリアに行って留守にするんだけど」と言ったら、
「何回するんだ、その話。もうさんざん聞いたよ」と冷たく言われた。
でも、
「嬉しいから、何度も言うよ。あと、5、6回は聞いてもらわないと。8泊のツアーでミラノから入って、ベネツェア、フィレンツェ、カプリ島、ローマとまわって、ローマで延泊2日もつけてのんびり見てくるんだよ」と浮かれていたら、
「11日も行くのかよ。オレは大丈夫だけど、あんた、身体は大丈夫なの?」と気づかってくれた。やさしいとこあるじゃん。
「留守中に、唯生ちゃんがもし緊急入院するようなことがあったら、母さんたちもすぐに帰国するけど、とりあえずはあなたが手続きしてくれないといけないんだよ。もう成人したから、そんなこともできるんだよ」
「わかったわかった。大丈夫だから」
「急な手術になると、『無理な延命はしません』とか、唯生ちゃんにはあんまり関係ないけど『安全のため、手足をベッドに拘束することがあります』
とかいう書類がいるんだよ」
「あ、オレ、それ、処理したことあるわ」と言うのは、1年前、病院のER夜間受付のバイトをしてたからだね。
経験は力なり。
「もう、嬉しくってさぁ、ビジネスクラスに乗っちゃおうか、って話まで出たんだよ。ツアー代が、40万円も余分にかかるんだよ。そのかわり、完全
に横になって、寝て行けるの」
「金があるんなら、そうした方がいいんじゃねーの?ひざとか、痛そうだし」
「うーん、でもやっぱり贅沢だからやめておこうかな。上級エコノミーにはしちゃうかもだけど」
こんな話につき合ってくれるとは、今日はよっぽど機嫌がいいんだな。
コンテストの結果がそれなりに良かったのかしらん。
というわけで、今現在、イタリア10泊を検討中であります。
一番心配なのは、私のひざの関節症。
なるべく歩きの少ないコースにして、いざとなったら美術館の中とかでは大内くんに車椅子を押してもらおうか、というところまで話は進んでいる。
いくら早めの計画が大事だとは言え、今からそんなに詰めてたら、旅行に行く頃にはすっかりくたびれてるんじゃないかしらん。
ま、事前にあーでもないこーでもない、って計画するのも旅の楽しみのひとつだからね。
清水義範の「夫婦で行くイタリア歴史の街々」なんて一緒に読んで、盛り上がっとります。
まだ半年も先の話なのに。
あー、でも楽しみ!
14年3月7日
大学生の息子は、私の感覚からすると実に頻繁にコンビニ等で「飲み物」を買っている。
(荷物の中からしょっちゅう空の缶やペットボトルが出てくる)
私にとっては、出かける時にペットボトルに冷蔵庫の麦茶を入れて持って行く、というのが普通で、うっかり忘れてたりなくなっちゃったりするとコンビニで買わざるを得ない時があり、何やら「強烈に負けた」感が強いってのに。
そう言えば、どこやらのメーカーが最初にペットボトル入りのお茶を売り出した時、業界では、
「お茶なんて、そんなものをわざわざ買う人はいない」との見解が強かったようなのだが、今やお茶はコンビニの主要商品だ。
(それどころか、水を買う人までいるよ)
おにぎりもそうだったような気がするなぁ。
「わざわざ買うようなものじゃない」って。
でも、今じゃすごく売れてるんだよ。
売る人あれば買う人あり。
息子は買っている。
我々に「夜食を作れ」と言う頻度からすると、食べ物はあまり買ってない気がするが、飲み物は本当にふんだんに買う。
そのくせ、いつも金に困っている。
今の日本の「貧乏」ってのは、昔とはタチが違うんだろうな。
大金は持ってないが小金は持ってる。
そして、持ってると使っちゃうのが小金ってものだ。
貯めて大金にしよう、と思うには、あまりに大金が大きすぎる。
私は元来のケチが幸いして、マンションの頭金を貯めるのにさほど苦労はしなかった。
よく大内くんに、
「1人暮らしのOLが、よくあんなに貯めたねぇ」と驚かれる。
金利8.8パーセントという無茶苦茶な時代だったのも良かったんだろう。
ボーナスもらうと何も考えずに全部「一時払い養老保険」にぶち込んでた。
今はまるっきり運用してないので、かなりの額が通帳に「入れっぱ」になってる。
こないだ用事があって銀行に行ったら、窓口の人以外に「地域担当の者です」ってあいさつに来られて、どうしてかわかんなかったんだけど、大内くんに話したら、
「そりゃ、通帳にあんだけほっといたら挨拶に来るよ。定期とかにしてもらいたいんじゃないの?」と言われる程度には金持ちらしいよ、私は。
今や、稼いでるのは大内くんなんだけど、私もこつこつ貯めてるんだ。使い道ないし。
あっ、今度、イタリア旅行で使うじゃないか!
うーん、お金を使う、しかもそれなりに大金、という話になると、ケチの虫がうずくなぁ。
今の、行きたくて行きたくて頭がじんじんしびれてるこの状態のまま、何とか旅行までケチの虫を気絶させておこう!
14年3月8日
iPadに入れた、ドラマや映画が観られるアプリで、黄金の90年代ドラマ「ずっとあなたが好きだった」「誰にも言えない」「私の運命」をがーっ
と観た。
くたびれた。
佐野史郎、当時好きだったなぁ。
「私の運命」を観た直後、下北沢のラーメン屋「a亭」で見かけたことがあり、思わず、
「片桐先生の死に顔、ステキでした・・・」と声をかけてしまった。恥ずかしい。
私は大昔から、変な人、「オタクっぽい」人、かなりOKでした。
それこそ、「オタク」という言葉が出てくる前から。
冬彦さんがマザコン?男は多かれ少なかれマザコンだ、「結婚するまではママの言いなり、結婚してからは妻の言いなり」でちっともかまわん!と思ってた。
ここで思いっきり間口を広げておくと、「婚活」が楽ですよ。
とは言うものの、「婚活」はしたことないなぁ。
常に恋愛をしていた。
「好きだから結婚したい」のであって、「この物件と結婚すべきか否か?」という目で恋人を見たことは1度もない。
(なのに、なんで「三高」と結婚できちゃったのか?)
