18年2月1日

雪の予報が今のところ雨ですんでいる2月初めの日、おなかにくる風邪をずっとひいている。
ノロかとも思うが、会社でも風邪の人が多いのだそうだ。
大内くん自身、私から感染したのかずっと「ゆるい」んだって。気の毒に。
腸は弱いが胃が丈夫な彼は、こういう時でもあんまり吐き気はしないらしい。
私は胃が弱いようで、かなり吐き気がしてツラい。
上から下から、である。先週もそんな感じだったなぁ。

寝こんでいるし、週末は雪で車を出せない恐れがあるため、買い物は西友に宅配を頼んだ。
来週は外食の予定もあるし大内くんが遅い日も多いので、ステーキとお鍋とたこ焼きができる材料をそろえておいて、あとは冷凍庫の食材でなんとかなるだろう。
それよりも私のおなかは大丈夫かしらん。

昨日、1月分の家計簿を〆たら、予算を少なめに立てたにもかかわらず大幅な黒字が出てしまった。
前年比60パーセントなのは息子におこづかいを渡してないからだろうなぁ。
(代わりに生活費を出しているのは別の計算になるのでした。こういうのを粉飾決算と言うのだろうか?)

「先月は生活費がとっても少なくすんだんだよ」と喜んで大内くんに報告したら、
「1月は12月に買った食材でおせちを作って食べてるから、毎年黒字が出るんでしょ?」と言われた。
少し鼻白むと、
「キミが毎年言ってるじゃないの」と笑う。
夫が家計をよく把握しているのか、妻がよく説明しているのか。
いずれにせよ、我が家の家計は安泰だ。

去年の暮れにケータイのプランを変更したうえ1月から息子の分を彼の口座からの引き落としにしてもらったので、大内くんと2人分のケータイ代はとっても安い。
息子もプラン変更すればいいのに。
料金が引き落とせなくて止まってしまうのが怖いんだが、ここしばらく電話をしてないから、彼のケータイが生きてるかどうかは不明。
バイトを始めたと思うんだけど、週に何回働いているのか、お給料日はいつなのか、全然わからないからなぁ。

5日ほど前にメッセンジャーでやり取りをした時に、月曜日に私が吉祥寺でお昼を食べているから都合が合えば一緒に食べよう、と誘って「はーい」と言われたし、10日前に訪ねてきた時には今週末お鍋を食べにおいでと言っておいたんだが、あらゆることがその時その場での彼の都合次第で、確定ではない。
会うことができたら収入について聞いてみたいんだけどね。
向こうは、自分や親が今月食べていけるか、なんて心配はしたことがないわけで、これはいささか不公平だと思うのは親としてオトナとして変だろうか?

18年2月2日

予報通り、夜中から雪が降り始めて朝にはかなりの勢いになった。
今朝は仕事があって4時起きした大内くんと窓の外を見て「うわー」と言っているうちにもどんどん積もる。
おなかが痛くてうんうんうなっている私を気の毒そうに見ながら大内くんは7時には家を出てしまい、1日寝ているしかなかった。
でも、めんどくさいのでお昼はラーメン。いいのか?

わりと本格的に風邪だ。おなかも痛いがのども痛い。
熱は出ないので、インフルエンザではなさそう。
病院に行こうかとも思ったけど、雪だし、混んだ待合室でインフルをもらったりしてもつまらないので、市販の漢方風邪薬と前回のノロの時にもらったおなかの薬をのんでひたすら寝る。

その甲斐あって夕方にはおなかは少し良くなってきた。
まだ咳は出るけど、少しぐらいの外出ならできそう。
雪もすっかりやみ、途中で雨になったのが幸いしたのかマンションの敷地内に積もっていた分もかなり溶けてくれたから、明日晴れていれば、車を出して図書館に行けるかな。
先週予約した本が次々届いているとメールが来たから、借りに行かなくちゃ。
なんと貸出の上限は1人20冊。
10冊だと思い込んでいたので大内くんのカードを少し借りたんだが、余裕だった。

しかし、来週は私にしてはお出かけの予定が詰まっているので、週末のうちに風邪を治しておかなければ。
食料も宅配で買い込んだし、読むものもいっぱいある。
テレビの録画も溜まりまくり。
久々になんの予定もない休日なので、大内くんと思いっきりごろごろと過ごそう。

そんな時に、最近は「老後」の夢をみてしまう。
「しなければならないこと」が何もなくなって、「したいこと」だけをする日々。
来年還暦になる専業主婦の私にとってはそう遠い話でもないんだが、まだ会社の定年まで5年以上ある大内くんには先の話なのかな。
ま、今の私の生活はすでに引退モードそのものなんだけどね。
夫婦で話が合わなくならないのは奇跡だよ。
きっと大内くんが合わせてくれてるんだろうなぁ。ありがたい。

18年2月3日

息子は5日に1本ぐらいのペースでブログにショートショートを書いている。
コントのシナリオの修行らしく、こっちからすると元気にやっている生存証明なので愛読しているんだが、今回は向こうから言ってきた。

「普段言えない気持ちをもとに書きました」

知性を持って生まれた赤ん坊のお話。
「この世に生まれたこと、この両親のもとに生まれ落ちることができた幸運とに敬意を表して泣いた」という結末には思わず涙がにじんだ。

親バカだがだんだん文章がうまくなっている気がするし、独創性のない私には到底無理な「創作」というものにチャレンジしているのが頼もしい。
「もっと上手くなりたい」と言う本人に、
「十人並みよりは上手だと思うが、それ以上を目指すなら修練あるのみ。書きたいと思うことがすでに才能なので、頑張れ」と言っておいた。

私も日記を書き続けて20年、突き動かされて書いてるわけではないので大して才能はないと思うけど、なんか書き散らしたいのは血と言うかDNAと言うか。
彼はできればそれを商売にしたいわけだ。
イバラの道だよ。修羅の道。
子供が苦労の多い人生を選んでいるのを見るのは親としてつらいが、きっと何倍もの喜びもあるんだろうから、心の動くままに懸命に生きて行ってもらいたい。

18年2月4日

ショートショートをdedicateされて嬉しかったので、感謝の気持ちを込めて、食べ物に事欠いているかもな息子に食料を届けたい。
前日に聞いてみたらカノジョが泊まりに来る予定だと言うので、会わずに届けるだけにしておこう。

午前中は大内くんと台所にこもり、昨日たくさん買った野菜で「ポテトサラダ」「かぼちゃの煮物」「れんこんのきんぴら」という常備菜を山ほど作った。
息子の分はタッパーに取り分けて、あとはスーパーでお米とスパゲッティ、レトルトのカレーやパスタソース、サバ味噌の缶詰などを買い込み、常備菜は名前を書いて共同の冷蔵庫に入れておき、他は部屋の前に置いてきた。
「前に持たせたタッパーを返してね」と言っておいたら、ドアの前に置いてあったよ。交換回収。

大内くんと、
「ま、これでしばらくは食べ物にだけは困らないでしょ。お米とおかずがあれば何とでもなる。炊飯器や自炊設備が整ったシェアハウスでよかった。あそこに住んでいる限りは冷暖房もシャワーも無料で、心配ないし」と喜びながら帰ったら、息子から「ありがとう」とメッセージが来た。

明日は私が吉祥寺の病院に行くついでにまた星乃珈琲店でスフレを食べるつもりなので、起きられたら息子も来て一緒にごはん食べよう、と誘ってある。
バイトや就活はどうなってるのか、その時にゆっくり聞いてみよう。

18年2月5日

朝一番で病院にひざを診てもらいに行く。
筋を傷めているらしいんだが、理由は不明。
少しずつ良くなっては来ているので、シップ貼って様子を見続けるしかないみたい。
痛みがひいたらもうちょっと歩いて筋肉つけよう。

お気に入りの星乃珈琲店に行って、チョコレートソースのスフレを食べる。
本当はハンバーグプレートも食べたかったんだが、ここのところおなかにくる風邪をひいていて食欲がなく、すぐに吐いてしまうのであんまり食べられないんだ。
おなかが不安な時のスフレはおいしいなぁ。

1時間ほど本を読んで待ったけど、息子は現れなかった。
メッセージも既読にならないから、きっと寝てるんだろう。
夜のバイトなのかもしれないが、毎日昼頃まで寝てる生活はどうなのか。
自分がここ1年近く起きられるようになったので、ついつい厳しい目で見てしまう。

この話になると大内くんが、
「僕は25歳まで親の家で昼夜逆転の生活をしていた。息子に何も言う資格はない」と落ち込むので、まあ若い時はしょうがないか、と生ぬるく見守って行こう。
早寝早起きは老人の特徴だしね。

18年2月6日

私の風邪が重いので、大内くんが家で片づける仕事が多いついでに休みを取ってくれた。
1日、書斎にこもってパソコンに向かい、時々寝室に様子を見に来ては痛む足をマッサージして去る。
私はおおむね倒れてた。
お昼は雑炊、夜はカルビクッパ。

息子がメッセージを寄こした。
「正直に言います」で始まる告白を読むと、先日家賃と生活費として渡した10万円は公演の時などに人に借りていたお金を返すのに使ってしまい、今、月末払いのはずの家賃も滞納してる状態だそうで、
「水曜からバイトが始まるので遮二無二働きます。もう一度お金を貸してください」という内容。

大内くんとあんぐり口をあけて驚いた。
家賃ぐらいは払ってると思ってたよ。
以下はメッセンジャー上のやり取り。
「困ってるんだったら、どうして月曜に母さんに会いに来なかったの?」
「体調悪くて寝込んでた」
「日曜に食糧持ってった父さんたちと会って話そうとは思わなかった?」
「その時も寝込んでた」
「カノジョいるからって、会うの断ったじゃん」
「カノジョいたけど、体調悪くなって寝込んでた」
「その前の段階で会おうとはしなかったよ。困ってるならカノジョがいても会うべきだった」
「そうだねー」
真剣味が足りないと思うんだけど。

とにかく家に来なさい、今日は父さんもいるから早めに来て、一緒に夕食を食べよう、と返しておいた。
6時に来られるって言ってたんだけど、6時過ぎに、
「ごめん、ちょっと作業してて遅くなった。6時40分ごろになると思う」と言ってきた。
「約束の時間になってから遅れる連絡あるっておかしいよ」と怒ったら、「すいません」と言いながら、それでもやっぱり7時ちょっと前ぐらいに着いたよ。
借金しにくるのに遅れてどうする!不真面目!

