15年2月1日
大内くんの実家に、息子が名代で新年の挨拶に行ってくれた。
もちろん彼の目当てはお年玉。
まあ、孫が遊びに来ておばあちゃんたちは嬉しいみたいだし、息子はステーキをおごってもらった上、現金収入があって、こういうのを「ウィンウィン」と言うのだろう。
午前中に出かけて、夕方になっても帰らないので、現金収入でさっそくパチンコか?!と思いながら、大内くんが実家にお礼の電話をしておいてくれた。
いや、絶対お年玉もらってるからね。
お義母さんは機嫌よく、「楽しかった」と言ってくれた。
ついでに、「7つの習慣」という啓蒙書を持たせたそうだ。
「買ったんだけど、忙しくて読むヒマがなくて。いい本だから読みなさい」
大内くんにしてみれば、
「引退した老夫婦が、サラリーマンの僕ほど忙しいわけがない」
「その手の本にいいことが書いてあったためしはない」
「しかも数年前に流行った本の『完訳版』」
「自分が読んでない本を『いい本だから』って、なぜ薦める?」と、ツッコミどころ満載だったらしい。
まあ、7時頃、本を持って帰ってきた息子によれば、「オレが読むから」ということで、ご苦労なことだ。
晩ごはんは、「タンドリー・チキン定食」でいいね?
そんな息子は、明日から2泊3日でお笑いサークルの合宿に行くそうだ。山梨の方だって。
「明日、6時半に起こして」と言われた大内くんは、
「日曜だからゆっくり朝寝をしようと思ったのに」とぶつくさ言ってたが、妙に嬉しそうに目覚まし時計をかけていた。
21歳にもなった息子に、頼られると嬉しいらしい。
ところが、大内くんが憮然と喜んでいる間に話は大きく変わる。
自室でマンガ読んでた息子が、急に荷造りを始めて言うには、
「後輩のとこに泊まって、一緒に行く。もう出かける」。
ものすごくラッキーな話なはずなんだけど、すっかり起こす気分になっていた大内くんは肩すかし。
「もう、行っちゃうの?」
情けない声を出すな!
息子がちゃちゃっと荷造りをしているとこに行って、
「カノジョんち?」と聞くと、「いや、オヤジたちは知らない後輩」。
あっという間に出かけてしまった。
大内くん、本当に悄然とした顔。
「起こしてあげるつもりだったのになぁ・・・」
いいじゃん、朝寝ができるよ!となぐさめても、
「家を出て行く時もこんな風なんだろうなぁ。こっちはまだまだ数年面倒を見るつもりなのに、突然、『じゃ、オレ、1人暮らしするわ』とか言って出て行くんだろうなぁ・・・」
出て行かなかったら、それはそれで困るじゃないか!
ショックを受けてる大内くんと早寝することにして、布団に入って1時間。私は眠れない。
眠れない時は起こしていいことになってるので、大内くんを起こす。
「ねえねえ、眠れないよ。何かして、遊ぼうよ」
「・・・そうだね、少し、本の自炊でもするか」
大内くんが買った本が、けっこう書斎の書棚を圧迫してるんだよね。
12時ごろからその作業に入り、日が変わったので、あとは明日の日記で。
15年2月2日
大内くんと夜中中起きてるなんて、いったい何年ぶりだろう?
息子がいないのも、こうなると幸せな感じだ。
結局、朝の8時頃まで起きてて、おしゃべりしながら本をスキャンしてた。
さすがに眠くなり、寝て、2人とも起きたのが午後3時。
「腹へった」と起こしに来る人がいないと、何もかもが簡単で、自由だなぁ。
「彼が家を出て、あなたが退職したら、毎日こんなふうかなぁ」と私はうきうきしてるのだが、大内くんはどうも元気がない。
息子の留守ぐらいでそうしょんぼりするな!
お正月の特番の中に、二夜連続で三谷幸喜のドラマ、「オリエント急行殺人事件」があったので今頃やっと観てみたら、舞台は昭和初期の日本で、キャストがすごい!
ポワロにあたる名探偵「勝呂(すぐろ)」に野村萬斎、被害者は佐藤浩市、それ以外にも二宮和也、松嶋奈々子、杏、玉木宏、沢村一樹、草笛光子、西田敏行と、超豪華出演陣。
第一夜を観終った時点で、もう「名探偵が関係者たちを応接室に全員集合させて、事件の真相を明らかにする」ってとこまでやっちゃってたので、第二夜はどうするつもりかと思ったら、
「なるほど〜、こんな作りにしたか!さすが名手、三谷幸喜!」と感心する。
もう、することないじゃん!と思うけど、原作ではほんのちょっとしか触れられていない「関係者たちがどのように集まってきたか」を2時間やってくれた。
「密室」は、三谷幸喜のもっとも得意とするところだし、面白いドラマにできあがっていた。
こうして週末が終わり、明日はもう月曜なので普通に寝るが、私はクリスティの「オリエント急行」を読もうと思う。
ちなみに、この本を最後に読み返したのは2年半前の夏、大内くんと2人で寝台特急カシオペアに乗って北海道に行った時だった。
シチュエーション的 に、ものすごく興奮した。
クリスティの作品は、オチがわかっていても人物描写や背景の描き方が面白くて何度も読めるものが多い。
好みもあるだろうが、ディクスン・ カーやヴァン・ダインではこうはいかない。
(「Yの悲劇」ぐらいの名作になると読めるかも)
小難しかったミステリを、軽妙な読み物として世に知らしめた、という点で、私はクリスティが好きだ。
ミステリの地位を引きずり下ろした、ルール無視だ、という批判があるのは知っていても。
あ〜、野村萬斎の「ポワロ」、よかったなぁ!
DVD化されるようなので、皆さんも機会があったら、ぜひ!
15年2月3日
今日は節分。
コドモたちが大きくなって以来、豆まきはしていないが、替わりに入ってきた風習が「恵方巻き」。
早朝のコンビニで、予約してあった3本パックを買ってきて、大内くんと2人で「いただきま〜す」。
今年の恵方は西南西なので、そっちを向いて、「丸かぶりする」「食べてる間は口をきかない」の2点を守って食べた。
これで、今年も福が来るかな?
おいしくて楽しい節分だ。
夜には息子も合宿から帰ってきて、カレーで晩ごはん。
寂しくもあり、生活が簡単で楽だ、とも思った短い不在だった。
彼が、就職とかして家を出たら、どんな気持ちだろう?
時々こうしてシミュレートしながら、考えてみよう。
15年2月4日
夜、寝ようとしてたら息子がいきなり部屋に入ってきた。
「金曜、父さん、帰り早い?」
驚いた大内くんが、「まあ、普通だけど?」と答えたら、短く、「カノジョ、来るから」。
以前3回ぐらい泊まりに来たが最近ぷっつり来なくなってたカノジョが、また遊びに来てくれるのか?