あと、「カレが告ってくれないの」なんて悩んだことナシ。
こっちから思いっきり告りましょう。
そして、対女性スキルが低いカレでも、ぐいぐいリードして望ましい関係を築きあげましょう。
と、大内くんに熱弁をふるっていたら、
「あいかわらず熱くて前向きな人だねぇ。よかったよ、僕はそういう人と出会えて」とほめてくれた。
うん、1度もクリスマス・ディナーをおごってくれたことがない人と結婚してあげるとは、太っ腹でしょ!
今日も元気だ仲がいい。
両親がこんなじゃ、息子はげんなりするだろう。
「バカバカしくて見てらんねーや。オレも自前のカミさん探そ」と思ってくれれば大成功。
14年3月9日
となりに寝ている大内くんが、夜中に大声を出した。
「さびしいよっ!」
びっくりしてゆすり起こし、「どうしたの?」と尋ねる。
「息子に首をくすぐられたんだ。夢だったのか」
どうやら、私が聞いた「さびしいよっ」というのは、「やめてよっ」の聞き間違いだったらしい。
大内くんは時々うなされる。
そのたび起こして励ますのは私の大事な仕事。
「ひぇぇぇ」というような声を出していたと思ったら、
「とっても怖い夢をみたんだよ」と訴えることが多い。
さて、私はよく夢をみるのだが、大内くんはあまりみないんだそうだ。
夜中のこの出来事と合わせて考えると、
「夢をみてはいるが、覚えていない」のだろう。
睡眠の深さとか、寝ている間の頭の働き方が違うのかもしれない。
しかし、そんな私も若い頃ほど面白い、真に迫った夢はみなくなった気がする。
ヘタすると、小説が1本書けるんじゃないか、と思うような夢が多かったからなぁ。
どうしてそういう面白い夢をみなくなっちゃうんでしょうかね?
あああ、また大内くんがうなされている。
助けに行かなければ。
14年3月11日
息子が風邪に倒れた。
「熱ある。抗生剤くれ」と言うのは、小児科時代からなるべくとっておこうとしてた、ストックからってことね。
昔は熱を出すと病院に「連れて行かねば」ならず、大変だった。
今じゃ自分で行ってくれるから、楽だ。
ただし、今回は「寝て治す」つもりらしい。
2リットルペットボトルのポカリスウェットをベッドのわきに置いて、時々起きてゲームをやるヒマにもベッドからは出ない。
「正露丸もくれ。腹に来た」
そうか、いわゆる「おなかに来る風邪」なんだね。
薬にも、各個撃破の構え、という気合が感じられる。
食事は、お粥しか食べられない、って言うので、さすがに可哀そうになって、お盆に載せたお粥やら雑炊やらを枕元まで運んでやる。
「タンドリーチキンの残りあるけど」と言ったら、
「そんなもん、食えるわけねーだろ!」と叱られました。日頃の大好物も、さすがにダメか・・・
とりあえず大学は春休み中なので、大丈夫。
始めたばっかりのバイトはどうなるのか。
完全復調はいつか。
早く「家以外のところ」に行けるよう、治してね。
14年3月12日
息子が復調する前に、大内くんに泊まりの出張が入っている。
不安だ。
朝の5時6時に出かけて、今日は九州に泊まって、明日会議があって、東京に帰って来たら接待が入ってて、「家に帰り着くのは12時ごろになるかも」 と早くもへろへろに語る大内くん。
無事に帰って来てくれ。
夜、電話がかかってきた。
「今、接待が終わってホテルの部屋に入ったところ。特に変りばえのしないシングル・ルーム。しけた目覚ましが置いてある。見覚えがあるから、前にも泊まったホテルなんだろう」とのこと。
「寂しいよ。早く帰ってきてね」と訴え、少し話して、電話を切る。
ますます寂しくなってきた。
風邪がほぼ治ったらしい息子が夜中にキッチンのあたりを動き回っている。
昼間寝過ぎで眠れないんだろう。
「早く寝なさい。夜更かしは身体に悪いよ」と指導すると、
「そう言うあんたは、何でこんな時間に起きてんだ?」。
良い子に育ったものだ。深夜2時半の邂逅。
14年3月13日
夜中にごそごそゲームやったりマンガ読んだりしてちっとも寝ない息子は、その代わりのように、日中は寝てばっかりだ。
風邪は治ったらしい。
大内くんはいないわ、息子は熱が上がったり下がったりしてたわ、どうなることかと思いましたですよ。
で、昼過ぎても寝てる息子に声をかけた。
「そろそろ起きたら?」
と、彼は、
「何時?!12時半!やべえやべえ、まずい!遅刻だ!」と叫んで一瞬で飛び起き、ケータイで時間と着信をチェックしてる模様。
「バイト?」「いや、ネタっ」(つまり、お笑い活動の方の用事ね)と叫びながら、大車輪でシャワー浴びて、私が、
「バイトじゃないんだったら、いくらでも遅刻してください。自己管理ですから」と考えてるなんて知らずに、
「金貸して!5千円!」とおこづかいを借金する。
今日で35万円になりました。
あー、嵐のように出かけちゃったなぁ。
大内くんも遅いし。はぁぁぁ。
清水義範でも読むか。
しかし、あの人の本は、読んでも読んでも同じ話だからなぁ。50冊以上持ってるけど。へろへろ。
14年3月15日
息子が、自転車を「持って行かれた」と言う。撤去か。
「どうして契約してる駐輪場にちゃんと停めないんだ!」と叱ったら、
「用事があって隣の駅に行ったから」と悪びれない。
「とにかく、保管所に行って引き取ってきなさい」と言い渡して1週間。全然引き取りに行かない。
「今、別に困ってないし、忙しい」というのが彼の言い分。
バス代はかかるし、駐輪場代も無駄になってるじゃないか!
