15年6月1日

気になるとやたらに精力的になってしまうのが私の良い点でも悪い点でもあり、今、シベリア鉄道の旅について調べているところ。
ウラジオストクまでは、鳥取の境港からフェリーに乗って33時間もかかるのか!
そもそも鳥取まで新幹線で行くだけで5時間ぐらいかかるし。
「ファーストクラス」である1等船室は2人部屋で3万6千円。寝て行けるからいいけど。

そこから、モスクワまで7日。
直行するだけで18万円かかり、途中で降りると、たとえばイルクーツクまで13万、イルクーツクからモスクワまで10万。
おまけに鉄道は隔日運転だから、2日は降りたところに留まってなきゃならない。
そもそも、乗ってる間はシャワーもないから、どうしたってどこかで1、2回降りてホテルに泊まらざるを得ない。

モスクワからサンクトペテルブルグまでは4時間。
これも寝台特急だ。「赤い矢」という名前は速そう。

列車の中では必ずしもおいしいものが食べられるとは限らないし、高いそうで、旅客たちは食べ物を持ってきたり駅で買ったりするらしい。
熱いお湯が出るので、カップヌードルを持って行くといい、と書いてあった。
お湯かぁ。他になにができるかな。懐中汁粉?
食器も持って行った方がよさそう。

そんなことをひと晩中調べていたらなんだかくたびれた。
そこへ大内くんが起きてきたので、これこれこういうわけで、たいそう時間とお金がかかる、という話をする。
大内くんが漠然と思っていた旅程と違うというか、大連に行って、ハルピンまで行って、そこからシベリア鉄道に乗り入れしてる列車があるんじゃないか、と思っていたらしいが、かなり難しい。
飛行機に乗ってしまうと旅の主旨が損なわれそうでくやしいが、やはり、ウラジオストクまで飛行機で行くのが一番スタンダードなのではあるまいか?

サンクトペテルブルグからワルシャワに行くのもけっこう難しそう。
ヨーロッパは鉄道が整然と整備されているが、ロシアから出るまでは、大変なんだよ。

しかし、一番大きな展開はそこではない。
ウィーンが終点だと思っていたこの旅だが、オーストリアまで行けば、イタリアはもう隣の国じゃないか!
シベリア鉄道の旅とは別に、いつかローマに4、5日滞在する旅をしたいと思っていたが、この機会に行ってしまえば、日本とローマを往復する分の飛行機代が稼げる。
ビジネスクラスにしたいと思っていたならなおさらだ。

日数がべらぼうに長い旅行になってしまうが、定年後、その点は問題にならないはず。
オーストリアからヨーロッパ鉄道でローマに出て、いっそのこと、行く機会が全然なかったイスタンブールにまで足をのばしたっていい。
ついでに地中海クルーズでもしてくるか。

思わぬ方向に夢が広がりつつあり、まだ10年近く先の話だというのに、私の頭はもうそのことでいっぱいだ。
それに、当たり前だけど、私は大内くんより4歳年上だから、大内くんが60歳で定年になるんだったらその時64歳。
今でさえあちこちガタが来てるのに、65歳を超えたら体力に自信ないぞ。
なので、もう今から計画を練って、大内くんが定年になったらすぐにシベリア鉄道に乗りに行く、という点では意見が一致した。
お金使うのも、そこが最後になりそうだし。

というわけで、今、「熱湯があるならば、どんな食べ物を用意していくといいか?」という命題に取り組んでいる。
非常用のアルファ米にレトルトのカレー、というのはどうだろう?

15年6月3日

息子から、ラインで、「湊かなえの『告白』読んだ。読んだことある?」と聞かれた。
2度ほど読んだし、彼女の作品は全部読んでいるが、作者自体、 あまり肌が合わない感じがして、「読んだよ。母さんにはあまり合わないな。でも、あなたがそんな本を読むなんて、めずらしいね」と返信した。
日頃、ほとんど本を読まず、マンガと映画で過ごしているからだ。
でも、最近、机の上に雑多な本の山ができてきたし、図書館から借りた本を期限内に読み終わって返すことができるようになった、というのは頼もしい。
(大学生の息子つかまえて何言ってんだ、というお叱りは覚悟の上です)

次に来たレスに、心臓が止まりそうになった。
「これは読んどいた方がいいって本ある?」

大げさに聞こえるかもしれないが、私は、コドモを産んで以来、いつか来るこの質問に、何と答えようか、と考え考えして暮らしていた。
我が子を本の道に誘う、とても大事な瞬間だ。
自分が読んで感動したもの、今、若い心に新鮮な知識と感動を与えるもの、いろんな観点からいろんな本を夢想してい た。

しかし。実を言うと、この10年以上、そのことは半ば忘れていた。
彼があまりに本を読まないからだ。私が「コドモに」と考えていた本も、「ドリトル先生」とか「赤毛のアン」とか、中学生ぐらいだったら「風と共に去りぬ」も読めるんじゃないかとか、とにかくコドモ仕様だったのだ。
そ していつしか、もうそんな質問はされないんだと思い込んでいた。

とりあえず、お笑いを趣味とする彼には「お話のネタ」が必要だろうと、「O.ヘンリーとモーパッサンの短篇集は、全部読んでおくとあらゆるお話が詰まっているよ」とレスし、もう1度考えて、「ベタだけど、『クオーレ 愛の学校』には、世の中の『ちょっといい話』がたくさん出てくる。ネタの宝庫」と答えておいた。

でも、なんか、私が考えていた方向ともちょっと違うと思うし、どうしよう?と混乱して、大内くんに相談したら、
「キミはキミの好みで行くしかないじゃない。SFは?」
「息子はSF読まないから・・・アルジャーノン読んでもらっただけでもういいよ」
「どうして『火星年代記』を薦めないの?」

忘れてた!自分にとってたいそう特別な、小説としても上質な、「お話を書く人」の勉強にもなる面白い構成の、ブラッドベリのあの珠玉の1冊を!
私、卑屈になってたんだなぁ。
自分が読みたいもの、読んで面白かったもの、を忘れて、「何が彼にウケるだろう」みたいなことばかり考えてた。
も う、このあとはSFとミステリで押し通そう!

さっそく翌日ブックオフに行って「火星年代記」を買った。
新版のもので、510円もしたが、なんと、新しい短篇が2篇、入っているという。息子に渡す前に私が読まなくては。

家に帰って目次を見比べて、ものすごく驚いた。
各章のタイトルは、「2003年4月 音楽家たち」というような感じでついているんだけど、最初の、「ロケットの日」は「1999年」だった。それが、「2030年」になってる!その後も押されて、2005年が2036年に、2026年が2057年になっている。
も う、現実の時間がSFに追いついてしまったので、全体を「31年」未来にずらしたんだね。さすが新版だ。
やはり、ある意味で、現実はSFの世界を追い越してしまったのか。
ブラッドベリが、「2000年になる頃にはロケットが火星に飛ぶかも」と漠然と考えていた、その時が、彼の予想と違う訪れ方を したように思う。
そういう意味では、息子は「火星年代記」を、「SF」というより「ファンタジー」として読むのかも。

今、アシモフの「われはロボット」「ロボットの時代」を注文中だ。
「ミニ・ミステリ100」上中下3巻も。
私が若い日の孤独に悩んで愛読していた スタージョンの「人間以上」も、「息子には必要ないんじゃない?」と大内くんに聞いたら、「いや、キミが読んだものを薦めてあげようよ。用がなければ、それはそれでいいんだから。息子にだって、若い日の孤独はあるかもよ」と言われたので、読ませてみよう。
SFを読むならここから、と大内くんにも薦めた傑作短篇集、「冷たい方程式」も。

問題なのは、これらの本が全部、データではうちにあるのだが、息子が「データでは読めない。紙の本がいい」と言い張るので、ブックオフやアマゾンで買い直している点。
物入りだ。せめて文庫本だけは、自炊しないで持っていればよかったなぁ、と激しい後悔に襲われている。

そうしたら、息子は 我々の本棚の前に立ち、「オヤジとおふくろはこういうもん読むのか。面白そうなものはないかな?」と考え込んでくれたかもしれない。
大内くんも、 「それはちょっと惜しかったかもね。でも、図書館でも借りて読めるようになったんだし、親の本棚だけが本棚じゃないよ。人は、いろんな本棚を見て 成長していくんだから、かまわないよ。そんなことで煩悶するなんて、キミは本当に彼が好きなんだね。彼の気に入るように、暮らしていたいんだね」 と、別に嫌味ではなく、面白そうに言っている。

息子が本を読む!SFも読むかもしれない!そもそも、もうミステリを読み始めている!
私が心の中にずっと持っていた世界に、彼も入ってきてくれるかもしれない。
「東野圭吾だって宮部みゆきだって、何でも薦めてみればいいじゃない」 と勇気づけてくれる大内くんを頼りにし、「東野圭吾の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は面白かった」と言う息子に喜んで、「新参者」とか薦めてみようか な。
でも、あのシリーズを読むなら主人公「加賀恭一郎」をもっと読んでから・・・「赤い指」とか・・・

「ほら、またいろいろ考えてる。きっかけだけ与えればいいんだ よ。彼がそれで加賀恭一郎に興味を持てば、自分で探してきて読むよ。まったく、心配性だねぇ!」と大内くんの声。
彼は彼で、丸谷才一とか村上龍、 村上春樹等を「準備して」いるらしい。
息子の、芽生えたばかりのとぼしい読書欲を、親が2人がかりで押しつぶしてしまわないか、ああ、また心配 だ!