で、ごはん食べながら大内くんが事情を聞いて、これからの支出と収入の予定書かせて、どうやら4月までは収入が足らなくて援助が必要だという話になった。
漫喫で始めるバイトでは生活費を全部カバーするには至らず、フルタイムの職も探してるけど面接に落ち続けているのが現状らしい。
基本、コント作りを続けて行きたいところは変わらないので働くのも制限があるようだが、まずは自活することを考えないと。

「割のいいバイトしてると思ってちゃんとプレゼンして、親から援助を引き出すしかないでしょう。可愛いから何でもしてあげたいけど、そんなところに甘えてたらいつまでも赤ちゃんだよ。赤ちゃんのままでいいの?」と大内くんに厳しく言われて、やや芝居がかった顔つきで我々を見据え、
「絶対コントの道を行きたい。そのために、今はお金を貸してください。必ず結果を出します!」と見得を切った。
その気持ちを忘れないでね。

かなりユウウツそうに4月までの援助をお願いする旨の紙を書いて、署名して、「風呂に入らせて」と言う。
そうくるかなっと思ったからお湯残しておいてよかった。
シャワー派なのは知ってるが、たまには湯船につかりたまえ。
雑炊用の鶏汁をタッパーに入れて持たせ、欲しいと言うので牛乳もつけて、ややふらふらと帰って行くのを見送る。

そうそう、漫喫のバイトはホワイトシャツ着ないといけないらしく、アンダーシャツ2枚ぐらいないかと聞かれたので、大内くんのを持たせた。
そんなことも今日わかったわけじゃないんだろうから、前もって言ってもらいたい。
実家は「言えば何でも出てくる魔法の家」じゃないんだ。
キミよりはお金と収納にゆとりがあっていろんなものを置いてるが、少し用意が良くてモノがそろっているだけの、普通の生活空間だよ。

さらに言えば、親も「親」という生き物なわけじゃない。
独自の生活も感情もある1人の人間だ。
キミのために生きてるんじゃないし、こっちの都合もある。
相談は前もって、予定をきちんと立てて、約束を守って会いに来てください。

18年2月8日

今週ずっと風邪ひいてる。
おなかにくるやつで、気持ち悪くて食欲出ない。

3週間前にノロで延期になったフレンチ・レストラン、今日行くはずだったのに、またしても涙の予約延期。
昨日のうちに中止は決めたものの、お店の定休日だったので当日キャンセルになってしまったが、快く受けてくれたのには感謝しかない。
さすがは人気店で、次に予約が取れたのは2週間後だった。

これで3回目の延期だ。
1回目は大内くんの急な仕事で、2回目はノロ、今回は風邪。
なんなんだ、この呪われたような相性の悪さは。
「それはね、結界が張られているのよ」という先輩おねーさまの笑いを含んだコメントをありがたく受け止めつつ、よしながふみの「愛がなくても喰っていけます」を読んだ時からずっと楽しみにしている「量の多いフレンチ」めざし、「最大限腹をすかせて行け」とのアドバイスを忠実に守って、体調万全で臨みたいと思う。

18年2月10日

大内くんの友人Aさんのお宅を訪ねた。
ずっと風邪気味だった私に、手作りの生姜ドリンクをふるまってくれるミセスA。

黙々と1人で材料の野菜を刻んでいたAさんに大内くんが加わった夫コンビで餃子のタネをこね、子供たちも総出で120個包み、ミセスAがお店のように見事に焼いてくれる見事な羽根つき餃子をみんなでたらふく食べた。
一緒に供されたピザは両手で取る子供たちに負けてひと切れしか食べられなかったが、全然恐縮せずに、
「うちは生存競争が激しいですから!」と大笑いするミセスAが、私は大好きだ。
あくまで日常にお邪魔しているので、ここで子供を叱るお母さんだとつき合いにくい。
(「子供と張り合って食べようとしてどうするの!」とむしろ私が大内くんから叱られたが、帰りにスーパーで2枚買ったピザを、翌日「チーズと玉ねぎマシマシ」にして焼いてもらって気がすむまで食べた!)

長男くんの秘密のラボで自慢の顕微鏡や基板を見せてもらい、いやぁ、やっぱり理系男子には萌える萌える。
もう50歳若かったらほっとかないんだが、と危険な気持ちになった。
餃子のタネをこねていたためこのラボを見損ねた大内くんは、たいへん残念がっていたよ。

大内くんは大学受験の時に理系との間で迷ったという、私からすると許せないエセ文系野郎なんだが、実は妻が大変な理系男子好きなのに気づいて今頃歯ぎしりしているらしい。
しかし、
「理系に行ってたらどうなってた?」と聞くと、
「結局、同じ会社に入ってたと思う」という答え。人生そんなもんだ。

マンガの大好きなAさん夫婦と、最近読んだマンガの話で盛り上がった。
この2人からは最近の面白いマンガをいろいろと薦めてもらったり貸してもらったりでお世話になってる。
持つべきものは良きマンガ仲間哉。

いつものようにたいへん心地よい時があっという間に過ぎてしまった。
2年前に初めてお邪魔した頃からすると、お子さんたちが飽きずに我々と遊んでくれたことに成長を感じ、じーんとした。
うちの子たちはもう大きくなっちゃったもんなぁ。
新鮮な幼児が見られる機会なんてそうそうないんだ。
ふと、いつか孫を抱く日を夢みてしまう。息子よ頑張れ。

18年2月11日

2年前に買い替えた車が1年点検の時期で、トヨタのお店に持って行く。
1時間ぐらいでできるので、大内くんとそれぞれのiPadで本読んでた。
飲み物のサービス、しかもおかわりアリが嬉しい。

今、お互い図書館で山ほど本を借りているのを読まねばならず、1時間なら2冊も持ってくれば絶対困らない。
でも、あえてiPadを持ってこようと私が主張した。
「担当のYさんに会うかもしれないじゃん。いつもiPad持ってってるから、その話になると思うんだよ。『うちでは本をタブレットで読んでます』って自慢してるんだもん、それぐらいの見栄は張らせて」と頼むと、大内くんは、
「別にどっちでもいいけど、それって必要かなぁ・・・」とおぼつかなげだった。

しかし、メカニックさんに車を託してしばらくののち、現れたYさんはすぐにこう言った。
「大内さん、こんにちは。僕も、iPad買ったんですよ!まだあんまり使い方がわからないんですけど、本も読めますかね?」

大喜びで、本を裁断してスキャンして読み込ませていること、でもそこまでしなくてもkindleなどのアプリを入れて電子の本を買えば読めることなどを説明し、画面を開いてページめくりを見せてあげた。
Yさんは「おおっ!なるほどっ!」と感心し、今度、電子書籍を買ってみる、としばらくおしゃべりをして去って行った。

「ああ、iPad持ってきてよかった!」と安堵と満足のため息をもらしていたら、大内くんもむやみに興奮している。
「すごいね!キミの言ってたとおりになった!Yさんは、僕らと言えばiPadだと思ってたみたいだね。こうなるってわかってたの?」
「・・・って言うか、シミュレートしない?『トヨタに行くなぁ、Yさんに会うなぁ、iPadの話になるだろうなぁ』って」
「しない。全然しない。キミは預言者だ。魔法みたいだ。未来が読めるとしか思えない」
「蓋然性の問題かもしれないけど、起こりうることに対して最大限に供えようとは思うよ」
「いつも感心するよ。よくくたびれないねぇ。くるくるっとアタマが回るんだねぇ!」
ああ、とっても嬉しいんだが、なんだかくたびれる賛辞の嵐・・・

というわけで、1時間の読書のあと、点検の終わった車で家に帰った。
Yさんによれば最近の車は15年ぐらいは軽くもつんだそうだ。
大内くんが70歳になる頃には我々のカーライフも終わりだし、それまでにもう1回新車を買うのは経済的に負担だと思っていたので、今の車を大事に使って最後の愛車にしよう。
その計画をYさんに話すと、
「充分もちますよ。それまで、点検のお手伝いをさせていただきますね」と言ってもらえた。
「もう、あんまりいい顧客じゃないんですけど」
「ハハハ!何をおっしゃいますやら!」
明るい人だなぁ。

結婚前に私が乗っていたファミリアはマツダ、結婚してすぐに母の知人から中古で買ったファビオは三菱、そのあとはカローラワゴン、ノア、アクアとずっとトヨタさんで来ている。
唯生の車椅子を積む関係で大きくしてきたのが、大手術をして医療的なケアが欠かせなくなった彼女はもう病院から出ることがないだろうと、2年前にノアを手放した。
私自身健康に自信がなくなって、昔のようにドライブ旅行にも行かない気がする。
名古屋に行くことがあっても、新幹線の方が安心だし。
小さな唯生と赤ん坊の息子をファビオに乗せ、東名高速を走って実家を訪ねた頃を思い出すよ。
ノアでは友人たちプラス小学生の息子で温泉とか行ったなぁ。
「我々の、良い時代がまたひとつ終わったねぇ」と、しみじみ昔を回顧してしまった。