業を煮やして、土曜に大内くんと車で引き取りに行く。
「大学生にもなって、自分で自分のことができないなんて!」と怒りながらではあるものの、ガマンできなくなって手を出しちゃう自分たちも悪いんだよなぁ。
ところが。
保管所には息子の自転車はなかった。よーく調べて来たけど、なかった。
つまり、「撤去された」のではなく、「盗まれた」のだな。
そうなると、ちゃんとカギをかけておいたかどうかまで、アヤシイ。
駅まで徒歩30分の我が家では、自転車は必需品である。
「早く引き取りに行け」コールが、「早く新しいの買ってこい!」に変わった。
あきらめのいい私は、買うこと自体にはまったく異論がないんだけど、とにかく早く買って来てもらいたいんだよね。
だってさぁ、バス代が往復420円。
30日バスで通ったら、もうママチャリが1台買えちゃうよ。
朝からバイトで自転車屋さんに行くヒマがないのはわかるけど、もうちょっと計画的に動いてくれないものだろうか。
めんどくさいので、我々が勝手に買う許可を取りつけた。
週末に駅前で買って、車に積んで持って帰ろう。
またなくすかもしれないから、一番安いママチャリを買ってやる・・・
14年3月16日
息子が外泊して帰ってこないと思ったら、翌日、電話がかかってきた。
「お金がない。銀行に入れておいて」。
実はこれは良く使われる手だ。
振込では間に合わないが、息子がキャッシュカードを、我々が通帳を持っているので、銀行から「入金」すればすぐに引き落とせる状態になる。
もちろん、わざわざ銀行に行くのはとても面倒くさいので、これまでも頼まれるたびに、
「自分のおこづかいをちゃんと管理して」
「大変なんだから、もうこれで最後にしておいて」
と言ってきた。
でもなぁ、何かお金が必要なイベントが急にできちゃったのかなぁ、と思うと、結局ほっとけなくて入金してあげちゃう。
大内くんがさすがに怒って、入金を知らせるメールで、
「もうこういうことはなしにしてください。引き換えに、家庭内飲み会に参加すること。キミの風邪をしっかりうつされた父さんより」と伝えていた。
そしたら、すぐさま返信が。
「本当にごめんなさい。(飲み会に)参加します。お大事に」と、妙に殊勝なことを書いてきたよ。
そんなことで「ほろり」と来ちゃう我々は、次におんなじことがあったら、またやってあげちゃうんだろうな。
彼は、お金は持ってれば持ってるだけ使っちゃう準禁治産者なので、
「いざ、という時のために余分のお金を持っておく」ということができない。
小学生の頃から変わらない。
このままでは、ホントに業者さんに借金するようにならんだろうか。
そんな彼が今夢中になって読んでいるのが「闇金ウシジマくん」というマンガ。
なんだか不穏な感じだなぁ・・・
ちなみに、「家庭内飲み会」に関してはまだつきあってもらってない。
彼の感謝の気持ちが完全に消える前にセッティングしなければ。
こないだ大内くんと2人で「水餃子」を食べていたら外泊から帰ってきて、
「オレも食う」と残り4分の1ぐらいの餃子を食べたので、
「飲み会に持って行けるかな?」と思ったのだが、そう言って誘っても、
「酒は飲みたくねー。昨日飲み過ぎた。牛乳ちょうだい」と言われておしまいだ。
週末にかけて友達と岐阜の白川郷に旅行に行くようだし、次のチャンスはいつかなぁ。
14年3月18日
大内くんが休みを取ってくれたので、のんびり過ごす。
徒歩10分ぐらいの市役所へ散歩したら、20分ぐらいかかった。
やはり、ひざが悪いと歩行もままならない。
大内くんが何やら手続きをしている間、ロビーのテレビをぼーっと眺める。
ウクライナ情勢はどうなるのか、また、マレーシア航空機はどこへ行ったのか。
オリンピックが無事に終わったことだけは良かったと思うが。
帰り道で、優秀な八百屋に寄ってみる。
「今週は家でごはん食べる人があんまりいないから、まあ、キャベツでも補充しときましょう」ぐらいのつもりで行ったのに、いざ店頭を見ると興奮が
止まらなくなる。
「にんじん、こんなに大きいのが4本で200円!」
「キャベツ130円!」
「カブ2把で200円!」
という状態になり、気がついたらレジ袋3つ分も買い物しちゃった。
重い袋を大内くんが2つ持ってくれて、私が残りの1つ。
来た時よりさらにゆっくり散歩。
梅は満開、沈丁花の香りは高く、菜の花の黄色は鮮やか。良い春だ。
ダンゴ虫も歩道を横断してゆく。
「歩いてて、よくそんなの見えるね」と大内くんに言われたが、私は動体視力がいいから、動いてる物はよく見えるんだ、と勝手に思ってる。
中・高の頃の日記には、毎年、
「今日、今年初めてのアリを見た」って書いてたもんだ。
今日はアリは見なかったなぁ。
すごい風が吹いてて洗濯物が飛んでいきそうだったし、隣のマンションとの細い隙間を、荒れる波の音のようにごうごうと風が鳴る。
春一番だ。
冬が終わった。
これから、どんどん私の好きな夏に突入するんだけど、冬中待ってたこの「夏」も、いざ真夏になると「冬の方がよかったかも」って思っちゃうんだよ
ね。
夏の暑さを保存しといて、冬に使えないもんかね。まったく。
そんな話をしながら一緒にテレビを見た。
いい1日だったなぁ。
14年3月19日
iPadが突然スタンドから外れて落ちて、丸みを帯びているとは言うものの、角が、あお向けになってマンガ読んでた私の左目を直撃した。
痛かった。
すっかり忘れて数日間。
「どうも左上まぶたの奥が痛むなぁ。またものもらいかな?」と思って鏡を見て仰天。
左目だけ、美輪明宏か浅田真央か、って感じのフルメイクになっている!
