18年10月1日

近所の整形外科の先生が、大学病院に紹介状を書いて予約を取ってくれたので、膝を診てもらいに行った。
せいうちくんも休みを取ってついてきてくれた。
折からの台風が去ったばかりで、我が家の近所の駅は通勤客があふれて大混乱。
朝食を食べながらたまたま見ていたテレビでその様子が中継されていて、
「こんな日に休んで申し訳ないが、休みでよかった…」とつぶやいていた。

家から車で5分の大学病院は超混んでいた。
小学生の息子のアデノイドを診てもらいに来た時も混んでたが、どこからこんなに病人が来るんだろう、って不思議になるぐらい。
これでも受付とかずいぶん合理化・自動化されて早くなったかなー、と思いながら予約票とか診察券とか出してて、はっとした。
紹介状!
ファイルに入れてなかった!

前日にせいうちくんが必要な書類をまとめてくれた時、私、全然自分でチェックしなかった!
いつもは何日も前からきちんと整えるのに。
あうあう言ってたら、せいうちくんが、
「取りに戻るよ。どこにある?」って言う。
「たぶん、書斎の棚」
「わかった。すぐだから」

受付のおねーさんも、
「紹介状がないと本日の診察が受けられません。ご主人様が戻っていらしたらすぐに整形の受付に回せるようにしておきますから」ってはげましてくれたけど、あああ、どうしてこんな大事な日に。

「あったよ。すぐ行く」ってラインが来て、往復20分ほどで戻ってきてくれた。
本当にほっとした。
すみません、今後は真面目にやります。うーん、いつもはこんな失敗しないんだけどなぁ。

こういう時にせいうちくんはあわてない。
さすがは30年前線で働くビジネスマンだ、ひきこもりの主婦とは胆力が違う。
忘れてきた私を責めないところもいい。
日頃忘れがちな美点を発見できて、アクシデントもたまには役に立つものだ。

さて、紹介状持ってて予約していても、待つは待つ。
広い広い待合室にぎっしり坐った患者さんたちは、これ全員予約とかしてるんだろうか。
いくら診察室が10個も20個もあってドクターがいっぱいいるようでも、この患者さんが全部はけるのに何時間かかるんだろう?

40分ぐらい待ったかなぁ、やっと予診の先生に会えた。
問診して、持病とかのんでる薬とかのチェックのあと、両膝のレントゲン撮ってきてください、と言われた。
オーダー受け取って地下のレントゲン室に行って、ここでまた30分ぐらい待ったけど、今のレントゲンは現像しなくていいから早いよね。
昔、息子の頭部レントゲンのオーダーが出た時は、現像が出来上がるのを待って、地下のひと気のない廊下を歩きながら封筒から写真出して、息子の顔面骨格をしみじみと見たものだよ。
データがパソコンの中をぴゅーっと通ってドクターのモニタに出ちゃう、ってのは便利だけど、なんだか風情がない。

というわけで手ぶら(伝票だけ持ってる)で整形の待合室に戻って、また40分ぐらい待つ。
ついにドクターに会えた。
かかりつけの整形の先生はずいぶん親しげに「紹介しましょう」って言ってたけど、この若い先生はちっとも、
「○○先生のご紹介ですか!」って顔をしてくれないぞ。

先日別の病院で撮ったMRIの画像、CD−Rで持ってきたのを受付でコピーしたものとさっきのレントゲンがモニタに並んでる。
かかりつけの先生の言っていた通り、左膝は軟骨がなくなって骨が当たってすり減り始めているらしい。
キモは「高位脛骨骨切り術」ができるか、いきなり「人工関節」か、なんだが、とりあえず「骨切り」可能だそうで、これ以上の変形を防ぐためには有効だ、と薦められた。
痛みも、取れるケースが多いそうだ。

しかし、1年半前の手術創がまだ痛み、全身の状態も回復していない私としては、また身体のどこかを切るなんて考えたくない。
たとえ心臓ほどど真ん中ではない、脚の話だとしても。
そう言ったら、ドクターはあまり関心のないような顔で、
「決めるのは患者さんですから。僕らがどうしろとは言いません」とだけ言った。

せいうちくんが見かねたように後ろから、
「この段階まで来たら、手術をした方がいいんでしょうか?放置すると、悪くなるんでしょうか?」と聞くと、
「変形が進んで行くかもしれません。まあそれも必ず、とは言えませんし、患者さん次第です」と繰り返す。

何とか聞き出せたのは、
・人工関節の前に「骨切り術」を試すことはできる
・うまくいけば人工関節に行かないで済むかもしれない
・靭帯はしっかり残っているので、もうしばらくリハビリで様子を見るのもいいかもしれない
という点。

結局、継続的に3か月後にまた診察を受けること、それまでは今通ってる整形外科で診察とリハビリを続けること、が決まって、なんとなく不得要領なまま、診察室を出ることになってしまった。

うーん、ドクターと話すのは苦手だよ。
「自分の状態が客観的にはわからない」からこそ、いろんな患者さんを見ている人から「あなたはここらへん」ってのを聞きたいんだが、「個人差がある」「確かなことは言えない」の原則で、彼らは確言を避けたがる。
そして私は、痛みや不自由さと言った主観を伝えるのがド下手だ。
「物分かりの良い患者でありたい」なんて、どうして思ってしまうんだろう。

いつものようにせいうちくんから、
「なんでもっとはっきりいろいろ聞かないの!そりゃあ、話しにくいタイプのお医者さんだったけど、くらいついて行かなきゃダメじゃない!」と叱られた。
きっと、「僕が相手だと好き放題言えるくせに。この内弁慶!」って言葉をのみ込んでいるんだろうなぁ。

ちょっと茫然として、ごはん食べたり買い物したりして帰ったが、自分の足の「消えてしまった軟骨」についてくよくよと思いを馳せる。
「再生医療とか言われてますが、まだ、なくなった軟骨を戻す方法はないんです」って言ってたなぁ。
いつ、どうしてなくなっちゃったんだろう、運動しなかったからか…と、くよくよくよ。

しかしね、運動の好きな、たとえば毎日5、6時間ジムに行ったりする人はきっと、私が本を読まずにいられないように運動しないではいられないんだよ。
運動してると「この時間で本が読みたいな」と私が思うように、じっとしてると「この時間に身体を動かせたらな」って思うんだよ。
どっちがいい悪いとか高級低級とかの問題じゃなく、人種が違う。
そして、彼らが「教養のためには本も読まなきゃな」と思うように、私も「健康のためには運動しなくちゃな」とバランスを心がけるべき歳になったということだ。

ああ、それでも、人間が寝っころがって本を読んでるだけでどんどん健康になれたらどんないいいだろうか。
身体を鍛えているだけでも情操が育つ可能性は充分あるが、残念ながら、本を読んでて肉体的にマシになったって話は聞いたことない…
もう手術受けて、いやおうなしに痛みとだけ向き合って、泣きながら歩行訓練とかしようかなぁ。
そんなにまでして「動ける身体」を手に入れても、やっぱり好き好んで運動はしないと思うんだが。

18年10月3日

年に1回、せいうちくんの会社が主婦健診を受けさせてくれる。
有料にはなるけど、近所の病院での半日人間ドックだ。
持病が多くてすでにいろんな病院に通っているのでこれ以上特に検査とかしたくないんだが、普段あれしろこれしろと一切言わないせいうちくんがこれだけは譲れないらしくて、
「絶対に行くこと。調べてないどんな病気にかかって手遅れになるか、わかったもんじゃない!」と強硬なので、今年も行きました。

「受けられるオプション検査は、可能な限りなんでもかんでも受けて!」と言われても、「腫瘍マーカー」だけはあまりに高いので割愛させてもらった。
かなりブーイングされ、押し切られそうになったので、
「あちこちの腫瘍マーカーを受けても意味がないから、来年にでも一緒にPET受けて、全身調べようよ。千葉の方に安いクリニックあるよ。旅行がてら、行こうよ」と適当なこと言ってごまかした。
一見前向きな話を聞くと納得してしまうせいうちくんなのだ。

4日前から2回分の便を採り、当日朝は尿を採る。
胃部レントゲンのために前日夜9時以降は禁食、飲み物も水だけ。
自分でもいやになるぐらい、こういうところだけは厳密だ。
去年もきっちり守って朝ごはん抜いたのに、胸部の手術から1年以内の人はレントゲン受けさせてくれないって当日になって初めて聞いて、激しくガックリした。
今年は大丈夫だ!

朝、自転車で3分の病院に行き、受付をして検体を提出すると、ロッカーのキーをもらって更衣室でお着替え。
検査着上下やスリッパが用意されていて、何やら高級感を感じる。
社宅があった頃は敷地内にレントゲンバスとかが3台ぐらい来て社宅妻たちがぞろぞろ並んでたものだし、閉鎖後は市役所公会堂を借りていたが、どうも合併以後ランクアップしたようで、小ぎれいな病院での検査になった。
ちょっと嬉しい。

問診→血圧測定→採血→身体測定→視力検査→眼圧検査→聴力検査→腹囲測定→眼底撮影→肺活量検査→乳房触診→マンモグラフィー→婦人科検査→心電図→内科検診→腹部エコー→胸部レントゲン→胃部レントゲン

あー、すごいフルコースだー。
次々に小部屋に案内されて、流れるようにすべての検査が終わったのが12時。
2時間半しかかかってない。
最後に結果を聞いて、お食事券をもらって昼ごはんご馳走になってコーヒーまで飲ませてもらって、解放された。
いつもながら見事な手際だ。

あらゆるところで「本人確認のため、お名前お願いします」と言われてフルネームを名乗ることも含めて、あれこれ出される指示を「理解する知力があり」「できるだけその通りにしようとする熱意がある」ことを示そうとていねいにほがらかにふるまい続けた2時間半でもあり、社会に出ている人たちは毎日こういうご苦労をしているのだろうか、とちょっとぐったりした。

糖質制限のおかげで体重と腹囲はずいぶん改善された。
血糖値も問題なかったし、コレステロール値も薬をのみ始めたせいか劇的に下がっている。
まだ耳も遠くなってないようだし、今年は測らなかったけど、去年の「骨密度」はこの年齢の女性にしてはまあまあだった。
「骨粗しょう症」にはなっていない。

何より良かったのは、おととしまでの数年間(去年は検査がなかった)測定不能なほど低かった肺活量が、ほぼ正常な数値に上がっていたこと。
おそらく動脈瘤が肺を圧迫して呼吸が妨げられていたのだと思う。
人工血管に置換してから、自分でも驚くぐらい「息が続く」ようになった。

この点、今かかってるドクターはたぶん私の心臓以外のところにまるっきり興味がないせいだと思うんだが、心臓のパフォーマンスが悪いことには熱烈な危惧感を持ってくれたのに、
「肺活量が異常だと言われました。息が苦しいんです」と長年訴えても、
「うーん、加齢ですかねー?」としか言わなかった。

手術のために大きな病院に検査入院した時に初めて、大動脈が「瘤」と言うより「くたびれて伸びきった風船」のようになっているのを見たせいうちくんが、のちにずいぶん憤慨していたものだ。
知り合いの医師にその話をしたら、
「弁の不具合から大動脈が伸びきってしまうことはあるし、そのせいで肺が圧迫されることもある」と言われたそうで、その可能性を考えない今のドクターは、ちょっとヤブかもしれないなぁ。
心臓の管理にはとても熱心だから、まあいいんだが。
なかなかオールマイティーな医者というのはいないもんだ。

というわけで、今の私はそこそこ健康。
治療中の病気がやたらに多いのは遺憾であるが、やれることはすべてやっているということで、人事を尽くして天命を待つ状態だろう。(ちがう?)