18年2月12日

3連休の最終日。
録画したオリンピックを見たりしてのんびりと過ごした。
「お休みが3日あるとものすごく楽だね」と大内くんが嬉しそうなので、
「こないだネットで言ってる人がいた。用事をすませるための休日と、楽しく遊ぶための休日と、身体を休めるための休日、3日あるといいな、って」と言うと、
「本当にそうだねぇ。土曜はよそのおうちを訪ねて遊んで、昨日は用事をすませた。今日は身体を休める日だ。ああ、くつろぐなぁ」って床暖房の上で溶けていた。

ちょっと想定外だったのは息子からのメッセージ。
どうも、箱根に旅行に行ってたらしい。
しかも、自転車で行って、乗り捨ててきたんだと。

大昔、大学の友達と2人で北海道まで1週間以上かけてママチャリで行き、向こうで廃棄して飛行機で帰ってきた彼は、その翌年に1人で今度は沖縄に行く計画を立てたはいいが、箱根で豪雨に合い、自転車を捨ててしっぽ巻いて逃げ帰ってきてしまった。
どうも捨て癖がついたらしい。
その悪癖が今また出たのだろうか。

どこかのブログに載せるのであろう長い文章がついてきた。
「本当の自由とは抑圧された状態から解放された時に初めて感じることができる、という言葉の意味が分かった気がした」
「自分との対話が、今回の旅行の収穫」
などと書いているので、大内くんと2人で、
「抑圧されるほど働いてから言え!」
「せっかく1人暮らししてるんだから、自分との対話ぐらい部屋でしろ!わざわざ海辺を歩いたり自転車捨ててきたりしないと対話できんのか!」と盛大に突っ込む。
あくまでコソコソと、である。
決して本人には言えない、チキンな私。

しかし大内くんは、怒りにまかせて息子に、
「無駄遣いするな。自転車で帰ってこい」とメッセージを送り、私よりはマシな人間であることを証明した。
江口寿史がマンガの中で描いている、「ああ、いいことを『思った』あとは気持ちがいいな!」を日々実践している身としては、こういうところを見習いたい。

18年2月13日

ピョンチャン冬季オリンピックのフィギュアスケート団体戦を見た。
男子フリー、女子フリーと見て、アイスダンスの途中でカナダの金が確定した。

私たちはそれほどフィギュアスケートが好きなわけではないが、冬季五輪の中では興味のある種目な方なので、そこそこ見る。
中ではアイスダンスが一番好きだ。
もちろんまったくのトーシローだが、オトナっぽくて適度に色気があって美しいと思っている。

いつも話題に上るのが、イギリス「トービル・ディーン組」の「ボレロ」とロシアの「グリシュク・プラトフ組」の「メモリアル」だ。
特に後者は、静謐な、生と死のギリギリのあわいを想像させる緊張感ある演技が忘れられない。

思えば結婚する前、私のアパートで一緒にソウルを観たのが我々の「オリンピック事始」だった。
私はスポーツがまったく好きじゃなかったんだが、大内くんは何でも好きだったので、結婚後はいろいろ観るようになった。
「世界陸上」にハマったのは織田裕二のおかげだった気がする。
「渋谷の交差点を3歩で渡る男」、三段跳びのエドワーズさんは今でも話に出る。
「3階のベランダからこんにちは」の棒高跳びのブブカも。
「世陸」はキャッチコピーと見せ方が本当に上手かった。
最近はそこまで面白くないのが寂しいぞ。

息子が柔道を始めてからは「柔道グランドスラム」も観たし、夏季五輪、冬季五輪の間に2年に1回の世陸がはさまって、毎年何らかのスポーツの祭典を楽しむことができる。
「なのに、僕はプロ野球に全然興味がなくなっちゃったんだよ」と嘆く、元巨人ファンの大内くん。
「正直、生活が大変すぎて、野球の勝ち負けなんかに一喜一憂していられない。精神の安定を求めたら、プロ野球なんか観ない」と言うようになった彼を見ていると、同じく巨人ファンの糸井重里が昔、
「仕事や生活で神経を使うと、野球でまでハラハラしたくない。阪神ファンなどは、よっぽど日常が退屈なのであろう」と言っていたことを思い出さずにはいられない。

もっとも、大内くんにそう言うと、
「勘違いされてるようだけど、僕は『V9』が終わったあとに巨人ファンになったから、強い常勝の球団として好きなわけじゃない。勝てない巨人のファンだった」と反論される。
なんでそんなコスパの悪いことするんだ?
私なんか、優勝した年とその前年だけのにわか阪神ファンだったぞ。

ともあれ、我が家のピョンチャン五輪は思っていたより盛り上がっている。
開会式も、日本人からすると好感の持てるスマートな小ギレイさに満ちていたし、何やら共通の文化を持ち、趣味が合うことは否めない、という印象を受けた。
SNSで嫌韓ムードに染まっていた私としては大いに反省しつつ、しかしそれはそれとして、「なんとしてもメダルを」という風潮には断固、NOと言いたい。
夢見がち過ぎるかもしれないけど、「スポーツの祭典」でいいじゃないか!

18年2月14日

世の中は嬉し楽しいバレンタインデーだが、大内くんは泊まりの出張。

例によって日帰りするつもりだったらしく、
「始発の新幹線で行くから、朝は4時半ごろ出る。夜は接待のあと帰ってくるんで、家に着くのは1時頃になるかも」と言われた。

私「東京駅に勤めてるくせに、なんでわざわざ家に帰るの?会社に行く往復の通勤時間だけ考えてももったいない」
大内くん「家に帰りたいなぁ・・・」
私「朝、新幹線で東京帰ってきたらそのまますぐ会社じゃん。泊まっておいでよ」
大「寂しいじゃない・・・」
私「夜中に帰ってこられる方がよっぽど寂しいっ!」

というわけで泊まりにしてもらいました。
以前は1人で家にいるの苦手だったんだが、手術以来なんでか平気になっちゃったんだよねー。
そりゃあ顔が見られたら嬉しいけど、無料のライン電話で長話するって手もあるし、うち、会社から遠いんだよ・・・

10時ごろ電話がかかってきて、ホテルに入ったって。
家を出る時から具合悪そうだったのが、やっぱり風邪気味らしくて、現地で診療室に行ったらインフルエンザではなかった模様。
「帰ってこないことにしといてよかったね。早く寝て」と電話も早々に切り上げた。
夫婦しておなかにくる風邪をずっとひいている気がする。

大内くん不在のおかげで読書は進む。
最近のマンガをずいぶんキャッチアップしたところ、驚くほどのSF市場のにぎわいだ。
ディストピアものの「約束のネバーランド」や子供からワクワクできるジャンプ路線の「Dr.STONE」、「カリフォルニア物語」を思わせるバディものの「LIMBO THE KING」、驚くほど精緻な魔法世界もSFに入れちゃおう、「とんがり帽子のアトリエ」、その他もろもろ。
数年前はこんなにSF全盛じゃなかったように思うんだが。
まあ、マンガの未来は明るいよ。

18年2月15日

大内くんが泊まりでいなくて少し寂しいかなーって、息子に声かけてみた。
「父さんが麻婆豆腐と春巻き作ってくれたから、食べに来ない?」
そしたら、
「夜中になる。12時過ぎ」って言うから、
「そんなに遅いのは困るし、泊まる前提?また朝起きなくてもめるのはいやだなぁ」
「迷惑ならいいよ」
「うん、やめとこ」
ってなったはずなんだけど、大内くんとの電話中に、
「やっぱり食べたいな。今夜行くね。朝、早く出るから」ってメッセージ来た。

私「どうしよう?」
大「絶対、朝、起きないよ。断りなよ」
私「そうだねぇ・・・いちおう、起きるとは言ってるんだけど」
大「またもめるよ。いつもそれで不愉快になるじゃない。断っておいた方がいいよ」
私「でも、ごはん食べさせてあげたいしねぇ」
大「いいけど・・・またキミが悲しい思いをするかと思うと、僕は心配だよ。大丈夫?」
私「気を強く持つよ」

ということで、息子には「いいよー」と言っておいた。
しかし、大内くんとの電話を切って本を読んでいたら、11時ごろにまた連絡。
「遅くなりそう。寝てていいよ」
ムカー!
ごはん食べにくるんじゃないのかい!誰がごはんのしたくすると思ってるんだ!?
「一緒に食べて、1時間ぐらいおしゃべりするイメージ」って言っておいたじゃないか!