殴られると目のまわりが黒くなる、ってのはマンガとかでさんざん知っているが、自分の目にそれが起ころうとは!
正確に言えば、左上まぶた、目の中心から目じりに向けてグラデーション的に紫が広がっている。
まつ毛の近くまでしっかりと。
これまで自分でやったどのメイクよりもうまいかもしれない。
痛いのは、「打ち身」だったんですねぇ。
「危ないね。気をつけてね。かわいそうに」と言いながら大内くんは、
「目元が紫になっている女の人がこんなに妖艶だとは思っていなかった。自分の奥さんなのにドキドキする。あー、やっぱり僕って変態なのかなぁ」と悩んでいたが、いや、みんなそう思うからアイシャドーってもんがあるんじゃないの?
もともとは、目のまわりにアイシャドウを塗って「くま」を作り、「情事にふけって、寝る間もないの、アタシ」というアピールするため、と聞いてる
んだけど、はてさて、「殴られたような」まぶたをしている女にも何か、男心に訴えるものがあるんだろうか。
「殴られる女(バタード・ウーマン)」が問題になっている今、そういう見解は危険かもしれないぞ。
それにしても派手だ。しかも片目だけなので、不気味だ。
家から出ない生活だからかまわないが、外出する時は眼帯かサングラスをした方がよさそう。
大内くんが「DV夫」だと思われたりしたら一大事。
ところで、iPadがスタンドから落ちたのは別にスタンドが不良品だったからではありません。
本をサポートする部分とアームを結合するパーツがきちんとはまってなかった。
私の責任です。
ひと月ほど前にも落ちてきて、この時は可動部分をつなぐネジがゆるんで取れたのが原因。
これもまあ、自己責任かな。
その際には口元を直撃、前歯にかぶさっていた唇が、前歯とiPadにはさまれる格好になり、切れた。
まあ、口の中のケガはすぐに治る(実際、もう治った)からどうでもいいけど、怖いのは前歯が折れること。
大事に使いたい永久歯だ。
案外多い家庭内事故。
気をつけよう。
(そして、私はまだしばらくは片目アイシャドー・・・)
14年3月21日
やっと週末。3連休だ。
今週は大内くんが珍しくむちゃくちゃ忙しくて、昨日なんか、帰ってきたのが夜中の1時。
もっとも、
「日頃の僕が働かなさすぎるんだ。みんな、毎日こういうペースで働いている」と脅かされたので、会社方面を拝んで寝よう。
で、今日。
息子の自転車を買いに行くついでに、ラーメンを食べる。久しぶりだ。
このところ、私のひざが痛くて外出がままならなかったから。
ロフトでお香とバスオイルを買い、ブックオフで古本を仕入れて帰る。
肝心の自転車は、買って駐輪場の手続きをして放り込んでおき、息子に拾って帰らせるつもりだったんだけど、今日は祝日なので、受付をしていないらしい。
前の駐輪証を古い自転車につけたまま失くしてしまったので、新しいのに切り替えて、ついでに4月からの分の更新もしておこうと思ったのに。
しょうがないから、自転車はとりあえず買った自転車屋さんに預けてきた。
(だって、私も大内くんも自転車なんだもん。もう1台持って帰ることはできないよ)
明日にでも、息子に取りに行かせよう。
こう読んでいても、過保護っつーか、何でもかんでもやってあげてるなぁ。
ほっといたらどうなるんだろう。
私はこう見えても秩序ある生活が好きなので、息子の「好き放題」は考えるだにオソロシイ。
やれるうちはやってやる。
やれなくなったらやらない。
それにつきますね。
14年3月22日
ひざが痛いので、サポーターを買ったり、いろいろ試してみてる。
通販で申し込んだ「お試しセット」の漢方の痛み止めを煎じているところ。
グルサコミンとコラーゲンのサプリも買った。
おかげで朝晩飲む薬がハンパない。
真剣に、ウォールポケットの薬入れとかピルケースも買ってみようか。
とにかくどこの医者に行っても、
「体重を減らしなさい」と言われる。
しょうがないからダイエットして、2カ月でやっと3キロ減った。
この調子で「細い人」になるには何年かかることだろうか。
つき合って粗食を食べている大内くんの方がどんどん痩せてる。
負けてはならじと、まずは少し散歩をすることにした。
いや、運動はキライなんだが、1日家にいると、ひざを動かす機会がなくて、結局痛くなっちゃうんだ。
医者も、
「痛いから動かない。動かないから体重が落ちない。悪循環なのはわかるが、そこをなんとか」と言ってくるし。
しょうがないから、1日10分ちょっとの散歩をして、最近は大内くんも息子も晩ごはん時間には帰ってこないので、スーパーで、「今日のおかず」を買い、1人寂しく食べている。
今現在の私の目標は、秋にイタリアに行くこと。
大内くんと、
「いっぱい食べようねー。その分、太ってもいいよう、今のうちから余分に痩せておこうねー」と、普段はめんどくさい散歩も、ローマの街を歩くためなら、と思って頑張ってる。
ところで、今日、大内くんが実働10日間のリフレッシュ休暇についてくる「旅行券」をもらってきた。
これは、いくらなのかもらってみるまではわからない、なぜかもらった人は皆、金額については無言である、という謎の内容らしい。不思議なものだ。
まあ、伝統だからここには書くまい。
結構なお値段で、ビックリしたけどね。
大内くんの上司が、旅行券を渡しながら、
「楽しんできてください。私の時は、忙しくて流してしまいましたけどね」と言っていたそうで、でも大内くんは、