どうやら泊まりらしいので、夕食の算段を。
息子を誘って吉祥寺で焼肉でも食べようと思ってたんだけどね。
「家でお鍋にするのと、外で焼肉と、どっちがいい?」
息子はカノジョとラインで相談してるらしい。
「鍋じゃないかなぁ」
はっきりしなよ。好きな方でいいよ。
まあ、「坦々ごま鍋」でも囲もう、ということになったので、昼間のうちに私が買い物をしておこう。
大内くんは、会議で少し遅くなるようだが、8時頃には帰れるそうだから。
息子が時々外泊する時に、「カノジョんち?」とラインで聞くと「そう」という返事が返ってくるし、まだつきあっるのは知ってたが、前述のように家にはしばらく来なかったので、どうしてるかとは思ったんだ。
お笑いサークルの後輩で、公式には息子の2人目のカノジョ。1人目も大学に入ってからで、こちらは半年ほどで別れたらしい。
若いから、いつ別れちゃうかも知れなくて心配だよ、まったく。
早稲田の付属高校に推薦で入り、エスカレーター式に大学なので、生まれてこのかた入試を受けたことがない、という成績優秀な子だし、何より、剣道2段のところがポイント高 し。
去年の秋に学園祭で会った時には、少しほっそりして「あか抜けた」印象があり、うかうかしてるとサークルの他の男の子に取られちゃいそうなのも心配。
心配ばっかりしてるなぁ、私は。
どう見ても「モテる」タイプではない息子で、これを逃すと後がないぞ、という気分。
できれば、結婚まで持ち込んでいただきたい。
ピン芸人志望のカノジョが、なかなか結婚してくれなさそうで、ああ、また心配だ。
とにかくあさっては精一杯のおもてなしをしよう。
15年2月5日
夜勤のバイトに出かけた息子から、ラインが入る。
「お金を、8千円持って行って、全部使っちゃいました。すみません」
驚いて、「パチ?」と聞くと、すぐに、「残念ながら」という返事。
あいかわらず、パチンコが止められないんだなぁ。
うちでは、息子にまとまったお金を渡すとパチンコにつぎ込んでしまうのを本人も我々も警戒していて、おこづかいはまとめてあげるんじゃなくて、必要な時に「3千円」とか「5千円」の単位で渡すようにしてる。
(これは、本人の希望が強い)
私が寝てる間に出かけてしまうことも多いので、千円札が20枚ぐらい入った封筒が書斎に置いてあって、彼が勝手に持って行くこともできる。
まあ、ほとんど必ず申告してくるし、私が家計簿をつけていて金額が合わない時に聞いてみると、
「あ、昨日、3千円借りてた。ごめんなさい」という感じで言ってくるので、それに関しては心配はしてない。
ただ、大金をすってしまった彼が、妙に可哀そうだ。
「時間ももったいないし、もうやめよう、って思うんだけど、やっちゃう。病気と一緒だと思う。どうしたらいいんだろう」と自分で書いてくるし。
とりあえず、
「父さんのがっかりした顔を思い描いてみたら?」と返しておく。
この問題に関しては、私より大内くんの方が胸を痛めているらしいので。
で、接待で遅く帰った大内くんに息子とのラインのやり取りを見せると、やはり、しゅううう、と空気が抜けたようになっていた。
「やめられないのか・・・どうしてやめられないのかねぇ」とつぶやいている。
息子は、家にいるほとんどの時間、iPadで「パチンコの実況中継」のようなものを見ている。
(そうでなきゃ、やはりiPadでマンガ読むか、ようつべ見てるかな。映画を見てることもけっこうあるか)
「いつも見てるあの画面、あれは、エクササイズなのかニコレットなのか」と我々は話し合っていた。
つまり、実戦の練習として見てるのか、やめようと思って禁断症状を抑えるために見てるのか、という意味なんだが、どうやら、結果的にはエクササイズの方らしい。
大内くんが、
「まずは、画面でパチンコ見るのやめてみたら?」とラインを打つと、すぐに、
「そうだね!ご迷惑をおかけしました」という返事が来た。
うん、外でのパチンコをやめさせるのは難しいけど、家にいる間の話なら、見張っててやめさせることも可能だ。
彼が協力的であれば、の話だが。
この頃、息子との話は顔を見てするよりラインとかの方がスムーズだ。
面と向かうと、彼としても「うるさいな」という気分になるみたい。
中学に入ってケータイを買ってやるかどうか迷ってた時、当時お世話になっていた塾の塾長が、
「メールを通した彼らは、あんがい素直ですよ!」と我々の背中を押してくれたことがあるが、本当に、そんな感じ。
今でも、大内くんが時々講師として呼ばれたり、一緒に飲みに行ったりしておつきあいの続いてる塾長なので、息子のパチンコ依存が治らないようなら、相談してみようか、と思う。
「ちょい悪」なことはひととおりやっていて、スタッフに大学生を多く抱え、若い人の気持ちをすごくよくわかってくれる、頼りになる存在なのだ。
ひるがえって大内くんは、留年以外の「悪いこと」はほとんどしたことのない、「漢(オトコ)力」のない人なので、うちでは「父性的なもの」は何でも外に求めることにしてる。
塾長とか、柔道の道場主とか。
中学3年生までは警察柔道を習っていたので、万引きとかしたら「生活安全課少年係」に頼ろうと思ってた。
だらしないとは思うが、現実に難しいんだからしょうがない。
「僕の父親も、そういう意味では全然頼りにならない。キミのお父さんが生きていればなぁ」と、8年前に死んだ岳父をも頼りたい大内くんだ。
いや、あの人は、孫だからって面倒見てくれたりはしないよ。
そういうタイプの「漢」もいるんだよ。
とにかく、息子は今夜帰ってこないし、明日はカノジョが泊まりに来るので、そういう話はできまい。
週末の課題だ。
こじれそうなら、また彼が外出してる時にラインで話してみるか。
15年2月6日
今週の更新をして、お客さまの人数を確認しようとカウンタを見たら。
「44444」
さすがに20年も続けているとのべ4万人ものお客さまに見ていただいてるのはわかってたけど、まさか自分が「キリ番」を踏んでしまうとは思わなかった。驚いた。
でも、あまり縁起がいいとは言えないこのキリ番、自分で踏んでかえってよかった、と思う。
これからも、どうぞよろしくご愛読のほどを。
15年2月7日
昨日、息子のカノジョが泊まりに来た。
去年の夏あたりに3度ぐらい来てくれて、そのあとぱたりと沙汰止みだったので、どうしてるか気になっていたんだ。
1人暮らしなのにどうしてカレシの実家に泊まりに来てくれるのかは、あいかわらずナゾだが。
大内くんに会議が入って帰りが8時頃だったので、息子たちにもその頃来てくれるよう、頼んでおいた。
でも、いろいろ忙しくしていたのか、デートのあと家に来たのは9時過ぎ。
坦々ごま鍋でおもてなし。
カノジョはあいかわらず丸い顔に大きな目が可愛らしい。
みんなで鍋をつついていても、食べるのが遅くて小食らしく、あまり積極的に箸が動かない。
もしかして、カレシの家で緊張してるのかな?