15年6月4日

シベリア鉄道に乗るのに、船でどこまで行けるのかな、と調べていたら、思いもよらぬ方向に話がずれて行く。
世の中には豪華客船に乗り、年に半年は「世界一周の旅」に出かけている人も多いらしい。素直に、うらまやしい。

興味を持ってネットで見てたら、それなりのクルーズがいろいろある。
私が惹かれたのは、キュナード・ラインという会社がやっている、「クイーン・シリーズ」。
たとえば「クイーン・メリー2」だと、来年の1月10日に英国サザンプトンから出航し、北米・南米の東海岸をなめて太平洋に出て、オーストラリア近辺をうろうろし、アジアに向かい、シンガポールあたりを通ってから中近東、そしてスエズ運河を通ってヨーロッパに出て、サザンプトンに帰る。
これが、5月10日。
正月明けに船に乗ったと思ったら、丸4カ月かけて、ゴールデン・ウィーク明けの日本に帰ってくるということだ。

費用は、クルーズ(食事、娯楽、医療、さまざまなものが無償)だけでお1人さま360万円。(バルコニーつきの部屋の場合)
4か月も海の上にいるなら、やっぱりバルコニーつきで、海を見ながら暮らしたいよね〜、と思ったところで夢から覚めた、という感じ。
2人分で720万!寄港地でのオプショナル・ツアーとか考えたら、たぶん1千万に届くと思う。
頭がホカホカしてきちゃった。知恵熱出そう。

船旅って、楽しいって聞くよね。
千人以上の人たちが退屈しないように、毎日いろんなイベントがあるらしいよ。
ショーを見たり映画を見たり、食事を楽しんだり、デッキで昼寝をしたり。
あー、いいなぁ・・・

宝くじを買おうか、と真剣に思った。
80歳まで生きられたら、残ってる家・貯金を全部つぎ込んで、その後の生活は無視して行っちゃうとか。

シベリア鉄道の旅だけでもかなりな出費になる、と大内くんに言われ、息子が大学卒業して学費と生活費がかからなくなったらその分を貯金して何とかしよう、と思ってたんだけど、船もいいなぁ。
ウラジオストクまで船で直行しようと思ったら、鳥取まで行かなきゃならないらしい。
飛行機が簡単なんだけど、事をややこしくしてロマンを求める大内くんのスタイルだと、まず鳥取まで行くのかも。
そしたら船旅ができるんだぁ。

世界旅行は夢のまた夢だけど、どうやら私は、大内くんと「どこかひとつ所に閉じ込められたまま移動したい」ようだ。
そして、身の上話をする、と。
30年もつきあってきてまだ身の上話が残っているんですか?と聞かれそうだが、ニッチな話はいくらでもある。
生まれてから、大内くんに会うまでの私の話。
大内くんに出会ってから結婚するまでの私の気持ち。
結婚してから今日までの、私の生活。
全部、聞いてもらいたい。(いや、今でも聞いてもらってますけどね)
こう書くと、ホントにウザい女だな、私は。

シベリア鉄道の話、旅行社に電話してアレンジしてもらったら、あっという間に終わってしまう気がする。
でもきっとそれでは、大内くんのロマンが納得しないんだろう。
自分で時刻表調べるところからやってください。

それにしても、世界一周旅行も素敵だねぇ・・・

15年6月5日

鉄道や船で、長い長い旅をすることについて。

20年前と、何が一番変わったかというと、ケータイと自炊。
世界中どこにいても連絡がつくし、SNSも見られる。
そして、たとえ1カ月、旅をすることになっても、「どの本を持って行こうか?」と考える必要がなくなった。

数年前、東北の温泉に2泊する旅行に行った時、まったくフリーの時間が長く、読みたい本がたくさんあって、「もし、読み終わっちゃったらどうしよう?」と思って、悩んだあげく、着替えなどと一緒に宿に宅急便で本をそれぞれ5、6冊送っておくことにした。
結局、部屋についている露天風呂に入ったり昼寝をしたりする時間が長すぎて、大内くんも私も、1冊の本を読み終えることもできなかった。

私が長い旅に憧れるようになった背景には、実はこの「本を好きなだけ持って行ける」という事情があると思う。
大内くんは、「ノートパソコンとハー ドディスクを持って行けば、何千冊もある自分の本を、どれでも全部読めるんだよ」と言う。
素晴らしい。

もちろん、「どの本を読もうかな?」と悩むのもある意味で旅の楽しみのひとつだけど、もともと乱読の癖があるうえ悩みやすい私は、いつも本で苦労していた。
学生だった頃や、働いていた頃は、1日に3、4冊の本を持っているのも当たり前だった。(重くて難儀はしたけれど)

今は、「電子積読」というか、iPadに何百冊も本を入れている。
「美味しんぼ」と「浮浪雲」を100冊ずつ全巻入れておく必要はない、と思いながら、気になるものは何でも入れてしまう。
長編マンガが好きで、はまると一気に読みたい私にとって、「とりあえず1、2冊入れておいて、読み始めたら全巻入れる、というわけにはいかないの?」という、めずらしくまっとうな大内くんの意見は、耳が痛くはなるものの、素直にうなずけない。

一昨年、施設に暮らしている24歳の重度障害者の娘が、突然の腸閉塞を起こし、緊急手術になったことがある。
夜の8時頃に知らされ、車で30分の病院まで駆けつけた。
心配しながらも、仕事で疲れていた大内くんは待合室のソファでうたた寝をし、私は、「とにかくこれだけは」と思って持って行ったiPadで、買って自炊し、入れたばかりだった有吉京子の「SWAN(白鳥)」というバレエマンガを読んでいた。
心配で心配で、マンガを読む以外に気の晴らしようがなかった。

1時半に終わる予定の手術は朝の5時まで長引き、全14巻を徹夜で読み切ってしまった。
バッテリー残量が20パーセントぐらいになったので、「コンセントあるし、ケーブル持って来なかったのは失敗だったな」と思ったが、まあ、大丈夫だった。

生きるか死ぬかの瀬戸際を迅速な手術で乗り切った娘とICUで会い、麻酔がきいてうとうとしている顔を見て、大内くんと2人で誰もいない夜明けの 病院から家に帰った。
東に向かって、とてつもなく大きな朝日を眺めながら、
「ダメかと思った」「うん」「ダメでもいいのかも、と思った」「うん、 僕も、お葬式をどうしようかな、とか思ってた」とぽつりぽつりと話し、どうしても、の仕事があった大内くんは会社に行き、私は昼寝をした。

あの時、自炊をしていなかったら、iPadがなかったら、私はひと晩中、廊下を歩き回っていただろう。
読みたい本がかなり自由に選べる状況だったのは、本当にありがたかった。
宮部みゆきだけでも50冊入っているからなぁ。

2週間のクルーズに行ったことがある友人男性が言うには、「催し物がたくさんあって、船室には寝に帰るだけだった。バルコニーどころか、窓もいらない」そうだ。
もしクルーズに行くなら、実際には本は必要ないのかもしれない。(船に図書室があって、日本語の本もあるらしいし)
シベリア鉄道に乗ったら、話す以外の娯楽はないけど、しゃべり倒したくて行くんだから、やはり本は必要ないはず。

それでも、本というのは持っていると心丈夫なものだ。
まして、2テラのHDで、全蔵書をポケットに入れて運べるのは、私のように優柔不断な積読・ 乱読者には本当にありがたい。

いつか、何にも縛られない長旅をする日が来たら、やはり本を読みたい。
東北の温泉に行った時のように全然読まないという可能性も高いが、持っているだけでいい。
「一生かかっても読み切れないほど所有はしている」と言う大内くんも、今のような忙しいサラリーマン生活を終えて隠遁生活に入った ら、思っているよりたくさん読めるかもしれない。
その時は、邪魔をしないで私も横で「浮浪雲」全巻を読もう。

15年6月6日

昨日は下北沢で息子のお笑いライブがあった。
各大学の雄が集まって、「毎月1回、全部新ネタ」というシバリで自分たちで企画・実行している感心な会だ。

前回、初ライブの時に見に行ったが、80席ほどしかない小さな小屋で、明らかに年代の違う我々は浮いていて、MCの子に、
「年配の方もいらっしゃいますね!ご家族でしょうか?どなたの?」と聞かれるという羽目に陥った。
幸い息子は怒っておらず、むしろ、帰りの電車の中からお礼のラインを送ったら、「ネタのダメ出しして」と求められた。
何てオトナになったもんだ。