「それは、受け取りにくい話ですねぇ」と言いながら、あっさりもらってきちゃったようだ。
まだ半年も先の話だし、私のひざがどうなるかはなはだ不安なのだが、考えているとなんだかハッピー。
「青の洞窟、って、どんなところだろう」
「バチカンの美術館はたいそうな混雑のようだなぁ」とイメージ・トレーニングを欠かさない私。
好きな作家の清水義範が「夫婦で行くイタリア歴史の街々」という本を出していて、ブックオフで買ったので、大いに参考にしよう。
ツアーの自由時間に市場でトマトとモッツァレラチーズを買い、夜、ホテルの部屋で「カプレーゼ」を作って食べたとか、肉屋で「生ハムを100グラムください」が通じたり、なかなか参考になる。
ローマに3日ぐらい逗留するので、そこら辺のピッツェリアでローマ風の薄いピッツアが食べたい。
でもね、海外に行って一番大事な外国語は、
「私はイタリア語(またはそれぞれの国の言葉)が話せません」なんだよね。
あとは、”Do you speak English?"が言えれば完璧かも。
14年3月23日
何もすることのない日曜日。
大内くんは朝のうちに床屋に行ってさっぱりしてきたが、さて、このあと何をしようか、とぼんやり考えていたら、外泊していた息子がぶらりと帰ってきた。
昼ごろ帰ってくるなんて、珍しいなぁ。
外泊すると、たいがい翌日もいつもの帰宅時間、つまり夜中の12時ごろに帰ってくるのにな。
ちなみに、その間何をしているのかはまったく不明です。
「ごはん食べる?」と声をかけると、「いいや」と短く答えたあとで、ぽそりと、
「車、運転したいなぁ」と言う。
1月に本免許を取って、その後1回だけ我々が同乗してうちの車で練習をし、何か失敗をしておまわりさんにつかまり、あっという間に2点の減点と6千円の罰金をくらい、結局それを最後に乗っていない。
先日、「車貸して」と言ってきたが、とてもじゃないが練習が足りないので「貸せない」と言ったらひどく気分を害していたようだった。
その「運転」を、やろうと言うのか。
大内くんにそう言ったら、明るく、
「じゃあ、唯生ちゃんとこに行こうか。初心者にはぴったりのコースだよ」と言ってきた。
17年前にこの地に越してきてから、息子は1度も唯生の暮らす施設に行ったことがない。
今回も、断って来るだろう、と言うのが大内くんと私の予想だった。
ところが。
「いいね!」と二つ返事で、家中でドライブして唯生に会いに行くことになった。
息子は、久々に乗る車の感覚がまだつかめないようで、少しぎこちなかったが、まあまあの運転で、家の南にある広い道路を西に向かってまっしぐら。
家からこの道路に出るまでと、最後、施設の前のに入る時に1回ずつ右折をするけど、それ以外は流れに乗って行けばいい、楽な道なんだ。
ほぼ問題なく、30分で施設に着いた。
私としては、ここで「もうひともめ」あるだろう、と想像してた。
息子が、唯生に会うのを嫌がって、「めんどくせー。車で寝てる」とか言うんじゃないか、って。
ところが、これまた驚いたことに息子は大内くんの後をついて、すたすた中に入って行く。
2年以上外泊してない唯生とは、その期間、ずっと会っていなかった息子なのだが。
病棟に入るところで、たくさんの車椅子が置いてあるのを見た息子は、
「あ、これ、ゆいちゃんのだ」と黄色とオレンジの車椅子を指さす。
よく見てるんだね。
そして唯生との面会。
息子に頼んで、重ねて置いてある丸い椅子を3個持ってきてもらい、みんなで唯生を取り囲んで座った。
顔を見てほっぺたをなでながら「元気そうだね」と言う私、唯生の首筋の匂いを嗅いで、
「うん、健康な匂いになってきたよ。もうずいぶん回復したね」と言う大内くん。
息子はベッドの反対側で、唯生の手を握っていた。
壊れかけていたCDデッキを新しいのに交換し、今日の用事はここまでだ。
初心者の息子が疲れたり事態の重さを受け止めきれなかったりするとよくないので、早めに帰ることにする。
「じゃあ、そろそろ行こうか」と大内くんと声をかけると、息子が、驚くようなことを言う。
「オレ、まだゆいちゃんの顔、ちゃんと見てない」
「じゃあ、ゆっくりしよう」と言って、大内くんが席を交代し、息子が唯生の正面へ。
息子は、唯生の顔をじっと見つめ、手を握って、真剣な顔だった。
そのままもう15分ぐらいたって、
「そろそろいい?」と大内くんがうながしたら、息子も、「ん」と椅子を片づけてくれた。
息子を連れてきて、よかった。
どんなところで暮らしているのか、やはり姉弟だから、ある程度は知っておいてもらいたいかったんだ。
帰ろうと、大内くんが先にトイレに行っていたら、残してきたベッドで、唯生が泣いていた。
いつもの甘え泣きではなく、「おーん、おおーん、おーん」という、仲間を呼ぶ声に聞こえた。
家族全員がやってきて、あっという間に帰ってしまうのが、寂しいのだろうか。
私は涙があふれそうだったけど、看護師さんに、
「後ろ髪をひかれますね」と笑顔で言ってもらえたので、少し気が楽になった。
今日は天気もいいし、面会の人や散歩の人が多くて、息子も様々な障害に触れたことだろう。
駐車証を受付に返して、運転席に座った息子だが、エンジンをかける気配がない。
大内くんと2人、注視してたら、彼はうつむいて、
「おねえちゃん、いたんだ」とつぶやいた。
そして、顔がくしゃくしゃになって、大粒の涙が頬をつるつると落ちて行った。
何が悲しいんだろう。
唯生をほっといたことへの自責の念?