いやいや、芸人志望のカノジョに限ってそれはあるまい。
驚くべきは息子の変化。
前回に、カノジョを交えて食事をしていても、我々の言うことが気に入らなかったり余計な質問(彼にとっての、である)をしたりすると、ご飯茶碗の端から三白眼で我々を睨みつけて終始無言だったところが、今ではすっかりフレンドリーになって、どうかするとカノジョを置き去りにして我々と話が
弾んでしまうぐらい。
「オヤジの友達の、映画監督の人、いたじゃん」
「ああ、N瀬くんね」
「あの人の、芝居見に行ったよね」
「うん、一緒に行ったね」
「難しくってよくわかんなかったんだけど、芝居って、あれでいいの?」
「よかぁないよ。やっぱり見て、面白くなきゃ。キミの合同ライブの方がよっぽど面白かったよ」
なんて話を楽しげに交わす。
時折、隣のカノジョに、
「オヤジの友達に監督のN瀬さんって人がいてさぁ・・・」とか補足説明を試みていた。けっこうなことだ。
前回よりずうっといい感じで食事が終わり、お若い2人はいったん息子の部屋に引っ込んで、食器を片づけてしばらくしてから、彼らからのおみやげのケーキでお茶にする。
4種類のケーキがあったので、カノジョに、
「好きなの、とって」と言ったけど、
「いえ、どうぞ、そちらから」と言われたので、
「じゃあ、私はショートケーキもらおうかな」と言うと、息子が、
「しまった!そう来るか!」と叫ぶ。
「どうしたの?」
「いや、オヤジがショートケーキ好きだからさぁ、絶対オヤジがこれ選ぶと思って買って来たんだよね」
それならそうと言ってくれればいいのに。じゃあ、私はチョコレートケーキをいただこう。
大内くんはあとから、
「僕の好きなもの、なんて、覚えていてくれたんだね。優しいとこあるね」と言って、半分泣いていた。
親を泣かせるなんて、簡単だなぁ。
みんなでケーキを食べてまたおしゃべりをする。
カノジョは、もっときれいなアパートに引っ越しなさい、とお母さんから言われているらしいのだが、
「高くて、もったいないんです。今のところで充分です」と堅実なところを見せる。
将来は、今組んでいる日芸の女の子と2人で、女芸人としてやっていきたいらしい。
今、養成所に入ってるんだって。
息子は、まあ、普通に就職かなぁ、という雰囲気だった。
「NHKなんか、どう?」と聞いたら、
「NHK入れたら、何の文句もないよ!行きたいに決まってるじゃん!」と心情を吐露していた。
就活、頑張りたまえ。まだ先の話だが。
カノジョたちは、「日本エレキテル連合」みたいに売れるのはなかなかタイヘンだし、女性の芸人さんは少ないので、頑張ってほしい。
早稲田祭でのステージを見たが、カノジョの「天然ボケ」が生かせたら、けっこう面白いペアになるかもしれない。
そんな2人をリビングに残して、お風呂もお湯入ってるからいつでもどうぞ、明日の朝は我々早くから出かけちゃうので、ごはんのしたくだけしておくから、適当に温めて食べて、と言いつつ、寝室に退場。
あああ、緊張した!
息子とつきあって、もう2年半ぐらいになるかなぁ、リビングのソファに並んで座ってるのを見るだけで、なんだかふにゅーんとくっついていて、あまり話はしないものの、気が合うカップルではあるようだ。すでに、夫婦みたい。
気難しい息子もカノジョの前では素直な笑顔を見せてくれて、カノジョには本当に感謝している。
今の息子とつきあってくれてるだけで、大感謝だ。
2人は、出しておいた布団を息子の部屋に運び、カノジョの寝床を作ってから、リビングでくつろいでいるようだった。
こっちはじきに寝てしまったので、あとは知らない。
息子よ、カノジョの信頼にこたえて、大きなオトコになれよ!
いつか結婚して、幸せな家庭を築いてくれ。
共稼ぎで忙しかったら、孫の面倒ぐらい見てあげよう。
ただし、大内くんの定年後で頼むね。
15年2月8日
大内くんとタイ料理を食べに行くので、前日、家に泊まったカノジョと出かけて遅く帰って、キャンペルのスープを夜食に飲んでいる息子にごく軽い気持ちで、「行く?」と聞いたら、 「行く」と即答だった。
ちょっと驚いた。何でも、言ってみるもんだ。
で、朝、起きて、出かける時間になってもまだ布団の中でもごもごしている息子に、
「先に行くよ。起きられる?」と聞いたら、
「だいじょうぶ・・・あとから行くから・・・」という答え。
我々が自転車で20分ぐらいかかる距離を、彼は10分で移動してしまうのだ。多少危険運転な気もするが。
40分ぐらいかけて歩いて行くつもりだったのだが、どうも雲行きも怪しいし、寒いし、私のひざが痛むので、結局自転車で行く。
予定よりかなり早く着いてしまった。
ケータイで息子を起こしながら、ブックオフに寄ったりして時間をつぶす。
問題は、息子が電話に出ないことだ。
起きていつものように朝シャワーを浴びているのか、それとも全然起きられないでいるのか。
ほぼ待ち合わせの時間になって、やっとラインで連絡が来る。
「2人で食べてて」
「食べて」ではなく、「食べてて」ということは、来る気はあるんだな、と判断し、「席とって待ってるよ」と返信し、地図を送っておく。
開店時間を20分ほど過ぎていつもの「クルン・サイアム」に行ってみたら、地下のお店に降りる階段に数人の列ができてるし。
それでも回転の速い店なので、15分ほど待ったら店内に案内された。幸い、4人席が空いていたよ。
5分ほど待ったら、息子が現れた。
特に「ごめん」でも「すまん」でもないのが彼らしい。
メニューを見て、私はよく食べる「鶏挽肉のホーリーバジル炒め」が食べたかったんだが、焼きビーフンの「パッ・タイ」も捨てがたかったので、3人いるのをいいことに、それぞれのランチ以外にパッ・タイも頼むことにする。
息子はグリーン・カレー。大内くんも、何やらカレーっぽいものを頼んでいた。男性陣のライスは大盛りだ。
本当にすぐ、料理が運ばれてくる。
「はやっ!」と息子が感心してた。
取り皿ももらって、パッ・タイをみんなで分けた。
各セットについて来る生春巻きやスープ、味見させてあげた私の分の料理など、何を食べても「うまいね!」と言う息子だが、自分が頼んだグリーン・カレーだけは特に何も言わない。
ちょっと、外したかな?
満腹になって、ライス残しちゃったし。
私も、自分の頼んだランチセットに加えて焼きビーフンというのはかなり無茶だったが、あまりにおいしいので、満腹感もなんのその、すべてたいらげた。おいしかった!