私としてはあまりに場内で浮いているし、息子も恥ずかしいだろうから、もう見に行くのはやめようと思ってた。
ところが、大内くんはそうではないらしい。
「行きたいなぁ。行きたいよ。行こうよ」と、まるで駄々っ子だ。

こういうのは息子からぴしっと叱られないとわからないだろう、と思って、「聞いてごらん」と言ったら、ソファに寝そべってケータイ見てる彼に本当に聞きに行った。
「今度のライブ、見に行っちゃダメかなぁ」
どれほど痛烈に断られるか、と思っていたら、案に相違して、答えは「べつに、いいよ」。
驚いた。
「取り置きは自分で頼むから」と大内くんが言ったら、「いや、取っておくよ」と言う。
これまた驚いた。

結局、大内くんは仕事が入ったので行けなかったのだが、行こうと思えば行けたのか。本当に驚く。
まあ、月曜日は「大隈講堂ライブ」だ。
息子が早稲田に入れてよかった、と思う瞬間。

帰りに新宿に出て「サムラート」でカレー食べて行こうかと思ったが、今月はもう1回、新宿でライブがあるので、その時に、というところまでもう決まっている。
「大隈講堂、出る?」と息子に聞いてみたら、「出る」という答えだったし。
このライブももう4回目か。1年生の時は出なかったので、「どんなサークルに入ったのかな」的な興味で見に行ったけど、その後、毎年出ているので、楽しみだ。

留年してる息子が、真面目に卒業するとしたら今回と、もう1回しか残っていない。
もちろん卒業してほしいが、ライブに出続けてもらいたい気もする。
こういうのを「気の迷い」と言うんだろう。

15年6月7日

大内くんは、アトピー性皮膚炎の持病がある。
疲れたり、ストレスがたまるとお肌が荒れるのだ。
ここ数か月、あまりに仕事が忙しいので、傍目にもはっきりわかるほどになってしまい、ついに、皮膚科のお医者さんに行った。

家の近くにある、「メディカル・コート」と名づけられた、病院が4軒と薬局が1軒ある建物の中の皮膚科。
新しくて清潔そうで、大内くんを診てくれた女性のドクターも優しくかつてきぱきとしていた。
予約制のところに飛び込みで行ったんだけど、それほど待つこともなかった。

塗り薬と飲み薬をもらって、帰った。
数日で、すぐに良くなってきた。
ひどくなるまで本人に自覚がないのが困る。

その病院は、子供向けに、片隅にカーペットが敷いてあり、靴を脱いで上がって、木製の線路や汽車のオモチャで遊べるようになっている。
若い夫婦者が推定3歳のお兄ちゃんと推定1歳の赤ちゃんを連れてきており、赤ちゃんの足に包帯が巻いてあるところを見ると、その子が患者さんなん だろう。
お兄ちゃんと一緒によく遊ぶなぁ、将来、立派な「鉄ちゃん」になるだろう、青い服が可愛いなぁ、本当に、小さな男の子ってのは可愛いもんだ なぁ、と大内くんと2人、まだ見ぬ自分たちの孫のことを夢想し、目を細めて、
「やっぱり、柔道をやらせたいねぇ。カノジョが剣道2段だから、剣道もいいかもね」と話していたら、診察室から呼ばれた。

「○○さくらちゃーん」

え?
お母さんに抱っこされて室内に消えたあの子は、「さくらちゃん」なの?つまり、女の子なの?!

いやー、ジェンダーっつーもんがあるんじゃないかねぇ。
この「さくらちゃん」が大きくなったら、お兄ちゃんのお古を着せられていたことも忘れて、ピンクのフリフリを着るようになるんだろうか?
今はまだ珍しい、「鉄女」になるのか?

15年6月8日

息子の大学お笑いサークルの「大隈講堂ライブ」。
会社帰りの大内くんと、現地集合。
大隈重信翁の立像を見物し、毎度思うことだが、「息子がこの大学に入れたのは奇跡的だった。大隈さん、ありがとう!」と内心で手を合わせている。
翁が、何をしてくれたわけでもないのだが、結局、息子は「この大学に入りたいっ!」って気力だけで入ってるので、そういう魅力的な大学を作ってくれた、という点に感謝だね。

息子が出なかった初回にも我々は来たので、今年で4回目か。
大隈講堂は、我々が息子を見に行ったおよそあらゆる場所で、一番立派だ。
(ルミネThe よしもと」には負けてるか?)

私は例によって道に迷うかもしれない、と思い、家を早めに出た結果、開場までの30分近く、大隈講堂前の階段に座って時間をつぶす羽目になった。
でも、そうしているといいこともあり、昔、家に泊まりに来たこともあって顔見知りの、「留年仲間」かずやくんと、「元幹事長(部長みたいなもの)」小森くんに会った。

かずやくんは最近おなかまわりの簡単な手術をしたことをツィッターで知っていたので、「お加減はいかが?」と聞いたら、「大丈夫です!」と言っていた。
「息子と一緒に、来年就活頑張ってね」と言うと、
「いや、オレ、単位足りるんで、夏には卒業できるんです」。
がーん!

「そんなこと言わずに、息子につきあってあげてよ」
「あいつは、相方がつきあってくれるんじゃないですか?」
そうなんだ、日大から来てるお笑いの相方も、留年組なのだ。
だからって、かずやくん、先に卒業するなよ〜!

がっかりしてまた座っていたら、「元幹事長」小森くんが通った。あいかわらず、しゃきしゃきとモテそうな、好感度大な青年。
「あっ、どうも!」と言われ、早稲田学院から持ち上がりのこの人は、ツィッターで「高3の時、大隈講堂で新入生と保護者達の前で挨拶したのが講堂デビューだった」って書いてたなぁ。
「高校時代、生徒会長だったの?」と聞いたら、一瞬、不審そうな顔をしたが、すぐに、「ああ!」という表情になり、
「よく見てますね。生徒会長じゃないんですけど、生徒会やってたんで」と話してくれた。

「息子が、『オレのツィッター見るのはいいけど、オレの友達のは見るな!』って言って怒るんで、ナイショにしといてね」と念を押す。
ナイショも何も、私が彼らのフォロワーでありフォローされてるのは周知の事実なんだが。
まあ、彼らはいったいに口が軽い。
今日の出来事も、明日にはサークル中に知れ渡るだろう。
今さら、そんなことで怒る息子でもあるまいし。

やがて開場時間になったので、受付をすませて中に入る。
私は1番だったので、舞台のド真ん前の席だった。大内くんの分も確保されてる。
幸い、開演までに来ることができたし。

息子のネタは、最近よく見る「ネクタイ」もの。
これやられると、大内くんのネクタイをほとんど全部持って行っちゃうんで、困ってるんだよね。
でも、やっぱり芸がこなれるっていうか、同じネタでもずいぶん変わったもんだなぁ。
セリフや動きにもゆとりが感じられ、5回ぐらいは見た我々も、ずいぶん楽しませてもらった。

いつもの相方とのコント以外にも、同期の子たちでやる「戦闘種族」というユニットでは、これも前に見たことあるけど、「人狼ゲーム」のネタ。
そう言えば、開場前にかずやくんと会った時、
私「『戦闘種族』のネタは誰が書いてるの?」
かずや「んー、まあ、オレッスかね」
私「『人狼ゲーム』のネタが一番好きなんだんけど」
かずや「あっ、それ、今日やります!」
私「好きだから何度見てもいいんだけど、どうしてうちの息子は殺される役とかやるの?他のネタでも、やたらに『いじられる』よね」
かずや「それは、彼がツッコミだからです。春の大会でも、審査員の間で、『ツッコミの力がすごい』って言われてたみたいッスよ」
という話をしたなぁ。
かずやくん、面白いことを教えてくれてありがとう。

香盤全てのユニットがネタを終わり、中には息子のカノジョとか、こないだ家に泊まりに来た後輩とか、今度一緒に合同ライブをやるらしい後輩とかい て、もういろいろいすぎてよくわからない!
皆さん、お疲れさまでした!