そんな姉を持った自分への憐憫?
障害者を大勢見たことで、自分の人生が恵まれた甘ったれたものだって、悟った?
理由はわからないが、彼がオトナに向けて一皮むけたことは間違いない。
試験管に集めて煮つめてみたいような、本当に美しい涙を20個ぐらい見た。
「どうして泣いたの?」
この質問ができない。
彼は人に内心を語るタイプじゃないし、斜に構えてるから、正面から聞いたって答えてもらえないだろうな。
やっと涙が引っ込んだ彼に、帰りのドライブもお願いし、ちょっと寄り道して、プロ仕様の食材屋に寄る。
息子は、いつも見なれないレトルトのカレーを食べているのだが、
「ここで買ってたのかぁ!」と一種感心の声をあげていた。
隣のビルの、ユニクロと靴流通センターで、息子が服を買いたいと言うので、靴と合わせて1万円の出費。
しきりに「ありがとう」という彼に、
「何言ってんの。家にいる子の服を買ってやるのは親の役目だよ!」と言ってやりたくなった。
食材も買い込んで、安全運転で家へ。
大内くんの評では、
「キミに似て、運転装置の操作力と判断力はある。だが、車庫入れヘタ過ぎ。自分がどんな状態になってるかが全然わかってない。空間把握力の欠如は
やはりDNAだ!」とのこと。
本当にね、息子が唯生のために泣いてくれるとは思わなかった。
親にはヒドイけど、彼は昔から弱い者の味方だったからなぁ。
帰り道も無事教習が終わって、お祝いに通り道にあるイタリアン・ファミレスで、まだ4時ごろだけど晩ごはんを食べることにした。
ピザを3枚、スパゲッティを1皿。どれもおいしかったし、何より息子がつき合ってくれた、ってだけで嬉しかったよ。
息子はもうさっきのことなんか忘れたように、
「これ、オレがもらっていいの?」
「残り全部オレが食べていい?」と健やかな食欲を発揮していた。
唯生に会うことが、息子にどういう影響を与えるのか、わからない。
隠し通して暮らすかもしれないし、積極的に面会とか行ってくれるのかもしれない。
ただ、我々は、「唯生のために息子が犠牲を払う」と言うのがイヤなのだ。
緊急手術の承諾書ぐらいは我々がいなくってもやれる、と威張る理由は、病院のERで受け付けの仕事を半年ぐらいしたこと。それだけで、妙な自信だなぁ。
我々しか見たことのない涙。
もちろん我々以外の人しか見たことのない涙も多数あろうが、今はこれで満足だ。
あー、去年1単位も取れなかったことを思い出した!
いやいや、小さなことですよ。今日会ってきた唯生の親である我々は、少々のことでは動じない。(はずだ)
息子にとっても我々にとっても、大変有意義な日だった。
大内くんはしきりと、
「今日がこんなにビッグイベントな日になるとは、床屋さんにいる時は想像もしなかった。またテレビでも見るか、って。本当に人生ってのは、何が起こるかわからんねぇ」とため息をついていた。
彼もまた、嬉しいのだろう。そして悲しいのだろう。
14年3月25日
最近家計簿が赤字なので、大蔵大臣としては、お金を使い過ぎで遺憾である、という話をしていたら、大内くんは、私が全然服とか買わないと言う。
「でも、今着てるTシャツ、セシールで買ったんだけど、間違えてポリエステルのを買っちゃったから捨てよう、とか思ってるよ」と言ったら、
「買う、ったってしょせんセシールとユニクロじゃない。普通、女の人はもっとブランド物なんかに血道を上げるんじゃないの?桁がちがうよ。いくらでも買っていいよ」
そういうあなたも、商売道具の背広以外は1シーズン1着ですませてるくせに。
知ってるよ、週末はいつもおんなじかっこうしてるの。
そう言えば、息子もお正月に買ってあげた福袋の中身でほとんどすませているなぁ。
2パタンぐらいしか、彼の服装は、ない。
気の毒なので先日ユニクロで新しい服を買ってあげたが、少しはレパートリーが増えたかな?
大内くんは、私の会社の同期25周年記念パーティーについてきてくれた時会った、「転職してユニクロのエライ人になった」男性の態度が気に入らなかったらしい。
なにせ、
「服は殆どユニクロとセシールで買ってるよ」と言った私の、頭のてっぺんからつま先まで一瞥し、
「そんな感じだね」と笑ったのだ。
お世辞でも、
「日頃より弊社をお引き立て下さり、誠にありがとうございます」と言ってもらいたい。
大内くんに言わせれば、
「人は、自分の仕事を愛さなきゃいけないよ。マルちゃんの人は、『1日1食カップラーメンを食べるからこそ、私はこんなに健康だ』って思ってなきゃダメなんだよ。どこかそういうところがあるんだよ、仕事って」と熱く語る。
確かになぁ、彼は、鉄製品があるとつい撫でてしまったり、
「これはどこ製であろうか。わが社のシェアがかなり強いはずだが」とか考えてしまうらしい。
サラリーマン魂だなぁ。
そんな彼のもらうお給料で生活してます。
すみません、もう赤字は出しません。おやつ控えます。
14年3月27日
息子が「友達に借りた」と言ってDVDがたくさん入ってるケースを持ってきて、見始めた。
「なにそれ?」と聞いたら、「攻殻機動隊」。
前にコンプリートBOXが欲しい、と言ってたやつね。
買わずにすんだのなら、よかった。
でもさぁ、母さんたち、「攻殻機動隊」と「エヴァ」はダメなんだよ。
知っとくに越したことはないので何度かトライしてみたんだけど、ついに好きになれずに挫折してしまった。
つーか、第1話のエンドマークを見たことすら、ない。
そう言ったら、ひとこと、「ダメじゃん」と言われたが、よーく考えたら我々は、「ヲタ」であると自慢したことはない。
私は単にマンガをたくさん持ってただけだし、大内くんは宮崎駿と大塚康生が好きだっただけだ。
「ヲタだ」と言うならエヴァぐらい観ておいた方がいいだろう、ってのはわかるけど、そっち方面は、「一般人」なんだってば。
息子は、「ヲタ」なのかなぁ。
今の若い人にとって、「攻殻機動隊」を全部見ようが「無意味無意味無意味」とプリントされているマグカップで紅茶飲んでいようが、そんなヌルい程度じゃ「ヲタ」とは言えないんじゃね?