食事の間にもけっこう会話があったのがめずらしい。
就職は、今のところまったくわからない。
テレビ局などに入れたら嬉しい。でも、警察官になる話も完全に消えてはいないらしい。
大「警察の人、今なら知ってる人いるから、話ぐらいは聞かせてもらえるよ。でもまず、父さんの友達の宝塚のプロデューサーの人に会うのが先だね。
『ルパン三世』の公演を観てから、って思ってたけど、どうする?」
息子「とてもじゃないけどチケット取れそうにないから、今度、別の公演を観に行くよ。それとは別に、話を進めて」
大「わかった。じゃあ、2月中ぐらいでキミの時間が取れる日をいくつか指定して。相手の都合を聞いてみるから」
息子「頼む。オヤジたち、このあと、どうすんの?」
大「お茶でも飲んで帰るよ」
息子「また『くぐつ亭』?」
私「あそこは、『くぐつ草』だよ。高いから、今日は行かない。スタバかな。あなたはどうすんの?」
息子「合同ライブのDVDの仕事がまだ終わってないから、今日も出かける。んじゃ、先に行くわ。ごっそうさん」
大「気をつけてね」
私「じゃあね」
軽く手を上げて息子が去ったのち、お会計をすませて我々も店を出る。
小雨が降ってきたので、スタバで雨宿り兼ティータイム。
キャラメルマキアートを飲みながら、息子について話す。
「親と外でごはん、なんて、昔は嫌がって絶対来なかったけどね。変われば変わるもんだね」と私が言うと、大内くんはしみじみとため息をついて、
「もう、あといくらも家にはいないんだろうなぁ。出てっちゃうんだなぁ。寂しくなるね」。
「出て行かなかったら、その方が大変だよ。NHKに入れて、地方勤務になったりするといいんだけど」
「そしたら、東京でお笑い芸人を目指すカノジョとは遠恋になっちゃうよ。別れちゃうかも!」とにわかに焦る大内くん。
「その時はその時だよ。あの人たちは、基礎体温が低いから、あんがい遠恋でもうまくやるかもよ」
「そうだねぇ・・・」
ま、今から心配してもしょうがないね。
雨も上がってきたし、そろそろ帰ろうか。
ほぼ雨もやんだところを自転車で家まで。
ついでに車に乗り換えて食料の買い出しをして、何だか疲れたので、昼寝を敢行する。
3時過ぎから寝て、起きたのが6時。
2人ともお昼を食べすぎて晩ごはんはとても食べる気にならない。
息子も帰らないし、今日は夕食をスキップだ。
こんなにゆったりと、息子のことを考えられるようになるとは思わなかった。
本当に反抗期が終わったんだなぁ。
彼は、実に成長が遅い。いまだに少し背が伸びているぐらいだ。
オトナとして完全に成長しきる時、それは、家を出て行く時かもしれない。
「自慢じゃないけど、僕もオクテだった。結婚して、唯生が生まれる時ぐらいまで、本当の意味でオトナにはなってなかったと思う。息子もきっとそうだよ」と語る大内くん。
いろんな経験を積んでもらって、少しずつ、可能な範囲で成長してもらうしかないね。
親にできることは、もうほとんどすべてやりつくしたし。
あとは、「彼が持っている力=我々が育ててきた力」でやってもらいましょう。
15年2月10日
息子が、我々に残された数少ない本棚から本を持って行って読んでいたらしい。
編集者兼ライターをやっている友人が書いた、「マンガ評」の本。
さすがの自炊推進派の大内くんも、少し落ち込んだらしい。
「彼が本に興味を持つようになるまで、自炊を待ってればよかったね」
でも、後悔しててもしょうがない。
「親の本棚なんて、そんなに魅力的なもんじゃないよ。それに、世界中の本の、ほんのちょっぴりがあるだけなんだし。これから自分でいくらでも好きな本を発掘して、読めばいいんだから」と、なんとか立ち直った大内くん。
実際、私が文庫本で買い直した宮部みゆきの「ソロモンの偽証」とか、糸井重里の「萬流コピー塾」とか、いつまでたっても読んでもらえないじゃん。
彼が我々の本棚を発見したとしても、興味を失くすまで待ってたら、いつまでたってもデータ化はできない。
今、私が亡くなった平井和正を偲んで「幻魔大戦」全20巻が読めるのも、32巻まである山下和美の「天才柳沢教授の生活」が読めるのも、すべて自炊の賜物なんだから。
25年前に平井和正の「ウルフガイ・シリーズ」を手放したのは本当に惜しかった。
今、持っていて譲ってくれると言う女友達が実家からその本たちを持って来てくれるのを手ぐすねひいて待っているんだ。
図書館でも借りられるが、裁断せずにデータ化するのはすごい手間がかかる。
それに、どこの図書館にもあるというわけでもなく、全部見つけるのはけっこう大変だった。
つくづく、いったん手放した本を集めるのは難しい。
愛書家が多い仲間内で、本を切り刻んで捨てている我々はたいそう評判が悪いのだが、本の愛し方にもいろいろある。
我々は、大好きな本と、ずっとお別れしないですむ方法を選んだだけ、と思いたい。
本当に、少女時代から13回もの引っ越しを経ながら、最終的には5千冊に及んだ蔵書を全部持っているのは不可能だった。
途中で、幾度となく本とお別れしてきた。
特に、長編マンガが大好きな私としては、「やじきた学園道中記」を大内くんの「捨てたら?」という意見から守るだけでも大変な日々だったのだ。
自炊を始めてから、アマゾンや「全巻漫画ドットコム」などの助けを借りて幾多の長編を取り戻してきた。
庄司陽子の「セイントアダムス」や川崎のぼるの「長男の時代」を、もう1度読めるとは思わなかったよ。
大内くんは大内くんで、なぜかはまったくわからないが高校時代の参考書を買い直したりしている。
まあ、お互いの趣味には口を出さないのが家庭平和のためであろう。
「新・巨人の星」なんて、大内くんに言わせれば「家にあるだけで不愉快になるひどいマンガ」なのだそうだから。
データとして、本棚の隅っこに置かせておいてください・・・
15年2月11日
今日は息子を連れて、「孤独のグルメ」で紹介されていた食堂と言うか喫茶店と言うか呑み屋と言うかよくわからない、吉祥寺の「カヤシマ」でお昼ごはん。
夫婦で4回ぐらい来ていて、息子は初めて。
前日に、「五郎さんの行ったカヤシマに行くけど」と声をかけたら、「いくいく!」と二つ返事だった。
最近、親と外食につきあってくれるようになったなぁ。
私は「ナポリタン・スパゲッティとハンバーグのワクワクセット」、大内くんは「ポークジンジャーカレー」、息子は「ピラフとポークジンジャーのワクワクセット」を頼む。いくらだったかな、また980円かな。
私はとっても満足で、次にくる時はナポリタンを大盛りにしたいなぁ、という野望を持った。
息子はイマイチ気に入らなかったみたい。
大内くん も、「今日はいつものコックさんじゃなくて社長が作ってたから。ポークジンジャーの味とか、ちょっと物足りなかったよ」とのこと。
社長、あなたのナポリタンは、少なくとも私の好みですよ!
息子にしたって、面白い店に連れてってもらえるうえ、昼食代が浮くんだから、そうたいした文句はないはず。
例によって写真を撮り忘れたので、お店のHPからいただいてFBに貼っといた。
昔なつかしいケチャップ味やドミグラスソースが食べたくなったら「カヤシマ」 へ!
15年2月13日
調布図書館で借りた「小さな恋のものがたり」39巻までを読んだ。
(平成4年刊行だが、まだ終わってはいないし、43巻まであるらしい。オソロシイ)
作者のみつはしちかこはもう73歳だ。
まとめて読んだことがないので、1度はちゃんと、と思っていたが、まさか図書館にあろうとはなぁ。
大内くんは「そんなにどうするの?」とうさんくさそうな目つきをするが、「大川周明」の本を10冊以上も借りて、フラットベッドでスキャンしてるような人に言われたくない。
そもそも、「どこ読んでも同じじゃない!」と言われそうなこの作品、ちゃんと山や谷があるのだ。
主人公たちが全然卒業していかないのは「サザエさん」「ちびまる子ちゃん」方式だが、くっついたり離れたり、三角関係がもつれたり失恋する人が出たり、どうしてどうして、一大恋愛絵巻だよ。
まあただ、今回まとめて読んでみて、「持ってる必要はなし!」と悔いなく思うことができた。
こういう本こそ、図書館にあるべきなんだろうな。
私は決してみつはしちかこが好きではないし、マンガ家、というよりは水森亜土の親戚だと思ってるし、両手で絵を描けない分、水森亜土にも劣ると思ってるのだが、何でも大量に読む、というのは意味がある。
「小さな恋のものがたり」の世界にどっぷりつかって、さて、次は何を読もうかな。
何を読んでも、これよりはマシな気がする、それもみつはしちかこの効用だ。
15年2月14日
また、吉祥寺のタイ料理屋「クルン・サイアム」。
今、気に入っちゃって気に入っちゃって、できれば毎食食べたいぐらいなのだ。
出かけるのが少し遅れ、開店時間過ぎに着いたので、カウンタ席しかあいてなかったけど、これはこれで、厨房の様子がよく見えて良かったりする。(2人の料理人が景気よく鍋を振っていた)
今日は、私はぜひとも「パッ・タイ」(焼きビーフン)を食べたかったし、大内くんは鶏肉を乗せたごはんの「カオマンガイ」に決めた。
注文するとあっという間にできて、出てくるのがスゴイ。
今、目の前で炒めてたと思ったら!