15年6月9日

息子が小・中・高とお世話になった塾の塾長と飲み会。
正直言って、定年後の大内くんの働き先として、営業かけさせてもらってる。
これまでに何度か人手がない時にお声がかかって教壇に立ったことのある大内くん、少なくとも結婚後はずぅっと本人が言うように、
「中学か高校の世界史の先生になって、『ここは試験に出ないけどね!』と言いながら、自分の好きなとこだけしつこく教える」というのが夢だったら しい。

「そんなに教師になりたかったんなら、なればよかったのに」と言うと、毎回肩をガックリと落として、
「そうすればよかったんだよ。自分の人生なんだから。小学校の頃から親の敷いたレールの上を走らされて、大学まで行って、でも何にも変わりも終わ りもしなかった。役人か銀行員になれって、キミ、僕がそんな仕事に向いてると思う?あー、本当に、今からでも大学に行き直して、自分のしたい勉強をしたいなぁ!」とぶつくさ言う。

なので、アウフヘーベンというか、「勉強したい気持ち」と「勉強教えてあげたい」気持ちの両方が一挙に解決する仕事が、「塾の先生」なのでした。
塾長は、そんな大内くんの想いを充分に受け止めてくれて、
「私も、大内さんと一緒に仕事をするのが楽しみなんです。それまでに、塾をもっと立派にしておきますね!」と熱く語ってくれた。

そうなの、「町の小さな補講塾」だったこの塾は、今、羽ばたきの時を迎えている
三鷹駅から自転車で3分ほどのところに本部を持っていて、今度、三鷹台に分教室を出すそうな。
「別の物件を考えていたんですが、話し合いが難航しましてね。もう、今回は無理かな、って思ってる時に、今の場所の話が出たんです。居抜きで使ってかまわないし、内装なんかも全部すんでるんです。いやぁ、物事が決まる時は面白いように決まるもんですねぇ!」と塾長はたいそう嬉しそうだった。

昼間、2人で吉祥寺に出かけて、ヨドバシで立派な掛け時計を買った。
新教室の、塾長席の後ろに掛けてもらいたい。
飲みに行く前に塾に届けておいたんだが、授業が終わって我々に会いに来る前に、さくっと開けて見てくれたらしく、
「素晴らしい時計を、ありがとうございました。あの時計が似合う立派な教室にしたい、と思っています!」とこれまた熱く、お礼を言われた。

教員経験があるわけでもなく、学生時代に塾教師のバイトをしたことが数回あるだけの人が、いくら受験秀才だったからって、30年以上前の話だよ?
塾の講師が務まるもんだろうか?
でも、大内くんはその気で毎晩世界史の参考書を読んでるし、塾長も、酒の席だから気前よく言ってくれてるばかりでもなかろうし・・・とにかく、人にモノを教えるということそのものについていけない私には、途方もない夢の話だ。

何にせよ、60歳を超えたらなんかの方法で自分でお金を稼がないと顎が干上がる。
本来なら私もパートに出るとかして働くべきなんだが、その頃すでに64歳、無職、40年前に会社勤めの経験があります、では、これまた務まるまい。

塾長とは、あらゆる入試で面倒見てもらった息子の話等をして、あとはひたすら、新教室がうまく滑り出しますように、大内くんの、いや、我々の老後がかかってるんです!と力説し、本日の飲み会は終了。
「またひと月ぐらいしたらやりましょう!」と言ってくれる親切な塾長。
新教室の明るい未来をお祈りしてます。
あの時計をしょって、我らの街に、新しい風を起こしてください。

15年6月11日

ひとイベント終わって打ち上げで外泊中の息子と、夜中にラインのやり取りをする。
ヘンな話だが、最近、息子とは直に会うよりラインを通した方が話が通じる。
ある種のコミュニケーション障害か?とか心配になるが、実際、スマホ経由の彼は、なかなか素直な好青年なのだ。
今回は、我々の本を「データ化」(自炊)してしまったことについて。

「母さんさぁ、ものすごく後悔してるんだけど、もし母さんたちの文庫本が残ってたら、読んでた?」
「さあ」
「もう1回、買い直そうかと思うぐらいなんだよね」
「いやいや、しょうがない」
「図書館で、借りたりして読めるかな」
「うん、自分で探せる」

こんなやり取りを経て、やっと少し落ち着いた。
私は、事に当たると速いが、速すぎて自分で自分がわからなくなるんだよね。
思いっきり落ち込む性格だし。

せめて、ブラッドベリの「火星年代記」とアシモフの「ロボットの時代」、あとは「冷たい方程式」ぐらい渡しておけばよかろう。
(アルジャーノンは、高校時代に読ませた。「オチは読めていたが、面白かった」という感想だった)
大内くんには、高校時代にSFマニアの友達に、
「SFは、何から入ればいいのか?」と尋ねて、
「そりゃあもう、アシモフの『銀河帝国の興亡』だよ」と言われ、いつ面白くなるのかと一生懸命読んだけど、ついに最後までまったく面白くなくて、 SFから撤退した、という過去がある。

ついでに、ミステリマニアの友人に、
「ミステリは、何から入ればいいのか?」とまたしても尋ね、
「そりゃあもう、クロフツの『樽』だよ」と言われ、以下同文。

私にひと声かけてくれたら、それぞれ、「火星年代記」と「Yの悲劇」を薦めてあげたのに。
そしたら、今頃ひとかどのマニアになっていたかもしれないのに。
でも、それじゃマンガクラブに入らなくって、私に会えなかったかもしれないのか。
やはり、過去をいじるのはご法度ですね。

それにしても、息子は急に読書家になったなぁ。
「殊能将之(しゅのうまさゆき)」なんて、聞いたことない。
やっぱり、我々の頃にもそれなりのスタンダードがあったけど、今は今で、別の常識があるんだろう。

もう、マンガもアニメもついていけない。
小説でついて行けないものが出るとは。
ホラーなんか、読まないぞ!

15年6月12日

私が前から欲しいと思っていた「ピーナッツブックス」、つまりスヌーピーの全巻そろいを、大内くんがヤフオクで発見。
落札してくれた。
いくらだったか書くと、「そんな無駄遣いして!」と人さまから叱られそうなので、値段はナイショです。でも、高かった・・・

先に40巻までのツルコミック版を9千円で落としたのだが、その後、この「フルコンプ版」を見つけてしまったので、どうしようもない。
もう1度、ヤフオクに放流してみるか、と思案していたら、フェイスブックでそのことを知った友人が、
「他にいなければ、私が買い取りますよ」と言ってくれたので、問題解決。

そして今日、全86巻が届きましたよ。セットになって箱に入っているのに驚いた。こういう箱売りがあったのね。
普及してる「ツルコミック」のに比べると、この「カドカワ版」は小さく、文庫サイズ。薄く感じる。
これを自炊するかどうか・・・考えどころだが、そのまま置いておくスペースがない、という意味ではデータ化せざるを得ない。

私の友人の中には「これだけは、自炊しないで〜!」と悲鳴を上げてる人もいるが、その彼女本人だって、スペースがないからって40巻版を引き取れなかったじゃないか。
すべての本読みは、その懐具合にもよるが、いつか必ず「本が多すぎる」状態になるはずなんだ。
「自炊」という道に出会えなかったら、我々も困ってばかりいたと思うよ。
Mちゃん、ごめん。自炊、しちゃった。

ただ、さすがにこのウン万円の本の山を、ただゴミとして捨ててしまうのはあまりにもったいない。
大内くんの友達で、スキャナを持っていて本を自炊している人がいるので、裁断、スキャン済みの本をその人にもらってくれないか、とお伺いを立てた ら、大喜びされた。
やっぱ、ピーナッツブックスって市場に出回ってないんだね。

結婚する前に、3、40冊持っていたピーナッツブックスを処分しなくてはならず、当時、古書店でも扱ってくれなかったので、ゴミとして出したことがある。
もちろんスキャンなんて考えられない時代。
「本をゴミに出す」という行為が初めてで、とても後ろめたく、夜中にそっと出して、ふ り返りふり返り帰った覚えがある。
もう1度、しかも全部手に入るとは思っていなかった。嬉しい。

シベリア鉄道の旅をする前に、これを読んで少し語学力をつけよう。
シュルツさん、谷川俊太郎さん、ありがとうございました。

15年6月13日

大内くんの仕事に小休止があり、久々にゆっくりできる週末なので、まずはしばらく行ってなかった近所の「超安売り八百屋」へ買い物に。
袋4つ分、3千円分もの野菜を買いこんでしまった。ハンパない量。

買い物で燃え尽きたか、2人とも寝落ちして昼寝。
結局、今日はだらだらと過ごしたなぁ。
そういう時間に飢えていた、ってことか。
大内くんともたくさん話せたし。

晩ごはんを食べてから、大鍋いっぱいのラタトゥイユとビシソワーズを作る。
ナスときゅうりとタマネギとピーマンとトマトをひたすら切って切って煮込んでラタトゥイユ。
これのコツは、とにかく野菜を信頼し、絶対水を入れないこと。
大鍋に盛り上がったような野菜が、どんどん水を出して沈んで行く。
味つけは塩とコショウのみ。
冷たくしたのを食べる時、脂が白くなっておいしくないので、ベーコンとかは入れない。
あと、粒のままのニンニクを20個ぐらい入れたけど、これが煮えたのが、おいしくておいしくて。

ビシソワーズは、ジャガイモとタマネギをひたすら切って切って薄切りにし、ひたひたよりちょっと多めの水でゆでる。
鶏ガラスープを少し足す。
柔らかく煮えたら、少しずつフードプロセッサにかけて、大きなボウルに入れていく。