元来、長生きにはあまり興味がない。
「目が見えなくなる」「歩けなくなる」「そもそも、痛い」といった状態は困るので病院通いをしているけど、死ぬのを避けたいわけではないんだ。
むしろ、余命を宣告された時こそ、「あの人はヘンな人だったけど、それなりに立派だった」と示すチャンスなのではないかと虎視眈眈、ロマン過剰な期待をしているぐらい。
まあ、そういうことを言っている人間ほど、いざとなるとみっともないぐらい取り乱すのも想定内ではあるが。

機械弁を入れる手術のあと、血液をサラサラにする薬「ワーファリン」を一生のみ続けないといけないんだ、と知人に語ったところ、
「医者がそう言うだけだろう。のまなくたって、困らん!」と喝破されたことがある。
相手が現世的な栄達や幸福にきわめて関心の薄いタイプの人だけに、
「なるほど、そういう生き方もあるか。私はまだまだ中途半端だった!」と蒙を開かれた思いがしたものだ。
「薬物をのむ」行為に嗜癖してるから、苦労も疑問もなくのむけどね。
それに、コワイのは「死ぬこと」ではなく、「脳梗塞を起こして、不自由な状態で生き続けること」だし。
介護するのはせいうちくんに決まっているので、できるだけ苦労はかけたくないじゃないか。

ちなみに、頭痛がすれば鎮痛薬、悪いものを食べたと思えば胃薬、「ついでに吐き気止めものんでおいた方がいいかな?ふふふ」的態度は、若い頃に池田理代子の「おにいさまへ…」の登場人物「自殺マニアのサン・ジュストさま」に熱烈に憧れて以来の習慣だと思う。
70年代の「不健康に『クスリ』をのむ風俗」が、現代では「医療漬け」なんだが、これはこれで不健康なんだろうなぁ。

18年10月4日

夜中に息子からメッセンジャーで「おはよう」って言ってきた。
いや、こっちは深夜2時だから。
母さん、たまたま起きてただけだから。

困った時しか連絡してこない彼の今回のご用は、NYで明日開かれる「Comic Convention」略してコミコンのチケット予約はしたんだけど、クレジットカードがうまく働かなくて払込ができないから、そっちから払ってくれないか、と。
え〜!?とは思うが、こういう急ぎの用件には弱い。
人はこうして「オレオレ詐欺」にあっちゃうのかも。

メッセンジャーでやり取りしながら、送られてきたURLに一生懸命送金しようとしたけど、なんでか通らない。
彼がトライした時と同じエラーメッセージが出てるっぽい。
もたもたしてたらライン電話かかってきて、
「ダメだね〜、なんでかね〜、そもそもあなたのカードはどうして通らないの?」って言ってたら、向こうでもやってみてたらしくて、「あ、できた〜」。
画面に、「Your reservation has been charged」って出た。
そうか、払込できたか。

「よかったね〜!」って喜んでるのに、
「そんなに喜ぶほどのことじゃないじゃん。ありがとね〜じゃあね〜」って、たちまち切られちゃいましたよ(涙)
ちょっとしか話さなかったけど、なんか日本語のアクセントがヘンになってたぞ。
アメリカナイズ?

なにやら興奮してしまい、思わず熱く自分語りのメッセージ送付。
「ぜひ行きなよ!って思わなかったら、手助けしてないよ。ここはひとつ、行ってコスプレ見て来て。母さんが高校生の頃、コミケの前身の『マンガ大会』ってのが開かれてね、友達と泊りがけで東京に行かせてもらうってのが、もう、どれほど大変だったか…そして、行けてどれほど嬉しかったか…そう思うと、あなたにも何でも見て来てほしい」
まるで、
「私の若い頃は戦争中で…今の若い人は何でもできるんだから…」って言ってるおばあちゃんみたいになっちゃった。
ちょっとちがうかぁ。

彼は気がついてるんだろうか、あと1週間たつと自分が異国で1人、25歳の誕生日を迎えるってこと。
この支払がうまく行ってたら、「少し早い誕生日プレゼントだよ!」って言うつもりだったんだけどな。
思いがけなく息子の声が聞けて「じーん」となってるが、SNSの時代、地球は狭くなり空間がひとまたぎなのは素晴らしいものの、国元の親にこんなに簡単にSOSが出せるってのも考えもんかしらん…

18年10月5日

せいうちくんの会社では、「創立記念日を含む週の金曜」を休みに定めており、明けて月曜が祝日になるのもにらんで4連休を作ってくれるという、とっても心にくい社員サービスをしてくれる。
というわけで、怒涛のお休みをとことん楽しもうと、初日は夕方から古い友人と焼肉&飲み会を企画。

せいうちくんのひとつ年上のNさんは、当時マンガサークルで一番人気のある男性だった。
女性にもてると言うより、そのはかなげな風情と卓越した画力で、男子部員中心のファンクラブができたほどなのだ。
男にはすぐに恋に落ちるタイプのせいうちくんもNさんにぞっこんで、卒業後も何かと理由をつけては会ってもらっていた。
先日2人で飲みに行ってたいそう盛り上がったようなので、今日は元ファンクラブ会員として私もお相伴だ。

待ち合わせの焼き肉屋に現われた彼は、私にとっては25年ぶりぐらい。
おっとりとしていながら斜に構えた人間ギライっぽいたたずまい、変わらない。しかしもうただのおっさんだ。
先日会った時に「私、最近『コミュ障』ですから」と言われたせいうちくんは、内心、
「虚無僧?Nさん、どうして虚無僧になっちゃったんだろう?」といぶかしく思ったのだそうだ。
あなたはホントにそういうエピソードに不自由しないねぇ。

私がじゃんじゃんカルビとハラミを1人で焼いて食ってる間に、2人はやたらにアニメの話をしている。
高畑が亡くなったの鈴木が言い過ぎだの宮崎の「辞める辞める詐欺」は大昔からだの、「OUT」「Film 1/24」「アニメージュ」を読んで思春期をこじらせた人たちの面目躍如だ。

話し込む2人を尻目に、Nさんが置き忘れて焦げ始めてる肉をそっと彼の目の前からかっさらおうとしていたら、
「せいうち夫人、私たちこんな話ばっかりしてていいですか?」と言われた。
早くも少し目が座ってるじゃないか。

私「もちろんいいよ。私はアニメ派じゃないけど、門前の小僧で、内容ぐらいはわかるよ」
N「そうですか。いやー、今日はね、せいうちはいいとしても、夫人とどういう話をしたらいいのかと思って来たんですよ」
私「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って、別にそんなに構えてもらわなくていいよ。Nさんとの間にはきれいさっぱり、微塵も何事もないんだから、何を話してくれてもかまわないよ」

そこでせいうちくんが口をはさむ。
せ「いや〜、でもね〜、この人(と私を指して)のアパートに最初にお茶会に招かれた1982年の11月2日にですね」
N「なんでそんなに細かく覚えてるんだ!」
せ「初めて会った記念日ですから。その日、数人の同期と一緒に先輩に連れられてアパートの扉を開けた時の彼女の第一声が忘れられませんね。『あれ〜、Nくん、いない〜』って、心底残念そうな声でした!」
私「Nさんも連れてくるって言われてたんだもん。あの頃はみんなNさんに憧れてたんだよ。あなたのことなんか、知らなかったよ」
せ「そうなんですよ、NさんNさんってね、ずっと言ってたんですよ」
N「私は、ここでどういう顔してればいいんでしょうね…だからこの夫婦はイヤなんですよ…」
せ「まあまあ、Nさん、もっと飲んでください!」
私「あ、それはNさんの得意ワザ!『ん〜、もっと飲んでくださぁい!』って、人を酔い潰しちゃう。こっちも一生懸命注いでるんだけど、Nさんの勧め上手にはかなわなかった」

このへんまでくるとNさんはもうあからさまに帰りたそうなんだが、そこを帰さないのが意外とせいうちくん。
焼肉を食べたら次の店。
学生時代からの行きつけで、息子との節目節目の話し合いにも使っているパブ。
そう、君たちはこないだも来たの。ボトルが残ってるの。いいねぇ。

私もちょっと本気出して、今度はマンガの話をしよう。
Nさんはもちろんアニメとマンガの両刀だが、最近深夜アニメばっかり見ていてマンガにご無沙汰らしい。
「『ゴールデンカムイ』いいですね」って言うから勢い込んだら、原作未読だって言うじゃないの。
だから人気マンガのアニメ化には反対なんだよ。
アニメで満足して、マンガ読まない層が出ちゃうから。

でもマンガ編集者をやってたこともあるNさんと昔のマンガの話をするのは楽しかった。
「内田善美とか今どうしてるんでしょうね」と聞いたら、誰も行方を知らないんだそうだが、
N「今、その名前が出るってのもスゴイですね。普通出ませんよ。『星の時計のLiddle』とか、素晴らしかったですね」
私「そんなんも自炊しちゃったけどね。いいね、古いマンガ。でも、イマイマのマンガもいいよ」
(また横から)せ「彼女がすごく読んでるんで、僕も教えてもらって読んでるんです。Nさんも山田参助の『あれよ星屑』とか読んでくださいよ」
私「いや、Nさんは少女マンガ耽美系だから、ああいう薄汚れた感じは読まないでしょう。せめて水城せとなとか」
N「どっちも知らないですけど、汚れたのも読みますよ。ガロとかね。私が入部した頃のサークルは、すごい才能があふれてましたよね。なんで私、あそこでガロ作らなかったんだろう」
せ「作りましょうよ。まずはNさん、描いてください!」

そこからせいうちくんがしつこく「描け描け」と勧誘を始めた。
この人は時々なんか始めてしまうから、近々同人誌作るかも。
「今は電子で描いて編集もできて、簡単ですからね」とNさんもやや乗り気?

そうそう、私もタブレットで描こうかと思ってる、と話したら、
「去年、夫人がミリペンで描いたイラスト見ましたけど、今でも描けてますよね。タブレットペンには向いてる画風ですし、ずっと日記書いてることだし、コミックエッセイ描いたらどうですか?売れると思いますよ」と言ってもらえた。
たぶん描かないけど、マンガ描きの端くれとしては絵をほめられるととっても嬉しいんだ。

3時間ぐらい飲んでて、しまいの方ではNさんが自分のグラスにどばどばと作る水割りはとっても濃くって、もう水割りじゃないな、オンザロックですらなく、ほとんど「生」で飲んでた。茶色かった。
お会計して、「Nさん、3千円ください」ってせいうちくんが3回言っても「はい?はい!」って財布は出すのにそこで停まってたし。
上着を忘れて行きそうなNさんにせいうちくんが後ろから「はい、上着です」って渡して、
「じゃあ、あっちがサンロードですから。僕らはこっちの通りに出てタクシー拾いますから。大丈夫ですか?大丈夫ですね?」って別れたのが10時半頃の出来事。

せいうちくんも私もマンガサークルにずっとかかわったまま来ちゃったけど、離れて久しいと思っていたNさんが案外サークルに深くとらわれているような気がした。
青春を同じ趣味に捧げて一緒に過ごした人々や場所には魔力がある。
そこを共有した人と37年つきあっている自分の人生は、とても安らかで豊か。
幼なじみと結婚した人はもっとすごいんだろうな、と思うが、とりあえずこれで満足だ。
Nさん、昔をふり返ってもいいような気分になったら、また飲もう!

18年10月6日

午前中は思いっきりごろごろと朝寝をしたが、9時ごろ、昨日会ったばかりのNさんから電話がかかってきた。
しかも家の電話。そんなもん、今やセールスの電話以外かかってこないよ。何事?
と思ったら、せいうちくんが、
「で、今は家に帰ってるんですか?」とか聞いてる。ますます何事?!