パッ・タイ、おいしかった。
大内くんにわけてもらったカオマンガイも。
まだまだ未踏のメニューはいっぱいあり、当分、他の店に行けない気分だ。
お会計しようとレジに行ったら、タイ人らしき店員さんが一生懸命おつりを数えている横に、カゴに盛った「キットカット」が。
焼肉屋でガムをくれたりする感覚?と思い、「これはフリー?」と聞いたら、「はい、フリー」と言われたので、2つもらって、階段を登って待っていた大内くんに1つ渡す。
「どうしたの、これ?」
「なんか、自由に持ってっていい感じだった。これまでもあったのに気がつかなかったのかな」と言っているうちに、ふと気づいた。
今日は、バレンタイン・デーだ!
そうかそうか、それでチョコを配っていたのか、とやっと納得した。
息子はカノジョからもらうのかなぁ。
昔は大内くんのお母さんから送ってくれる「高級生チョコ」以外にもらえないでいた彼だが。
(今は、カノジョがいるせいか、おばあちゃんチョコももらえなくなってしまった)
そうだ、私も大内くんにあげなくっちゃ!とは言うものの、もう10年以上、息子にはあげても大内くんにはあげない、という習慣になっちゃってたなぁ。
満腹で街を歩きながら、
「会社で義理チョコとかもらう?」と聞いてみたら、
「いや、最近はもらわないね。あれは、女の人の負担が大変なんだよ。もう、ずいぶん前から沈静化してるよ」。
そうか、会社でももらえないのか。気の毒に。
今年は、このキットカットを私から、ということで、ひとつよろしく。
余談ながら、息子はカノジョから「もらわなかった」のだそうだ。やっぱり「バレンタイン・デー」は下火かねぇ。
15年2月15日
唯生に会いに、彼女が生活している施設へ行く。
ここしばらく、インフルエンザのため病棟閉鎖で、来られなかったんだよね。
やっと解除。
しかも、唯生はかかってないらしい。よかった。
念のためマスクをして行ったが、入り口のところにいつもある手の消毒用のアルコール以外に、マスクの大箱があって自由に使っていいようだ。
まあ、自前で多少貢献しておこう。
昼食のチューブ食が終わった唯生は、めずらしく車椅子に乗せてもらって、他の方たちと一緒に介護士さんたちのステーション近くにいた。
「あっ、唯生ちゃんのお父さんお母さん、いらっしゃい!唯生ちゃん、お父さんお母さん来たよー、よかったねー」と声をかけてもらいながら、せっかく車椅子なので、少し散歩をしようと思う。
外はさすがに寒いので、院内をぐるりと。
「行ってらっしゃい!」とひざ掛けをかけてもらって、どこに行こうか。院内は、広いよ。
そうだ、唯生が通っていた分教室の院内学級「くぬぎ」の教室に行ってみようか。
もちろんお休みで誰もいないだろうけど、今の生徒さんたちの絵とか見られるかもね。
3階から、エレベータで2階に降りて、渡り廊下を歩いて、教室のある病棟のエレベータでまた3階まで上がる。
ちょっとめんどくさい。3階にも渡り廊下があればいいんだけど。
まあ、これが唯生の「通学ルート」だったんだ、どうせお散歩なんだし、かまわないよ。
本当は、屋上を通って行けば建物伝いにつながってるんだけど、戸外に出ることになって寒いし、今日は屋上に置いた資材を撤去する作業をやっていて、危ないから、やめとこうね。
クレーン車や作業員の人たちが何となくのどかに作業してるのを、大きなガラス窓から一緒に見た。
院内学級「くぬぎ」の前には、ひな祭りが近い、ということだろう、大きな「おひなさま」の張り紙細工が貼ってあった。
これの前で、みんなお写真を取ったりするのかも。
唯生も記念に1枚、ぱちり。
しばらく「くぬぎ」のあたりをぶらぶらして、もう1回エレベータで下り上がりして唯生の病棟に戻り、廊下の突き当たりが休憩所になっているコーナーに座って唯生とお話をする。
「唯生は、インフルエンザにかからなかったんだってね。えらかったね」
「ちょっと、ニキビができてるね。まだ思春期かぁ」
などと、日当たりのいい窓辺でのんびりしていると、何だか眠くなるねぇ。
小一時間の散歩を終えて病棟に戻り、唯生はそのまま車椅子で過ごすことにしたようだ。
「今、体重は何キロですか?」と担当の看護師さんに聞いたら、腸閉そくの手術をしたりいろいろあった頃に20キロまで落ち込んでしまっていた体重が、今は27キロまで上がったらしい。
とても元気だ。よかった。
でも、その重さだと私はもう、唯生を抱き上げることはできないだろうなぁ。
「何か必要なものはありますか?」と大内くんが聞いたら、
「薄手の服を少し、持って来ていただけますか」ということで、長袖、長ズボンの夏服を用意することにした。
「じゃあね、唯生」と声をかけ、看護師さんたちにお礼を言って帰る。
いつも寄る業務用食料品店の横に大きなツタヤやユニクロの入ったビルがあるので、さっそく服の調達だ。
唯生には、キッズ用のLサイズか、レディースのSサイズ、どちらがいいだろうか、と迷いながらも、数着の服を選んで、7千円ほどのお買い物。
名前を書いて今度持って行こう。
大内くんとも話したけど、唯生を見ると、確実に悲しくなってる自分がいる。
元気になってくれてよかった、と思う自分と並行して、どうしても心の中で涙を流している。
唯生の幸せ、私たちの幸せ、それらが交わる地点は、あまり大きくない。
息子を愛すること、彼の長生きを祈ることはこんなに簡単で自然なのに、どうして唯生のことは同じように思えないのだろう。
「当たり前だよ。無理ないよ。唯生が生きている、ってのは、とっても難しいことなだんから。息子みたいに、ほっといてもどんどん勝手に育って行くのと違って、1日生きるだけでも誰かの手が絶対必要な唯生のことが、悲しくないわけないよ」と大内くんは言う。
そう。悲しい。
私は、私が生きている限り消えない悲しみの中で生きている。
もちろん、いろんな人がいて、みんな、それぞれの悲しみを抱えているだろう。
それぞれ、悲しむしかない。
解決されない悲しみというものは、確かにあるのだ。
唯生も今年はもう24歳。
元気だったら、どんな女性になっていただろうか、と考えることは、あまりない。
今の唯生以外の唯生は、あまり想像できない。
時々大内くんと「考えてみるごっこ」をすることはあるけど、いわゆる「像を結ばない」感じだ。
27キロの、24歳の、鶏ガラのような腕や足をした唯生。
時々大きく笑う唯生。
かつて大内くんが言ったように、我々は、唯生のいる世界に生きている。
15年2月16日
嬉しいことがあった。
病棟で撮った唯生の写真をフェイス・ブックに上げてみたら、私の書き込みには珍く、17人も「友達」が「いいね!」してくれたのだ。
特に嬉しいのは、唯生と中学卒業まで同じ養護学校に通っていた「壇くん」が見て、コメントを寄せてくれたこと。
「ゆいちゃんの顔がまた見れて、嬉しいです」
彼は、身体は障害があって歩けないが、電動車椅子を自分で操り、頭脳は明晰で、高校は都立の「チャレンジ・スクール」を受けて見事に合格した、「養護の星」だった。
そののちご両親と一緒にアメリカに渡り、今は大学生活を終えて、仕事をしているらしい。
3年ほど前に家の本やマンガを「自炊」した時、勢いで、コドモたち関係の書類とか見直し、要るものはファイルし、そうでないものは捨てる、という作業をしていた時、唯生の中学卒業時の寄せ書きが出てきた。
「壇くんはね、普通の高校に行くの!」と、当時の唯生の同級生であり、施設でも同室だった「えりちゃん」が、とても喜んでいたことを思い出した。(檀くんは、自分のおうちから通いの生徒さんだった)
「壇くんは、その後どうしてるかねぇ」
「彼ぐらい優秀だったら、大学まで行ってるだろうね」と話し合っているうち、どうにもこうにも気になってきた。
「検索かけてみたら?珍しい名前だから、どっかに出てくるかもしれないよ」
そして検索。ビンゴ!彼のフェイス・ブック発見!