今回はたくさん作り過ぎて、スープだけでボウルにいっぱいになってしまったので、大きなタッパー2つに分けて、それぞれ牛乳を足 し、塩コショウで味を決める。
うーん、おいしくできたぞう。
本当は、漉してなめらかにするんだけど、家庭のお惣菜なので、そこまで凝らない。
フードプロセッサで充分。

ラタトゥイユ4リットル、ビシソワーズ5リットル。
これを、1週間かけて消費する。
味にうるさい息子も、夜中に帰るなり、
「お、スープあるじゃん。飲ませて。ラタトゥイユも食うよ」と催促。
レストラン大内「夏メニュー」、今年最初のお客さんだ。
あとは、何とか飽きさせないよう、ひと夏のローテーションを考えることだな。

15年6月15日

大内くんにiPad mini 3を、私にiPad Air 2をそれぞれ買った。
大内くんはこの3年ぐらい、ネクサスを使っていたんだけど、私としてはやはり見やすくて操作性の良いiPad miniを使ってもらいたかったんだよね。

「僕は、ネクサスでいいよ。ちっとも困ってないよ」と言う彼だが、これまで、
「キミの言うとおりにしてよかった。すごく便利になった!」と何度、口走ってきたと思うのだ。
レコードをCDに買い替える時も、自転車のライトをLEDにした時も、
「えー、今のままでいいよー」とめんどくさがるところを説得してきた。
そして、常に上記のセリフを勝ち取ってきた。

今回も、ブツが届いたとたんにコロッと態度を変えて、
「やっぱり、きれいだねー。見やすいし、速くていいね!買い換えてよかった!」と、どの口で言うか!

朝、早起きして仕事をしている大内くんの後ろの椅子で、アマゾンやフェイスブック等、必要なアプリを入れておいてあげる。
結構めんどくさい作業である。

何事にも大雑把な大内くんは、画面に貼るフィルムを、いきなりシール部分全部はがして、そのままminiの画面に貼りつけた!
もちろん、気泡だらけ。
普通、少しずつはがして、貼りながらやっていくよね?
「失敗!」と言って、またはがしてもう1回やったもんだから、今度はホコリやゴミが入ってしまい、出来上がりとしては表面ボコボコのとんでもない状態。

「大丈夫。これで行ける」と言う彼はほっといて、黙ってアマゾンにもう1枚フィルムを注文しておく。
明日、届いたら、自分で貼りなおしてね。

15年6月16日

新しいフィルム、うまく貼れたらしい。
「代わりに貼ってくれない?」って頼まれて、私は人の頼みごとを断るのがキライだし、まして大内くんには日頃とってもお世話になっているので、 やってあげたいのはやまやまだったんだけど、失敗した時のダメージが大きすぎる気がしたので、こればかりはお断りさせていただいた。

フィルムとホルダーが届き、万全のiPad態勢でご機嫌な大内くん。
「いやぁ、やっぱり、iPad miniはキレイだねー。速いし。ネクサスは、ページめくりがちょっと遅くて、それが気になってたんだよね」と、 また舞い上がっている。
高い買い物をしたんだから、大いに舞い上がってもらいたいとは思うが、だから、買い換えろと1年ぐらい前からずっと言っていたんじゃないか!
本当に、この人は人の言うことを聞かないなぁ。
外目にはそう見えないから、私はとっても損をしていると思うよ。ぷんぷん。

15年6月17日

今日は26回目の結婚記念日。
お互い、ほとんど忘れていた。
実際、ご馳走作るどころか、大内くんは接待で遅い。1人で残り物を食べる晩餐だ。

数日前に大内くんに、
「今度の水曜日って、何の日か知ってる?」と聞いたら、
「え?なんか、特別な日なの?」と聞き返して、冷蔵庫に貼ってあるカレンダーをふり返って見て、「あっ、ああああっ!」と叫んでいた。
いいんだよ。私だって10日ぐらい前に思い出したんだもん。

26年前、キャンドルサービスの最後に火を灯した大きなキャンドルを式場からもらったので、私が毎年律儀にひと目盛りずつ燃やしていたのだが、 20年と25年の間は、刻みがない。
そして、25年の銀婚式と50年の金婚式の間は、5センチぐらいすこーんと大きく飛んでいて、何の刻みもないのだ。
大内くんは、
「夫婦が倦怠期に陥りやすいこういう時期こそ、毎年目盛りを見て心を新たにしたい。手抜きだ!」と言って怒っている。
記念日、忘れてるくせに。

これからまた1年、助け合って暮らして行こう。
だんだん老境に入っていくけど、最後の最後まで一緒にいよう。
私は大内くんと結婚できて、本当に幸せだ。
今後も、この幸せを大事にしていきたい。

15年6月18日

私が新しく買ったiPad Air2が届いたので、今日は1日中、電話の前で、アップルサポートのおにーさんやおねーさんに世話をかけながら、何とか設定をこなした。
忙しい大内くんにはあまり頼みたくないので必死に自分でやったわけだが、くたびれた。

でも、新しいAirは驚くほど軽い。
今までのiPadと持ち比べると、「ウソっ!なんでこっちはこんなに重いの?!」って感じだ。
見た目もスマートだし、買ってよかった。
今年の夏は旅行に行ったりする予定もないから、大内くんのminiも合わせて、お互いの誕生日、クリスマス、結婚記念日、すべてのプレゼントをブ チ込んだ結果。

それに、息子に使わせてあげてたiPad2を、彼が自分のカノジョに貸してあげちゃってから、ずうっとiPhoneの小さな画面を眺めてたんだよ ね。
そもそも自分のでもなく、親から借りていただけのものをいかにカノジョにとは言え、勝手に貸すなよ!とは思うものの、Huluの映画とか、いっぱい見てもらいたいし、YouTubeでお笑いも見たかろう。
今回、私が新しいの買ったから、今まで使っていたのを息子に貸してあげられるよ。

夜中に帰ってきた息子に、
「これ、しばらく貸してあげるよ。母さん、新しいの買ったから」と古いiPadを渡したら、
「えっ、いいの?悪いなぁ。すまないねぇ」と言いながら、嬉しそうに画面を眺め始めた。
i文庫HDに残してあった、手塚治虫の「陽だまりの樹」を読んでいるらしい。
あれはいいマンガだ。読んでもらいたい。

これでまた、家族みんなで「iシリーズ」だ。
息子が、片手でiPad持ってるのを見ると、「あの重いシロモノを・・・」と今さらながら彼の腕力に感心する、Air使いの私。

15年6月19日

電子まわりのことをいろいろやっていたら、アドレスとかパスワードとか、もうぐちゃぐちゃになっちゃって、過去に間違えて入力してるとか、無茶苦茶なので、昨日から、アップルサポートの人たちと何度も電話で相談した。
数年前のアップルサポートのにーちゃんと言えば、ライトなホストクラブに行った気分になるぐらい、優しくて自信にあふれて安心感を与えてくれたものだが、今回当たった、どの人もけっこう質が落ちてたなぁ。

「お客さん」が何を言い出しても驚かず、
「それでは、大内さま、一緒に操作してまいりましょう」と言っていたのに、今回、あからさまに困惑し、
「お客さまのおっしゃってる意味が、ちょっとわかりかねますが・・・」と弱音を吐いていた。
私の言うことがあまりに低レベルなのは重々承知だが、この水準の下がり方は、いったい何だろう?

しかし、私の「問題」が度を超えていたのでついに出てきた「スペシャリスト」の「カワサキさん」はさすがに達者だった。
どういう魔法を使うのか知らないが、彼の指示通りにしていたら、うちのパソコンの画面に、彼が出す赤い矢印が見えるようになった。
それを使って、どんどん指示を出してくれる。
久々の安心感だ。
問題も解決したし。
(実は、問題の大元は、私が「誕生日」を入れるべきところに「結婚記念日」を入れていたことであった、と判明)

これで心置きなくマンガが読める。
今日は大内くん、早く帰るって言ってたし。
息子が夜勤のバイトでいないのは少し寂しいが、まあ、夫婦で週末を迎えよう。

15年6月20日

息子が出るお笑いライブを観に、新宿に行った。
こういうものに行っても怒らなくなったのが、最近の一番ありがたい変化だなぁ。
来月はサークルの後輩との「合同ライブ」があるし。

どっちも、「席の取り置き」からやっておいてくれる。
「なに勝手に見に来てんだよ!おめーらみたいな年寄りは、いねーんだよ!自分で、恥ずかしくねーのかよ!」と大内くんの襟首を掴んでいた頃を思う と、本当にもう・・・月日って、流れるものなんですねぇ・・・

今回のは松竹がスポンサーの「大学生お笑い大会 vol.1」で、1位だとプロと同じ舞台に上がれるとか、3位以内に入ると来月ある次の大会にも出られるとか、そういう系ごほうび。
3回出て1位になったら、10万円の賞金がもらえるらしいし。
でもなー、入場料2千円は高いよ。前売を買っといたので1500円ですんだけど。
「若手を発掘しつつ、動員された友達からお金を吸い上げる」というプロダクションの思惑を、ガンガン感じたよ。