電話が終わったので勢い込んで聞いてみたら、なんと10時半に我々と別れたNさんは、記憶も定かでないままにもうろうと吉祥寺近辺をさ迷い歩き、気がついたらとっくに電車のない時間になってしまっていて、しかも財布とケータイ始め何もかも入ったカバンがない。
ポケットに小額紙幣が入っていたので、始発を待って家には帰った、というわけらしい。

まず、せいうちくんに怒った。
「なんで、『そんなことならどうしてうちに来てくれなかったんですか!』って言わないの!」
「思いつかなかった…」
「あ、でもケータイないと連絡もできないのか。あなたのケータイだって覚えてないから、家の電話からかけてきたのはこっちの家電だったわけだ。うちの場所も覚えてないか。うーん、今さらながら、今の時代にケータイを失くすってのは致命的だねぇ。それにしたって言うだけ言ってみりゃいいじゃん。次からは来てくれるかもよ」
「それよりも、昨日のNさんをそのまま帰すべきじゃなかった。『うちで飲み直しましょう』って言って僕らと一緒にタクシーに押し込んで連れて帰るべきだった。そしたらこの悲劇は防げたのに。最後の方はあんなに濃い水割り、いや、ほとんど生のウィスキーをがぶ飲みしてたのに」と嘆くせいうちくん。

Nさんが忘れて行きそうになった上着を渡したほどのせいうちくんは、忘れ物がないかどうか、出る時によく気をつけていたのでまず店には置き忘れてないと思う、と話していたが、いちおう店が開くのを待って電話してみた。
でも、やっぱり忘れ物はないそうだ。
Nさん宅にコールバックしてそう知らせたところ、「そうですか…」とがっくりして、届け出をすると言っていたので、見つかることを祈るしかない。
息子が財布を落としたことが2度ほどあり、その面倒くささはよく知っている。
まして社会人の財布とケータイだ、面倒くささMAX。嗚呼。

「で、ケータイが見つかるまでどうやって連絡取ったらいいですか?って聞いたの?」とせいうちくんに訊ねたら、
「あ」。
「それ聞かなきゃダメじゃん!もしかしたら会社で使ってるケータイとか何か教えてもらえたかもなのに!」
「いや、信じてもらえないかもしれないけど、電話する前にはそれ聞こうと思ってたんだよ。話し始めたらころっと忘れちゃって。またかけるのもヘンだから、休み明けに会社のパソコンにメールするよ。僕はダメだね…」

Nさんの不幸とせいうちくんのぼんやりを嘆きつつも、午後は月イチの検診に行かなくちゃ。
ワーファリンの値がやっと落ち着いてきたところなので、大事。

いつもの採血をしようとして右腕をとった看護師さんが「あらっ、最近、採血されました?」と聞く。
そうだ、水曜に人間ドックで採血したから、左腕を使わなくっちゃ。
ああっ、ドックの結果を持ってくるのを忘れた!
心電図に異常があったから、先生に見せなきゃいけないのに。

と思っていたら、今日はエコー検査以外にもレントゲンと心電図のオーダーが出ていた。
「心電図は取りたてのデータがいいですから」って人間ドックの方でも言われたし、今日取るならそれはそれでいいや。
採血も、やっぱり新鮮な血液の数値が必要なんだろうから、どんどん採ってくれ。

で、先生に会ってドックの心電図の話をしたら、今回もやはり異常な波が出ているんだそうだ。
今日のエコー検査のデータのうち、重要な部分だけを電話で検査室に聞いてみた先生は、
「心臓のパフォーマンスはそれほど落ちていませんが…心臓の筋肉の出す信号が弱くなっているかもしれません。それも、進んでいる兆候があります」と言う。
「えーと、それは、拡張型心筋症が治っていなかった、ということでしょうか」と聞くと、
「その可能性があります。手術の前から兆候はあったので」。

それ、進むと死ぬやつじゃないか。別にいいけど。
「そうですか。やっぱり治らなかったんですねー」と引き下がったら、
「定期的に様子を見て行きましょう」って。
あまり嬉しい話じゃないので、いきなり気分が盛り下がってしまったが、まあいいや。
確かゆっくり進行する病気だ、寿命の方が先に尽きるだろう。

それよりも、先週は「2.0」と適正値の枠内ど真ん中におさまっていたワーファリン値が「2.7」まで上がっていたのが気になる。
(適正値は1.8〜2.2)
「高齢の方だとちょっと高すぎるんですが、うさこさんはお若いから、少しぐらい高くてもいいでしょう。低すぎるよりはいいですから、この量で行きましょう」って、アバウトな管理だなぁ。
どうせ毎月血を取って調べるんだから、もうちょっと小きざみに薬の量を変えてくれてもいいんですよ?

先生、最近、基本的な薬以外は出し忘れが多いから、
「胃薬と鎮痛剤と湿布薬もください」
「はいはい、2週間分ずつでいいですね?」ってちゃんとやり取りしたのに、お会計して処方箋もらった時によくよくチェックしたら、やっぱり湿布薬忘れてる。
看護師さんに言って書き直してもらう。
どうも先生は心臓オタクすぎて、私の心臓がきちんと脈打っているかどうかしか見てなくて、QOLとかあんまり興味なさそう。

「病院を変えたい。しかし、これからまた手術をするとなったら、心臓にかけては日本一の榊原記念病院に太いパイプを持ってるらしいのは無視できない。予約ができて待ち時間が少ないのも魅力だ。うーん」とぼやきながら帰る。
最近いつもこの話になり、今日はまた普段以上に「再手術」のリアリティが増していて、悩ましいところだ。

薬局に処方箋を出しておいて、駅ビルに買い物に行く。
先週オリーブの瓶詰を買ったはずなのに家に見当たらず、車の中にも落ちてなかったので、買った輸入食材店に行ってみなきゃ。
「あのー、先週、オリーブの瓶詰を買ったんですけど、忘れ物はなかったでしょうか…?」
「お客さま!それが、あるんです!」
その時の店員さんの嬉しそうだったこと。私も嬉しい。
198円の瓶詰だが、大事にとっておいてくれてありがとう。

「週明けにNさんにメールする時、このことも知らせてよ。どこかになくしたと思ってたオリーブが、ちゃんと見つかりました、って。元気の出る話かもよ」
「うん、わかった」と話しながら、駅ビルでたまたまやっていた「ニルスの大冒険」の展示を見て、ますますNさんを偲ぶ。

そしたら、家に帰ってからせいうちくんのケータイにNさんから着信があったのに気がついた。
ケータイに、ってことは、少なくともケータイ見つかった?
コールバックしてみたところ、果たせるかな、カバンごと警察に届いていたそうだ!
「よかったですねぇ!」って、せいうちくんはへなへなとなってた。
私もほっとして、ちょっと涙目。

現金とかカードとかよく無事だったなぁ、と思ったら、前夜の支払い時から気になっていた、「システム手帳ですか?」と言いたくなるほど巨大な、とうてい財布には見えない外見が幸いしたらしく、別の手帳にはさんであった小額紙幣数枚はなくなっていたのに財布の中身は全部無事だったのだそうだ。
「ちっ、財布はないのか!」と思った誰かが捨てて行ったカバンを、善意の別の拾得者が警察に届けてくれたのだろう。

「これに懲りずに、また遊んでくださいね」と懇願するせいうちくんに、Nさんはあいまいに「ん…まあ…」とだけ言って電話を切ったんだって。
まあ、5年ぐらいしたらまた誘ってみればいいよ。
その時には、家に連れて帰ろうね。

18年10月7日

息子が小さい頃からずっとお世話になった「おじちゃん」が去年亡くなり、そろそろ命日ではなかったかと「おばちゃん」に聞いてみたら、昨日だったらしい。
お坊さんが来て、お経をあげて行ったって。
お忙しいのが終わったならかえってよかった、と思い、果物を持ってお線香上げに行った。

「お父さーん、せいうちさんのご夫婦が来てくださったよー。あの子のパパとママだよー」と写真に話しかけるおばちゃんは、
「もうね、1年たっちゃったの。あっという間だわねぇ」とお元気そうだった。
お線香を上げてお祈りをする時、いつもいつも「うちの子供たちをよろしくお願いします。見守ってやってください」と胸の中で唱えてしまう。
世界平和とか人類の向上とか祈る余裕は、ない。

お茶を飲みながら、
「息子くんはアメリカで元気にしてるの?何か言ってくる?」と聞かれたので、ツィッターの写真を見せたりたまに来るメッセージの話をする。
下駄履き学ラン姿でコミコンに行った写真が気に入ってもらえたようだ。
「まー、このかっこうでお笑いやってんの?楽しそうねー!」と、温かい表情で見つめていた。
まだストリートやるには至ってないようなんですが。

おばちゃんの息子さんや娘さんの話を聞いて、まだまだ張りのある生活のようだ、とちょっと安心した。
先ごろ娘さんが結婚したので、遠くない将来、自前の孫が発生するんじゃないだろうか。
小一時間おしゃべりをして、お別れした。

おばちゃんちを訪ねた帰りはいつも、せいうちくんと同じ話になる。
「ご夫婦のような人間力ははなからないし、そもそも自分の子供を自分だけでは育て切れなかったていたらくだけど、老後によその子供のお世話をしたいねぇ。昔は保育園に『おしめ洗い』のボランティアに行こうかって言ってたけど、今じゃ布おしめを使ってる保育園なんかないよねぇ」

自分の孫でなくても全然かまわない。
もちろん、いつか息子が結婚して子供を持ったらできる範囲で助けてあげたいとは思うけど、なんとなくよその子の方がお互い平和なんじゃないかと。
友人の孫なんてねらい目かとも思うが、ちらほら生まれる初孫はたいてい名古屋だったりするのは、東京と名古屋の初婚年齢の差だろうか。
それにどうも、可愛すぎて他人には触らせてくれない勢いだ。
猫の手でも借りたい「親」と、たまにゆとりで世話をする「祖父母」の差もあろうし。

仕方ないので、スーパーのレジに並んだ時に前の若いお母さんが抱っこしてる赤ん坊と目が合ったのを幸い、「変顔」をしてみたりする。
たいてい凍りついたような表情をされる。
きっと私はノンバーバル・コミュニケーションに向いてない。

18年10月8日

4連休の最終日、立川のIKEAに出かけた。
サーモンフェアでごはん食べて、日用雑貨を眺めて、気に入ったものがあったら買おう。
前回買ったタッパーは常時サラダバイキングの材料を入れておくのに役立っているし、ランチョンマットを導入したおかげでテーブルクロスを洗濯する必要がなくなった。
生活をデザインし、ささやかでも変化させるのは本当に面白い。
世の中で本を買うのの次に楽しいことは、雑貨買いであろう。
店を選べば、「お大尽のように」買いに買っても万札が1枚飛ぶだけで済むとこも似てる。

朝一番のIKEAはまだ駐車場も空いている。
最初は袋だけ持ってスタート。(でもすぐに巨大なカートに切り替えた)
5月にロッキングチェアとかいろいろ買ったので、今回は重宝してるタッパーとランチョンマットを買い足すだけのつもりだったが、5千円以上買うと使える500円のクーポンも無視できない。

私「このグラス、良くない?ワイン飲むのに、ステム(脚)がないタイプの方がひっくり返らないよ」
せいうちくん「うん、安いし、いいね」
私「あ、タブレットスタンド、いいなぁ。キッチンでiPad見ながら料理する時、かさばらないスタンドが欲しかったんだよね」
せ「うんうん、買ったらいいよ」
私「じゃあ、安いから、あなたのiPadの分も買おうね。ねぇ、このシリコンのフタのセット、いいと思わない?ボウルにぴったりフタができるよ」
せ「チーズケーキ用のクリームチーズとバターを常温に戻すのによくカウンタの上にボウル置いてあるけど、今のフタはのっけてあるだけで、浮いてるもんね。買いなよ」
私「さすが、よく見てるね!そろそろ調味料入れも買い替えない?パルスイートを古いジャムの瓶に入れてるのって、貧乏くさいよ」
せ「いいね、買おう」