「壇くん、元気だよ!アメリカの大学に行ってるって」と大声で大内くんに告げたら、たいへん驚き、かつ喜んでいた。
その頃我々もフェイス・ブックを始めていたので、
「同級生だった、唯生の親です」とメッセージを送ったら、
「なつかしいです!ゆいちゃんは、元気ですか?」と返事が来て、友達にしてもらって、今に至る。
そんな檀くんが、「ゆいちゃんの顔が見れて、嬉しい」と言う。
フェイス・ブックってやっぱりスゴイかもしれない!と思ったよ。
いやいやいや、驚けるし、なつかしい。
唯生のような、基本の喜怒哀楽以上のものが成長できず、身体もまた、硬直して、自分の意思通りに動かすことができない(そもそも、そういう「意思」はあまりない)」「重度の障害児」と同じクラスで勉強していた檀くんは、唯生のことも「クラスメート」と認識していてくれたんだ。
もちろんちゃんと勉強を教えてくれる先生がいて、唯生たちのように「お歌を歌って」「体操して(自分では動けない。介護士さんまかせ)」というカリキュラムとは大きく異なった小・中学校生活だったろうとは思うのだが。
檀くん、唯生のこと、覚えていてくれてありがとう。
私たちも、檀くんのことは忘れないよ。
これからもフェイス・ブックでよろしくね。
15年2月17日
20年ぶりに英語の本を読もうと思い立った。生涯で、辞書なしで読んだ最初で最後の3冊、そのうちの1冊を。
そして、10ページで、挫折。
昔はどうしてこんなものが読めたんだろう。25年寝て暮らしている間に、私の脳みそから英語は全部出て行ってしまった。
先日、海外ドラマ「ダウントン・アビー2」を観てたら、1回分録画ミスがあって録れてない。
有能なる大内くんがネットで探してくれて、ひと安心、 と思ったら、これが、英語で字幕なしなんですねぇ。
2人してしばらく眺めていたけど、やがて、どちらからともなく、「やめよっか」「うん、全然わかんないし、1話とばすのとおんなじことだね」とつぶやき、消してしまった。
たぶん、今うちで一番英語力があるのは息子。
3年前に大学受験をしてるだけ、我々よりマシ。
それなのに人はいまだに私が英語ペラペラみたいに思ってるらしい。
35年ほど前にさる大学に受かった、というだけで。
確かにその大学の人たちはペラペラだ。
1年生のうちは毎週ペーパーバッグ1冊読ませるような授業してたからなぁ。
今度、同窓会みたいなものがあるが、海外から来る人もいる。
私の元ルームメイトはタイから来る。
「ガイジン」のダンナさんを連れて来たりしないだろうな?と私は戦々恐々。
いやー、忘れちゃうって、あるんだねー!
「friend」とか「November」のスペルがわかんなくなった時は、心底あせったけど、それか らもう10年ほど。
イタリアに行った時も思ったが、英語がわからないことは、恥ずかしいと言う以上に、不便だ。
今から勉強し直すのも面倒だし、あ きらめるけど、洋書持ってるなんて、ただの見栄だね。
捨てちゃおうかしらん。(涙)
15年2月18日
夜中に、iPadから大きな音でアニソンを流し、手元でゲームをしている息子を見ると、「若いなぁ」と思う。
いろんなことが、いっぺんにできる。
夜中を、呼吸している。
何もしていないように見えても、血が踊り、心が騒ぎ、頭の中をいろんな考えが駆けめぐっているんだろうと思える。
私からはもう、失われてしまった感覚だ。
素直に単純に、うらやましい。
若い頃は、時間も自分の力も、無限にあるように感じた。
「世界は、私に何を期待しているのであろうか」と寝転がって天井見上げて真剣に考えると、興奮で眠れなかった。
今思うと、噴飯ものなのだが。
でも、若者には、そういう錯覚が必要な時期があるんだと思う。
でなければ、家を離れ、仕事に就き、生涯の伴侶とめぐり会うというような「めんどくさい」作業が進まない。
若い頃は、多かれ少なかれ、「誇大妄想」に駆られるものじゃないだろうか。
星の数ほどいる異性の中から、「この人こそは」と思える人を選ぶなんて、普通に考えてたらできないよ。
大内くんや私は、この「誇大妄想」が大きかった。
いま振り返ると本当に恥ずかしいが、事実だからしょうがない。
息子はどうだろう。
やはり、眠れぬ夜があるんだろうか。
親が寝静まった家で、1人ゲームを握っている彼の、脳内にあるのはどんなことだろう。
15年2月20日
この頃、新しい本がなかなか読めず、古い本の読み返しが多い。
知的衰退?とか思うんだが、いつものように楽観的な大内くんは、
「そういう時期もあるよ。そもそも、キミは本を読み過ぎ。もうちょっと楽に暮らしたら?読み返す?いいじゃない。そのために本をこんなにデータ化して持ってるんだよ。古い本をこそ活用してください」と言う。
今回、東野圭吾の「ナミヤ雑貨店の奇蹟」を読み返して、
「あー、やっぱ、オチは気に入らないけどこの発想はすごいわ!」と頭殴られたみたいになって、タイムスリップ&ビートルズつながりで清水義範の「イマジン」へ。
この本は、私がたくさん持っていながら悪口を言ってやまない清水義範の、一番良くできた小説、ということになっている。
あくまで私の中では、という意味だが。
そして気づいた。
江戸時代にタイムスリップした時に役に立つのは、関ヶ原の合戦が何年だったか、ということなんだけど、昭和にタイムスリップしたら、「モスクワオ
リンピック」が歴史の要だ。
思いがけず、2冊ともその点に触れた話だった。
1980年って覚えやすいし。
よし、不意のタイムスリップに備えて、覚えておこうっと。(笑)
今読みたいのは林真理子か浦沢直樹。もちろんどっちも読み返し。
浦沢はな〜、特に迷うなぁ。
もう、5、回は読んだ「20世紀少年」で行くのか、よく理解できてない「MONSTER」で行くのか、まだ終わってない「Billy Bat」を追いかけるか、はたまた温故知新で「パイナップル・アーミー」なのか。
こないだ買って読んだ「Reマスター・キートン」はとてもよかった。
彼は、最近テレビへの露出が多いようで、去年の暮れあたりから3回も見た。
頭の切れそうな、それでいて「自分が自分が」と前に出ることのない、相手の話を聞き出すのがうまくて魅力的な、いろんな意味で素晴らしい人だと思った。
今のマンガ界の、頂点に君臨している、と言っても過言ではない気がする。
そんな彼の作品を全部持っていられる喜び。
もちろん清水義範だって林真理子だって東野圭吾だって持ってる。
これもみんな、自炊のおかげなんだよね。
私は、大内くんのようにじっくり本を読むタイプじゃなくって、のどごしで読む、というか、大量に流し込んで、何度も何度もその軌跡をなぞる、というような読み方なので、本をたくさん持っていられるのは本当に助かる。
データが破損しないように気をつけて、死ぬまで本の軌跡をなぞり続けよう。
15年2月21日
高校受験をひかえた息子が、自転車で夜の街にでかけてしまい、あとを追う、という、夢をみた。どちらかというと悪夢。
目が覚めたら、びっしょり汗をかいていた。
大いびきをかいて寝ている彼に、高校受験はもちろん、大学受験ももうすんでしまい、あとは卒業して就職するだけだ、と教えてあげたくなった。