そもそもアイツ、カノジョいるし。「リア充」だし。
高校生がたくさん出てくる「銀の匙」を読んだばっかりなので、荒川弘の取材力に感心しつつ、高校生音声でお送りしております。
息子に、
「『銀の匙』、11巻出たからiPadに入れといたけど、読んだ?」と聞いて「読んだ」と言われ、
「あれ、いいよね!」と激しく同意を求めたら、
「言っとくけど、『銀の匙』はオレが勧めたんだからね?」と確認を取られた。
「わかってる。感謝しつつ共有したいだけ。いずれ『鋼錬』も読む」
「ンならいいけど」
あー、若い人は気難しいなぁ。
父さんがiPhoneに送りつけた「みなもと太郎」の「レ・ミゼラブル」は、こっちからのおススメだからね!?
14年3月28日
息子が新しいバイトで初給料をもらったので、冗談半分に、
「その中から、少しずつ借金返してよ。月に1万ぐらいでいいから」と言ったら、驚いたことに、
「うん、わかってる。今、8千円しかないから、これで」と、ポケットからボロボロの財布を出して、本当に有り金はたいたらしい。
まあ、これからもコンスタントに稼げればいいんだけど、ひと月前に始めた「広告代理店事務」のバイトを早くも辞めたくなっており、
「オレ、バイト辞めるかも。次の当て?あるよ。映画館関係の仕事」とあっさり言っていた。
彼は、すでに私に38万円の借金があるのだが、「おこづかいは当然親からもらう」という考えは持っていないようで、収入がないから親に出してもらわざるを得なかった。
でも、その38万に至るまで、彼はずうっと私に、
「悪いけど、飲み会あるんだ。5千円貸して」とか言って来ており、
「このくらい、いいじゃん。出してよ」とは決して言わなかった。
その点と、今回、少ない給料の中から借金を返そうと思ったことで、私の息子評はかなり上がった。
お金の無くなり方を見るともうパチンコはやっていなさそうだし。
もう3年もすると人生の給料をもらう仕事に就くわけだが、あまり無駄遣いはせず、地道に結婚資金でも貯めてくれ。
14年3月29日
書斎で使っていたコート掛けが壊れた。
コートやカバンの重さに耐えきれず、足の部分の木が割れてしまったのだ。
しかたないので、ニトリに行く。
幸い、コート掛けはいいのがすぐに見つかったので、「さすが、ニトリ!」と喜びながら、食器を少し買う。
あと、私のひざが痛むため、寝る時はクッションを当ててひざ裏の腱が伸びきらないようにしてて、これまではリビングのクッションを失敬して使って
いたが、寝転んでテレビ見る時必要なので、クッションは、リビングと寝室を往復していた。
めんどくさいので、ひざ専用のクッションを買おうと思っていた矢先のニトリで、たちまち45センチ角のフェザーのと、派手な花柄のカバーを選ぶ。
これだけ買っても5千円行きません。ニトリ、万歳!
一方、やはりニトリでは用が足りないなぁ、と思ったのはベッド。
いや、この20年近くダブルベッドで寝ていて、あまり問題なかったんだけど、ここ数年、年のせいか大内くんが寒がりなんだよね。
あいにくなことに、私はすごく暑がり。
ダブルベッドに2種類の掛け布団を持ち込むと収集つかなくなりそうなので、この際、ベッドを分けるか、と。
それでベッド買おうって話になったのだ。
大内くんは今あるダブルベッドをそのまま使いたい、と言うので、部屋がベッドだらけになるのは覚悟したうえで、とりあえず北側に私のシングルベッ
ドを入れるため、スペースをあけてみた。
その南側に置いたダブルベッドのため、本当にベッドしかない、って感じになった。
「寝室」なんだから、いいけどね。
さっそく、週末に花見のついでに新宿の大塚家具に足を延ばそう。
思えば、このマンションを買って引っ越す時、まだ吉祥寺に大塚家具があって、たいそうご愛顧してしまった。
今は一番近いのが新宿なので、細かいものはニトリですませているけど、ベッドとなると、大塚家具の出番かな。
「新宿行くなら、サムラートでカレー食べよう!」とすでに喜んでいる人、約1名
ベッドを分けたら、大内くんと私の関係は良くなるのだろうか、悪くなるのだろうか。
まさか今頃になって模様替えをするとは思ってなかった。
現実の生活はいつもエキサイティングだ。
14年3月30日
暖かい日曜日。
昨日はまだ五分咲きぐらいだった桜が、一気に満開になっていた。
だがしかし、今日はけっこう激しい雨。
花見は、ちょっと無理だろう。
来週になると葉桜になる予感はあるが、天気相手では分が悪い。
あきらめて来週を待とう。
「ああ〜、花見しないとなぁ」とユウウツそうな息子は、もしかして新人獲得の一環として花見を企画しなきゃいけないのかな?