…こういう勢いで、あっという間にカートいっぱいの雑貨を買ってしまいましたよ。
モノを増やすのがキライな人の家に、こんなに雑雑を持ち込んで、ゴメンね。
(せいうちくんが欲しいと言ったものは、199円のガラスの水差しひとつだけだった)

昼になる前にと、10時40分頃にレストランに行ってみた。
商品満載のカートは壁際の「駐車場」に停める。(壁にはショッピングバッグを下げるフックもずらりとついている)
早めに来ても9分がた埋まってる巨大なフロア。
「スウェーデン・ミートボール(マッシュポテト抜いてもらった)」「サーモンフィレ」「ゆずサーモンマリネ」「鶏のから揚げ5個」のお皿を取って、11時までは会員無料のドリンクバーももらい、並んで食べる。
さすがに窓際の席は超人気で全部ふさがっていたけど、大きな窓を正面に見られる席で、多摩動物公園に行くからだろうか、ライオンやキリンの絵が描かれたモノレールの車体がよく見えた。

目の前に空いてる席が2つあって、小さな女の子を連れたお母さんに、
「すみません、ここはどなたかがお使いでしょうか?空いてます?」って聞かれたんだけど、わきにベビーカーが停めてあるので席取りの対象になってるかもしれず、まったく確信が持てない。
せいうちくんと顔を見合わせていたら、先ほどからまわりには無関心そうにタブレットで何やら読んでいた横の席の女性が、
「そこは、さっきから空いているようですよ。ベビーカーの方は、向こう側を取ってらっしゃいました」と的確な情報を。
「ありがとうございます!」と嬉しそうに荷物を置いて食べ物を取りに行った親子連れを見送りながら、横目で件の女性に尊敬のまなざし。
よく見てるなぁ、この混乱の中で!

せっかくのドリンクバーだから、とせいうちくんが2人分のお代わりを取りに行こうと席を立ちかけたら、そこかしこに出始めてる「立って待ってる」家族連れのお母さんが、
「すみません、そこ、空きますか?」と声をかけてくるので、
「申し訳ないです、もうちょっと使ってます」と答える。
お茶を3杯飲んで席を立つと、空席はあっという間に待ち人たちにのまれた。
ドリンクバー楽しんじゃって、すまん。

昼近くのレストランは少し修羅場。
でも、最近ツィッターでよく目にしていた、「子連れだからって、あまりにまわりに気を使わなすぎる」人なんて見なかったなぁ。
みんな、礼儀正しくてお互いさまでていねいだったよ。
子供は早く座らせてあげたいから、少しゆとりがなくなるぐらいは当然のことだしね。

まだ行ってなかった売り場を回って、コンプリート。
お会計は500円引いてもらえて万札1枚ですんだ。
「ディズニーランドより安くてしかも生活に役立つものが買える!」と我が家ではなまじのレジャーよりも好評なIKEA。

しかも本日は、押し入れケース4つのうちのひとつが壊れてきたからと言って、全部買い替えよう、とのせいうちくんの提案に従ってニトリにも行く。
押し入れ文化のないスウェーデンだからか、欲しいサイズの引き出し式衣装ケースがIKEAにはなかったんだもの。
4つ全部買い替えなくても、と思ったが、サイズがそろってないのも悲しいし、
「もしかしたらキミが結婚前から使ってたもの。30年以上使ったんだから、そろそろ新しくしてもいいでしょう」とスポンサーが言うなら、私も否やはない。

そして、ニトリでもただではすまなかった。
必要な押し入れケース以外にもいろいろ買った。
また万札1枚。
ここでも「5千円以上買うと500円のポイントプレゼント」ではあるが、そう言えば通販のセシールからもしょっちゅう来るなぁ、「500円引きクーポン」。
何だろう、小売業界の共通戦略?
5千円以上買う客には1割引いてもお店側が得するって計算式があるんだろうか。

恐ろしいことに、押し入れケースは在庫が足りなくて、1個だけ入荷を待って次の土曜に取りに来ることになった。
きっとその時また買い物してしまう…

買い出しもすませて家に帰りついたのが午後3時なので、そこから買ったものの開封・値札取りの作業をすませて今日はもう終わろうと思ったのに、馬車馬のように働き者でいったん動き出したら止まらないせいうちくんは、
「家に入れた分だけ、家から出す」の大原則通り、猛烈な勢いで古いモノを整理し始めた。
押し入れケースの中身を入れ替えて運び出すぐらいはしょうがないが、タッパーの整理とか、食器棚の引き出しとか、今やらなきゃいけないの?

しょうがないから買ってきた調味料入れに「しお」「さとう」を入れ、ラベルシールを探し出してきて書いて貼っていたら、せいうちくんはいつの間にか食料品の大整理に手をつけている。
糖質制限で食べないでいるうちに賞味期限が過ぎてしまった缶詰瓶詰レトルト食品、お茶漬け海苔に至るまで棚から取り出し、「息子にあげよう」と言って袋詰めしている。

今日こそのんびりテレビ見て、たまりにたまったドラマを片づけようと思ったのに、すべて終わってお風呂に入らせてもらえたのは7時過ぎてから。
ま、ごちゃごちゃだった食品棚やパントリーは確かに驚くほどきれいになったけどね。
「いい4連休だったね!」とせいうちくんが晴れ晴れした顔になっただけでも、大掃除ならぬ小掃除をした甲斐はあったかも。
でも、くたびれたよ…

18年10月9日

年下の友人ミセスAと渋谷でお茶。
たまりにたまったマンガの話をする。
まずは「エール交換」ならぬ「お互い読ませたい本の交換」。

先日、元マンガ編集者のNさんに「最近坂田靖子を買いまくっている」と話したら、
「坂田靖子は『村野』さえ読んでいればいい。あれがすべてを語っている」と言われ、そのちょっと前にコミックス「くされ縁」を貸していたミセスAから「一番好きなのは『村野』でした」とラインが来ていたので驚き、その話をしたかったんだ。
「坂田ほぼ未経験」の彼女は、どこがよかったかを考え中らしい。

ミセスAは日頃から「うーん」とうなるようなマンガばかり推薦してきてくれて、彼女のおかげでめぐり会えた名作数知れず。
せいうちくんも私もそれなりにうるさがたのマンガ好きに揉まれてきたという自負があり、通なご意見には慣れているつもりだったけど、世の中には時々こういう天然の才能が開花するもんだ。

大学漫研の男性部員から卒業後に知り合って結婚した奥様を紹介されたら、マンガサークルなどない地方の進学校で「未来少年コナン」が好きだからと友達と屋上に登ってラナごっこをしていた、と打ち明けられた時は、「組織されていない濃い人々」の存在を痛感したものだ。
サークルに集っているだけが能ではないのかもしれない。
私自身も、やっと出会えた仲間と合作をしていた10代半ばの頃が華だったのかしらん。

子育てに忙しいミセスAと、2時間の限られた逢瀬をお互い機関銃のようにしゃべり続け、いつもいつものことだがまったく話し足りない。
その夜、私があんまりしょんぼりしているものだから、せいうちくんは、
「キミは女性に話を聞いてもらってる時が一番幸せで、大好きな人と会うと、よけいに寂しくなっちゃうんだよね…」と深刻な面持ちだった。

忙しいとは言っても毎日話を聞いてくれる夫を持って充分幸せなはずなのに、この空虚さはなんだろう。
「頭が良くて話の合う女友達」に異常に弱いのは自覚しているけど、やっぱり重度のマザコンか。
「あなたは変わり者だから」と言い続けたまま亡くなってしまった母を恨んでいるのか。
この世界のどこでどうやって、心に空いた穴を埋めればいいのか。

信田さよ子や斎藤環を読めば読むほど、娘に重い障害があって話ができないのはむしろ僥倖だったと胸をなで下ろす。
あとは…「嫁よ、来い」だろうか。
それはそれで、本当に恐ろしい。
自分の問題を次世代に持ち越すことだけは絶対に避けなければなぁ。

18年10月10日

息子の誕生日。
彼はNYで1人、25歳を迎えたわけだ。
時差があるので午後1時になって向こうの日付が替わるのを待って、「おめでとう」とメッセージを送った。
すぐに「ありがとー」と返ってきたので、「なにかひとこと」と言うと、「やったります」とだけ。
25歳の抱負ですか。

彼が10歳の時の10月の自分の日記を読み返してみた。ちょうど15年前。
やっぱり何も間違えてない。
たとえ間違えてても、後悔しない。
この世に完璧なんてないんだから。

ただ、子育て中は大きな迷いがなくて、楽だった。
日々片づけなきゃいけないことはあるし、子供にどうなってもらいたいとか何になってもらいたいとかのはるか手前、「メシを食わせる」「宿題をやらせる」「最低限の礼儀を仕込む」といったあたりに忙殺される。
自然と日記もシンプルで形而下的なものとなり、「私という存在はどう生きて、死んでいくのか」みたいなことは、考えてるヒマもなかった。

息子はこれから「生活をしつつ形而上的存在となる」難しい作業を始めるのだ。
1年前に1人暮らしを始めてからだんだん離れて来ている、「親にメシを作ってもらって高邁な理想を振りかざす生活」とは完全におさらばしてもらう。
ちょっといい気味。

「明日死んでも後悔しない生き方をしたい」と言う君だが、私の胸のうちに固くある、「君が明日死んでも後悔しない育て方をしてきた」というこだわりに気づいているだろうか。
親にだって、信念もこだわりもあるんだよ。

我々が君を育てながら、日常生活に追われながら、これだけは捨てたくない失いたくないと思った理想を今も細々と固持しているように、君も「自分を自分たらしめている」何かのために頑張れ。

18年10月11日

子供の頃から、「時計の広告はほぼ全部10時10分を指している。なぜ?」と思っていた。
「メーカーの名前や日付の窓などが全部見える」「見映えがいい」などいくつかの理由を自分なりに考えてきたが、そんなこと全然考えたことない!という剛の者に出会った。
もちろんせいうちくんだ。

私「みんな10時08分だよね」(ここ20年ぐらいでより正確に把握した)
せ「え?そうなの?」
私「え?そうでしょ?」
せ「気がついたことない!」
私「そうなの?だって、ほとんどそうじゃん」(Amazonの広告ページ見せる)
せ「ホントだ!知らなかった。それって自分で気がついたの?すごいー!」

あまりに脱力したので、友人に会った時に同じことを聞いてみた。
やはり驚かれ、同じページを見せても「たまたまじゃないですか?」とまで言われた…一般常識じゃなかったのか。

その後FBに書き込んでみたら、驚いたことに、
「たしかに…!」
「私もまったく気づきませんでした」
「本当だ〜考えたことなかった!」
などなど、「知らなかった派」ばかりだし、「知っていた」人も「雑誌で読んだ」「テレビで見た」「時計職人の叔父さんから聞いた」と、「自分で気づいた」人は今のところ皆無!