もう来なくていいよ、って言おうかと思ったけどガマンして待ってたら、1時過ぎに来た。
漫喫のバイトも夜中だし、若いから夜型なのはわかるよ。我々だってそうだった。
とがめるべきは深夜寄りの生活ではなく、時間を守らないことだけだよね。

嬉しそうに残り物中華定食を食べてくつろいでるので、
「あなたにとって実家って、落ち着く場所なわけ?」と聞いたら、「まあ、そうだね」。
「自分の部屋が片づけられちゃってて、居場所に困らない?」
「全然。ここでいい」(とソファでごろごろ)
「母さんは、大学時代に実家が引っ越して自分の部屋がなくなって、用がなければ帰りたくなかったよ」
「そうだろうねぇ」
キミと我々の仲はそれよりマシだと思いたい。

「お風呂入んなさいよ」って言ってたら、もう寝ちゃった。
「ソファで寝ないで」、家にいる頃から何度も言ったなぁ。
「ここが好きなんだよ」って離れようとしないのを、無理やり起こして今日は空いてる大内くんのベッドで寝てもらおう。
夫婦の寝室で息子を寝かせるって、性的虐待?
最近は子供の扱いにうるさいからなぁ。

「朝は9時に起こすからね」と言ってる間にもぐーぐー寝てしまった寝息を隣で聞くのはとっても心が安らぐ。
この安心しきった若いオスが、私は大好きなんだろう。
もう私のものではないけど、こいつが生きているだけでいいと思える気がする。
むしろ、どこか遠くで自由に幸せになってもらいたい。
ここまで育てたら、親なんて邪魔なばっかりだ。
運よく何かが回収できるんだとしても、それはまだ10年ぐらい先のことのように思う。

翌朝は30分かけて起こした。
「これがイヤで家を出てもらったんだった!」ということをあらためて強烈に思い出したよ。
「なんか困ってることない?」と聞いた時には「特に」って言ってたくせに、帰る間際になって玄関先で、
「ところで、ちょっとおこづかいくんない?」とは何事だ。
「2千円ぐらい」と言うところに5千円渡して、「多いよ」と困惑されたので差額分だ!と言わんばかりにハグしてもらって、はい、元気でね。

帰って1時間ぐらいしたら、
「諸々、ありがとう」ってメッセージ来たから、
「私が『母さん』という生き物ではなく、独自の感情と人生があると理解してもらえると嬉しい。もう少しいろいろ言語化してくれる気になったらまたおいで」と返しておいた。
「うむ!」という返事は、わかってもらえたのかどうなのか。

いまだに親として「安定した、まともな人生」を切望してるように思われてるらしいのは業腹だ。
「そんなの、あなたがゲーム会社に就職する時からあきらめてるよ。そうでなきゃ、名の知れた大企業に入れ、ってもっとうるさく言ったよ」
「まあ、そうだろうなぁ」
今、あなたの尻をたたいているのは、自分で食えてなくて、そのくせ甘えててナマイキで理不尽だからです!時間ぐらい守れ!

18年2月16日

出張先で風邪をこじらせてきた大内くん、昨日帰って来た時点で微熱があって頭痛がしたため、
「明日は会社をお休みするって言ってきた」のだそうで、今朝も、
「やっぱり休むことにしておいてよかった。軽い風邪だががっちりひいてる」とベッドにもぐっている。

実は私も「おなかにくる風邪」をもう2、3週間ひいている気がする。
大内くんのは「咳が出て喉が痛くて頭が重い風邪」で、種類が違う。
お互いうつし合わないようにしないとなぁ。

とりあえず寝倒すことにして、午前中はマンガを読んで過ごした。
ツィッターで雲田はるこがほめていた山田参助の「あれよ星屑」は粗くも精妙な「戦記マンガ」だったし、息子おススメの嶺岸信明「オールド・ボーイ」は彼好みのアウトローものか。ちょっと心配な趣味だなぁ。
ミセスAが面白いと言っていたゆうきまさみの「でぃす・こみ」を読んだら、最近ずっと興味のある「腐女子」の世界をのぞいてみたくなった。
箸休めに読んだスケラッコ「大きい犬」やつゆきゆるこ「ストレンジ」といった不思議ワールド・ショートストーリーの連作も独自の雰囲気を醸し出す。

大内くんも「あれよ星屑」を読み、「マンガは奥が深い!」と感嘆しきり。
山田参助はゲイ漫画家でもあるらしく、確かにあれはミョーに男の世界かも。
妻を愛し女体に溺れる大内くんだが、精神の深いところで男しか愛せないタイプなんで、ガロ風味も手伝って相当ノックアウトされたみたいだ。
感心しながら寝てしまったので、私は昨日最新巻が届いた森薫の「乙嫁語り」を10巻通して読み返そう。
マンガ友達Aさんも共感してくれた「読むのがもったいないほどの描き込み」を堪能します。

18年2月17日

心臓のクリニックで月に1度の検査。
先月減らしたワーファリンの量が適正だったらしく、血中濃度が手術後で一番いい値になっていた。
今後も「2.25mg」で行くかな。

しかし、大好きだと思っていた採血にもそろそろ飽きがきた。
毎月毎月、だもんなぁ。
一生病院に通って血液検査して薬をもらって飲み続ける、そのことに少しうんざりしてるかも。
それを思うと手術を受けたことを後悔する。
何度考えても、「しない」という選択はあり得なかった、というところに立ち戻るんだけどね。
ぐーるぐる。

ずっとおなかをこわしていて、先月来た時に「ノロでしょう」と薬を出してもらったんだが、まだ同じ症状なのでそう言ったら、
「長いですねぇ。どうしたんでしょう?」と首をかしげられた。先生、それ、私も知りたいです。
無難そうなおなかの薬でお茶を濁さないでください・・・

ここ10カ月、ずっと体調が戻らなくて、病院に来るたびになんだかんだ訴える羽目になってるんだが、よく考えたら具合が悪いから通院してるんじゃなくて、検査と薬のために来てるんだよね。
「病院に来てるんだから、何か不具合を治してもらう」というこれまでの「普通」の感覚とはおさらばしなきゃいけないのかも。

大内くんが付き添ってくれるので土曜に通院してるが、午後一番の時間がすいてる、と最近気づいた。
前は朝一番に予約を取ってて、実はそれだとなかなかに混んでるんだ。
「1階で受付→2階で採血・採尿→6階で診察→1階で精算、次の予約をして処方箋をもらう→隣の薬局で薬」の流れのすべてで45分、だった今回は新記録かも。

しかも、その45分には最後、口を開けて平昌冬季オリンピック男子フィギュア、宇野昌磨くんの演技を観ていた時間も含まれている。
いや、薬局に行ったらちょうど羽生結弦くんが始まっていて、「ナイス・タイミング!」って息を詰めてたら暫定1位で、次のフェルナンデスが2位で、昌磨くんが滑り始めたとこで薬剤師さんに呼ばれたのよ。
「いいとこですねぇ。皆さんも盛り上がってますか?」と聞いたら、テレビには背を向けた格好で対応しながら、
「仕事中だから観られないんですよ。でも、患者さんに教えていただいて、応援してるんです。どうぞ、結果をご覧になって行ってくださいね」と言ってくれたものだから、薬を受け取ったあと椅子に戻って終わりまで観ちゃった。
興奮したなぁ。

買い物して帰ってから、録画してあったNHKで再び観た。
特にフィギュアスケートが好きなわけではないけど、やっぱりテレビの前に坐り込んじゃったよ。
ユヅくんもショーマくんも、よく頑張った!と、おばさん丸出しの感想を抱く。
フェルナンデスとの表彰台のスリーショットは、近年まれに見る良い眺めであった。眼福眼福。

18年2月18日

大内くんの風邪が治らないので、1日家でテレビを観て過ごした。
フィギュアの「羽生くん」が金メダルを取ったと思ったら、将棋の「羽生さん」は藤井五段(これで六段になったらしい)に負けて、今日のツィッターは「2人の羽生」でもちきりだった感がある。
「金を取るのが羽生くん、金を取られるのが羽生さん」などの「大喜利」的な書き込みを多数目にした。
「羽生さん」の奥様は有名な「羽生くんファン」で、今日はたいそう忙しい気分になっていたそうだ。

ツィッターはさらに、「3位のフェルナンデス選手と抱き合うユヅくん」だの「ショーマくんの頭をくしゃくしゃっと撫ぜるユヅくん」だの「『えっ、夜に表彰式があるんですか?』ときょとんとする天然なショーマくん」だのでもあふれており、「・・・尊い」という言葉が乱舞している風情だ。
大内くんにこのBL用語を教えてあげたところ、フィギュアを見ていて気に入った演技があるとやたらに「尊い、尊い」を連発するので、
「それは男性同士の時だけ使うの。アイスダンスは男女でやってるんだから、いくら感動しても使っちゃダメ。その場合は『神々しい』って言って!」と、正直、根拠のない無茶苦茶な教育的指導をしている。
覚えたての言葉をやたらに使いたがる人だね。厨二かい。
なるほど、それで私が「ワンチャンあるかも」とか言うと息子が怒るのかぁ。

おなかが少し落ち着いてきたので、お昼はたこ焼きを焼きまくった。
私はしょうゆを入れて焼いたのを、大内くんはプレーンにソースとマヨネーズをかけて食べる。
「イワタニのスーパー炎たこ」というたこ焼き器を買ってからもう何度食べただろう。
我が家でひそかにブームになっているおススメグッズである。

20個ずつのプレートで3回転、60個焼いて、それぞれ15個ぐらい食べる。
もちろん30個余るわけだが、2日ぐらいかけて1人の食卓で消費してるのだ。
「食卓」と言いつつも実のところ、ベッドに寝転んで本を読みながら食べられるところがありがたかったりする。

たまった録画を消化していたら、「隣の家族は青く見える」という非常に「ご近所スキャンダル」的なドラマの中で、集合住宅の一種であるコーポラティブ・ハウスにゲイのカップルが住んでいるからと言って、住人の1人である奥様がものすごい勢いで糾弾する、というくだりがあった。
「うちには小学生の子供がいるんです。学校でも『人はみんな結婚して子供を作る』って教えるのに、そうでない人たちなんか見たら、困ります!」と言うんだが、イマドキの学校でもそんな画一的差別的なこと、教えてんの?
それはそれでもめるから、もうちょっと配慮のある教え方してるんだと思ってたよ。

あと、主人公の深田恭子はダンナの松山ケンイチと不妊治療してて、人工受精にトライしようと思ってるのね。
そしたらフカキョンのお母さんが、
「不自然なことはよくない。あなたは、『うちの子は人工授精で生まれました』って人に言えるの?子供がいじめられたらどうするの!」と猛反対。