漫才ありコントありピン芸ありの20組のお笑いを見せてもらって、息子のは、もう何回も見たことのあるネタだった。
YouTubeでも見られるから、一層よく見る。
細かいとこを変えてきてて、練り上げてるのは感じたけど、他の人たちと比べると、うーん、息子の芸風は、良くも悪くも「上品」なんだよね。

この「上品さ」というものは、持っていない人は持っていないし、急に身につくものじゃないから、彼と相方のすごい財産ではあるんだけど・・・今回 は、裏目に出たね。
もちろん上位3組にかすりもせずに終わりましたよ。

客席から回収した得点表を集計している間、学生芸人たちは舞台上に並び、プロ芸人のMCにいろいろ「いじられる」。
今回、息子は、プロフィールに「柔道の有段者である」と書いて、アピールしていた。
MCのにーちゃんに、
「えーと、『柔道の有段者』と・・・どっちがですか?」と聞かれて、息子が、
「はい、僕です。小中高と柔道やって、今、2段です」と答え、いちおう会場の拍手をもらった。
ちなみに、相方のウリは「日本史オタクであること」なのだそうだ。
「京都は」「あ、伏見城ですね」「千葉は?」「久留里(くるり)城です」という問答をしていた。
もうちょっと、「日本史あるある」のネタを仕込んでおけばよかったのに。

息子もそうだし、他のあらゆる学生芸人たちに共通して言えることは、「人様に見せる、ということをもっと意識せよ」という点。
芸だけじゃなくて、いつマイクを向けられても「面白い」ことが言えなきゃ。
それができていたら今頃、学生なんかやってないのかもしれないが。

まあ、とにかく息子の舞台が見られてよかった。
会場のすぐ近くにある「サムラート」でごはん食べて帰った。
7月にはライブが2つあることまでは知っている。
もっとあるかもしれない。
せっかく息子から「見に来てもいいよ」と言われているライブは、大内くんの仕事が入っていて、行けないのだ。さめざめ。
「毎月1度、必ず新ネタ」というシバリのライブなので、新ネタが見たければ行くべきなんだが。

もうじき試験で、それが終わると長い長い夏休みが始まる。
夏休みは、お笑いの大会も多く、見に行くのも演じに行くのも大変だろう。
「なんであんなに『お笑い』が好きになっちゃったのかねぇ」と我々にとってはいつもの疑問符が頭のまわりを飛び交っている状態で、もしかしたら、 息子にとって、 「最後のお笑いの夏」になるかもしれない。
来年の今頃は就活のはずだからね。
単位はギリギリだし、どういう就職をしたいのかさっぱりわからないけど、黙って見てるしかないよ。
親なんて、無力なもんだ。

15年6月21日

以前、三鷹市の民家を改造して催し物の会場に使っている場所で、「柳家喬太郎さん」の落語を見た。
面白かったのでまた行きたいと思っていたら、バスの中で広告発見。
近所で、8月に公演があるらしい。
「星のホール」という、前から1度行ってみたかった会場だ。

大内くんは「友の会」かなんかの会員になってるそうで、少し安くなる。
申し込み受付始まりの今朝、朝一番に電話して、チケットをゲット。
1枚2500円。高いのか安いのかはわからない。
いっぺんに4枚買えたので、前にも一緒に喬太郎さんを聞きに行った友人男女を誘ってみた。
2人とも、すぐに「行きたい!」という返事をくれた。
最近、みんな返事が速いなぁ。ネットの発達のせいだろうか。

そのあと、買い物に行き、近所の安売り八百屋でとても大きなスイカを買った。
「2千円」という値札にバツをつけ、「千円」と書き直してある。
安く見せようという常套手段だとわかってはいるものの、そのスイカは本当に大きかった。
普通、この大きさでこの値段ってことはあり得ないだろう、と思い、買った。
ついでにジャガイモとタマネギを買って、またビシソワーズを作ろう。

自転車の後ろの大きなカゴにスイカを入れたのはいいが、なにせ重いもんだから、自転車が少しでも横にぶれると、後ろで大質量が横に移動している感覚がある。
狭い歩道を走るのも、車がびゅんびゅん通る1車線の道路を走るのもコワイ。
家に帰るまでの途中、裏道に入る曲がり角があるので、とっとと曲がっちゃおう。

と思っていたら、先に行く大内くんが、曲がらない!まっすぐ行っちゃう!
「曲がらないの〜?!」と叫びながら私は曲がり、そこでふらついて、転んだ。

すってんころりんと転んだ、というよりは、ゆっくり横に倒れたので、後ろのカゴをつかんで接地をゆるやかにするゆとりがあり、スイカは無事だっ た。
自転車を立てて、スイカを積み直し、前のカゴから転げ出したジャガイモを拾って袋に戻して、すぐに家の近くの信号まで走る。
困惑した表情の大内くんが、待っていた。

「ひどいじゃん。どうして曲がらなかったの?!」と責めると、
「ごめんね。なんとなく、まっすぐ行っちゃった」。
私の大キライな、大内くんがよく使う言葉、「なんとなく」がここで出るか?
「あせって、転んじゃったよ。スイカは無事だったけど」と怒る。
大内くんも、私とスイカの両方が無傷なのでほっとしたらしい。
「自転車で車道を走るのは危ないから、裏道から帰れば大丈夫と思ったのに。いつもは曲がる角なのに、どうして!」
「・・・なんとなく」
あああ、もう、その言葉使うのやめて!

不毛だから、それ以上言わずに帰ったけど、この人は「なんとなく」会社に行き、「なんとなく」仕事をしてるんだろうか。
私はある意味リアリストなので、彼が仕事できてるかどうかは給与明細に書いてあると思う。
そして、給与明細は、「彼はそこそこ有能である。不満は捨てて、大切に扱うべし」と語りかけてくる。

やや機嫌悪くはあるものの、苦言をのみこみ、スイカを冷蔵庫に入れようとしたが、残り物を食べちゃわないと場所がないなぁ。
とりあえずお風呂に水を張ってスイカを放り込み、残り物を昼ごはんとして食べた。
スペースが空き、「やや冷えた」スイカを2つに切って、それぞれラップをかけてレジ袋に入れて、冷蔵庫へ。
大内くんはこれからパソコンに向かって仕事をすると言う。
やはり、好きなだけスイカを買える今の生活が誰のおかげなのか、よーくかみしめて、ガマンできるところは、するんだろう。

どうしても少しは怒っていたが、騒ぎの中心とも言うべきそのスイカは、とっても甘かった。
いい買い物だった。
この夏、これ以上のスイカはあるまい。
と言うか、これまでの50余年の人生で、これほど安くて大きくて甘いスイカを食べた経験はない。
一生、「大内くんに腹を立てたが、スイカはおいしかった」と思い起こすかもしれない。
怒った部分についてだけ、記憶が消去されるよう祈っている。

15年6月23日

朝、授業に間に合うように起こしてくれ、と言っていた息子を起こそうと声をかけていたら、
「うるせー。死ね」と言われた。
3年ぶりぐらいかなぁ。
昔は毎日のように言われていたので耳がバカになっていたが、今、あらためて聞くと、ひどいことを言われているもんだ。

やがてのそりと起きてきた彼は、「すまんかった」とつぶやいてそのまま大学に行ってしまい、夜になってから、
「親不知が生えてきて、痛くてたまらなかった。機嫌悪かったから、ちょっと言い過ぎた。気にしないで」とメールを寄こした。
気にするな、って言ったって、言われる方はイヤだよ。
そりゃ、歯が痛いのは気の毒だけど、まだ「反抗期」が終わってないとは驚きだ。

私の行きつけの歯医者さんが遅くまで開いているので、行くように言ったら、帰りに寄ってきたらしい。
親不知は、「口腔外科」のお医者さんでないと抜けないことが多いので、どうなるかと思ったが、お茶の水の大学病院に紹介状を書いてもらったので、 明日、行く、と言いながらすぐに寝てしまった。
相当痛むらしい。
彼が、家でのんびりソファに横になってiPad見てる、ってのが当たり前の風景なので、早々に自室に引き取る、なんて、よくよくのことだ。

「明日、抜くの?」と聞いたら、
「いや、たぶん、検査だけ」と言うので、痛み止めぐらいはもらえるかもだけど、しばらくこの難儀と付き合うってことだね、彼も我々も。

15年6月24日

昼頃に起きて、お茶の水の大学病院に親不知を診てもらいに行ったので、夕方頃、「どう?」とラインを入れたら、「抜いてもらった」と簡潔な報告。 早い。
夜、帰ってきたけど、痛くて食事もままならないらしく、「お粥」を少し食べただけで、早々に寝てしまった。

明日は近所の歯医者さんで「経過観察」、その後数日したら、また大学病院に行って「抜糸」してもらうらしい。
当面、私の仕事は明日の歯医者の予約に遅れないよう、起こすこと。
また「死ね」とか言われるのかなぁ。