そうか、観察し、法則性を発見するのは一般的な趣味だと思っていたが、実は珍しいのかも。
(きっと、地球にはまだまだ大勢の「気づいている星人」が潜伏しているが、彼らは私より用心深いにちがいない)
せいうちくんからは「捨て目が利く」と謎の賛辞をいただき、友人からも「よく気づき過ぎる」と、まあ多分、ほめられた。
ほめられ、認められることこそ我が生きがい。もっとほめて。

それはそれとして、反省しなきゃなーと思ったのは、せいうちくんが知らなかった時は「この物知らず!」とあきれたのに、相手が友人になったとたんに、「そうか、そう思わない人もいるのか」とやや卑屈になったこと。
(今やせいうちくんの方が「普通」なだけなんだし)
どうも私は自分の夫に対して高飛車過ぎるようだ。
うすうす自覚はあったんだけど、気をつけよう。
いくら本人が「マウントとってとって」ってニコニコしてるタイプだからって、良かあないよね(汗)

ちなみにAmazonの広告を見たら、「デジタル時計の場合は10時58分が多い」という法則にも行きあたってしまった。
これは、「デジタルの液晶を一番たくさん使う『8』は分の1の位にしか使えないからぜひ『8分』としたい。(8時、とすると一番左の窓が空白になるので望ましくない)あとはまあ、液晶のバランス?」とか考えている。
世の中には考え事のタネが尽きない。

もっとも、私が一番好きなのは考えることではなく、その結果を人に話して感心してもらうことである。
寡黙な思索家になれないのは、ひとえにその悪癖が原因だ。
「あまり気がつかず」「なんでも感心して聞いてくれる」、これ以上望むべくもない良き聴衆のせいうちくんを得て、かなり充足しているんだが、もっと大勢が感心してくれても全然かまわない(笑)

18年10月12日

お隣同士の整形外科と皮膚科のハシゴ。
整形で予約したリハビリを受け、診察を待つ間に皮膚科の予約時間が来たので、ちょっと抜け出して行ってきた。

胸を正中切開した20センチの傷跡がケロイドになってしまったので月に1回注射をしてもらって鎮めてる。
「傷の上部と下部は、少し赤味も取れて癒えてきたかも。まだこの真ん中のへんが腫れてるのよね〜、いつかは落ち着くと思うけど」と、赤紫に盛り上がった傷に細い針で器用に注射しながら、女医さんが言う。
飲み薬ももらって、また来月。

整形に戻ったら、すぐに順番が来た。
紹介された大学病院で今月初めに診察を受けた結果が担当医から回ってきたそうだ。
「心臓の手術から回復していない話もよくわかったから、膝の手術は急ぐことはないでしょうって。ま、向こうとの顔つなぎだと思って。いよいよとなるまでは、ウチに通って診察とリハビリ受けてもらえばいいから」とのこと。

ただ、リハビリを始めて5カ月たつので、新たな診断書を出さなきゃいけないそうだ。
右膝で始まったが今や話の中心は左膝に移っているため、問題はないらしい。
「だから、来月初めにはまた来て」
はい、大丈夫です。リハビリで始終来てますから。

昨日、友人から「いきなりステーキ」ランチの写真が送られて来たのと、正にその「いきなりステーキ」から「ナスダック上場記念キャンペーン」のお知らせが来たのとで、金曜のディナーはステーキ!ってことになった。
「ワイルドステーキ300g」1380円が1000円。お得だお得だ。
せいうちくんからのカエルコールがあったら、お店に予約入れなきゃ。
しかしこんなに始終「お得だから」とお財布を開けていて、結局はナニカの思惑に乗せられて損してるだけなんじゃないかなぁ?

18年10月13日

先週にニトリに買いに行って在庫がなかった押し入れケース、今日入荷なので引き取りに行った。
もちろんついでにまたいろいろ買ってしまう。

珪藻土のコースターがスグレモノだと思う。
氷の入った飲み物のグラスをテーブルに置くと濡れた輪っかができるので、コースターを使いたい。
しかし、布は汚れるしコルクはカビる、プラスチックは底に貼りついて持ち上がる、とどれも不満だったが、水分を吸収してそのうち乾く珪藻土は問題点のすべてをクリアするのだ。
4枚使っていたが、新たに4枚を購入。
いちいちセットするのは面倒くさいので、書斎の机やらシアタールームの小テーブルやら家のあちこちに置いて、グラスの輪っかナシ!

ついでに先日買った調味料入れのために珪藻土のスプーンを買う。
これを突っ込んでおくと塩とかが湿気て固まるのを防げるらしい。
昔の喫茶店の塩入れに「焼き米」を入れていたようなものか。
ただし、砂糖にはNG。
水分を吸い過ぎて、かえって固まってしまうんだって。

あと、私が1人でごはんを食べる時にお皿をパソコンの前に持って行くためのトレイが欲しかった。
こないだIKEAでひとつ買ってもらったんだが、少し大きすぎたの。
「大は小を兼ねるし、あるものを使うべきだよなぁ」と思って棚を見てたら、「seiuchi cafe Buono Buono」ってプリントしてある可愛いの発見!大きさも手頃!
「名前書いてあるもの、買わなきゃしょうがないね」とせいうちくんも笑っていた。買ってくれてありがとう。

帰り道のケンタッキーでお昼ごはん。
糖質制限始めて以来、外食はケンタかステーキぐらいしか食べられないので、両方ともアプリを入れてポイント貯めてる。
せっせと通った甲斐あって、ケンタでは、半年で最高位の「プラチナ会員」へとスピード出世を果たした。
プラチナステージの特典の中には、「チキン4ピースとナゲット5個で千円」というクーポンがある。380円もお得。
これに「前回もらったアンケートに答えるとソフトドリンク1杯無料」のクーポン足して、ゴージャスなランチをお安く楽しんだ我々。
こういうのが嬉しいって、貧乏くさいかしらん。

さて、いろんな抽選に応募していると、けっこう当たる。
10日に1回ぐらいコンビニでお茶やらヨーグルトやらもらうんだが、今日も助手席でスマホの画面からくじ引いてたら、ファミマのシュークリームが当たってしまった。

「糖質制限中だけど、2人でひとつ、食べようか。あっ、ちょうど今から行くスーパーの隣にファミマある!あなたが車停めてる間に、私、シュークリームもらって来るね」と車を降りたが、よく考えたら、100円やそこらの商品が当たったからってもらって食べてたら、せっかく糖質制限してるのに太るじゃないか。
やめよう!

スーパーの入り口に手ぶらで立ってる私を見て、
「どうしたの?もらえなかったの?!」とびっくりしてるせいうちくんに上記のようなことを語ったら、
「えらいねー!最近キミはすごくえらくなったよ。どんどん本物の智恵が身について、僕にはもったいないぐらいだ」とほめてくれた。
いやいや、そんなことを言ってくれるあなたこそ、もったいないようなダンナさまですよ。
お互いにほめ合うのは、費用も税金もかからなくてけっこうな娯楽だ。

鍋をしたかったんだが「いいぶつ切りの鱈」が買えなかったので、「鯖の水煮缶」を使ってみた。
これは、大成功。
鶏や豚の鍋では少し重たいと感じる時にはぴったりだ。
白菜や春菊にもよく合う。
缶詰だから常備できるし、これから積極的に食べよう。

昨日から始まった雲田はるこ原作のドラマ「昭和元禄落語心中」観て、なかなか出来が良くって嬉しい。
ほぼ完璧な1日だった。

18年10月15日

我々は、ドラマを観るゆとりができたらしい。
朝ドラの「まんぷく」を始めとして、夜のドラマを楽しみにしている。

毎クール、ほぼ全部のドラマをいちおう録画してみて、「今期のを占う」と称して順に観ては「却下」とか言って予約ごと消して行き、どうかすると残った物も気力がなくて結局観ないで終わってしまう年が続いた。
ここ数年で印象に残っているのは「A・NO・NE」と「おっさんずラブ」と「モンテ・クリスト伯」だけだ。
あ、「真田丸」と「おんな城主直虎」も良かった。

今期は、ムロツヨシの「大恋愛」がスゴイ。
大昔の永作博美が出てた「ピュア・ソウル〜君が僕を忘れても〜」を思い出した。みんな、若年性アルツハイマー好きだなぁ。
高橋一生の「僕らは奇跡でできている」と新垣結衣の「獣になれない私たち」も良い!と思い、
「今期のテーマは『下方婚』?アヤシイ男とのピカレスクな恋にあこがれる女性たちが、『でも、やっぱりそれなりに知性がないと』って、小説家とか会計士とか大学の先生とかを選ぶ」と盛り上がっている。

もうこれ以上は観られないねぇ、と言ってるところに、「ドロ刑」が降ってきた。
これがサイコーに面白い。

しかし、せいうちくんが風邪をひいたらしくてくしゃみしながら鼻かんでるので、途中で切り上げて今日は寝よう。
それなのにいつまでも台所で食器洗い機の中身を片づけたりしてるから、
「いつも晩のうちに片づけてるわけじゃなくて、翌日、私が片づけたっていいのに、こういう時に限っていつまでも寝ない。鼎の軽重をわきまえなさい!」って怒っちゃった。
そんな元気があるなら「ドロ刑」終わりまで観ればよかったよ!

18年10月16日

アマゾンで買った内田春菊の5冊そろいが届いた。
なぜか夜の7時半という遅い時間に佐川急便のおねーさんがやってきて、どうも日本語ではないイントネーションで、
「ゴメンね、ゴメンね」と言いながら置いて行ったのは、私がパジャマで出たせいだろうか。
昼間来てくれてもパジャマなんだけどねー。

天に浜松市のマンガ喫茶のスタンプが押してある。
スキャンすれば見えなくなるから、いい。
刺青者が更生するようだ(笑)

古い本は粉になりかけているので、スキャナのローラーを何度もアルコールで拭かないとページ送りが止まってしまう、とせいうちくんは言う。
ひどい時は1冊スキャンする間に2、3回中断して拭いているらしい。
私は日頃そこまで粉になりかけの本は買わないんだが、内田春菊は何度も止まった。
せいぜい15年ぐらい前のマンガなのに、どんだけ酷使したんだ、浜松のマンガ喫茶よ。

裁断してスキャンする手間を思うとKindleで買った方がいいと思うこの頃だが、Kindle版は5冊で3780円、古本セットは送料も入れて1148円なんだからしょうがないじゃないか。
ただ、普通のコミックスは紙より50円ぐらい安いうえ、Kindleで予約したものは発売日の深夜12時を過ぎたとたんに配信されて、当日の昼過ぎにしか届かない有体物よりずっと早く読めることがわかってきたので、ますますKindle化が止まらない。

ずいぶん古いレア物ものも手に入るようになったKindleでも、西谷祥子とかは難しい。
今日はアマゾン巡回中に思い立って、第2巻しか持ってなくってずっと欲しかった「今日子の恋歌」の第1巻が届いた。
送料込みで1000円ぐらいなら買える。
穴が三つあいてた跡があって、裁断してくれたせいうちくんが、
「これ、針金抜いといてくれたの?」と聞いてきたが、違うのよ、貸本屋出身なもんだから、ヒモで綴じて補強してた穴の跡がある方なのよ。
ただでさえ辛い人生(本生?ほんなま、じゃないよ!)を送ってきたのに、ここに至って裁断される。すまん。

さすがに西谷祥子のレアなやつは2万円とか平気でする。とても買えない。
セブンティーンコミックスとか、例の縞模様の透明ビニールカバーのついてたマーガレットコミックスとか、ずっと捨てないでおいて良かったなぁ、と値段を見て改めて思う。
一方で、青林堂の内田春菊なんかは20代の引っ越し三昧の時にかなり処分してるもんだから、今頃泣く泣く買っている現実。

今なら読み放題のKindle Unlimitedで内田春菊作品がいろいろ読めるんですのよ、奥様。
「持っていたい派」なので結局買ってしまい、サンプル読んでるのに等しい状態ではあるが、なんとなく電子書店の「1巻無料読み放題」が好きになれない身としてはありがたいUnlimited。

本屋にレディース・コミック買いに行ったら、マンガ通なおばちゃんに、
「よしながふみの『大奥』の新刊が出ますけど、とっとかなくていいですか?」って聞かれた。
「雑誌以外はもう電子書籍で買っちゃってるんですぅ〜。置き場所がなくて〜」って謝ったら、
「そうですよね、こういう雑誌は捨てればいいけど、本はたまりますからね」と賛同された。