大内くんは、
「お母さんってものは、てっきり『孫ができないなんて』ってうるさく言うんだと思ってたよ。偏見や極端な意見ってのも、いろんな方向があるもんだねぇ」と、むしろ感心してたようだ。
(いや、その役割は子宝グッズを山のように持ってくる姑がやってくれてるから)
まあ、夫たる松山ケンイチが徹夜で作った資料をお母さんに渡して、
「僕も最初は知らなくて、抵抗がありました。でも、不幸になろうと努力する人なんていません。彼女は、幸せになるために頑張ってるんです。それだけはわかってあげてください」と頭を下げたので、お母さんの気持ちも溶ける、という流れなので、よかった。

私は最近、この手の安っぽい話が好きでしょうがないんだが、それって、結婚も妊娠もそれほど苦労しないでさくさくこなしてきちゃった驕りのせいなんだろうか。
これで唯生が生まれていなかったら、私はずいぶん高慢ちきな、イヤな人間になっていたかもしれない。
いろんな意味で、唯生に守られている。
もちろん彼女は私の生を安らかにするための免罪符ではないんだが、この巡り合わせに心からの感謝をすることが多い。(いや、もちろんやっぱり悲しいですけどね)
あらゆる人生には意味がある。
私の人生の意味は何だろう。
小さな灯りで一隅を照らしたい。とりあえず明日からまた働く大内くんが帰る家に灯をともそう。

18年2月19日

「咳が止まらない」と言って、夜中に帰るはずの名古屋出張を早めに切り上げてきた大内くん。
インフルエンザではないとは言うものの、さすがにマスクをかけて咳き込んでいては接待の席もままならないのだろう。
「今日び、バイオテロは嫌われるからねぇ」となぐさめ、甘酒を作って迎えた。

しかし、なんかおかしい。
週末に大内くんが作ってくれた甘酒は酒粕のつぶが残っていて「甘酒らしかった」のに、私のは妙になめらかすぎる。
「あなた、どうやって作ったの?」
「え?普通だよ」
「『みそこし』は使った?」
「使わなかった。おたまの底で『えいえいっ』ってつぶして混ぜた」
「私、使ったよ。楽なのに、なんで使わなかったの?やっぱり、粒が残った方がいいのかな?」
「思いつかなかった。というか、味噌じゃないから、みそこしは使わない」
「・・・応用力、って、知ってる・・・?」

大内くん的には「なめらか」な方がよかったらしく、例によって、
「みそこしを使うとは!すごい発想だ!かしこいかしこい」を連発されて、さて、いい気分になるべきか?

それにしても咳がひどくて眠れないようだ。気の毒。
私のおなかの風邪は治ったから金曜の「北島亭」行けるんだけど、今度は大内くん都合でまた延期?
「いや、おなかはなんともないから大丈夫。むしろ、食欲はある!」と言われてひと安心したものの、土曜には柳家喬太郎さんの高座を聴きに行くのに、咳き込んでいたらたいそうひんしゅく。
それまでに治るかしらん・・・

18年2月20日

大内くんは風邪をひくと「咳ぜんそく」に移行して咳が止まらなくなることがよくある。
今回もそれに該当するらしく、夜中に咳き込んでいて可哀想。
吸入を使ったり咳止めをのんだり、いろいろやって、今日あたりからやっと少し良くなってきた。

ただ、寒いとひどくなるため本人も首にバスタオルを巻くなどして自助努力してくれても、寝室の温度を上げたり布団の上に毛布を掛けたりせざるを得ず、結果、暑がりの私は一緒に寝ることが不可能になってしまった。
それでここんとこ隣のシングルベッドで寝ていたところ、
「もう室温を下げていいから、一緒に寝よう」と嬉しいお誘いをいただいた。

風邪をひくまで、今年は毛布も出さず、夜中はエアコンもつけず、暖かく眠れていたんだよね。
大内くんによれば、手術後の私は血行が良くぽかぽかしており、また、薬をやめた影響か身体が柔らかく末端が冷えないので、たいそう良い「あんか」なのだそうだ。
今夜からまた、あんか発動します。

18年2月21日

朝、息子からメッセージが入った。
「今日、吉祥寺でご飯食べない?」
嬉しかったがとまどいも大きく、また、体調が少し悪かったので、
「ごめん、具合が良くないから今日はやめておく。また誘って」
と返事したら、「おう」と返ってきて、それで終わった。

「うまく会えない気がする時はきちんと断る」、うん、ちゃんとできてるじゃん、自分、とちょっとだけ晴れやかな気分になった。
しかし、会おうと言ってくるってことはもしかして金がないのか?とイヤな予感もして、大内くんが帰ってきたら相談してみよう。

夕方、頭痛薬を飲んで寝ていたら、何やら物音がして目が覚めた。
誰だよ、トイレ入ってんのは。
あ、息子だ。

「起こした?ごめん。具合、どう?」
「・・・どうしたの?」
「メシ食わせて」
母さん、ものすごく脱力するんですけど・・・
ごはん食べたいなら前もって言ってよ。
そもそも、いきなり来るなって、何度言ったらわかるの?

「何にもないんだよ」と冷蔵庫を開けて見せたら、
「冷凍食品でもいいよ」と言うから、しゃーない、1人メシ用にこないだ買っておいたものを供出するか、と、
「スパゲッティとかお好み焼きならあるけど?」と言うと、「あ、両方食いたい」。
しぶしぶ出してる私を尻目に、
「シャワー借りるわ」とすたすた浴室に入って行く。
だからさぁ、管理費に光熱費がコミなんだから、君んとこのシェアハウスで浴びてくれよ。
せっかく水道使用量が前年比で13パーセント減なのに。

考えたが、味噌汁にしようと思ったカブがあるし、ゆでたほうれん草もそろそろ食べた方がいい。
こないだ大内くんとこさえた春巻きがたくさん冷凍してあるから、高い冷凍食品を消費するより簡単に定食作ろう。
自分の1人メシのためにわざわざ料理する気にはならないもんね。

ついでに冷凍の「いくら醤油漬け」も出して、シャワーの終わった息子に「春巻き定食でいい?」と聞くと、
「いいの?体調悪いのに、すまんねぇ。今から『ウェブ面接』受けるから、メシは終わった頃に頼む」と嬉しそう。
「何それ。どのくらいかかるの?」
「パソコンで面接受ける。1時間ぐらいだよ」
「母さんはあっち行ってた方がいい?」
「いや、別に」
と言う間にもノート開いて、始まってるよ。
なんでそういうことをわざわざ実家で?落ち着いて自分ちでやれよ。モバイル世代はわからないなぁ。

向こうの人と話し始めたので、味噌汁と甘酒を仕込みながら、早稲田でコントやってたことを枕にこれからもコントをして行きたい旨を開陳してるとこまで聞いて、そっと寝室に引っ込んだ。
私だったら、「御社で頑張ります!」って言う人を採るなぁ。
本を読むこと45分、キッチンに戻ってみると、まだ面接は続いている。
「顧客の満足なしに、仕事は成立しないと思うんですよね」
おうおう、言うねぇ。今日もこづかいをせびりに来たんだろうに、母さんという顧客の満足度を考えてくれたことがあるのか?

終わった頃に春巻きを揚げ終わり、ごはんをあっためて、
「揚げ春巻き、ほうれん草のおひたし、いくら醤油漬け、カブの味噌汁」という定食を完成させた。
「ありがと」とさっそく食べ始めた息子は、感に堪えぬように、「うまい。うまいなぁ」を繰り返す。顧客サービス?

甘酒のカップ持ってきて正面に座って飲みながら、
「甘酒も作ったから、あとで飲む?」と聞くと、
「うん、もらう。面接、聞いてた?どうだった?」
「あんまり聞いたら失礼だから、内容までは。(ややウソ)ちゃんとした話し方ができてて、『外ではきちんとしてるんだなぁ』って、安心したよ」
「あ、そ」(ノートで映像を観始める)
「こないだ、『母さんと話をする気になったらおいで』って言っておいたつもりだけど?」
「これも会話だよ」
「ちがうね」

しぶしぶ、といった様子で音量を下げたので、少し話した。
あいかわらず「オレ様」が世界のてっぺんから他人を見降ろしている。
「人が気づかないことに気づいてしまう」って、何なんだよ。
私も15歳の頃にその境地にいたので、
「気づいたことで人を幸せにしよう、と思うようになるまで、『気づく自分』のつらさに耐えていくしかない。気づくことが自分と世界を隔てるように思えているうちは、能力を役立てていない」というようなことを話した。

正直、彼があまりに私に似ているので、同族嫌悪と自己愛のはざまで頭やら胸やらがずきずき痛んだ。
「人間はみんな死ぬ。こうやってメシ食ってる間にも、オレも死ぬかもしれない」とか言うから、
「若い人の特権ではあるけど、死をもてあそばないで。本当にそう思ってるんなら、後顧の憂いのない生き方をしなよ。人と諍わず、借金をせず、常に最高の仕事をする。『明日でいいや』なんて思ってるヒマはないよ」と説教する。
今日はなんか頭がクリアで、至言の嵐なんだ。自画自賛だけど。
私、なんでこんなにハイになってるんだろう?
でも、ずいぶんいろんなことを話せてよかったよ。

「高邁なお説教」のマシンガントークにひるんだのかあきれたのか、甘酒まで飲んで満腹した息子は「あー、眠くなった」と床暖房の上にごろんと横たわった。
「母さんがややこしくてめんどくさいこと言い出したからって、寝ないでよ」
「別にややこしくはないよ。ねみー。(眠い、の意か)もう出かけるけど、10分寝かして」
「話せるコンディションで来い、って言ったはずだよ。いい状態で会いたいから今日は会うの断ったのに、あなたがテリトリーに勝手に入ってきて私の時間と気持ちを侵食するなら、私の安らかな生活はどうやって守ったらいいの?」
「今度から、電話してから来るよ・・・」
「それが基本」
言うだけ言ってやったぞ!