大内くんは怒っていて、
「そんなひどい人を起こしてやることないじゃない!」と言うが、それによって次に歯医者さんに行くのが遅くなって治療が長引いたり、授業に起こさなければ留年して、泣くのは親だし、大内くんの言うような報復的な行為は結局こっちのためにならない。
覚悟して、ガマンして、起こします。

15年6月25日

宮部みゆきの「悲歎の門」上下を読む。珍しく、新刊書で買ったのに、青池保子の「エロイカより愛をこめて」「アルカサル−王城−」を読み返したり していたのでなかなか順番が回ってこなかった。読み始めたら面白くて、ぞわぞわしながら読んでいた。
主人公の「コウダッシュ」というあだ名がいい なぁ、こういうとこで読ませるのが、宮部流だよなぁ、とか思った。
(部活に、「コウ」と呼ばれる男子が2人いたので、五十音順で後になる主人公が、「コウその2」という意味で「コウダッシュ」と呼ばれるように なったのだ。面白い設定)

でも。
途中から、少しがっかり。「『英雄の書』の宮部みゆきが」みたいに帯に書いてあったから警戒はしていたんだけど、これは、私が苦手とする宮部みゆ きのある側面、「異世界モノ」だったか。やはり。

ファンタジーや異世界のまったく入らない、人間社会の小説は大好きなのだが、「ICO」とか「英雄の書」「ブレイブ・ストーリー」の系列は苦手なんだよなぁ・・・「過ぎ去りし王国の城」も、だから買ってないわけで。

結局、失速して着地してしまい、ラストまでの高揚感どころか、書いてあることの意味も判然としないまま、とぼとぼ歩いてゴールイン。読み終わった ことは終わったが、大変不満足な結果となった。

非現実的なのは、「小暮写眞館」ぐらいまでが限界で、むしろとことん現実的な方がいいのだ、宮部みゆきは。
人によっては「ソロモンの偽証」なんか、現実的とは言えない、と言うかもしれないが、いちおう、物理法則に則った世界の話だからね。高いとこから落ちたら、人は死ぬし。
まあ、もしかしたら彼女は、あまり現実的でない小説の方が多いのかもしれない。
あたえりまえに「火車」から入ったので、犯罪小説の人だと思ってここまで来た が、実はファンタジー作家なのかも。
ミステリが読みたければ、東野圭吾の方が、無難か。

何度目になるかわからない浦沢直樹の「MONSTER」を読んだはいいが、これまた何度読んでも意味がわからない。
大内くんに聞いたら、「僕は、 理解できたかどうかまで含めて覚えてない。意味がわからない?じゃあ、わかるまで読むしかないんじゃない?」という返事だったので、なんとなくやけくそになって、「美味しんぼ」を1巻から読み始める。
今、65巻ぐらい。100巻以上あるんだよね。まだまだ終わらない。
でも、これなら少なくとも、理解できないということだけはなさそうだ。

いや、ひとつだけわからない。上は双子の3人のコドモを育てながら、大新聞社の第一線で共稼ぎができ るのはなぜ?
海原先生のとこのおチヨさんとか、実家のご両親のおかげ?最後まで読んだらわかるのか?

15年6月26日

大内くんが床屋に行っていてヒマなので、大量に買ったジャガイモとタマネギでビシソワーズを作る。
なんか張り切り過ぎちゃって、5リットルもできてしまった。

翌朝、息子の朝食に出したら残したので、「どうしたの?」と聞いたら、「味が濃い」という答え。
うん、確かに塩を入れ過ぎたんだ。
よくわかるヤツだな。

牛乳を足して、塩味を薄くしたら今度は飲み干してくれた。
この人の、この味覚の確かさと野菜重点主義はいったいどこで培養されたものなんだろう?
大内くんの両親は健康志向が強いが、そんなもん、遺伝するとも思われないし、そもそも大内くんに遺伝してないし。
悪いことではないので放ってあるが、彼の未来の妻は苦労するかもしれない。

15年6月27日

息子が帰って来ないので、どうしたかと思ったら、今度自分たちで企画して行うお笑いの「合同ライブ」のため、何やら撮影をしていたらしい。
めずらしくもないことだけど、朝になっても昼になっても帰って来なくて、夜になってやっと帰ってきたその翌日、まったく起きられなかった。

授業は休みだからいいようなものの、11時に歯医者の予約が入ってるじゃないか。
例によって寝る前に「明日、10時に起こして」とか頼まれたので起こすと、
「もう15分」「もう5分」というパタンで、全然起きない。

「歯医者さんに行くんでしょ?予約取ってて行かないと、迷惑になるよ。起きなさい。起きて、歯医者さん行きなさい」と何度言ってもダメ。
もう、起きられない。
無理やり起こそうとすると、
「あ、もう起きない。行かない」と、いつものように「自分を人質にとる」。
「起きて、行ってほしいんだったら、オレの言うこと聞けよ」ってことだ。
この場合、行かなくて不利益を被るのは彼本人なんだが、これが授業だったりすると、「もう行かない」と言われるとすごく困っちゃうんだよね。

仕方ないので、
「行かないんだったら、キャンセルの電話だけはしておきなさい」と言うと、驚いたことに、「電話、しといて」ときた。
22歳になろうかっていういいオトナがさぁ、歯医者のキャンセルの電話、親にかけさせる?
さすがの私も、恥ずかしくて、電話できなかった。無断キャンセル。

さらにそのあと、友達と約束があるようだったので引き続き起こしていたが、あまりにも起きないので、もうほっといた。
私も昼寝して、起きたのが夕方の5時頃。
息子、まだ寝てる。
声をかけたら、さすがに起きてきた。
今日は夜勤のバイトだ。
黙ってごはん食べさせて、送り出す。

「しかし、息子は起きないなぁ。怒るし。どうしよう」と考えていたら、彼からラインが入った。
「今日の朝は、ごめんなさい」
急にしおらしくなるんだからなぁ。
ここぞとばかりに、
「寝てる時は聞いてくれないから、起きている今、言うけど、あなたの態度は非常に悪いです。母さんは、悲しいです」という内容の長いメールを書 く。

「これからは自分でも努力して起きてください」と結んだら、「はーい」という、返事だけはいいなぁ、ってな感じのレスが来た。
「起きたくないのに無理に起こすから、母さんのこと、キライになるんじゃないかと心配」と言ったら、返ってきた返事は、
「それは絶対にないから」というもの。

いやぁ、はっきり言って、私は息子との間に恋愛感情を持ち込んでるね。
恋人から言われたように、全身に電流が走ったよ。
「オマエのこと、キライになるなんて、マジあり得ねーじゃん」と言われて喜んでる頭の悪いJKみたいな状態になった。

帰ってきた大内くんに、今日の顛末をすべてぶちまけると、
「苦労したね。かわいそうに。でも、よかったじゃない、息子に『絶対キライにならない』って言われてさ」という返事だったので、
「これって、恋愛感情じゃないかねぇ。私、大丈夫なんだろうか」と訴えたら、からからと笑って、
「大丈夫だよ。絶対カノジョに取られちゃうんだもん。失恋が待ってるだけだよ。そしたら僕が慰めてあげるから、安心して息子のこと、好きでいればいいよ」。
正しいが、何やら腹立たしい。

ま、親は、異性のコドモに恋をするんだよね。
だから「一発殴らせろ」っていうような「花嫁の父」が出現するんだろうし。
私は、息子への恋情を否定はしない。
「在るもの」を否定すると、欺瞞が生まれる。
欺瞞より、失恋の方がよほどガマンしやすいよ。

ただ、これ以上留年させないためには私が起こす以外の選択肢がなく、それを「どうなっても自己責任」と言い切るほどキップのいい親ではないのだ、 私も大内くんも。
そして、それがバレてるため、息子に完全になめられてる。
すべてわかってはいるのだが・・・
最近では、大内くんまで、
「会社に入ってしばらくぐらいは家から通ったらいいかも。そしたら僕が起こしてあげられるし」と、完全に何かを踏み抜いたようなことを言う。

コドモを持って正気でいる。
これはあんがい難しい。
少なくとも、「我々は立派な親だから、そんなこと当たり前にしてるし、できてる」と思い込むのはイヤだ、と、自分たちの親世代を見ていて強く思 う。

15年6月28日

iPad mini3が好調で機嫌のいい大内くんは、とうとう「鋼の錬金術師」を読み始めた。
通勤の行き帰りだけでこの30巻近い大作を読むのはなかなかタイヘンだろうと思うけど、本人は、
「面白い!今でもマンガは生きてるんだなぁ、って思うと嬉しいよ。この、荒川弘という人は、すごい才能の持ち主だね。美大とか出てるのかな?」と 聞く。

北海道の農業高校出身で、特に美術的な勉強をしたことはないはずだ、と私が知り得た情報を全部渡したら、たいそう驚かれた。
「月刊初連載でこのクオリティ!しかも合間に2人もコドモを出産!」
それで驚けるなら、週刊初連載になる「銀の匙」も読んで、
「ハガレンを描ける人が、普通の農業高校の学園モノも描ける!」というところにぜひ驚いていただきたい。