ごめんね、このままだと町の本屋さんはつぶれちゃうよね、と思いつつも、同じ値段ならレディコミも宅配してくれるアマゾンさんで買おうかと目論んでるのよ。
時々取り置きを忘れてしまうアナログなおばちゃんが好きだけど、手間はかかるんだ。

18年10月17日

同じ日に読んだ佐野洋子のエッセイとよしもとばななの小説に同じプルーストの「失われた時を求めて」が出てきた。
なにかの符号だろうか。
知的な女が読んだり読もうと思ったりする、記号としての本?
(いかん、まだ読んでない)

息子が大学生の頃、急に「欲しい」と言い出して、当時FBにそのことを書いたら、大学時代の先輩が「持っていて、もういらないから、息子さんにあげよう」と送ってくれたことがある。
彼は、読んだのかなぁ。
引っ越す時に、持って行くだけは持って行ったようだけどなぁ。

息子の大学受験の頃の自分の日記を読み返したら、
「お笑い芸人になりたい、と思っていることがわかって驚いた。しかし、何になってもいいとは思っているし、仕事や会社で彼を縛るほど世間体を気にしてはいない」というようなことが書いてあった。
我々が「会社を辞めたことにがっかりし、怒っている」と思い込んでいる息子に、いつか読ませてやりたい。

子育て中も自分が案外ブレてなかったことを確認して、少しほっとした。
軸足は知らず知らずのうちにずれていきがちなので、記録があると安心できるね。
人一倍忘れっぽい私は、必死に人生の記録を残している。
身体中にメモをつけていた「博士の愛した数式」の寺尾聡を思い出す。

いつの間にか息子が日本を出てから丸2ヶ月ちょっとが経過した。
サンフランシスコの従姉のところに報告に戻って1週間滞在する予定だとすると、もうあと10日ほどでニューヨークを出発するはず。
3週間もすれば帰国だ。

先日ブログに上げていた文章を読むと、アメリカのインプロゼーションというスタイルのコントがいたく気に入って勉強してるらしい。
なかなかいいじゃん、修行に行ったっぽくなってきたぞ、と思い、
「インプロを極めるまで滞在したら?」と水を向けると、「あぁう」と意味不明のつぶやきが返ってきた。

こっちも斎藤環の「子育てが終わらない 『30歳成人』時代の家族論」なんて本読んで勉強(?)してるんで、前より腹をくくってるよ。
人生の回り道、大いに結構。
ただし、もうメシを作るのと起こすのはイヤなので、1人暮らしは継続してね。

18年10月18日

日曜劇場「下町ロケット ゴースト編」観てたら、「ガウディ編」のおさらいで、当時阿部寛たちが開発した「人工心臓弁」が出てきて、せいうちくんは涙ぐんでいた。
「こういう技術がキミの命を救うことになると、あの頃は全然知らなかった。本当にありがたい」
サッカーできるようになった少年を見て、フクザツな気持ちの私。

「あの子たちも、一生ワーファリンのむのかな。納豆食べられないし、けっこう面倒くさいよ。手術しないという選択がなかったのはわかるけど、ほうれん草食べまくったぐらいでワーファリンの量を加減しなきゃいけなくなるとは思わなかった。インフォームドコンセントが十全であったとは言えない。そもそも、医者は病気を治すことに熱心すぎて、患者のQOLにイマイチ興味がなさすぎ」
喉元過ぎたので熱さを忘れている、感謝知らずの女ではある。

ドラマ「黄昏流星群」では、スイスで黒木瞳が佐々木蔵之介に「エーデルワイスが見たくて」って言ったとたん、

せいうちくん「何が見たいって?」
私「エーデルワイス」
せ「何それ?!」
私「花だよ。高山植物。『サウンド・オブ・ミュージック』にあるじゃん、Edelweiss, Edelweiss〜Blossom of snow, may you bloom and growって」
せ「花か!だから bloom and grow なのか!」
私「なんだ、知ってんじゃん。今まで何だと思って聴いてたの?」

せ「かけ声」

・・・かけ声。「エーデルワイスっ!!」って?
どんな時にかける声なんだ?!

しかし、不倫はダメだろう。
原作では出世街道を転がり落ちた夫に「世間体が悪い」と奥さんも娘も冷たすぎるが、中山美穂は佐々木蔵之介にそこまで冷たくないぞ。けっこう愛してるぞ。
蔵之介はうちでは「スケさん」と呼ばれて人気があるので、悪くは思いたくないんだけど、浮気はイカン。
原作がそもそも「人生の黄昏に訪れる、流星のような恋」なんだからしょうがないのかしらん。
「恋は、遠い日の花火ではない」なんて名コピーもあったね。

「何も起こらなくても、2人で食事してウキウキするだけでもう、気持ちは不倫だよね。僕は男女の間に友情は成立しないと思ってるよ」と大真面目なせいうちくん。
奥さんとしか食事しない人生をエンジョイしてくれ。
私は今でも毎日夫に恋をしているよ。
このまま2人で平和に老いて行きたいと願うばかりだ。

18年10月19日

やはり体調が良くならない。
特に、汗がひどい。
もう涼しくなって、日によっては寒いぐらいなのに、なかなか長袖が着られないほど。
友人がやはり汗に悩まされた時期があり、調べたら甲状腺の異常だったのだそうだ。

次に心臓のクリニックで血液検査をするついでに甲状腺の検査もできないか、電話して聞いてみた。
どうせ毎月採血してるんだもん、血液の有効活用。
そしたら、血液検査どころか甲状腺エコーまでできるんだって。
去年からずっと、汗がひどい、つらいと訴えても「婦人科じゃないですか?」とか言われて婦人科行ってホルモン治療もして、それでも治らないからあきらめかけてたのに。

「残念ながら内科医にはあまり甲状腺に詳しくない人もいる」って甲状腺異常のサイトに書いてあったけど、エコーの機械持ってるクリニックで、それはないでしょうに。
汗、ほてり、不眠、だるさ、全部そろってるんだから、疑ってみて検査ぐらいしようよ。
首を触ってた気はするなぁ、あれで甲状腺が大きくないから、疑わなかった?

とりあえず、前回採った血液で検査できるかどうか、オーダー出してみるみたい。
検査できるようなら、次回診察に行った時に結果を聞く。
数値に異常が見つかればエコーを撮る。
そういう流れで。

という話をリハビリの時にしたら、PTさんは数年前に甲状腺に良性の腫瘍ができて、内視鏡手術を受けたそうだ。
「確かに汗は出ますが滝のようですし、だるいのも、テレビのリモコンを取とうと手を伸ばしたらそのままテレビつける気力がなくなるほどでした。検査を受けるに越したことはありませんけど、うさこさんの状態は、どうかなぁ」と懐疑的であった。
確かにそこまでだるくはないかも。

だんだん自分の身体のことがわからなくなってきた。
いや、元々わかりにくい性質だと思う。
「内と外の連絡が極端に悪いタイプ」だ。
数値化されない不調は全部「気のせい」と断言されてきたせいだ、とせいうちくんは言う。
自分で自分を「仮病体質だ」と思ってしまう。
「身体が弱いんだから」と大真面目に労わってくれる夫はありがたいが、それにしちゃ私はあまりにちゃきちゃきと元気に見えすぎるよ…

18年10月20日

東名と首都高を駆使して、川崎市と江東区でお墓参りのハシゴをしてきた。
去年は大切な友人を2人も送って、自分の闘病もあり苦しい年だったけど、やっと少しだけ気持ちの整理がついたかも。

多摩川を越える道はなかなか混むので、朝の7時に家を出た。
今から詣でるお墓に去年入った友人から昔もらったUSBメモリには、アニメの歌がいっぱい詰まっていた。
高校時代にはただの読書家で、まったくオタクの片鱗もなかった彼が、人生のどこでどうアニメ熱にかかったのか、結局聞く機会はなかったなぁ。
iPodに移したそのアニソンを聴きながら、川崎市の墓地に車を走らせる。

ご両親が入るつもりで購入したという市民墓地は、お花を供えるのもお線香を上げるのも共同スペースという省エネスタイル。
朝早すぎて花屋さんが開いてなかったので、手向けるお花を用意していなかった私にはありがたい。
よその方々の心がこもったお花を眺めながら、それでも薫り高いお香を家から持ってきたので、そなえよう。

せいうちくんと2人でしばらく手を合わせていたが、あまり言うこともなく、車に戻る。
お墓参りの、この手持ち無沙汰感というか、しみじみし切れない自分の性格がイヤで、あまりやりたくないんだ。
真剣に向かい合ったら号泣しちゃいそうだし。両極端。

東名に乗って、首都高に入って、1時間ほどで江東区に着いた。
共通の友人経由で故人のご主人からお寺のURLをもらっていたので、その住所をカーナビに入れてたどり着いた。
大通りからずいぶん入った住宅地の中にお寺と墓地がある。

境内に車を停めていいかどうかせいうちくんが社務所に聞きに行ってくれて、大丈夫なので駐車してくれてる間、外の花屋で百合の花を買って、戻ってきてお寺正面の石碑を見てたら…名前が違うじゃないか。
よくよくグーグルマップ見ると、1ブロック離れたところに全然別のお寺があるのだった。
宗派も違う、まったくの別寺でお墓探してしまうところだった。

「車はここに停めてったらダメかなぁ?」と小さな声でせいうちくんに聞くと、
「さすがにダメでしょう。探す間だけ、停めさせてもらうけど」と言って、少し歩いたら、あったあった。
そっちにも駐車場はあるので、車を移動させる。

お葬式や法事をやっているらしい立派な本殿の受付で聞くと、故人の家のお墓の場所を書いた紙をくれた。
立派なお墓だった。
白百合をそなえてお香をたき、手を合わせる。
結婚式で白いカラーの花束を横抱きにしていた彼女の、百合のようにほっそりした姿が思い出されてならない。
私より若いのに、早く逝ってしまったものだ。

今日、会いに行った2人とも、去年私が臥せっている間に亡くなった。
手術のあと、長年のんでいた薬をやめられたため頭がハッキリしてはきはきした語り口を取り戻した私に、古い友達はみな、
「昔のあなたが帰ってきた」と喜んでくれるんだが、2人にはついに会えなかったわけだ。
それは、とても心残り。
何て言ってくれたかなぁ。

お墓参りを終え、せっかく東京の東端まで来たから、と近所の「江戸東京博物館」と「すみだ北斎美術館」のハシゴ。
江戸東京の方は3回目ぐらいだけど、最後に見てからずいぶん経っていたので、展示がかなり変わってた気がする。「異世界への通路」の役割を十二分に果たしている日本橋を渡って、江戸の世界へGO!
明治維新、終戦を迎えて現代の東京に戻って来るまで、たっぷりと「とうきょう」を楽しめた。
土曜でも意外とすいており、外人観光客の割合が高かった。

「すみだ北斎美術館」は初めて。
小さな美術館だけど、まるごと北斎で見ごたえあり。
展示の解説がモニタ表示だとか、画面上の北斎の絵でミニアニメを作ったり「富士探しクイズ」にチャレンジしたり、ハイテクだ。
浮世絵や日本美術の本が集められた1階の図書室は、静かに本と向き合える素敵な空間。
中を見るだけならそのまま入れるけど、蔵書に触りたい人はコイン返却式のロッカーに荷物を預けてね。
カメラのついたケータイは持ち込めません。

「江戸東京博物館」で900円の扇子を買わなかったのが心残りかも。
「北斎の方で何か買おう」と思ったからなんだけど、実はそちらはややお高めな感じだった。
もちろんどうしても北斎グッズが欲しいという人は、思いきりお財布のひもをゆるめたらいいと思う(笑)