10分たたないうちに大内くんが帰宅し、息子はさかさかと起きて帰って行った。
帰るコールの時に彼がいると聞いていたので驚かず、
「困ってない?少しやせた?公演は大丈夫?またおいでね。困ったら相談するんだよ」と優しく送り出す大内くんを見て、

「父親の愛とはことなる この母の無償の愛があるから 子供は健全に育つのだ」

という山本鈴美香「エースをねらえ!」の中の名言を思わずにはいられない。
うちの場合、父親と母親の立場が入れ替わってはいるんだが、既成の父母の概念に縛られた息子がそれに気づくのは、まだずぅっと先のことだろうなぁ。

あとから大内くんにいろいろ愚痴をこぼした。
「具合悪い人んとこを訪ねるんだから、花でも持って来ればいいのに。お金もらいにきたんだったら、なおさらだよ。ごはん作ってって言ったら母親は喜ぶと思ってんのかね?物書きになりたいくせに、そんなステレオタイプな感覚でいいと思ってるのかしらん。心配だ」
「僕さぁ、こないだドラマ見てて、男性を口説こうと思ってる女性が、『私、案外料理とかするんだよ。肉じゃが、作りに行ってあげようか?』って言ってて、ああ、本当に肉じゃがで男性が落とせると思ってる人っているのか!って驚いたんだけど、そのレベルだね」
「肉じゃが。定番だね。私だったらせめて『ぶり大根』って言うなぁ」
「ぶり大根、いいね!」
だからあなたは私と結婚してくれたんだねぇ。
あう、話が息子からそれてしまった・・・

今日の強奪(され)品:
・現金3千円
・春巻き定食
・友人がわけてくれたレア物「マンガネーム用のノート」。書斎に置いてあったのに飛びつくように目をつけた彼から「これもらって行っていい?」と聞かれて、「困るけど・・・まあ、いいよ。母さんは何にでも書けるから」とは言ったものの、やっぱり惜しくなった!後悔しきり。

18年2月23日

フランス料理の「北島亭」に予約を入れた日。
10年以上前によしながふみのマンガで読んで、「美味しくて量の多いフレンチ」に憧れたものの、「高いんだろうなぁ」と長年腰が引けていたところを、「大内くんの誕生日祝いに」と清水の舞台から飛び降りたつもりで行こうとしたのが去年の11月末。
仕事の予定が詰まっていて幾度もの調整があり、いざ予約を入れてからも、大内くんの急な会議と私の不調で3度の延期をお願いしてきたという迷惑な客だったわけだが、今日、やっとやっと、行けるんだよぉ。

大内くんは朝の5時からパソコンに向かって仕事してて、なんだか終わらないので会社に行けない、と言いながら結局11時近くなって「じゃあ、6時に四谷で!」と叫んで飛び出して行った。
管理職はこんなに自由裁量で働いてるのか。
そもそもフレックスとかない時代のOLだったので、想像がつかない。

昼寝していたら3度も、「大内くんから『急に行けなくなった!』と電話が入る夢」で跳ね起き、恐ろしいのでもう寝るのをあきらめた。
夕方、家を出るまで安心はできない気がする。
先輩に「それはね、結界が張られているのよ」とまで言われた、ここまでの店との巡り合わせの悪さを考えると、席に座ってオーダーをするまで油断はできない・・・

「北島亭探訪記」のアップは来週になります。お楽しみに。
(日記を始めて20年以上、かつてこれほど気になる引きがあっただろうか?!)

そして、ついに北島亭。
「どのガイドブックにも最大級に腹をすかせて行けと書かれてある店」なのだそうで、私は昼をほぼ抜きで臨む。
(大内くんは「カレーパンとクリームパン」を食べたんだって。食べすぎなんじゃないの?)

14席ほどのこじんまりした店で、シェフがテーブルに「どんっ」と置いた日本酒の瓶にボードを立てかけ、
「初めてのご来店ですか?説明させていただきますね」とコースの案内をしてくれる。
「4品選んでハーフポーションコース」と「4品選んでボリュームコントロールコース」の間で一瞬迷ったが、たくさん食べたかったし食べる自信もあったので、後者にして、
「2人ともわりと食べられる方です!」と宣言する。

「そうですか!では、ぜひ!」と嬉しそうなシェフは、冷たい前菜は2人別々、温かい前菜と魚料理と肉料理は同じ料理を選んでください、と言う。
大内くんは看板料理の「生ウニのコンソメゼリー寄せ、カリフラワーのクリームソース添え」を、私は「ずわいがにとアスパラのシャルロットサラダ」にして、あとは、「あかざえびのポアレ、じゃがいものかりかり焼き添えサラダ」「帆立貝のポアレ、にんにくバターソース」「仔羊の岩塩焼き香草風味」を選んだ。
多くはよしながふみがマンガの中で食べて絶賛しているものである。

下戸の私は飲まないが、大内くんにはグラスワインでも、と勧めたところ、
「正直、料理には水が一番おいしいと思う。お酒代を払うぐらいなら料理をもっと食べたいぐらいだ」と言うので、飲み物は頼まない。良くない客かも。

下働きっぽいおにーさんが、大きなトレイに「今日の材料」を山盛りにして現れ、
「和牛にフォアグラ、鴨、うに、ほたて・・・」と説明してくれるのもエキサイティングだ。
次に来たらフォアグラとか鴨も食べたいなぁ。

アミューズは小さな魚のから揚げ。(なんだか忘れた)
驚くほど柔らかい。
添えてあるパセリもぱりぱりのほろほろに揚がっている。どうやるんだろう?
塩加減が絶妙だし、「まずそのまま、ふた口目はレモンを絞ってどうぞ」と言われたとおりにしたら、二度おいしかった。
スープは小さなカップで、お料理に使うあかざえびで取ったもの。

ウニのコンソメ寄せとあかざえびのポアレは、よしながふみが描いていたとおり。
「ゆるゆるのコンソメゼリーとクリームのソースが、うにと一緒に食うと、もう」
「エビが甘い・・・細く切ったじゃがいものパンケーキみたいなのもすごいおいしい、フレンチドレッシングがどうしてこんなにおいしいの?」
という感じ。
マンガの中では食べてなかった「カニのサラダ」も、「その後食ったので記しておきます。絶品だった。べっくらうまかった」のだそうで、その賛辞に値する味だった。

「帆立貝のポアレ」と「仔羊の岩塩焼き」は、にんにく塩味がかぶってしまい、少し失敗だったかもだが、どれも「塩が効いてる。でも濃すぎない」。
よしながふみに言わせれば、
「素材の味を生かすために必要最小限しか塩を使わないのが日本料理で、素材の味を殺さない限度ぎりぎりまで塩を振るのがフレンチなんだって」とのこと。

ゆっくりコースが進むせいもあり、魚料理の段階でかなり満腹感がつのり、
「このあとひと皿でよかった。もうふた皿あるって言われたら、喜べない。食べる量には自信があったのに、ここまで追い込まれるとは」とか言いながら、確かにかなりなボリュームのある「仔羊」をおいしくいただいて、遅れて出てきた伏兵「つけあわせのポテトグラタン」までなんとか食べておなかをさする我々の前に、なぜだろう、さらに「仔羊の香草パン粉焼き」が4切れ供されて、「えっ」とひるむ。
「お持ち帰りにもできますので」と言われたので、一も二もなく「持ち帰りで!」と声をそろえて叫んでしまった。

さっきから、奥の厨房で「スイカ」を切ってるなぁ、いったい何を頼んだらあのスイカが食べられるのかなぁ、と思っていたら、お料理が終わったところで、
「スイカで口をさっぱりさせてください」と出てきた。
大内くんには2センチほどの厚みの円盤を4分割した形、私には種を取って小さなひと口大のサイコロにカットしたものが出た。
「???」という顔をしてる大内くんに、
「女性は通常、口紅をつけたりしてるから、食べやすくしてくれてるんだと思うよ」と小声で言うと、目を丸くしてうなずく。
私が女性的な面倒くささにあまり縁がないタイプなので、彼はそのへん、疎いんだ。

「苦しいね」とささやきあっているところに、デザートのメニューが出てきた。
「これ、コースに含まれてるのかどうか、聞いてくれない?」と頼むと、
「含まれてたら、どうするの?」と聞き返されたので、
「値段のうちなら、食べる!」ときっぱり。
含まれてるそうです。
大内くんは「クレーム・ブリュレ、りんごのコンポート添え」、私は「クレーム・キャラメル」を頼んだら、さすが「甘いものは別腹」で、するっと入ってしまった。
コーヒーとエスプレッソは、おかわりを勧められたが遠慮した。

ぱんぱんに満腹になり、私は洗面所に立って呼吸を整え、帰る準備をする。
席に戻ってみたら・・・テーブルの真ん中に小さなケーキやクッキーの盛り合わせ「プティフール」が出現していた・・・大粒のイチゴと小さなミカンが2つずつ、干し柿もある・・・
「食べられなければ持ち帰ってもいいって」と何やら疲れた表情になっている大内くん。
「少しだけ食べて、残りは持ち帰りでいいですか?」とフロア係さんに聞くと、
「もちろんです!」とラーメン屋さん張りの元気良さ。
「じゃあ、コーヒーとエスプレッソのおかわりいただけますか?」
「はい!20杯でも50杯でも!」
そんなに飲めませんよ・・・

すべてをおいしくいただいて、仔羊とプティフールを包んでもらって、お会計して帰る。
「ぜひまたおいでください!」とシェフがお見送りしてくれたので、
「今日はメニューにないようだったんですけど、『牛ホホ肉のはちみつ入りワイン煮』が食べたかったんです」と言うと、
「煮込み料理なんで、どうしてもお値段がそれほど高くできなくて、メニューに載せてないんです。前もって言ってくださればお作りしますよ」との答え。