もちろん彼にはまったく関係ない、私の脳内で起こったことにすぎないのだが。
自分自身が試験を前にしている夢は時々みることがあるが、息子の、ってのは斬新だなぁ。
そんな息子と、今週もタイ料理屋「クルン・サイアム」に行こうと、昨夜、約束したんだった。
ところが、まあだいたい予想の範囲内ではあるが、起こしたら、
「う〜ん、用事ができた。やっぱり行けないや。すまん」とまた眠りの中に戻って行くではないか。
なんとなく、行く気が失せるなぁ。先週も行ったばっかりだし。
「毎週末、外食なんて贅沢だよね?」と大内くんに聞いたら、
「いや、それは別にいいんじゃないの?」と言われるのも想定内。
「だからって、無理に出かけることないよ。寒いんだし、散歩や外食は、もっと気候のいい時でかまわないよ」と、あくまでも優しい大内くん。
そうねぇ、あんまりおなかもすいてないし、他に何にも用事がないのにごはんだけ食べに行くのも面倒だし。
結局、「図書館経由、スーパーで食材の買い出し」ということで、車で出かけた。
そう決めたのがもう、「クルン・サイアム」が開店する11時半をだいぶ回った頃で、息子はまだ寝ている。
「用事ができた、なんて、ウソだよ。単に眠くて行きたくなくなっちゃっただけだよ」と笑う我々は、子育てを通して、特にこの数年、本当に人間ができて、寛大になったもんだ。
ま、眠い人をわざわざ起こして連れてくほどヒマじゃないし。
「で、お昼は何にしようか」と、スーパーで考え込む我々。
「私、天ぷらうどん食べたいなぁ。なんか今日は、タイ料理より和風な気持ち」と言うと、常にたいがいのことがOKである大内くんは、やはり、
「いいんじゃない?じゃあ、天ぷら買って帰ろうか」。本当に何でも通るなぁ。
と思ったら、お総菜売り場にかき揚げが出てない。
お店の人に聞くと、申し訳なさそうに、
「かき揚げですか?今、ちょうど他のもの揚げてる最中なので・・・もう15分ぐらいかかります」と言う。
「いいじゃん、15分ぐらい、ぶらぶら買いものしてたらすぐたっちゃうよ」と言ってもらったものの、どうしてもかき揚げ、ってほどの気分でもない。
「オレの腹は、いったい何が食いたいんだ?」と井之頭五郎風につぶやいていたら、ふとひらめいた。
「『たぬき』でいい!揚げ玉買って、たぬきうどんにしよう!」
もちろん大内くんは賛成で、揚げ玉の袋を買って帰る。
息子の姿はすでになく、必ず浴びるシャワーのあとは風呂場の換気扇を回せ、というラインまでは仕込めているところ、30分に設定した換気扇は止まっている。
けっこう前に家を出た、ってことだね。我々が出かけてすぐかもしれない。
やはり何か用事があったのか?
ホームズくん、僕にはこれ以上わからないよ。
ともあれ、お湯を沸かして冷凍うどんを茹で、つゆの素でめんつゆを作り、ネギを切って揚げ玉のっけて、出来上がり!
インスタントものばかりに頼っているわりには、たいそうおいしい。
まず、うどんはさすがに「素うどん」では寂しく、油っ気が少しでも入るとそれだけですごくおいしくなる。何もかき揚げでカロリー上げなくても、揚げ玉で充分。保存もきくし。
また、1個140円のかき揚げより、ひと袋90円でたぬき4食ぶんぐらいはありそうな揚げ玉の方がお金がかからない。
良い昼ごはんでした。
ちなみに皆さま、うどんは、冷凍うどんに限りますよ!
昔テレビのバラエティの中、「讃岐の人々が普通のうどんと冷凍うどんの区別がつくか」という実験で、ほとんどの人が冷凍うどんの方を「おいしい」と答えていたのを見て以来、うちはずうっと冷凍うどん派。
値段も高くないし、いつでも食べられる。そのうえ普通のうどんよりおいしいのに、なにをためらうことがあろうか?!
ぜひ1度、お試しを。
15年2月23日
大内くんも息子も大好きな「キャンベルのクリーム・チキン・スープ」、最近、輸入食料品店でもめったに見なくなってきたので、業を煮やして楽天さんにお願いした。
届いたのは48缶パック7500円ナリ。
中身は自由に選べるので、クリーム・チキン36缶にクリーム・マッシュルーム12缶にしておいた。
なかなか壮観な眺め。
鍋に開け、同量の牛乳をいれて温めるだけでクリーミィな滋養たっぷりのスープができあがる。
朝、大内くんと小さなスープボウルを抱き寄せるようにして、
「力がつくねぇ」「遭難したら、真っ先に食べたいよね」「そうそう、『あわてないで、ゆっくり飲むんですよ』とか言ってもらって、スプーンを口に運んでもらうの」などと妄想しながら、おいしくいただいた。
あまりに量があるので、飽きずに食べられるかどうかやや不安だが、ま、数年もつだろうから、その間には食べきれるだろう。
「アメリカの食べ物は栄養がある」と信じていた子供時代を思い出す。
そもそも、なんでキャンベルが「大内家御用達」になったかというと、唯生の訓練のために大内くんが介護休暇を取ってくれて、生まれたてのほやほやの息子を加えた家族4人で「世界の端っこ」(現実には戸塚ですが)で暮らしていた頃、よく行っていた藤沢の巨大スーパーで、クリーム・
チキン・スープがワゴン売りされていたのだ。1缶100円。
大内くんが大感激し、
「これは、僕が小さい頃シンガポールでよく食べたやつだ!いつも心がけて探してたんだけど、日本ではもう二度とお目にかかれないもんだと思ってたよ。おいしいんだよ〜!」と8缶ぐらい買いこんでいた。
とまあ、そういう経緯。
実際、そのスープはおいしかった。
大内くんのセンチメンタル・バリューを差し引いてもかなりのものだ。
だが、じきに我々は悲しい現実に直面した。
買ったスープが、なくなってしまったのだ。
じゃあ、ってまた藤沢に行ってみたけど、ワゴンセールにも棚にもない。
世界は再びキャンベルを失った。
(いや、アメリカに行けば買えるだろうけど、我々の「小世界」における出来事です)
「50缶ぐらい買いためておけばよかった!」と大内くんは泣きださんばかりに後悔してた。
どんなに買っても、いつかはなくなるのに。
あれから20年以上が経った。
その後けっこうあちらこちらにできた「輸入食材店」で買えることもあって、息子にも「キャンベルのクリーム・チキン・スープ」の味を教える機会はたびたびあり、彼はどうやら、クリーム・チキンよりマッシュルームの方が好きなようだ。
そして、いよいよもってクリーム・チキンとマッシュルームが手に入らなくなって2年ほど。
コーンスープやミネストローネはスーパーでもたくさん売っているのに。
で、最後にたどり着いたのが楽天さんである、と。
かつて大内くんが言った通り、50缶近く買ったよ。
近頃また「あの、うまいスープ。キノコのやつ」と横柄なリクエストを出すような息子対策にも、クリーム・マッシュルームも入れてのオトナ買いは必須。
そう言えば、戸塚に住んでる頃、派手な夫婦ゲンカをして、私がスープの入ったお皿を投げたことがあるなぁ。
もちろん大内くんに投げつけたわけではなく、横ざまに放り投げ、食器棚にあたった、という雰囲気だった。
で、大内くんはどうしたかというと、、立ち上がり、冷静に食卓の牛乳のパックを取り、ふてくされて床に座り込んでいる私のうなじから、牛乳を注ぎ込んだ!