18年10月21日

数年たったら引っ越ししたいなぁと思ってる隣街に、買い物に行く。
いつも車で買い出しに行く街道沿いの業務スーパーが、こちらでは駅前にあるのを発見。
昔、バスで荻窪に出られる場所に住んでいた頃に、行きつけの肉屋「ニュークイック」がタウンセブンにも入ってると知り、さらには引っ越した先の戸塚駅前にも存在する(しかも2軒!)のを見て、「ああ、我々が住むべき街は、ニュークイックによって祝福されている!」と思ったものだが、もしかしたらこれからは業務スーパーに祝福されるのかもしれない。

駅前にはオタク向けの本屋まであった。
最近のマンガ事情をあまり知らないせいうちくんは、彼好みの健全アニメ風の表紙のムックが、完全ビニール包装されている「成人向け」なのを見てたいそう驚いていた。
あとから聞いたら、「どんな中身か、興味は大アリ」なのだそうだ。
ならばなぜ買わん!と厳しく叱った。
好奇心を満たすためなら千円や2千円は投じてもいいのがオトナなのに、何のために日々稼いでいるのか。
今度また行って買うそうだ。

およそ我々に必要なすべてがある駅前を散歩して、いつかはここに住みたいと強く思った。
駅徒歩圏内に生活するのは、バス便暮らしとは全然違うんだろうなぁ。
長らく引きこもりなのでまったく不自由を感じたことがないけど、気が向いた時に歩いて駅前に出る暮らしにあこがれ始めている。
図書館もスーパーも王将もケンタッキーもロフトもユニクロも、全部あるんだもの。

今の地価高騰のプチバブルがはじけてくれないことには、どうにもこうにも買えない値段なんだけどね。
我々の、最後の家になるだろうか。
人生の終わりには看取りをしてくれる老人ホームに入るところまで計画を立てているが、問題は何歳で入所するかだ。
20年ぐらいたったら世の中はどうなっているのかしらん。
女性週刊誌でもしきりに「年金がいくらもらえるか」といった記事を載せており、計算式まであるので、思わず自分のたった7年間の厚生年金時代を入れてみてしまう。

18年10月23日

せいうちくんは昨日から風邪をひいている、
「明日は無理かも。いちおう職場には『無理なら休みます』って言ってきた」そうで、実際、夜寝る頃にはもう「たぶんまったく無理」になっていたので、今朝はずっと寝てた。
熱は出ないけどとても身体がつらい風邪が会社で流行っているんだって。
うつったのか、節々が痛んで気持ちが悪くなり、枕を並べて討ち死に。

朝はなんとかスープを作ってベーコンエッグと一緒に食べた。
すぐに気管支に来て咳が止まらなくなるせいうちくんの風邪は、食欲には影響ないらしい。
私はむしろ胃腸に来るんだがなぁ。
結局1日中ほとんど眠り続けていたせいうちくん。
そもそも寝不足なんじゃないだろうか。

私もこれ書いたら倒れる。
終末モノのSFみたい。

18年10月24日

風邪が治りきらないけど休めないせいうちくんは会社、私はリハビリ。
「6時から会議が入った」って、終業後に始まるなんてあんまりでしょうに。
朝の6時かと思ってびびったし。
朝でも夜でも、「6時からの会議」には断固反対!

整形外科のリハビリ、もう初診から5ヶ月経ったので、いったん終わらなきゃいけない。
ひざの手術をする体力がつくまでは続けた方がいいので、継続してリハビリできるよう、新たな診断書を書いてくれるんだそうだ。
ただし、たとえば今日診察を受けると、10月1日からのカウントになってしまってもったいないから、11月の頭に来てくださいとのこと。
それまで1週間ぐらいリハビリはお休み。

病院通いが多い割には、自分が何で通院してるのか実感がないものだから、思わずPTさんに聞いてしまう。
「リハビリ、してる意味はありますか?」
こんなに病院のお世話になるのが心苦しい、という意味で聞いたんだが、少し違う風にとられたらしい。
「劇的な変化があるわけじゃないですから、効き目があるのかと疑問を持つかもしれませんが、やはり良くなっているとは思いますよ。うさこさんは基礎疾患がいろいろある方ですし、こうしてリハビリのために外出するだけでも違いますから、続けてください」と、熱心に励ましてくれた。ありがたい。

短い距離なら杖をつかずに歩けるようになったし、確かにほっとくとウィークディは全然外出しないので、歩くモチベーションとしてだけでも通院するのはいいんだろうなぁ。

18年10月25日

38年ぶりにSNSで再会した知人がNYに住んでいた。
夏に帰国した際に会うことができたので、息子が渡米の計画を立てていると言ったら、とても親身になって相談にのってくれた。
そして、今回、息子と連絡を取って向こうで会ってくれたようだ。

息子は例によって「会った」ということ以外は何も教えてくれなかったが、彼女にお礼のメッセージを送ったら、会見の模様を知らせてくれた。

礼儀もあろうが、
「ようやくお会いできました。実にいい青年ですね」とほめてくれて、彼がいろいろ考えているらしいこと、両親や姉のことを大切に思っている、愛されて育った人間であること、NYでの経験がきっと役に立つことなどを語ってくれた。
添えられた写真には、彼女のご家族と一緒に食事をしている楽しそうな息子の姿があった。

本当にいろんな人のお世話になる。
引きこもりで誰の役にも立っていない私や、その子供でまだ世の中に何も成していない息子に、何と皆が良くしてくれることだろう。
私はもうあんまり人にお返しもできないと思うが、彼にはこれからささやかにでも世界に何かを返して行ってもらいたい。

息子が知人に語ったことの中に、「いじめられていた時、お母さんが一緒に学校に行っていじめっ子に話してくれた」という思い出話があったようなのだが、実を言うとまったく覚えがない。
忘れてしまっただけかもしれないけど、どうも、外向きにええかっこしいで公平を重んじるように見せたがる自分の性格を思うと、あまりやりそうにない気がする。

そして、息子は案外「話を盛る」。
病的に嘘がキライで作り話ひとつできず、日記にも本当のことしか書けなくて、「ここは本当のことを言ったらダメだろう」という場面でもついつい言わなくていい「本当のこと」を暴露してしまう私から生まれたとは思えない。
何しろ、友達との「話を盛り上げる」ためだけに、飼ったこともない「猫」や「カブトムシ」を、

「飼ってた。けっこう可愛い」

と言ってのけた男なのだ。
(当該友人からその話を聞いた時はくらくらとめまいがした)

もちろん母親たる私には山ほどつまらない嘘をつく。
そんなことはいい、私だって自分の親にはしこたま嘘をついた。
自分の行動を妨げる人には、どうしようもなく嘘も作り話もするだろう。
しかし、面白くするためだけに友達に作り話をする必要がどこにあるのか。
私が決してなれそうもない物書きに、息子がナチュラルに向いているかもなぁ、と思うのはそんなところ。

ちなみにせいうちくんはまた全然違った方向の嘘つきで、「言い抜けるために、とっさに口から出まかせを言うタイプ」。
あまりに整合性がないので、いつもすぐに矛盾を突かれて私に叱られる羽目になる。
本人によれば、「実家では誰も理詰めでモノを考えないので、その場さえごまかして機嫌を取れば、決して追及されなかったから」なのだそうだ。
本当のことを言いさえすれば私はまず怒らないし、むしろ「嘘をついた」ことを烈火のごとく怒る性格なのになぁ。
学習しない人だ。

家庭の数だけ嘘つきがいる。
息子のは半ば以上彼の生活を支えるスキルになるかもしれないので、ほっとこう。
そもそも、こっちが忘れているだけで、本当に私はいじめられている彼を救ったのかもしれない。
まずは育児日記を20年分さかのぼって読んでみよう。

18年10月26日

週末はせいうちくんの製鐵所研修時代からのお友達の家にお泊りに行く。
秋の房総半島ならマザー牧場でサルビア畑を眺めたい。
よく南房総に行くという友人からお魚のおいしい食堂も教えてもらった。
ドライブだドライブだ。

人に会うので張り切って、2カ月ぶりに美容院に行った。
今のところは若い美容師のにーちゃんがうまくて、せいうちくんは仕上がりがとっても気に入っているらしい。
「高いんだよ」と言っても、「いいから、そこの店で切ってもらって」と譲らない。
しょうがないからにーちゃんに、
「お金がかかりすぎてたまにしか来られません。もっと安く上げる方法はないでしょうか」と正直に相談したら、毎回やるのが望ましいトリートメントではあるが、2回に1回に抑えましょう、との提案が。
ではそういうことで。

だがしかし、にーちゃんは商売熱心だ。
シャンプーがそろそろ切れるのではないかと心配してくれるから、まだあると答えたら、大瓶が半年に1度の安売りになるので、予約しておいて2ヶ月後にまた来た時に受け取るといい、と勧める。
コンディショナーとセットで、っつったって、すぐなくなるコンディショナーはとっくに使ってないことを白状し、シャンプーも、私には高価すぎるんです、とさらに告白。

美「今は何をお使いなんですか?」
私「・・・名もないシャンプーです。ドラッグストアで山になってるやつ」
美「シャンプーは大事です。カラーリングの持ちが違ってきますし、髪は本当に傷みます。20年前とは降り注ぐ紫外線の量も違ってきてるんですよ」
私「・・・はい、じゃあ、シャンプーだけお願いします」
美「そうしてください。お肌とか、なにつけてます?」
私「実は、何にもつけてないんです。めんどくさくて」
美「・・・それは・・・ある意味、スゴイですね」
私「あんがい多くの女性がそんなもんじゃないでしょうか。お仕事柄、そういうタイプに会う機会が少ないだけですよ、きっと」
美「そうかもしれませんが・・・」

息子とおない年の美容師さんに、なんだか気の毒そうな目で見られてしまった。
別に、超高級美容院じゃないんだよ、吉祥寺とは言え、裏通りの小さな店だよ。
なんで、美容師さんってのはこう見識が高いのか。
髪型のおさまりがいいとせいうちくんが喜ぶから頑張って通ってるが、昔みたいに家庭内でバリカンで刈ってもらいたいなぁ。

と悩みながらも、本日のお楽しみは、タイ料理屋での1人ランチ、パッ・タイ。
糖質制限を始めて半年、米粉でできたパッ・タイは当然ご法度なんだが、そろそろ体重も下げ止まってきたし、たまにはいいかなって。
おいしかった。セットのミニ生春巻きも食べた。
もう、糖質制限やめようかな、ってちょっと思った。やめないけど。

明日は朝早く出発するから、いつもの八百屋に行けない。
今日のうちに買い出ししとこう、と、家に帰ってすぐ車で出かけた。
おお、大根が安い!
2本も買ってレジに並んでたら、うしろの女性が、
「わー、立派な大根ですねー」と声をかけてくるぐらい。

「そうなんです、これは、買いですよ!」と答えていたら、野菜満載のカゴ2つを計算してくれていたレジのおばちゃんが、
「でも、重いよねー、こんなに重たいもん買って、大丈夫?おにーさんいないのに」と心配してくれた。
いつも土曜日に2人で来てるからなぁ。
(この店は配慮が行き届いているので、50代のせいうちくんは「おにーさん」だし、私も「おねーさん」と呼ばれる)
「おにーさんは仕事。明日、朝早く出かけるから、今日のうちに買い物に来たの。車だから、大丈夫!」と答えて、重たい袋3つを下げてよろよろと帰ってきた。

さて、今夜はお鍋でいいかな、春菊4把も買ったからな、荷造りしよう、お泊り先で宴会だから、パジャマでなくて楽な部屋着を持って行こうかな、とか考えてたら、せいうちくんから電話。
「ごめん、やっぱり風邪がひどくなってきた。向こうの家には小学生もいるし、僕が咳き込んでたら感じ悪いし、やめておいた方がいいかも・・・」
オーマイガッ!中止なの!?