「実は、よしながふみさんのマンガを読んできたものですから、そのお料理を食べてみたかったんです」と告白すると、シェフは笑顔になって、
「ああ、やっぱり!オーダーを聞いて、そうじゃないかと思ってたんです。またご来店ください。お電話くだされば、ワイン煮をご用意しますよ」と名刺をくれた。
そういうお客さんが多いんだろうか。
来る前からオーダーがほぼ決まっていた私たちは、
「マンガに出てくる通りのものを注文したら、厨房に向かって『よしながセット、2人前!』とか言われたりして」と笑っていたんだが、あながち笑い話でもなさそうだ。

「帰りにタクシーで息子のアパートを回って、このお持ち帰り物件を食べさせてあげたい」と言ってみたんだが、大内くんに却下された。
まあいいや、どうせいないだろうし。
明日のごはんに食べよう。

店内点景。

隣の席の若いカップルは常連さんらしく、
「子供が生まれました。おなかが大きい時は『めかぶとろろ』をいただいて、ありがとうございました」とお礼を言っていたし、明日が結婚記念日なんだそうで、デザートの時にチョコレートで「結婚記念日、おめでとうございます」と書いたお皿にろうそく灯したものが運ばれてきた。
「お2人の写真をお撮りしましょう」とフロア係さんがスマホで撮影してあげて、「プレートの日付は明日にしておきましたから!」という気の配りようだったのがスゴイ。

もう1つ隣の席のカップル、男性が「パレスホテル」「ニシムラ」と言うのが聞こえたので、大内くんが仕事でお世話になることがある弁護士事務所の人なのかなーと勝手に思ってたら、しばらくして、
「きっとN&Aの弁護士さん」と大内くんもささやく。同じセリフを聞いてたらしい。
「女性は、奥さんかねぇ?」と聞くと、
「いや、2人とも若いし、まだつきあってる段階っぽい」と言うので、
「じゃあ、もう何回か来たらこの店でプロポーズするのかもね」と言ったら、何だか心苦しそうな顔をされた。

「もしかして、世の中には一流事務所の弁護士さんからデートで高級フレンチに連れてきてもらってる女性もいる、って私が思うとか考えてる?」
「うん。まあ、そんなようなことを」
「私は思わないよ。しかし、『私は思わない』ようなことを思いつく私も、やっぱり私のうちなんだろうか」
「人間の根幹に迫る、哲学的な問いだねぇ・・・」
「いずれにしても、あなたの収入が上がって子供たちが手を離れた今、こういうお店に連れてきてもらうだけで、とっても感謝してるよ」
ふんふん、このぐらい言っとけば、また今度、ご馳走してもらえるだろう!

あと2組、特徴のないカップルがいたが、特筆すべきは「隅の老人」、1人で来てシェフと話しながらコースを食べている常連さんらしき70歳ぐらいの男性。
帰りの電車の中で大内くんは、
「きっとお金持ちなんだね。僕らはあのぐらいの歳になったらこういう贅沢はできないだろうなぁ」と、いささかうらやましそうだった。
まあ、今、使わないで貯金しておけば後々に食べることもできるかもだけど、いくつまで生きられるかわかんないし、その頃に今ほどの食欲があるとも限らないから、食べたい時に食べようね。

いろいろあった「北島亭」。
さすがにひんぱんには無理だが、とりあえず6月の結婚記念日にシェフに「牛のワイン煮」頼んで、「おめでとう」のプレートと一緒に写真を撮ろうね。
せっせと家計簿の黒字を作るよ。

18年2月24日

北島亭でおなかいっぱいになって寝ようとしてた夜中の12時頃、息子からメッセージが。
「ごめん、今夜、帰っていい?」(行く、じゃなくて、帰る、なのか!)
「どうしたの?」
「顔が見たくなった」
「お金がないの?」
「金もないし、疲れはてた」

大内くんに相談したら渋々のOKが出たし、息子に、
「明日、父さんは午前中マンションの理事会だし、我々、午後は喬太郎さんの高座を聴きに行くから忙しいけど、顔見においで」と打ったら、
「ごめんね。朝、そのタイミングで起きるから」と返ってきたので、やや安心したんだよ。
「フランス料理食べに行って、おいしい仔羊をお持ち帰りさせてもらったのが少しあるよ」と返すと、
「すごい!」
「お菓子ももらったよ。ごはんと味噌汁もちょっとある」
「ありがてぇ」

1時過ぎにやって来たので寝ていた大内くんを起こし、仔羊と残り物の餃子と春巻きを温めて、味噌汁とごはんをつけて出し、食事する彼を2人で見守る。
来週の公演のための脚本が完成してなくて、自己嫌悪に陥ってるらしい。
メンバーが練習できなくて困ってるだろうに。早く書け。

「フランス料理、行ったの?いくらだった?」と聞かれ、大内くんが「まあ、いいじゃない」とごまかしたら、「○○円ぐらい?」。
なんでズバリ当てるんだ!
あなたは、大昔からそうだよね。
小学生の頃に、近所のイタリアンに行って「いくらぐらい?4200円ぐらい?」って言われたんだけど、4280円だったことがある。どういう才能?

「仔羊、うまいねー。餃子も春巻きもうまい!」とガツガツ食べる息子は、部屋にはまだ差し入れのお米や缶詰、ラーメンなどがあるけど、バイトとか公演の準備で外にいることが多くて、外食するお金がないのであんまり食事してないんだって。5キロやせたそうだ。
お菓子もすすめたら、「うまい、すごくうまい!」ってペロリ。食べさせてあげられて、よかった。

先日の広告会社のウェブ面接の結果を聞いてみたら、
「進んでる。もう1回面接ある」って言うんだけど、そこは第二志望で、本命はゲーム会社なんだって。
ブラックだからと4カ月で辞めた会社もゲーム制作だったので「大丈夫?」と聞くと、今度のはすごく気に入ってる、いい会社だと言う。
しかしね、前の時もそう言ってたんだよ、君は。同じ轍を踏まないでほしい。心配だなぁ。

やっぱり生活費が足りないらしく、
「こないだ出してもらったのに、ごめんなさい。もう少しだけ、お願いします」とせっぱつまった様子だ。
今日は何だかとってもしおらしい。低姿勢。
本当に疲れはてた顔をしてるし。
厳しく言いたい大内くんもちょっと心配になったみたいで、
「足りないならバイトのシフトを増やすしかないし、生活を安定させるための職を得た方がいいよ」とお説教しながらも、無心されたとおりの1万5千円を渡した。
「ごめんね。仕事も探してるから」と何度も頭を下げられて、良い傾向だとは思うが、胸が痛む。

「明日は7時から練習だから、6時に自分でちゃんと起きるよ。ありがとう」と言いながらリビングに布団を敷き始めたので、
「お風呂わかしてあるから入りなさいよ。おやすみ」と我々は寝た。
「キミが食べさせたかった仔羊やお菓子がある日に訪ねてくるなんて、彼は本当に『何か持ってる』ね。この強運を役立ててほしいなぁ」と言いながら大内くんはいつものようにすぐ眠りに落ちたけど、私は寝つかれない。
1時間ほどして行ってみると電気を煌々とつけたまま床に敷いた布団で眠っているので、そっと消しておいた。

さて、翌朝6時になってもアラームが鳴らない。
起こすと、いつも変わらない「あと5分」「あと1分」のあと、
「7時半集合になったから、まだ起きなくていい」。
「いつ変わったの?」
「さっき、ラインで」
モバイル世代の待ち合わせあるあるだが、本当なら「あと5分」は何だったんだろう?

結局、彼が家を出たのは7時30分。遅刻してるんじゃないかなぁ。
「モバイルな方々はわからないよ。昔は約束したらその場に粛々と集まるしかなかったから。若い人に駅の伝言板、って言っても、え?って言われるらしいよ」
「シティー・ハンター」
「ああ、XYZね」
「その時代は良かっただろうな、緊張感があって」
「まあ、一期一会だったね」
「クレヨンしんちゃんの『オトナ帝国』とか見て、いいなーと思ったよ」
「なんであなたたちはあのへんに憧れるのかね。『ALWAYS-三丁目の夕日』とかもいいって言ってたし。知らない時代なのに、ノスタルジー?」
「なんでだろうね」

なんとか送り出し、
「母さんたちは12時には寝る生活だから、夜中には来ないでね」と念を押しておく。
その後、大内くんはマンションの理事会があったし、結局なんだかんだで喬太郎さんまで寝るヒマがなかった我々。
会場ホールに行ってみると、満員御礼の札が出ているし、すごい混雑だ。
喬太郎さんはあいかわらず大人気だなぁ。

枕にオリンピックを持ってきて、喬太郎さん曰く、
「平昌オリンピック、っていうと、カナダ、って思っちゃうんですよね。平尾昌晃さん思い出して。『ラブレター・フロ〜ム、カナ〜ダ〜』」
歌まで歌ってくれたよ。(笑)

柳家小多け「黄金の大黒」
柳家喬太郎「縁切榎」
(仲入り)
瀧川鯉橋「粗忽の釘」
柳家喬太郎(江戸川乱歩作)「赤い部屋」

客演の2人はまあそこそこなんだが、喬太郎さんは絶好調、女を演らせるともう、右に出るものがいないんじゃないかと思えるぐらい。
隠れホモ?と疑いたくなる。ゲイの力か。
江戸川乱歩の小説を落語に起こしたのであろう「赤い部屋」、背筋が凍るほどの出来だった。
なのに、絶望的に寝不足だった我々、不覚ながら・・・船漕いじゃいました・・・惜しかった・・・いいとこは辛うじて隣の大内くんを肘で小突いて一生懸命起こしながら必死で観たけど、前半、記憶がぼやけている。
喬太郎さん、すみません!