びっくりしてまっ白になり、そこでケンカは終わってしまった!
後日、大内くんに、
「なんであんなひどいことしたの?」と聞いてみたら、
「どうせ僕が片づけるんだから、少しでも掃除が楽になるように、と思って」。これまた毒気が抜けた。
以来、私はスープを投げたことはない。あたりまえか。
そんなことしてるから、スープの神さまが怒って、日本国内のクリーム・チキンの販売を停止してたんだろうか。
楽天でオトナ買いさせてもらえるってことは、もう許してくれたってことですか?
食べ物を粗末にしちゃいけないけど、これまで夫婦ゲンカで私が投げた一番の大物がスピーカであったことを思うと、スープ皿の1枚や2枚、日常茶飯事でいいじゃありませんか?
ま、多分、怒ってたのはお皿の神さまじゃなくてスープの神さまなんだから、しょうがないかなぁ。
反省しました。一生、スープは投げません。
48缶、全部、おいしくいただきます。
15年2月25日
息子は早稲田のお笑いサークルに所属しており、始終、コンテストやライブの舞台に立っている。
今回、大学サークル向けのコンテストで予選を勝ち抜き、準決勝に出場することになった。
我が家では、彼の普段の活動は見に行ってはいけないことになっている。
(「親なんて、こねーんだよ!年寄りは、あんたたちだけだよ!まわり見て、 自分で恥ずかしくなんねーのかよ!」とのこと)
例外は、大隈講堂ライブと早稲田祭のステージ、そして、外の大会で勝ち抜いた時だけだ。
今回、予選1位での準決勝進出をサークルのツィッターで知ったので、大内くんが、「これって、見に行っていいケースだよね?浅草だって。遠いけど、土曜の午後だし、行きたいねぇ。なんとか彼に、交渉してみるよ」と言ってくれていたところ、今朝、病院の夜勤のバイトから帰ってきた彼は、突然、言う。
「コンテストの準決勝に出ることになったから、見に来て。チケットは、取っておくから」
持ちかけもしないうちから許可が出て、しかも、「来てもいいよ」じゃなくて「来て」なの?!どうしたの?
まあ、彼としても嬉しいんだろう。
外部のコンテストで、優勝したことこそないものの、予選突破ぐらいはかなり堅く押さえてくる。
コンビを組んでいる日大の相方が味のあるいい演技をする子で、コントを得意とする彼らは、今回も謎の「ネクタイをたくさん持って行く」という行動に出ながら、何やら準備を
しているようだ。
ネクタイを10本近く持って行かれた大内くんは、会社に行くのに少し悩んでいたよ。
今日も予選があるらしい。
バイト先で仮眠の時間はあったというものの、朝帰ってきて寝ないで昼ごろ出かけたので、眠いだろうに、と心配になる。昨日、ラインで大内くんが、「バイトの翌日にステージで、たいへんじゃない?」と聞いたら、「大丈夫。面白いから」。
そうか、寝食を忘れるぐらい面白いか。どのぐらい面白いのか、土曜日にたっぷり見せてもらおうじゃないか。
チーム対抗で、息子は得意のコントと、 あと慣れないピン芸をやるかもしれない。楽しみだ。
大内くんも私も、大学時代は学業そっちのけで好きなことに邁進していたが、息子はその両者のDNAを如何なく発揮し、とにかく楽しそう。
こんなに 数限りなくステージを踏んでいたら、就職面接も手慣れたもんだろうなぁ、と、ちょっとだけ現実的なことを考えてしまう。
うん、本人が楽しければあ とはまあ、どうでもいいんだ。
とりあえず土曜日、笑わせてもらうよ!
チケットよろしく。ありがとう!
毎日のように「徹夜のネタ合わせ」があり、おまけに夜勤のバイトが時々入るので、大内くんはどうかすると3日ぐらい息子の顔を見ないらしい。
私は、昼間のうちに帰ってきて「メシあんの?」と聞かれては食事を出しているので、元気にしてることだけは知ってる。
あんまり家に帰ってこないと、それはそれで心配なんだけど、大内くんと2人、
「これだけ打ち込めるものがあって、本当に良かったね。我が青春に悔いなし!だろうね」とひそかに喜んでるんだ、困った親だねぇ、我々も。
15年2月27日
最近、大内くんはとても忙しい。
朝も3時4時から起き出して、ずっとパソコンに向かって仕事をし、終わらないので会社に行けず、午前中いっぱい自宅で作業したりしてる。
会社行かなくてもいいんじゃないかと思えるよ。
週の半分ぐらいは在宅勤務、ってわけにはいかないのだろうか。
夜も連日残業で、1時ごろに帰ってくることも。
「後輩のHくんなんか、毎日こういう生活だよ。どうやったらできるんだろう。僕はもう、へろへろだよ」
身体も心配だし、とにかく寂しい。
「もう1、2週間待って」と言われているが、そんな時にたまたま、RPG「クロノトリガー」を始めててよかった。
ここ1週間ぐらい、大内くんが遊んでくれなくても、ゲーム機握ってれば何とかなったからなぁ。
おまけにSF再読欲に火がついてる。
20年ばかり放り出してあったマキャフリイの「パーンの竜騎士」シリーズ、10巻のうち7巻目で止まっていたものが、にわかに読めるようになっちゃって、そうなると昔大好きだったことも手伝って、番外編まで含めてじゃかすかと読む。
老眼のせいか、昔の10倍は時間がかかるようになったけど、面白く読んでるよ。
こんだけやりたいことがあるから、大内くんの不在にも何とか耐えられる。
大丈夫、今、けっこう読書欲が来てる。
もう1週間ぐらいはもつだろう。
ゲームの方も、「ドラクエ4」「逆転裁判シリーズ」「逆転検事」などとりそろえております。
問題は、何をやっても液晶見てるわけで、目がむちゃくちゃ疲れることだろうか。
いや、大内くんは会社でもっともっと液晶見てるんだ。私みたいに昼寝つきじゃないんだ。
しっかり留守を守って、夫の仕事をサポートしなければ!
でも大内くん、なるべく早く元の生活に戻ってね…
息子はまたひとつ予選を勝ち抜いて、準決勝2日目にも出ることになった。
土日、両日浅草までお出かけだ。
「これ」と無愛想に差し出す2日分4枚のチケットを受け取り、いやー、この瞬間は癒されるなぁ。
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