確かにね、週の中頃に会社休んでおいて週末旅行ってのも、すわりが悪いよね。
おみやげのお菓子も買っちゃったけど、宅配便で送っておけばいいよね。
向こうのおうちも我々も年内はもうたて込んでるから、再トライは早くても年明けの話になるよね。
岬の食堂の「エンザラ定食」も、マザー牧場のサルビアも、夢と消えたね・・・

にわかに私ものどが痛くなってきた。
残念だけど中止で正解。
やっぱり会社で働く人は決断が的確で早い。
遠足が雨で流れた小学生のような気分なのは、社会生活をしていない私だけだろう。
泣かせてください今夜は、なんて歌があったなぁ・・・

18年10月27日

せいうちくんの風邪でお出かけの予定が吹っ飛んだため、泣きながら2人でおこもりしてる。
おうちに泊めてくれるはずだったせいうちくんのお友達には、昨日の昼間の段階で電話をしておいたそうだ。
研修時代からの古いつきあいのFさんは、とても残念がっていたって。

「絶対に今度来てくれ。しかし、さすがせいうちだね。俺に、言いにくかっただろうに、よく言ってくれたね!」とやたらに感心されたようなのだが、言わないでいったいどうするというのだろうか。
「きっと、ギリギリの今日になってから言うんじゃなくて、昨日のうちに早めに言ったからほめられたんだよ」とせいうちくん。
いつも人の美点を見つけてくれる、心の温かなFさんならではかも。

お休みと決まれば、徹底的に休もう。
お泊りに行きたいあまりにナイショにしていたが、私もまだ週中にうつされた風邪から回復しきってない気がする。
とは言え、日頃働いて疲れている人ほどこんこんとは眠れないので、たまりにたまったせいうちくんの古本を自炊してあげることにした。

ひざが痛くて曲げられないため、裁断だけはやっておいてもらわないといけないが、その前の段階として表紙カバーを切るのと裁断機に入る厚さに分断しておくのだけはやるし、裁断済みをスキャンするのもやる。
ただし、単行本を分解するのは腕力と技術がいるので、文庫本専門。
私はめったに単行本は買わず、もっぱらコミックスと文庫ばかりだから。

人の本をスキャンするのは神経を使う。
まず、表紙の切り方がせいうちくんと私では好みが違う。
私の場合、背表紙は表紙にくっついた形で切るが、せいうちくんは裏表紙にくっつけて切り離す。
こうすると表紙を読み込ませた時の出来上がりがアマゾンとかの書影と同じになるかららしい。
私は、表紙の右側に背文字が見えてる方が好きなんだ。
「関東の背開きと関西の腹開きみたいだね」とお互いに言っている。

さらに、タイトルを入力する時に、せいうちくんは、

[井上靖]四角い船

というようにカッコ内の作者名とタイトルの間があいてない。
私のは、

[井上靖] 四角い船

のように、半角あけてある。
なぜということもないが、お互いのアーカイブにはそれぞれ自分のやり方で整理したものが並んでいるので、今さら変えられない。
この入力を間違えないよう、少し注意が必要。

しかし一番つらいのは、せいうちくんの本はたいがいとても古くて紙がもう粉を吹いているせいなんだろうけど、スキャナのローラーに細かいほこりがついて、すぐにページ送りが止まってしまうこと。
そのたびに中断し、カバーを開けてローラーを外し、アルコールを吹きつけて古い歯ブラシでこすらなければならない。
そうすると元のグリップ力を取り戻して調子よくページ送りしてくれるのだが、しばらくするとまた止まる。
激しい時は1冊で4、5回クリーニングが必要になる。
40年前の新潮文庫のニーチェがあまりにひどいので、ストライキを起こしそうになった。

けっこうな山を片づけてあげて、それでもいったんそびえた山はなかなかなくならなくて、まあおいおいと。
夕方に起こして、いっしょにお鍋を食べた。
風邪だからと言って、食欲には全然影響はないらしい。
不調がすぐに胃に来る私とはタイプが違う。
そのかわり、気管支が弱点なので、いったん咳が出始めると、ひどい年は冬中ゲホゲホと咳き込んで過ごすことになるせいうちくん、お大事に。

18年10月28日

まだ風邪ひきせいうちくん、買い物だけは行くと言うので、せめて私が運転しよう。
前は薬でぼんやりしてることが多かったからハンドルはできるだけ握らないようにしていたが、実のところ、運転は私の方がうまい。
案外せっかちで運転が凶暴なせいうちくんは、
「キミがこんなに慎重で一拍待つタイプの運転をするとは、誰も思わないだろう」と助手席で慨嘆している。

栄養補給しようと思って薬局で、
「糖質制限中なんですが、風邪をひいたので、ドリンク剤で体力をつけたい」と相談したら、
「風邪の時はある程度糖質をとった方がいいんです」と言われ、普通のタイプを購入。
少しは効くといいなぁ。

先週発見した本屋に行って、気になると言っていた「宮崎アニメのような好みの絵柄だが、18禁と書いてあってビニールでくるまれている雑誌」を買わせる。
一人前のオトナではあっても18禁を買うのは恥ずかしいだろうからと思い、レジから離れていてあげたんだが、配偶者がいるのを主張した方がよかったのだろうか。

その主張をしておくべきだった、としみじみ思ったのは、帰ってから開けてみたその雑誌が、目を覆わんばかりのものすごいロリ本だったから。
「僕、こんなの買っちゃったのか。ひどい・・・レジの人に、どれだけの変態だと思われただろう・・・」と落ち込んで、
「読めない!無理!捨てる!!」って叫ぶから、私がしっかりと指の隙間から全部読んだ。
敵を知り己を知れば百戦危うからずや。目を背けての逃亡は良くない。

それに、いくら悔しいからって、
「次に行った時にはちゃんとしたエロ本を買う!」って、そういうのを墓穴を掘る、って言わないか?
もう、あの本屋で怪しいモノを買うのはやめた方がいいよ。
名誉回復したいんなら、池井戸潤の「下町ロケット」とか東野圭吾の「沈黙のパレード」買って、私にくださいな。
たまには旬で話題の新刊書を読んでみたいぞ。

18年10月29日

夕方、息子からメッセンジャー電話がかかってきた。
「なにかあったの?」と聞いたら、
「なにもないけど、NYもあと数日。すごく有意義だった」とやや興奮しているみたい。
いよいよ旅の終わりが近づいて、テンション上がってるのかな。

「危ないことや怖いことはなかった?」との問いには、
「なかったよ」。
若干の間があった気がするけど、仮に何かひやっとする経験をしていたんだとしても、終わり良ければすべて良しなのであえて問うまい。
数年後に何かしらの武勇伝(?)を聞くこともあるかもしれない。

お金を貯めて、今度は自費でまた来たいんだそうだ。
宿泊先に手相を見る人がいて、ためしに見てもらったら、「移動の人生ですね」と言われたんだって。
「引っ越し屋さんになる、って暗示だったりして」と言ったら、
「いや、それはやりたくない」と大真面目だった。

「今は地球も小さくなったから、それもいいんじゃない。父さんも私も定住型だから考えたこともないけど、あなたは放浪の人生になるのかもね」
「うん、もともと人間は移動民族だから、それでいいのかもしれない」
へー、そうなの。知らんかった。

英語ができなくて、最初はクラスの仲間たちとも会話が通じなかったけど、だんだん話せるようになったとか、仕上げの舞台でお客さんからとてもいい反応があったとか、嬉しそうだった。
「いいステージができたよ。オレ、向いてるかもしれないなー」
「え?今まで向いてるって思わないでやってたの?それもスゴイね。そうか、好きなだけでやってたのか。よかったじゃん、好きなことに向いてるって思えたんなら」
「うん、もっともっと勉強して、いいコントやりたい!」

上滑りに感じられるほど興奮気味なので、まあそのへんで切り上げておいた。
その楽しさも難しさも、もう私の手を離れている。
「彼のやりたいこと」なので応援はしたいけど、お笑いが好きなわけでもわかるわけでもないから。
育ててきたシンパシーがあって、まったくの他人よりは強く想ってあげられるかもだけど、どこまでも心を添わせて同じ夢をみられるものでもないから。
いろいろ感慨深いが、関係ない人生だとも思う。
昔ちょっと面倒をみた、なので若干気になる、そういうスタンスでいたい、と思うのは気取りすぎか。

だからね、あなたはもう好きに生きていっていいよ。
あなたたち子供は、心の中で親を殺さなきゃいけない。
せいうちくんも私もそこに失敗して、現実に生きてる親を殺しそうで、それよりはと思って逃げ出したんだけど、あなたは心の中で平和に殺して。
そうしたら、いつかまた笑って会える日もあろうよ。

18年10月30日

突発的な残業で遅いせいうちくんの代わりにまた自炊を進めておいてあげようと思ったのはいいが、昭和46年刊行の「聖ジュネ」なんて読もうとする50男に殺意を感じた。
だって、600頁の文庫本をスキャンするのに、30回ぐらいローラーをクリーニングしたんだよ!
ちょっと進むと、止まるんだよ!
まったくもう、サルトルは高校生の時に終わっておいてもらいたい。

やっとの思いで1冊終えて、タイトルを入力する時にその本が「上巻」であることに気づき、「同じぐらい古い本がもう1冊!」と心の中で悲鳴を上げた。
一縷の望みを託してアーカイブを見ると、「下巻」はもう入ってるじゃないか。以前に処理したらしい。
よかった〜、と胸をなで下ろしましたよ。

私が買う古本はせいぜい15年ぐらい前のもので、めったにローラーが止まったりはしないんだ。
これまでに万冊単位の自炊をしたが、そのすべての経験よりも今回のクリーニング回数の方が多かったかもしれない。
せいうちくんは、いったいどれだけローラーを拭いてるのかしらん。

ちなみに、でかいボトルのアルコール液を小さなスプレー容器に移して使ってる。
アマゾンでスキャナを買った時、「これを買った人は、よくこちらの商品も買っています」のリストに出てきた商品。
(安い不織布も一緒に出てきた)
この機能、たいそう便利だと思う。

18年10月31日

昨日、息子がツィッターに、
「明日、NYを出発してサンフランシスコに戻る」と書いていた。
とにかく、無事に魔都NYミッションの終了か。

夜、サンフランシスコの従姉に「よろしく頼む」とのラインを打ったら、向こうは朝で、息子は昨夜もう着いていた。
「無事に着いたなら知らせればいいのに」と息子にイラつくせいうちくんに同感だけど、関係先に随時連絡、というのはオトナの危機管理意識の賜物で、彼にはまだそんなものはないのだ、と気を取り直す。

「心配してるんだから、知らせりゃいいのに、ってのは期待しすぎかねぇ」と言うので、
「我々が実家を訪ねたあと、帰宅したら、『今、帰り着きました』って電話するじゃない。礼儀正しいオトナ同士は、するよ。息子は、とっても身勝手に我々をほっとくんだけど、親をそんなに当たり前の存在に思えるように育てたってのは、ある意味成功なんじゃないの?あそこまで親の思惑を気にしないでいられる育ち方を、我々もしてみたかったもんだよ」と、むしろ息子の無造作さがうらやましくなってしまった。

おりしも今日はハロウィン。
思えば「9.11」の日にNYに到着してすぐ慰霊に赴き、滞在中にComiConがあって参加し、サンフランシスコに戻ったとたんに小さなハトコたちの仮装を見る。
すべて計画の上かと思うほど、タイミングが生きているなぁ。
きっと何かの達人なんだろう。

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