割れんばかりの拍手を茫然と聞きながら、バカ息子を罵りつつしょんぼりと帰ることになってしまった。
次回は絶対完璧なコンディションで聴きに来る!

18年2月25日

夜は鶏鍋にしたので、できるだけ汁をたくさん残して、来週の私のごはんに雑炊作りたいと思う。
大内くんは、
「お店でお鍋を食べたあとの雑炊は、できるだけ具をさらってごはんを入れるから、僕もお鍋の具はなるべく減らすようにしてる」って言う。

「うちの雑炊は私のごはんだよ。お店のはお鍋の〆で、すでにお鍋をたらふく食べた直後だから、具が残ってたら今まで食べてたのとおんなじものを食べることになるじゃない。なので、具をさらって汁だけにする。あとから1食の完成された食事として食べる場合は、具がたくさん残ってる方が望ましいので、具は残してくれてかまわない」って主張したら、
「こんなに理路整然と説明されて、目からウロコが完全に落ちた。素晴らしい!」と感心された。

どうしてお店の雑炊は具をさらうのか、考えてみたことがないんだそうだ。
「なんにでも理由がある」がモットーの私には、そっちの方が驚きだ。
「キミはロゴスの人だねぇ」
じゃあ、あなたはパトスの人なのか?
鬱勃たるパトス(by北杜夫「どくとるマンボウ青春期」)を以て、鍋の具はすべて食べる?
それは確かに旧制高校的ではあるのだが。

18年2月26日

朝から、マッサージ、婦人科、美容院、眼科、のハシゴ。
合間に駅ビルで買い物もして、6時間ものお出かけだった。

右足の痛みがまだひかないのでお願いしたマッサージでは、腰にも疲れがたまっている、と言われた。
施術が終わったら腰の痛みでまともに歩けない。
よろよろと自転車に乗って次へ。

婦人科では「更年期障害」のためのホルモン治療を継続することにした。
心臓のクリニックからの診断書が必要だったり、向こうの先生と婦人科の先生があわや衝突、になったりめんどくさかったが、ひとまず落ち着いた。
だが、不正出血があるのがやや心配で、次回はエコーで子宮内膜の厚みを診るのだそうだ。
子宮体がんの検査も本当はしておきたいらしい。
なのに肝心の汗はあまりおさまらないという理不尽。
どうなっているのか、私の身体。

美容院ではシャンプー・カットと白髪染めをお願いしようと思ってたんだが、腰が痛くて座ってるのがつらい。
しかし、もう4カ月も前に染めたきりで、そろそろ鬢のあたりとか根元はヤバいらしい。
出直すのも面倒なので、思い切って全部お願いした。

2年前に担当してもらってた人が産休中で、今の担当さんはいない。
もともと数ヶ月に1度、甚だしい時は1年来なかったりするので、担当の人に切ってもらったからどうということもないんだが、私が希望するほど前髪を薄く切ってもらうのは難しいのだなぁ、と家に帰って鏡を見て、あらためて思った。
かなり何度も直してもらったつもりなんだが、やり直しをさせることやメガネを何度もかけさせてもらうのが申し訳なくて、最後は「はい、大丈夫です」と言ってしまった。
60年近く生きてきて、いまだに美容院にかかるのがヘタであるという現実に、なんとなく立ち直れないものを感じている。

駅前を去る前に、駅ビルに寄って魚屋さんに行ってみた。
大内くんから「いいカキがあったら、買ってきて」とのリクエストがあったのだ。
希望通りのぷりっぷりの大粒のカキを見つけたので、買う。
ついでに、今週は大内くんが遅い日が多いため、私の1人メシ用にサーモンマリネと鯛茶漬けを作ろうと、安く売っていた鯛の冊とサーモンも買った。ディルもね。

コージーコーナーでおやつ用のシュークリームを買って、予定通りに2時を過ぎた。
眼科の午後の診療が始まる。
緑内障の治療で眼圧を下げる目薬を使っているため、ひと月に1度、検査をして目薬を補充しなければならないところ、先月は体調が悪くて寝込んでいる間に日が経ってしまって、2ヶ月、間が開いた。
キビシイ美人の女医さんに叱られるかと思っておびえてたんだけど、今日は何だか機嫌が良くて、叱られなかったよ〜。
眼圧は思うように下がってないそうで、「うーん・・・」って腕組みされたけど。

すべて終わって家に帰ったらくたくただ。
夜は、タルタルソースを作って、カキフライを揚げてもらった。
「ゆでたまご、たまねぎ、ピクルス」をプロセッサにかけてみじん切りにし、さらにマヨネーズとレモン汁、塩、こしょうを投入してガガッとひと回し。作りたてのタルタルソースはおいしい!
いろいろに使えるので、ポッカのレモン果汁とピクルスの瓶詰めを常備することをおススメしたい。
シュークリームも食べて、幸せな晩だった。

18年2月27日

毎日会社に行く感心な大内くんの通勤風景。

朝、7時半ごろ家を出たら、15分ぐらいたって戻ってきた。
財布から何から一切合財忘れてバス停まで行ってしまったそうだ。
待っててバスが来たところで定期を出そうとしたら、「あ、忘れた。しょうがない、現金で乗ろう」。
財布を出そうとしたら、「あ、財布も忘れた」。
持っていたのはケータイのみ。仕方なく徒歩5分の道のりをとぼとぼと戻ってきたんだって。

「おサイフケータイにしたら?」と提案させていただいたが、
「落とした時のダメージが大きすぎる」と却下された。
お別れだと思ってからもう1度会えたので、私は嬉しかったけどね。

帰りは、今日からお迎えを復活させた。
おととしの暮れ、お互いに少し歩こうと最寄りのバス停から2つ手前のところで降りてもらってまでお迎えに行っていたのだが、私の心臓が悪化して歩けなくなったので中断していたのだ。

吉祥寺からバスに乗る時に電話をもらい、家を出てぷらぷら散歩して10分のほどよい距離。
久しぶりに歩いてみて、息切れは改善されていたが、今度は筋肉が落ちて足をかばうためにおかしな歩き方になっているせいなのか、膝とかすねとか痛くてたまらない。
だんだん慣れていくと思うので続けたい。

停留所に近づいた時にちょうどバスが来て、大内くんが降りてきた。ナイスタイミング!
コートで着ぶくれた背の高い姿のシルエットを認め、両手をぱたぱたとペンギンのように動かしながら近づいて行くと、向こうも両腕をうち振る。
「おかえり」と迎えたら、
「すたすたと歩いてきたので、嬉しかった。前は、薬でふらついていて、可哀想だし心配だった。本当に良くなったんだなぁ、って思った」と感激してくれたよ。

裏通りに入ると、昔、息子が通っていた柔道の道場の前を通る。
今日は稽古はないみたい。
トレーニング器具の手入れをしていることもある道場主もまだ隣の接骨院の方にいるのか、道場は静まり返っている。
「大内、技、かけて行け!」と息子が叱咤されている声を、よく窓の外からうかがっては聞いたものだ。
なつかしくて、つないだ手に思わず力がこもった。

これから暖かくなるから、調子のいい日はお迎えをしよう。
晩ごはんが10分ばかり遅くなるけどね。

18年2月28日

昔、息子がお世話になっていた塾の塾長と大内くんが、吉祥寺で飲み会。
今回は私もご一緒させていただくことにした。
この1年近くは寝込みがちだったので、ずいぶん久しぶりになる。
お店で会うなり、「血色が良くて、若返りましたね!」とびっくりされた。皆さんそうおっしゃる。ほほほ。

息子からも聞いていたが、塾長は家を出た彼をたいそう気にかけてくれていて、しばしば声をかけてくれる。
先日は同じ塾から同じ大学に行った文筆家志望の後輩男子もコミで、「モノカキの会」を企画してくれたらしい。
「作品を書いて、僕に持って来いって言ったんです。これからも月イチぐらいでやりたいと思ってます」
欠食児童たちにごはんをおごったり相談に乗ったり、塾長は塾生たちをいつまでも見守ってくれている。

「息子くんは家を出るにあたり、お父さんお母さんからも『そこはかとなく』勧められたけど、最後は自分で決めた、って言ってましたよ」と塾長が言うので、思わず、
「大嘘です!そこはかとなく、どころか、『いつ家を出るの?!早くアパート決めて来なさい!』って、ゴリゴリに言いました。まったく、あいつはなんであんなに嘘つきなんでしょう?」と憤ってしまった。
「モノカキだからですかねぇ」と笑う塾長。
「お父さんお母さんが、マンガや映画、小説といったサブカルチャーを与えてくれたことにすごく感謝してるって言ってましたよ。彼が、サブカルチャーという言葉を使うところに感心しましたね」
物言いだけ一丁前で、お恥ずかしいです・・・

2人の男の子の父である塾長と、子育ての難しさをしみじみと語り合う。
職業柄、大勢の少年少女を見てきた彼にしても、自分の子供はまた格別な存在なのだろう。
今の子育ては難しい。
「不確実な時代ですし、『こうなってほしい』なんて像があるわけじゃないんです。ただ、本人が自分で望む姿になってくれれば、と思うばかりです」と最近の思いを言葉にしたら、塾長はうんうんとうなずいて聞いてくれた。

ゆくゆくは塾で教えたいという野望を持っている大内くんの今後をお願いすると同時に、私のパート職もお願いした。
事務を必要としているそうである。
「エクセルとイラレを勉強しておきます」と言ったら、「素晴らしい!」と喜ばれた。
まだ体力に自信がないので1年ぐらい先になるかもしれないが、本当に頑張ろう。
いつか大内くんと一緒に駅前でお勤めができたら、理想の生活だ。
いまだに一家3人でこんなにお世話になってしまってまことに申し訳なく恐縮だけど、どうぞ今後ともよろしくお願いします。

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