あいにくそれ以上のことは教えてくれなかったけど、
「2年前かな。卒業の年、井の頭公園で高校の友達10人ぐらいで花見してたよね」と言ったら、
「花見なんかしたかな?」と不得要領な顔をするので、
「ほら、いつも買う餃子はどこに売ってるんだ、持ち寄りしたい、って言うから、『駅ビルの中だよ』って教えてあげたじゃない」とそこまで聞いて、
やっと記憶が戻ったらしい。
「ああ、あれか!うん、高校の友達とやったよ」と少し遠い目をしていた。
彼には彼の、毎年の花見があるんだなぁ。
我々は、例年通り私の母校の桜並木と、井の頭公園の昼桜と夜桜を見に行きたい。
夜桜、というのは、ほとんど桜を見るためではなく、宴会してる人を見に行くんだよね。
ブルーシート敷いて、段ボール箱でテーブルを作ったりギターをかき鳴らしたり池に飛び込んだり、いやはや、こちらがしらふでありさえすれば、酔っ 払いたちの生態はなかなか興味深いものですぞ。
14年3月31日
前から息子に通告しておいた「家庭内宴会」の件、今日、実現した。
「7時ごろには帰ってきてね」と前夜外泊の彼にメールで頼んだら、
「たぶん」という短い返事が来た。
でも、ちゃんと時間厳守で帰ってきたよ。
この人、案外律儀だね。
つまみにソーセージ、フライドポテト、ねぎのコンソメ煮を用意して、まずはビールから。
息子はけっこういろいろ話してくれた。
今、一生懸命本を読んでいるそうだ。
「やっぱ、教養を身につけないとね」
私が貸した「アルジャーノンに花束を」なんて、難しくて進まないんじゃないかと心配していたが、「読んだ」とのこと。
「あのオチは見えてるね。予想の範囲だったよ」とか生意気な息子なので、
「でも、泣けたでしょ?」と聞いたら、「確かに」とは言っていた。
大内くんは、
「何でもかじっとくといいよ。アルジャーノンだって、『最近物忘れがひどい。老化だろうか』って言うより、『最近すっかりアルジャーノンだ』って
言った方がはったりが効くよ」と教えていた。
ま、私は自分の子孫が「アルジャーノン」さえ読んでくれれば、あとはどうでもいいんだ。
最近、SFは流行らないしね。
一応ルパンとホームズは全部読んでからオトナになったらしいし。
今は、お正月に買ってあげた宮部みゆきの「火車」を読んでると言う。
「島田壮司の『占星術殺人事件』はどうなったの?」
「難しすぎて、進まねーんだよ」
あれが難しいとは、やはり読書っつーのは慣れですね。
映画が好きで、よく見てるそうだ。
「ディア・ハンター」から「バイオハザード」まで、確かに本数はけっこう行ってる感じ。
家にあるDVDのめぼしいやつは、もうみんな見てしまったと言う。
マンガも快調に読んでるし、やはり彼の教養は映画とマンガに支えられているのだなぁ。
いろんな話をして、面白かった。
「オレにコドモができたら、スマホは与えない」って、どうして?
「ずーっとスマホ見てるヤツいる。ビョーキみたいなもん」
「あなたもけっこうしょっちゅう見てるじゃない」
「オレなんか、普通だよ。普通」
そうか、自分のコドモに興味が出て来たか。いい感じだ。
「いまつきあってる○○ちゃんとはよく会うの?」
「いいや、向こうも忙しいから」
「うまくはいってるんだ」
「ああ」
という短い会話があったのと、大内くんが十年一日の如く、
「たまには町道場に顔出してみたら?先生、喜ぶよ」と言ってするっとかわされた、という前提で、息子にある提案をしてみた。
「○○ちゃんと結婚して、コドモができたら、このマンションを譲ってあげるよ」
うっかり言ってしまったことなのだが、息子の反応は激烈だった。
「いいね!それ、いいよ!くれよ!!」
大内くんが、
「ここに住むなら、コドモ連れて町道場行って、親子で柔道やりなよね」と言っても、「そだね」と機嫌がいい息子。
大内くん、大感激。
あとでこっそりと、
「○○ちゃんと、って言っても怒らなかったね。仲良しなんだね。それに、この家が気に入ってるんだね。ホントによかった」と、涙ぐまんばかりの大
内くんだった。
私は、老後の目標ができたというか、息子が就職して家を出たら一部屋完全に余るので、ここは売るなり貸すなりして、引っ越そうかなぁ、と思って悩
んでいたところにこの話で、もうこのマンションをどうするもこうするも、息子の状況が整うまで、住み続けるだけだ。
そのためには貯金。
だって、マンションという財産が使えなくなったから。
定年までに、「もう1度自分たちの棲み家を買う」「資産が目減りするので老後の蓄えをよりいっそう強化する」の2点が必要で、要するにこれまで以上に貯蓄に励む、ということだ。それ以外のことはしたことないし。
あー、息子が使ってくれると思うと、掃除にも熱が入るなぁ。
お墓も近所に買ってOKなんだな。息子が墓参りしやすい。今度また墓地を見に行こう。
もっともっといろんな話をしたけど、350mlのビール2缶飲んで日本酒に移行し、冷やでぐいっとあおっていたあんがい酒の強い息子が、突然立ち上がって、
「じゃ!おやすみ!明日、早いんだ」と寝に行ってしまったので、ちょっと驚いた。
「いつも、突然の人だね」「行動が、読めないね」と親は愚痴をこぼしつつ、息子が結婚もコドモもまあ望んでおり、家のことまで考えているというのは、正直、意外だった。
いい恋愛をしてるんだろう。
単位のことだけはちゃんと言っておいてくれ、と大内くんに頼んでおいたが、
「1年の留年はいいけど、6年生までやるつもりはない」
「前期は1限はひとつもない。語学が面倒」ぐらいの答えしか聞くことができなかった。
それでも、2留するつもりはとりあえずないようで、ちょっと安心かな。
もう大学も3年目かぁ。
あと数年たったら、1度は家を出てもらおう。
「やっぱさぁ、面白いものを作る仕事がしたいよ」とため息をつく彼の就職戦線は、親には思いもよらぬ方向へ走るのかも。
何になってもいいよ。
自分と妻子の分だけ稼げれば、そしてその仕事が好きならば、何も言うことはない。
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