時々、「どこまで読んだ?もう他の錬金術師とは会った?」
「うん、焔の人に会った」とか会話してる。
私はすでに5回ぐらいは読んでいるので、ぶらぶらと大内くんを待ちながら読む。
「綴命(ていめい)の錬金術師」の話が一番好きだ。
大内くんも、
「重いね。大したストーリーテラーだ」と言いながら読み進んでいるらしい。

「銀の匙」も息子に教えてもらって読んでるし、「負うた子に教えられる」とはこのことか。
「ハガレン」は、月刊連載が終了する時、あまりの人気に掲載誌が売り切れになり、翌月、もう1度掲載するという異例の措置がとられたそうだ。
当時、小学校5年生ぐらいだった息子も、「2度目の最終回」が載ってる雑誌を買ったらしい。
「もちろん、もう読んじゃってたけど、どうしても欲しくて」と語るその掲載誌が、本棚に長いこと置いてあった。
小学生にとって1カ月待って次号を買う、というのは、ずいぶん忍耐力が必要だったことだろう。
そのことひとつとっても、「ハガレン」が大したマンガだったのだなぁ、と思う。

今、大内くんと2人で読めるのも、自炊したおかげだ。
昔に比べてマンガは長編化しており、「大人買い」したりするとあっという間に本棚がいっぱいになってしまう。
私は長編が好きなので、スペースを気にせず「全巻ドットコム」で買えるのが嬉しい。
「ドカベン」の「プロ野球編」なんて、持っててもまだ読んでないもんなぁ。
老後の楽しみに取ってあるけど、老眼が進んで読めなくなると困るから、今のうちに読んでおくか。

15年6月29日

息子は今、大学4年生。
本来ならば就活を行っているはずだが、1、2年生の時に単位が足りなかったので、留年が決定しており、就活は来年になる。
「ものをつくりたい」とは言うが、製造業に行きたいわけではなく、何やらクリエイティブな仕事がしたいらしい。
なのに特に取りえがあるわけでもない文系の彼のため に、大内くんは去年から、
「父さんの友達で、クリエイティブな仕事をしている人と、会社の接待施設でスキヤキをつつく会」を実行してくれている。

もちろん、まだ就活というほど生臭い話ではない。
むしろ、その時期になったらかえって会いにくい先人たちの叡智を、「学生」でしかない今のうちに少しでも吸収させてもらおう、という趣旨だ。
これまで、NHKの人と、ゲームソフト会社の人に会ってもらった。

今回は、おそらく大内くんの持ち球も最後となり、宝塚のプロデューサーを務める大物の出現だ。
大学のまんがくらぶで知り合った彼(Kさんとしておこう)は、ある時期から宝塚が好きで好きで、でも男の悲しさで入団はかなわず、それならばとにかく中へ入ってやれ!と一大決心をして、就活で粘りに粘って入ったのが阪急電鉄。
いや、とにかく優秀な人なので、入ろうと思えばどこでも入れたと思うが、本人は、宝塚のことしか頭になかったらしい。

もちろん阪急電鉄と言えば電車の会社だ。
宝塚を持っているからと言って、すべての社員が宝塚に関われるわけではない。
まったく別系統の仕事に特化して行ってしまう危険は常にあったのだ。
そんな、「出世してしまう」恐怖と戦いつつ、まずは車掌さんも経験し、あらゆる仕事を有能にこなす。
そして、会社へは、事あるごとに「宝塚を希望します!」と言い続けて10年。
ついに、Kさんは、宝塚に異動になった!

その間の苦労、更にはその宝塚がどれほどショービジネスとして完璧であるかを、息子にたっぷり聞かせてくれたようだ。
我々も、Kさんを知っているので、息子に常々、
「好きな道に入るためには、全然関係なさそうなところをぐいぐい登って行く必要がある時も多い。目先にぶら下がったものだけをすべてと思わず、いかに現在地点から目的地へ行くかを意識せよ」と教育してきたつもりだが、やはり、ホンモノの迫力はすごい。
我々の仲間には時々「やり遂げちゃった人」が出現するが、Kさんはその最たるものかもしれない。

もっとも、「出世しようと思って役所に入って、思惑通り出世した人」とか、「銀行に入って出世しようと思ったら、実際に偉くなっちゃった人」とか にも事欠かないんだろうけど、息子はそんなガラじゃないし、大内くんはどうか知らないが、少なくとも私は、世間でいうところの「出世」というものにみじんも興味がない。

たとえば大内くんが今の会社で社長になるとする。
そうすると、私は「社長夫人」になってしまう。
それこそガラじゃないし、なりたくない。自分の実力と関係ないところで人に注目されるのはイヤだ。
また、大内くんがそのために家庭を犠牲にしなければならないとすれば、即座に出世の方を切り捨ててしまいたい。
家庭が崩壊するまで働くことはないじゃないか、と思う。
(ま、どの道たいした出世はしないんだから、無用な心配というものだが)

なので、Kさんのように「単なる出世」をしたわけではなく、「自分の好きな道を堂々と歩いている」人を尊敬する。
息子も、良いお父さんを持ったものだ。
普通なら会えないような立場の人たちを「友達だから」「知人だから」と言って自分の息子にひとりひとり会わせてくれるなんてお父さんは、意外といないと思うよ。
「就職のコネをお願いする」お父さんはまた別の話だし。

Kさん、ありがとうございます。
それから大内くんも、ありがとう。
息子の未来が拓けて行くよう祈る母親として、2人に感謝、です。

15年6月30日

昨夜、Kさんと別れた後、素晴らしい経験をした息子はちょっとボーっとなっていたようだ。
前に会ってもらった2人の時も、同じようにボーっとし、
「オヤジの仲間はすごいなぁ」と嘆息していたようだが、今回のこれはまた特別だったらしく、終わって、てっきり1人で勝手に帰るだろうと大内くん が思っていたら、
「『くぐつ亭』で、ちょっと飲んで行かない?」と誘われちゃったそうだ。
それは、吉祥寺の「くぐつ草」のことだね?間違えて覚えてるよ。

実際には10時近かったので「くぐつ草」はカンバン、「John Henry's Study」に行ったらしい。
さっきまでスキヤキを食べていたというのに、
「何か食いたいな。スパゲッティ頼んでいい?」と言う、オソロシイ胃袋の持ち主。

小一時間、息子とスコッチのオン・ザ・ロックをちびちびやりながら、大内くん的には大興奮だったそうだ。
「息子に、飲んで帰ろう、って誘われるなんて!しかも、ものすごくいろんな話をしてくれるし!」
いや、ホントにね、帰ってきた大内くんから聞いても、信じられないぐらいの量の話をしたようだよ。

特筆すべきは、
「カノジョと、結婚することを考えている。それもあって、就活はちゃんとしないと、って思ってる。芸人志望(すでに事務所に所属しているので、プ ロなんだそうだが)のカノジョを支えてあげたいし、2人いて、同じことしても面白くないでしょ。別々のことをするから面白いんだよ」というわけで、彼は彼で好きな会社を選んで就活したい、ということだった。
ついに「結婚」と言う言葉が出たかぁ。感無量だね。
若い2人の人生が、思い通りに希望に満ちたものであることを祈るよ。心から、祈る。

めずらしく私の話をしてくれたと思ったら、
「あの人も、なんかの才能があるんだと思うんだけど、はっきり出てこないね。頭が良すぎる人の欠点で、考え過ぎちゃうんだろうね。何か、書いても らいたいなぁ」。
なんでそんなことを?と思ったら、何事にも理由がある。

先日、iPad Air 2を買ったので、古いiPadをカノジョに貸してあげてしまってる彼のために、私が使っていたのを貸してあげた。
「そこにさ、オレの、子供時代のことが書いてあるんだよね」
うわー、日記を、見られちゃったかぁ!
「すっごい文章うまかった。こないだ俵万智の子育てエッセイを読んだけど、まったく同じレベル。うまいよね〜」
プロと比較してうまいと言われるとは、ありがたい評価だ。

大内くんは、
「キミもオトナになったね。思春期に、そんなもん書かれてるの見たら、『うぎゃー!』ってなって、iPad叩き割ってたんじゃない?」と言ったそうだが、息子もにこにこして、
「そうだねー。自分でも、ずいぶん変わったもんだと思うよー」と言っていたらしい。

スコッチを飲み終わり、際限ない食欲も少しおさまって、「じゃあ、帰ろうか」と店を出たその時、大内くんは、息子にハグされたそうだ。
「路上でね、人もいっぱい行き交ってるんだけど、『ぎゅー』ってしてくれたよ。嬉しかった」と語る大内くん、今夜はホントに良い目にあったね。うらやましいよ。
でも、私も、
「母さんのこと?好きだよ。そう見えない?当然、好きだ、ってふうに見えるでしょ?」と言ってもらえたようなので、満足しておこう。
素晴らしい夜だった!

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